僕なにかやっちゃいました?
「――よお。太一、今日って放課後時間あっか?」
教室に入るなり声を掛けられる。
相手はクラスカースト男子トップのグループに所属する仲持力也。垂れた目元に脱色した亜麻色の髪。耳のドロップピアスをチャリと鳴らしてこちらに近付いてきた。
同じクラスの満天は現在「トイレ」と告げて不在。暁良も今は他の女子生徒とお喋りに興じている。
太一は自分の席について仲持を見上げた。
「えっと、なんですか?」
「サッカー部の先輩から、お前を呼んで来いって言われたんだよ」
「え……」
太一の顔が露骨に歪む。
「あの、なんの用で僕を……」
「こないだの体育祭。あん時にウチのキャプテンと俺らのチームで、バスケの決勝やりあったじゃん? なんかアレの件でちょい話あんだってよ」
「……」
「おい目を逸らすな。お前連れてかねぇと俺がどやされんだよ」
「ええ~……」
「すげぇイヤそうじゃん。まぁ気持ちは分からねぇでもねぇけど」
先輩の呼び出しなど普通にお断り案件である。
サッカー部のキャプテンは身長190センチを超える巨漢だ。名前は三崎翼。爽やかそうな名前のわりにゴリゴリのパワー系で顔面が巌のような先輩である。できることなら、可能な限り、極限まで、会いたくない。
彼とは少し前の体育祭で顔を合わせ、その際に色んな意味で衝突した相手だったりする。
そのため、余計に顔を合わせ辛いのである。
「う~っす。あん? リキヤ、タイチに用でもあんのか?」
「よおトオリ。先輩から太一のこと連れて来いって言われたんだよ」
教室に入ってきた男子生徒。このクラスの男子カーストトップの西住昇龍。ツンと逆立った短い髪。威圧感の強い外観で、実際に言動も不破に負けず劣らず派手な上に苛烈だ。と言っても、不破と比べしまうと彼でも随分と大人しく見えてしまうのだから不思議でしょうがない。
「なんだ? こないだの試合で敗けたからって、その腹いせでもしようってか?」
「怖いこと言わないでくださいよ~」
しかしその可能性が非常に高い。なにせこの前の体育祭で、3年生は決勝で2年生に敗北する……という辛酸を舐めさせられることになったのだ。その要因を作り出したのは誰あろう、この宇津木太一なのである。
「行かないとダメですか?」
「マジで用があんなら今日くらいは断れっかもだけど。何回も無視してっと余計に目ぇつけらんぞ」
「……」
満天と関わってからというもの、静かで平穏な学校生活はいずこへ行ってしまわれたのだ。
ちょっと前まで教室の隅でひっそりとボッチな空気と仲良くやっていたというのに。
リア充はシね、と言わんばかりにお隠れになってしまった。
「そんな心配しなくていいと思うぜ。見た感じシメてやろうとか因縁つけてくるって感じでもなかったと思うしな」
「本当ですか?」
「たぶんな。てか、それだと俺が部活続けてるわけねぇだろ。あの試合、俺も出てたんぜ?」
「ああ、確かに」
体育祭ではこの仲持とチームになって3年生と苛烈な試合を繰り広げたのだ。だとすれば、西住が言うような「腹いせ」の対象は彼も含まれているはず。
だとすれば、太一が考えているような事態にはならないかもしれない。とはいえ……
……できればあんまり関わりたくないなぁ。
それが太一の本音だった。
(lll-ω-)ズーン
「んで、放課後に会うことになった、ってわけ?」
「そうなんですよ……正直、気がめいってます」
昼休み。学校の中庭に集まった太一と愉快なギャル4名。彼女たちはそれぞれの手に中身が完全一致している弁当を片手に太一の状況に耳を傾けていた。宇津木家に集まるようになり、全員がそこで作ったおかずを弁当箱に詰め込んで持参するようになったのだ。
購買やコンビニを使うよりも食費が浮くから、ということらしい。
ついでに弁当のおかずは栄養バランスをしっかりと計算された献立になっている。そのため自然とダイエットにつながる、というのも理由の一つになっているようだ。
尤も、それらは建前であり、満天、麻衣佳、暁良の3人は太一を狙っていることもあって、抜け駆け防止という側面もあって中身が一緒の弁当を持参している、というのが最たる理由だったりする。
おかずも、太一の姉が作ったおかずの他、満天たちがそれぞれに別のおかずを持参して詰め込んでいる。そのため、毎日の弁当はギャルたちの合作状態になっていた。
ちなみに、何もしていない亜衣梨もちゃっかりご相伴に預かっていたりする。
