転生特典の【神眼】で屋台のポーションを褒めちぎったら、店主が感動して会計を誤魔化せた件について。あと、それを見ていた勇者パーティーの荷物持ちが真似して大惨事になってる
こんにちは
古典落語の名作『時そば』を、なろう系異世界転生のテンプレに落とし込んでみました。
「鑑定スキル持ちが知識マウントを取って店主と仲良くなる」というよくある展開を、落語の「賢い男」のパートに見立てています。
そして後半は、それを真似して大失敗する「愚かな男(勘違い勇者系)」のパートです。
サクッと読める短編コメディですので、肩の力を抜いてお楽しみください。
もし「クスッときた」「時そばだ! これ!」と思っていただけたら、ブクマ・評価をいただけると嬉しいです!
異世界に転生して早三年。
元ブラック企業営業マンの俺、ケンジが得たスキルは【神眼】。
あらゆる物質の成分から製法、付与魔術に至るまでを瞬時に解析できる、まさにチートスキルだ。
だが、俺はこの力を魔王討伐だのダンジョン攻略だのには使わない。
俺の戦場は、ここ。冒険者ギルド裏の路地だ。
「親父、やってる?」
夕闇に紛れるように佇む、一台の屋台。
無愛想なドワーフの親父が、黙々とポーションを調合している。客は誰もいない。
俺は慣れた手つきでカウンター席に滑り込んだ。
「……いらっしゃい」
「特製ポーション、一杯頼むよ。仕事終わりで喉がカラカラなんだ」
ドワーフの親父は無言で頷くと、棚から青く輝く液体が入った小瓶を取り出し、コップに注いだ。
シュワシュワと微細な泡が立ち上り、ミントのような清涼感が鼻をくすぐる。
俺は【神眼】を発動させた。
視界に半透明のウィンドウがポップアップし、膨大な情報が滝のように流れる。
【名称:ドワーフ秘伝・高純度マナ水のエリクサー(廉価版)】
【品質:Sランク】
【素材:サファイア・ハーブ(若葉のみ)、北の氷河水晶(粉末)、世界樹の枝……】
(……勝った)
俺は心の中でガッツポーズをした。このネタなら、いける。
俺は顎に手を当て、「ふむ……」と意味深に呟いた。
「親父さん。これ、ただのポーションじゃないね?」
「……あ?」
「この透き通るような青色……ただの薬草じゃない。『サファイア・ハーブ』だろ? それも、苦味の出る茎を丁寧に取り除いて、一番魔力が高い若葉だけを使ってる」
親父の手がピクリと止まった。
「それに、この冷たさ。氷魔法で冷やしたんじゃない。瓶の底に沈殿しているキラキラした粉末……『北の氷河水晶』を混ぜてるね? 保冷効果で成分の劣化を防ぐとは、心憎い!」
俺は一気にまくし立てる。オタク特有の早口、かつ営業スマイル全開で。
「極めつけはこのマドラーだ! ただの木の枝かと思ったら、なんと『世界樹の枝』の端材! かき混ぜるだけで魔力充填率が1.5倍になるやつだろ!? いやぁ恐れ入った! こんな屋台で国宝級の技術にお目にかかれるとは!」
ドワーフの親父が、目を見開いて震えだした。
その強面がくしゃりと歪み、目尻に涙が浮かぶ。
「わ、わかるか……? お客さん、わかるのか!?」
「わかるさ! 俺の目は誤魔化せないよ」
「そうなんだよ! 誰も気づかねぇんだ! ただの水だとか、色が変だとか言いやがって……! あんた、通だねぇ!」
親父は嬉々として語り出した。
「実は乳鉢もミスリル製でな……」
「やっぱり! 魔力の粒子が荒れてないと思ったよ!」
完全に俺のペースだ。
上機嫌になった親父は、「これ食ってくれ!」とサービスで『魔力増強クッキー』まで出してくれた。
ポーションを飲み干し、クッキーを齧る。美味い。最高だ。
さて、仕上げといこうか。
「いやー、美味かった。いい仕事を見せてもらったよ」
「おう、また来てくれよな!」
「お代は細かくて悪いが、銅貨でいいかい? ちょうど小銭を減らしたくてね」
この世界のポーション相場は一本、銅貨16枚。
俺はジャラジャラと銅貨を取り出し、親父の分厚い手のひらに一枚ずつ乗せていく。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」
リズミカルに、歌うように。
「いつ、むぅ、なな、やぁ……」
八枚目を乗せたところで、俺はふと顔を上げて尋ねた。
「ところで親父さん、あんた錬金術師としてのレベルはいくつだい?」
親父は誇らしげに胸を張った。
「レベル9だ」
「10、11、12、13、14、15……はい、16枚。ご馳走さん!」
俺はニカっと笑って席を立った。
「ありがとよ!」と手を振る親父の笑顔が眩しい。
本来16枚払うところを、9と言わせてから10へ繋げることで、間の数をすっ飛ばす。
これぞ、異世界版・時そばの計略。
俺は颯爽と路地裏を後にした。
◇
そんな俺の一部始終を、路地の陰から見つめる男がいた。
勇者パーティーの荷物持ち、アレンだ。
彼は最近、役立たずと罵られ、パーティーを追放される寸前だった。
「す、すげぇ……!」
アレンは感動に打ち震えていた。
あの流れるような鑑定、店主を掌握する話術、そして鮮やかな会計テクニック。
あれこそが、真の強者(玄人)の振る舞いだ。
「俺も……俺もあんな風になりたい! ああやって粋に振る舞えば、タダでクッキーは貰えるし、ポーションも安く飲めるのか!」
完全に勘違いしたアレンは、翌日、意気揚々と街へ繰り出した。
◇
翌日の夕暮れ。
アレンが見つけたのは、昨日とは違う場所にある屋台だった。
店主は薄汚れたゴブリン。屋台の周りにはハエが飛び交い、異臭が漂っている。
だが、アレンの目は、ケンジへの憧れという名の分厚い色眼鏡で曇っていた。
(ふふん、一見すると汚い店だが……昨日の男のように、俺が見抜いてやる!)
