こういうのも巻き込み事故っていうの言うのかな?
これを巻き込み事故と言わずとして何と言う。
満天に課せられた文化祭実行委員長という責務。
なぜか元生徒会長の水上奉華から告げられた緊急ミッション。
それは満天という問題児を次の学年へと進級させるために実施された特別措置の一環だった。
発案者は2年1組担任の倉島教諭。
しかし、彼のありがたい思惑を抜きにしてもほわわん元会長は満天を今期の文化祭実行委員会の委員長に据える腹積もりだったという。
破天荒な彼女ならきっと面白い文化祭にしてくれるに違いない。
なんという命知らず。不破満天という少女の問題行動の数々を知って推薦しているというなら、彼女の頭は沸いているとしか思えない。いったい何をどう解釈すれば彼女を責任あるポジションに就かせようなどと思えるのか理解に苦しむ。
下手をすれば文化祭を滅茶苦茶にした挙句、自分が学校から介錯される事態になっちゃうというのに……
とはいえ、ここで断れば進級イエロー改めオレンジ状態の満天が不利になること間違いなし。
ならば首を縦に振らざるを得ないだろう。
太一としては心配もあるがここは彼女の頑張りに期待する他ない。
色々と振りまして来る彼女だが、いざ離れ離れになると考えると寂しさも沸いたりすることも……なきにしもあらず。
まぁどれだけ応援しようと所詮は他人事。太一は高みの見物よろしく満天を陰ながら見守ることしかできないのである……なんて思っていた時期がワタシにもありました。
「……で、結局副委員長をやる羽目になっちゃった、と」
「はい~……」
自宅近くのコンビニのイートイン。太一は鳴無亜衣梨と二人で並んで愚痴を漏らしていた。
時刻は夜の8時半、二人は私服。牛乳を切らして買いに来たコンビニで亜衣梨とばったり遭遇。盛大に肩を落として重い空気を放つ太一に「どしたん? 話聞こか?」といった感じで彼女に声を掛けられ、今に至る。
長い黒髪の隙間から覗く左耳の十字のピアス。白のオーバーサイズのニットに黒のスキニーを着た亜衣梨。ゆったりとしている分スタイルの主張は控えめながら、満天に負けず劣らずのスタイルで足が長い。雰囲気も高校生とうよりは大学生に近いものがあり、歳に似合わない大人の色香を放っている。
彼女は紙コップのエスプレッソを一口。その仕草一つとっても妙に艶めかしい。
今年に入ってから彼女と関わるようになったが、いまだに彼女と並ぶと妙に気遅れてしまう。それに、あの元会長と同じく、たまに何を考えているのか分からない、ミステリアスな気配も漂わせる女子である。
「もうやることになっちゃんなら、お腹を括って頑張るしかないんじゃないの? とりあえず、あの胡散臭い元会長が今回はアドバイザーとして入ってくれるんでしょ?」
「胡散臭い、って……まあ、そうですけど……やっぱりまだ不安の方が大きい言いますか……」
「太一君ってそんな前に出るタイプじゃないしね~……でも最近はきらりん繋がりで色々と目立つようになってきたし、いっそ開き直って好き勝手やってみたらいいんじゃない?」
などと好き勝手に言ってくれるが、それができたら苦労はない、という話である。
「別に完璧にやれ、とかそんなこと誰も言ってないんだし、適当に肩の力を抜いたらいいのよ。失敗したからって死ぬわけでもなし」
「だいぶ極端なこと言いますね」
「まあ他人事だしね~。あ、でもきらりんが文化祭をどんな感じに引っ搔き回してくれるのかはちょっと期待しちゃうな~」
この女……鳴無亜衣梨は宇津木家にたむろするギャルの中で唯一、太一に矢印が向いてない女子である。しかし逆に、彼女の滾る感情は満天に向いていたりする。
昔の彼女は引っ込み思案で、それを満天に感化されてギャル化した経緯がある。そんなわけで彼女は完全に満天の追っかけと化しており、普段から熱烈アピールを繰り返すも、彼女には邪険にされている。
それでもめげずに毎度トライするその精神だけは尊敬できないこともない。
「ていうか、きらりんが参加する以上は太一くんが一緒に参加してあげないと色々とマズいでしょ」
「え?」
「だって、今の学校できらりんがまともに話を聞く相手って、たぶん太一くんだけよ」
「いやさすがにそんなことないと思いますけど」