「先輩の呼び出しとかどう考えてもダルイ予感しかしないよね~」
などと言って、麻衣佳が「ご愁傷様」と太一の肩を叩く。
「てか、別に行きたくねぇなら行かなくてもいいんじゃねぇの。マイの言う通り、たるいだけだろ」
「そういうわけにもいかないんじゃない? なんの呼び出しか知らないけど、やっぱり目を付けられるのはできるだけ避けたいし」
満天の物言いに暁良が意見する。
誰しもが満天のように上下関係を完全粉砕して我が物顔で闊歩することなどできんのだ。
太一は胃の中身を外じゃなく体内にぶちまけそうなほどキリキリとした痛みに襲われるも、仲持には色々と世話になったことがある。彼の顔を立てる意味でも、ここは先輩に会うべき場面なのだろう。
できることなら逃げたいが……
「ちっ……面倒くせぇな~。おい太一、パイセンに会うの、今日の放課後だっけ?」
「ですね。部室棟の前に来てくれ、って話です」
「それ、アタシも一緒に行く」
「え?」
「あんただけだと、いざって時に一方的にボコられて終わりだろ。もしパイセンがマジでなんか仕掛けてきやがったら、アタシがあんたを守ってやらねぇとダメだろうが」
あらヤダなにこのイケメンギャル。思わず惚れちゃいそうになるくらい勇まし過ぎるんだけど。ギャルなのに。
「サッカー部のキャプテンだろうが誰だろうが、アタシの太一に手ぇ出すってんなら容赦しねえ。徹底的に捻り潰す」
いやもうあなた、今すぐに男女逆転世界に行ってハーレム作ってきなさいよ。
「いやいやいやいや、ちょ~っと、満天さ~ん? 今さらっと無視できない発言あったんだけど~?」
暁良がこめかみに怒りマークを浮かべて満天の肩に手を置いた。
「“アタシの太一”って何かな~? まだたいちゃんは誰のものでもないよね~?」
「あん? どうせすぐにアタシのカレシになんだから何も変わんねぇだろうが」
「あはは~、マジな顔して面白いこと言うじゃ~ん? ねぇ麻衣佳ちゃんもそう思うよね~?」
水を向けられる麻衣佳。彼女は弁当のおかずを食べながら、ハイライトの消えた瞳で満天を見据えていた。
「……キララ」
「あ、んだよ?」
「ギルティ。涼子姉さんに言って次の献立は激辛パーティーにしてもらうから」
「おまっ! こんの! ふざけんな!!」
最強にして最恐の満天にも当然ながら弱点がある。この女、辛い物がすこぶるダメなのである。
「ねぇ~、話が脱線事故起こしてるんだけど。結局、きらりんは太一くんに付いていく、ってことでいいの?」
キャットファイトのゴングが鳴る直前。亜衣梨が線路からロケットのごとく飛んでった話題を強引に軌道修正した。
浮きかけた腰を地面にドカッと下ろし、満天は「あたりめぇだろうが」と言って、パックの野菜ジュースをストローで一気に吸い上げべコリと凹ませた。
「こないだも妙な連中がアタシに絡んできたしな。太一の方にも因縁吹っ掛けてくるかもしれねぇじゃん」
「う~ん……仲持君が言うのは、そういう雰囲気でもない、って話なんですけど」
「あんまし信用し過ぎんなよ。同じ部活の後輩と、赤の他人で同じ対応になるわけねぇんだからよ」
警戒心MAXの満天。つい先日、自分が先輩と揉めたせいかこの手の話題にささくれ立っているように思う。
とはいえ、自分一人では心細い、というのも正直なところである。
まさか本当に拳で語り合うような事態にはならない……ならないと信じるしかない。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「うし。ぜってぇ相手に舐められねぇようにしねぇとな」
「あはは……」
それに、太一が何を言っても、彼女はきっと勝手に付いて来る気がした。
――そして、放課後を迎えていざ部室棟に向かってみれば、
「あ、やっぱり彼女さんと一緒手に来てくれた~……フフ、予想通り~。ね? 本当に私の言ったとおりだったでしょ?」
「そうだな……俺はお前がたまに本気で怖えぇよ」
そこには、太一を呼び出した張本人であるサッカー部キャプテンの三崎と、もう一人……
「フフ……今日はわざわざ来てくれてありがとね~」
ふわりとした柔らかい髪が背中で広がるゆるふわな雰囲気の女子生徒。
身長はおよそ150センチ程度。しかし低めの身長のわりに身体的特徴の一部……胸部装甲がとんでもなく分厚い彼女は、
「今日はよろしくね~」
前生徒会長……水上奉華であった。
(꒪ˊ꒳ˋ꒪)ニコニコ