アレンは自信満々にカウンターに座った。
「親父、やってる?」
「……あぁ? やってるよ」
ゴブリン店主は鼻をほじりながら、欠けた瓶に入った濁った液体をドンと置いた。
どう見ても下水路の水を濾過しただけの泥水だ。
アレンは一口飲み……あまりの不味さに吹き出しそうになった。
(ぐっ……!? な、なんだこの味は……泥とカビの味しかしないぞ!?)
しかし、ここで吐き出しては玄人ではない。
彼は必死に飲み込み、昨日のセリフを思い出した。
「ふ、ふむ……」
アレンは震える手で顎に触れた。
「親父さん。これ、ただのポーションじゃないね?」
「あ?」
「こ、この濁り……成分が濃厚な証拠だろ? 濾過をあえて甘くすることで、大地の恵みをそのまま残している……!」
ゴブリンは怪訝な顔をした。
「いや、フィルター代ケチっただけだけど」
アレンはめげない。欠けた瓶の飲み口を指差す。
「そ、それにこの瓶の欠け! これは……わざと欠けさせて、唇へのグリップ力を高めているんだな!?」
「落として割れたんだよ。文句あるなら飲むな」
「そ、そしてこのマドラー! 割り箸に見えるが……せ、世界樹の枝だろ!?」
「そこのゴミ箱から拾った棒だ」
会話が噛み合わない。
ゴブリン店主は気味悪そうにアレンを見ている。
「お前、さっきから何なんだ? 気持ち悪いな……早く飲んで帰れよ」
サービスなど当然ない。あるのは冷ややかな視線だけだ。
アレンは冷や汗をダラダラと流しながら、最後の手段に出ることにした。
(くそっ、褒めるのは失敗したが……会計だけは成功させてやる!)
「お、お代は細かくて悪いが、銅貨でいいかい?」
「あぁ? さっさと払え」
アレンは震える手で銅貨を取り出し、ゴブリンの緑色の手のひらに乗せていく。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」
声が裏返る。
「いつ、むぅ、なな、やぁ……」
今だ!
アレンは勢いよく顔を上げ、叫ぶように尋ねた。
「と、ところで店主! お前のレベルはいくつだ!?」
ゴブリンは面倒くさそうに鼻を鳴らした。
「あぁ? 俺は戦わねぇからレベル1だ」
アレンの思考が停止した。
(い、1……!?)
だが、止まるわけにはいかない。リズムが崩れてしまう。
アレンは半泣きになりながら、続きを数え始めた。
「2、3、4、5……」
(あれ? 待てよ? 8まで数えたのに、なんで2に戻ってるんだ?)
「6、7、8、9……」
(おかしい。銅貨がどんどん減っていく……)
「10、11、12、13、14、15……はい、16枚!」
アレンは全ての銅貨を渡し終え、逃げるように席を立った。
ゴブリン店主は不思議そうに銅貨を見つめ、ニヤリと笑った。
「まいど」
路地裏を走り抜け、安全な場所まで来てから、アレンはハッと気づいた。
「……あれ? 俺、最初に8枚渡して、そのあと1から16まで数え直したよな?」
8足す16は、24。
本来16枚でいいところを、24枚も払ってしまった計算になる。
「……損してるじゃねーかああああああ!!」
アレンの絶叫が、異世界の夜空に虚しく響き渡った。
やはり、付け焼き刃の知識チートなど、身を滅ぼすだけなのである。
(了)
お読みいただきありがとうございました!
異世界でも「今何時だい?」のトリックは健在(?)だった
アレン君は残念ながら損をしてしまいましたが、この後きっと「高い勉強代だった」と気づいて成長……してくれるといいんじゃないかと思います。
もしこの「落語×異世界」の試みが面白いと感じていただけたら、
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(感想もお待ちしております。「他にもこんな落語を異世界化してほしい」などのリクエストもあればぜひ!)
それでは、また次の高座でお会いしましょう。




