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異世界噺

転生特典の【神眼】で屋台のポーションを褒めちぎったら、店主が感動して会計を誤魔化せた件について。あと、それを見ていた勇者パーティーの荷物持ちが真似して大惨事になってる

作者: 双瞳猫
掲載日:2026/02/18

こんにちは

古典落語の名作『時そば』を、なろう系異世界転生のテンプレに落とし込んでみました。


「鑑定スキル持ちが知識マウントを取って店主と仲良くなる」というよくある展開を、落語の「賢い男」のパートに見立てています。

そして後半は、それを真似して大失敗する「愚かな男(勘違い勇者系)」のパートです。


サクッと読める短編コメディですので、肩の力を抜いてお楽しみください。

もし「クスッときた」「時そばだ! これ!」と思っていただけたら、ブクマ・評価をいただけると嬉しいです!


異世界に転生して早三年。

元ブラック企業営業マンの俺、ケンジが得たスキルは【神眼ゴッド・アイ】。

あらゆる物質の成分から製法、付与魔術に至るまでを瞬時に解析できる、まさにチートスキルだ。


だが、俺はこの力を魔王討伐だのダンジョン攻略だのには使わない。

俺の戦場は、ここ。冒険者ギルド裏の路地だ。


「親父、やってる?」


夕闇に紛れるように佇む、一台の屋台。

無愛想なドワーフの親父が、黙々とポーションを調合している。客は誰もいない。

俺は慣れた手つきでカウンター席に滑り込んだ。


「……いらっしゃい」

「特製ポーション、一杯頼むよ。仕事終わりで喉がカラカラなんだ」


ドワーフの親父は無言で頷くと、棚から青く輝く液体が入った小瓶を取り出し、コップに注いだ。

シュワシュワと微細な泡が立ち上り、ミントのような清涼感が鼻をくすぐる。


俺は【神眼】を発動させた。

視界に半透明のウィンドウがポップアップし、膨大な情報が滝のように流れる。


【名称:ドワーフ秘伝・高純度マナ水のエリクサー(廉価版)】

【品質:Sランク】

【素材:サファイア・ハーブ(若葉のみ)、北の氷河水晶(粉末)、世界樹のマドラー……】


(……勝った)

俺は心の中でガッツポーズをした。このネタなら、いける。

俺は顎に手を当て、「ふむ……」と意味深に呟いた。


「親父さん。これ、ただのポーションじゃないね?」

「……あ?」

「この透き通るような青色……ただの薬草じゃない。『サファイア・ハーブ』だろ? それも、苦味の出る茎を丁寧に取り除いて、一番魔力が高い若葉だけを使ってる」


親父の手がピクリと止まった。


「それに、この冷たさ。氷魔法で冷やしたんじゃない。瓶の底に沈殿しているキラキラした粉末……『北の氷河水晶』を混ぜてるね? 保冷効果で成分の劣化を防ぐとは、心憎い!」


俺は一気にまくし立てる。オタク特有の早口、かつ営業スマイル全開で。


「極めつけはこのマドラーだ! ただの木の枝かと思ったら、なんと『世界樹の枝』の端材! かき混ぜるだけで魔力充填率が1.5倍になるやつだろ!? いやぁ恐れ入った! こんな屋台で国宝級の技術にお目にかかれるとは!」


ドワーフの親父が、目を見開いて震えだした。

その強面がくしゃりと歪み、目尻に涙が浮かぶ。


「わ、わかるか……? お客さん、わかるのか!?」

「わかるさ! 俺の目は誤魔化せないよ」

「そうなんだよ! 誰も気づかねぇんだ! ただの水だとか、色が変だとか言いやがって……! あんた、通だねぇ!」


親父は嬉々として語り出した。

「実は乳鉢もミスリル製でな……」

「やっぱり! 魔力の粒子が荒れてないと思ったよ!」


完全に俺のペースだ。

上機嫌になった親父は、「これ食ってくれ!」とサービスで『魔力増強クッキー』まで出してくれた。

ポーションを飲み干し、クッキーを齧る。美味い。最高だ。


さて、仕上げといこうか。


「いやー、美味かった。いい仕事を見せてもらったよ」

「おう、また来てくれよな!」

「お代は細かくて悪いが、銅貨でいいかい? ちょうど小銭を減らしたくてね」


この世界のポーション相場は一本、銅貨16枚。

俺はジャラジャラと銅貨を取り出し、親父の分厚い手のひらに一枚ずつ乗せていく。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」