「そう? でもこの前だって、3年生の教室前でかなり大立ち回りしたけど、太一くんがなんとかその場を収めてくれた、って聞いたけど?」
「さすがにあのまま暴れたら色々とマズいじゃないですか……だから、なんとか追い付いて無理やり教室に引き返しただけですよ。戻ってくる間ずっと怒ってて大変だったんですからね」
先日、3年に絡まれた満天が怒り心頭で相手を追いかけました件は既に噂になっている。なにやら太一が彼女を大人しくさせた、みたいな話になっているようだが、どんでもない。教室に戻るまでの間にどれだけ彼女から怒鳴られたことか。
「ふふ……怒るだけで済んだなら良かったじゃないの。他の人だったら多分殴られてるわよ」
「さすがにそれは言い過ぎだと思います」
「本当にそう思う?」
「…………」
否定できない。あの満天なら自分の行動を邪魔する相手に容赦するとは思えない。
「多分だけど、ワタシやマイマイがあの場にいても、きらりんは止められなかったと思うわ。太一くんもっとその辺に自信を持ってもいいと思うけどね~」
「……難しいです」
「まぁ、何はともあれ、太一くんがいなきゃ彼女一人に文化祭実行委員を任せるなんてできるはずもないわけだし、そのあたりは多分、倉島先生とか元会長も同じ考えなんじゃないかな」
鳴無に言われて、ふと今日の放課後に水上に視線を向けられてゾクリとしたのあの瞬間を思い出す。
……もしかして会長……最初から僕も巻き込むつもりで呼び出した?
あの元会長ならありえそうな話だ。
癖の強そうなバレー部の先輩たちを言い含められる程度には発言力もあるようだし、サッカー部キャプテンの様子から、なんとなく普段から彼女に振り回されているような印象を受けた。
……そういえば、今日の帰り際に。
話もついて学食を後にした太一たち。
しかしそこに三崎が駆け寄って太一に一言告げたのだ。『もしお前が興味あるなら、サッカー部に入らねぇか?』と……
先月に実施された体育祭……バスケの試合で、太一は三崎たちのチームと決勝を争ったのだ。
そこで、太一はガラにもなく本気で優勝を目指し、結果的に先輩チームに勝利することになった。
そこで見せた太一の身体能力の高さに、三崎は惚れ込んだという。
『時期的にはギリギリだが、今から鍛えればお前ならインターハイまでに最低限は戦えるようになるはずだ』
12月に開催される選手権大会は無理だが、翌年の夏開催のインターハイまでなら、まだ多少時間はある。
『いえ、遠慮しておきます』
てっきり敵視されているものとばかり思っていたが、案外そうでもなかったらしい。そこは素直に安心できたが、さすがに今から部活動に打ち込もうという気にはなれなかった。
『そうか。気が変わったら早めに仲持に言ってくれ』
とりあえず、言いたいことは言った、とばかりに三崎たちとはそこで別れた。
思わぬ評価に少しむず痒いものを覚えたが、今はそれ以上に懸念すべきことがある。
「……とりあえず、決まってしまったものをどうにもできないので、やるだけやってみます」
「そうね。その方がよほど建設的ね。さて、それじゃ太一くんの気持ちも決まったところで、そろそろお暇しましょうか」
「あ、送っていきますか?」
時刻は夜の9時。女性一人で出歩くには少し怖い。特に亜衣梨はこの容姿だ。変な男を引っ掛ける可能性大である。
「へ~。太一くんってば、随分と気が利くようになったじゃな~い……それとも~……送るっていう口実を使って、家に上がり込もうとか考えてたりとか~」
「いえそういうのは全然」
「……さすがに即答されるとそれはそれでイラっと来るわね」
彼女には何度この手のネタでからかわれたことか。さすがにそろそろ慣れるというものだ。
ぷくっと頬を含まらませる亜衣梨。美人はそういう表情まで絵になる。
「危ないと思ってるのは本当ですよ。亜衣梨さん、前にちょっと危なかったじゃないですか」
「ああ……あったわね~」
少し前、彼女はストーカー被害にあったことがある。あの時は大事になる前に沈静化できたからよかったものの、そう何度もことがうまく運ぶ保証もない。
「わかった……それじゃ、お言葉に甘えて」
「はい」
夜の通り。女の子と二人きり。
しかし、彼女は自分に好意はない。
太一はふと、その事実に居心地の良さを感じてしまった。
ε-(´∀`*)




