『1944/08/16 ある島にて・・・〈世界録の断片1〉』
Tips-執念
『・・・帰るんだ。絶対に帰るんだ』
男は泥にまみれた銃を握り締める。かつては大儀のもとに黒光りしていたその銃も、輝きを失って久しい。
『約束したんだ。だから帰るんだ。絶対に』
銃にはもう弾は残っていない。男に残されたものは生への執着のみ。
『俺は・・・』
そして轟音。世界が光と絶望で包まれる
『 :2008/08/02 pm7:00〜7:30 阿蘇 実家にて』
昇たち一行は隆と別れてからたいしたトラブルも無く、無事に昇の実家である江藤家にたどり着くことができた。
彼らを迎えてくれたのは昇の両親、つまり、明の祖父母の厚志と無花果であった。
彼らは息子夫婦と孫の久々の帰郷を喜び、もう時間も遅いからおなかもすいただろうと、豪勢な晩御飯を明たちに振舞ってくれた。
おいしい食事のおかげで話も弾み、気がつくと、ちょっとした宴会騒ぎのようなテンションになっていた。
そんな食事中、普段はがつがつ食べる優花がやたらしおらしくご飯を食べていたため、明が優花をからかった。
その後、明は「あれ」を執行され、自分のうかつな発言を後悔することになるのだが、それはまた別の話。
♪
「あれ」執行により、ずたぼろにされた明と、それを(息子が自分の奥さんにボコボコにされるのを)眺めていた昇は、「あれ」執行後に一緒にお風呂に入り、現在は自分たちにあてがわれた部屋に戻って寝る準備をしている。
「おい明、明日はどうするんだ?裕也君たちと遊ぶのか?」
昇は自分の分と現在お風呂に入っている優花の分の布団を引きながら息子に問いかける。
そしてその問いに対し、自分の分の布団を引いていた明は簡潔に答えた。
「うん、そうするつもり。だってそれ以外にすることないでしょ。右見て草原、左見て牛。何も面白いものなんか無いじゃん。だったら裕也達と遊ぶ以外すること無いよ。こっちにいる2週間はひたすら裕也達と遊ぶつもり。それ以外の選択肢は俺には無い!」
この学生にあるまじき答えをよこした息子に徹はため息混じりに苦言を呈する。
「いやいや遊ぶ以外には何もしないってそれは無いだろう。学校の宿題とかはどうした?まだ全然手をつけてないだろう?そんなことじゃあ、お母さんに怒られるぞ」
この父親の苦言に明は少しもひるみはしない。
「あんなのすぐに終るって。・・・ねえ、お父さん、前から聞きたかったんだけど、お母さんって、宿題ちゃんとやってたのかな?なんとなくだけどお母さんって、宿題とかてきとうにしてた気がするんだよね。いつも「宿題はちゃんとしなさい!そうしないと「あれ」よ!」とか言って俺を威すけど、その辺はどうなの?」
「・・・ちゃんとしてたに決まってるだろう、明。そんな馬鹿なこと言ってないでささっと寝ろ。明日は早いんだから」
「・・・今一瞬だけど間が空いたよね、お父さん・・・まあいいけど。だいたい明日は早く起きなくてもいいじゃん。明日何かあるの?だって、もう・・・」
「田舎の朝は早いんだ。だから寝過ごすと朝ごはんがなくなる。そんなんじゃ一日遊びとおせないだろう?だから早く寝なさい。」
「・・・」(息子)
「・・・」(父親)
父親をじっと見つめる息子。
息子の視線から逃げ続ける父親。
そんな静かで不毛な親子の戦いは、話題の中心である優花が風呂から上がって彼らの部屋に戻ってくるまで、しばし続いた。