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異世界転移なんてものは知らないから、

 誘拐か何かだと思いたかった。




 相原ユカが目を覚ましたのは、蹄の音がしたからだった。


 乾いた土を踏む音が近付いてくる。複数。荷車の軋みも混じっている。

 助かった、と思う前に、喉が引きつった。

 ここがどこなのか、自分でも分かっていなかった。


 夜の間に何度も考えた。何で山っぽいところにいるのか。事故か、誘拐されて捨てられたのか。頭を打っておかしくなったのかとも思った。だが、どれもしっくり来なかった。ここは、ユカの知る文明の匂いが薄かった。

 石や草によって寝心地が良いとはいえない地面に横たわったまま、ユカは息を浅く吸った。


 右足が熱を持って脈打っている。動かすたび、骨の奥を釘で抉られるように痛んだ。吐き気がする。左膝は裂けたストッキングごと固まった血で張り付いている。


 荷車の音が止まった。誰かが何か言った。

 聞き取れない。ただ、英語に少し似ていた。単語の切れ方と抑揚が近い。

 ユカは反射的に口を開いた。うまく声が出なくて、最初の声はかすれた何かだった。けれど今気づいて貰えなければ後がないと思ったから、何とか声を絞り出したのだった。


「すみません……助けてください」


 きっと外国人だ。通じていないだろう。けれど、草を踏む音が近付く。

 木立の向こうから現れた男は、槍らしきものを持っていた。灰色の外套。髭は短く整えられている。四十前後だろうか。人種もよく分からない。

 どう見ても普通の社会人には見えない様相だった。


 男はゆかを見下ろし、次に足元を見た。腫れ上がっているだろう足首を見て、眉を寄せる。後ろから別の男が来た。こちらは腹が出ていて、濃い茶色の上着を着ている。

 2人とも薄汚れているというか、ユカの目から見て、彩度が低いように見えた。


 二人は短く言葉を交わした。

 槍の男がしゃがみ込む。

「……Name?」

 発音は少し違ったが、意味は分かった。

「相原、ユカ……Yuka Aihara」

 男は繰り返さなかった。ただ頷いた。腹の出た男が、難しい顔で何か言った。ユカにも、一語だけ分かった。


 “Town”。

 街。


 槍の男は、ユカの脇に落ちていたバッグを拾い上げた。泥だらけになった通勤用のバッグだった。結構高かったのに。そんな思考と共に。


 ユカは気を失った。


やらなあかん作業の息抜きに、少しずつ投稿します

たまに修正に戻って来るかもしれません

恋愛といえる程の恋愛もしない

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