リズミカルに、歌うように。

「いつ、むぅ、なな、やぁ……」


八枚目を乗せたところで、俺はふと顔を上げて尋ねた。


「ところで親父さん、あんた錬金術師としてのレベルはいくつだい?」


親父は誇らしげに胸を張った。


「レベル9だ」


「10、11、12、13、14、15……はい、16枚。ご馳走さん!」


俺はニカっと笑って席を立った。

「ありがとよ!」と手を振る親父の笑顔が眩しい。

本来16枚払うところを、9と言わせてから10へ繋げることで、間の数をすっ飛ばす。

これぞ、異世界版・時そばの計略。

俺は颯爽と路地裏を後にした。



そんな俺の一部始終を、路地の陰から見つめる男がいた。

勇者パーティーの荷物持ち、アレンだ。

彼は最近、役立たずと罵られ、パーティーを追放される寸前だった。


「す、すげぇ……!」


アレンは感動に打ち震えていた。

あの流れるような鑑定、店主を掌握する話術、そして鮮やかな会計テクニック。

あれこそが、真の強者(玄人)の振る舞いだ。


「俺も……俺もあんな風になりたい! ああやって粋に振る舞えば、タダでクッキーは貰えるし、ポーションも安く飲めるのか!」


完全に勘違いしたアレンは、翌日、意気揚々と街へ繰り出した。



翌日の夕暮れ。

アレンが見つけたのは、昨日とは違う場所にある屋台だった。

店主は薄汚れたゴブリン。屋台の周りにはハエが飛び交い、異臭が漂っている。

だが、アレンの目は、ケンジへの憧れという名の分厚い色眼鏡で曇っていた。


(ふふん、一見すると汚い店だが……昨日の男のように、俺が見抜いてやる!)


アレンは自信満々にカウンターに座った。

「親父、やってる?」

「……あぁ? やってるよ」


ゴブリン店主は鼻をほじりながら、欠けた瓶に入った濁った液体をドンと置いた。

どう見ても下水路の水を濾過しただけの泥水だ。


アレンは一口飲み……あまりの不味さに吹き出しそうになった。

(ぐっ……!? な、なんだこの味は……泥とカビの味しかしないぞ!?)

しかし、ここで吐き出しては玄人ではない。

彼は必死に飲み込み、昨日のセリフを思い出した。


「ふ、ふむ……」

アレンは震える手で顎に触れた。


「親父さん。これ、ただのポーションじゃないね?」

「あ?」

「こ、この濁り……成分が濃厚な証拠だろ? 濾過をあえて甘くすることで、大地の恵みをそのまま残している……!」


ゴブリンは怪訝な顔をした。

「いや、フィルター代ケチっただけだけど」


アレンはめげない。欠けた瓶の飲み口を指差す。

「そ、それにこの瓶の欠け! これは……わざと欠けさせて、唇へのグリップ力を高めているんだな!?」

「落として割れたんだよ。文句あるなら飲むな」


「そ、そしてこのマドラー! 割り箸に見えるが……せ、世界樹の枝だろ!?」

「そこのゴミ箱から拾った棒だ」


会話が噛み合わない。

ゴブリン店主は気味悪そうにアレンを見ている。

「お前、さっきから何なんだ? 気持ち悪いな……早く飲んで帰れよ」


サービスなど当然ない。あるのは冷ややかな視線だけだ。

アレンは冷や汗をダラダラと流しながら、最後の手段に出ることにした。

(くそっ、褒めるのは失敗したが……会計だけは成功させてやる!)


「お、お代は細かくて悪いが、銅貨でいいかい?」

「あぁ? さっさと払え」


アレンは震える手で銅貨を取り出し、ゴブリンの緑色の手のひらに乗せていく。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」

声が裏返る。

「いつ、むぅ、なな、やぁ……」


今だ!

アレンは勢いよく顔を上げ、叫ぶように尋ねた。


「と、ところで店主! お前のレベルはいくつだ!?」


ゴブリンは面倒くさそうに鼻を鳴らした。


「あぁ? 俺は戦わねぇからレベル1だ」


アレンの思考が停止した。

(い、1……!?)


だが、止まるわけにはいかない。リズムが崩れてしまう。

アレンは半泣きになりながら、続きを数え始めた。


「2、3、4、5……」


(あれ? 待てよ? 8まで数えたのに、なんで2に戻ってるんだ?)


「6、7、8、9……」


(おかしい。銅貨がどんどん減っていく……)


「10、11、12、13、14、15……はい、16枚!」


アレンは全ての銅貨を渡し終え、逃げるように席を立った。

ゴブリン店主は不思議そうに銅貨を見つめ、ニヤリと笑った。

「まいど」


路地裏を走り抜け、安全な場所まで来てから、アレンはハッと気づいた。


「……あれ? 俺、最初に8枚渡して、そのあと1から16まで数え直したよな?」


8足す16は、24。

本来16枚でいいところを、24枚も払ってしまった計算になる。


「……損してるじゃねーかああああああ!!」


アレンの絶叫が、異世界の夜空に虚しく響き渡った。

やはり、付け焼き刃の知識チートなど、身を滅ぼすだけなのである。


(了)


お読みいただきありがとうございました!


異世界でも「今何時レベルいくつだい?」のトリックは健在(?)だった

アレン君は残念ながら損をしてしまいましたが、この後きっと「高い勉強代だった」と気づいて成長……してくれるといいんじゃないかと思います。


もしこの「落語×異世界」の試みが面白いと感じていただけたら、

広告下の【☆☆☆☆☆】から評価ポイントを入れていただけると、執筆の励みになります!

(感想もお待ちしております。「他にもこんな落語を異世界化してほしい」などのリクエストもあればぜひ!)


それでは、また次の高座でお会いしましょう。


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