Tips-少しだけ先の未来
「それで?あなたは、こうなることを予想していたの?」
表情を打ち消して問う忍。
これに対し隆は、「ある程度はね」と、短く答えた。
こめかみを押さえながら、忍は夜のカルデラに目を向ける。
そこにあるのは、夜闇にひっそりと身を沈めた優しい夜の世界だけであった。
「ほんとうに、どうしようもない人ね、あなたは。それが教師を志す人間のすること?あの子達、きっと今頃苦しんでるわ・・・一言言ってやれば良いじゃない、あの子達に。”そんなこと、気にする必要ない”って」
忍は、言う。”そんなこと、気にする必要は無い”と。
しかし。
「物事は、常に多面的な意味を持ってる。それはつまり複数の価値を持つことであり、君に言わせれば、”そんなこと”ーーーなんだろうね」
隆は返す。
これに忍はムッとした表情で隆を見返し、そして「どういう意味よ」と問いただした。
「別に、深い意味はないよ。きみにとっての”そんなこと”は、あの子達にとって\"そんなこと\"ではなかったというだけのこと。あの子達はこの夏、それぞれが美しいと、あるいは、正しいと信じた道を走り抜けた。結果、神木の誓いは果たされ、約束の二人は再会を果たした。そしてーーー」
隆は頭上を見上げ、星を見る。そして、まるでそこにまぶしい何かがあるように、目を細めた。
「あの子達は、振り返ったんだよ。自分達が来た道を。自分たちが、正しいと信じた一夏の道をね」
隆は視線をそのままに、続ける。
「
\"悲しみしか生み出さない戦争\"が生み出した”モノ”ーーーそれはやはり、生まれたこと自体が間違いなのか。
\"だれかのためにと歩んだ道の始まり\"ーーーそこには、果たして本当にその”だれか”はいたのか。
ーーーなんて、そんなこと、確かに考えること自体がバカらしいのかもね。
」
隆は視線を外すと、その夜初めて忍の目をまっすぐ見つめ、言った。
「けれど、ぼくはそれはとても大切なことなんだと思う」ーーーと。