ひとときの休憩
息が白くなるような寒さの中、男は汗や泥に塗れた衣服を脱ぎ捨てて、井戸の水を頭から被った。
「うわ、先輩よく水なんか被れますね」
横にいた後輩が、服や靴についた泥を落としながら引いた顔で男を見る。
今日は散々な1日だった。獣討伐の任務を命じられ向かったのだが、猛吹雪で視界が悪く、獣の奇襲で隊列が崩れ、危うく隊員が命を落としかけた。
隊長には吹雪が治ってからと進言したが、聞き入れてもらえず。
獣を倒せたのは日がすっかり落ちたあとで。
怪我を負った隊員を担いで城まで戻ってきた頃には、深夜の2時を超えていた。
今日は夕食どきには城に戻ってくる予定で、姫様の夜の散歩に同行する約束をしていた。
『雪が降るのは久しぶりよね。』と、好奇心の見え隠れした様子で、ほおを緩めていた。
顔を思い浮かべてしまったせいで、どうしてもそのまま眠る気にはなれず、着替えてすぐに姫様のいる部屋が見える場所へと向かった。
姫様の部屋は2階だ。そこから、ほんの少しだけ灯りが漏れているの見えた。
起きているかもしれない。その瞬間、期待が心臓を貫いて、欲が出た。
中に入って2階に上がり、長い廊下を音を立てず歩く。
姫様の部屋の扉の前に立ち、固まる。
自分はなにをしてるのか。こんなとこまで来たところで、扉に触れるのすら躊躇う始末なのに。
じっと鍵穴を見つめていると、扉がゆっくりと開いて、姫様が顔を出した。
いつものしっかりとした様子とは違い、虚ろな目で、男を見上げる。
「どうぞ、、入って。」
突然の訪問にも関わらず、驚く様子もなく招き入れられ、何かあったのかと心配になる。
今日は確か週議会のある日だ。
たまに同行させてもらっているが、姫様は、自分の権力を誇示するだけで議題を聞きもしない兄と、勉強不足にも関わらず口を出したがる妹に挟まれて、フォローしつつも立派に進行をはたしている。
傍目には姫様が議会の中心になっているとは気づくことはないだろうが、姫様がいるのといないのとでは、議題の進みが全く違うのだ。
「今日は討伐に行っていたのでしょう?皆様は無事に帰って来れたのかしら。」
テーブルの上には、パンとスープが置かれていた。夜食として置かれたものだろうが、手をつけた様子はなかった。
「はい。負傷者はおりますが命に問題はありません。」
姫様はぼんやりと、窓の外を見ていた。
いつもと様子が違う。
「姫様...?」
瞬間、なぜか心に湧いたのは、姫様はお腹が空いているのではということだった。
男は完全に疲れていた。
テーブルの上のパンを手に取って、一口サイズにちぎり、姫様の前に掲げて見た。そうすると、姫様はパンのかけらに釘付けになり、そのままぱくりとパンを口にした。
「.............?」
姫様は、パンを差し出されたことに驚いているのか、それとも自分の行動に自分で驚いているのかわからなかったが、困惑した表情でこちらを見てくる。
かわいい。すごく可愛い。
やはり自分は疲れていると、心の中で言い訳しながら、姫様の口元にまたパンを運んだ。




