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・人質として宗主国へ

 翌朝、馬車の前で家族との別れを済ませた。

 普段はしたたかな母上も今日ばかりは涙を流し、父上ほどではないが大げさに別れを嘆いた。


「では、王よ。ご子息アルヴェイク王子は確かに、我々アザゼリアがお預かりいたしますぞ」


「我らは帝国の忠実なるしもべ、忠誠の証を差し出すのは当然のこと。……ヴェイクよ、アザゼリアより多くを学びなさい」


 別れを済ますと、俺はアザゼリアの役人が駆る馬車に乗った。……シトリン姉さんと一緒に。

 馬車はすぐに出立し、遙か遠方の帝都へと俺たちを運んでいった。


「アル、寂しくなったらいつでも帰ってきてね……?」


「姉さん、それは外交問題に発展しますので、少し無理があるかと……」


 人質の帰省なんて聞いたこともない。

 姉さんは弟にもたれかかって、心配そうに顔をのぞき込んでいた。

 俺が12歳、5つ上の姉さんは17歳。姉さんは領地の誰もが憧れるプリンセスに成長していた。


「そうだわっ、お姉ちゃんが膝枕してあげるっ!」


「ありがたい申し出ですが姉さん、それは馬車に酔うのがオチかと」


「じゃあどうすればいいのーっ!? 言ってっ、お姉ちゃんがなんでもしてあげるからっ!」


「では普通にしていていただけると」


 シトリン姉さんは可憐な姫君に成長した。

 貴族出身の母に教育されたのもあって、淑女としての立ち振る舞いのできる立派な女性となった。


 ただし環境がそうさせたのか、超の付くブラコンだ……。


「私は弟を甘やかしたいのーっ!」


「お役人さんが御者席で聞いていますよ?」


「知らないわよっ、そんな誘拐魔のことっ!」


「落ち着いて下さい、姉さん。僕は家の助けになるためにアザゼリアに行くのです」


 家族との別れはとても寂しくて、捨てられた気持ちになるくらいに心細い。


 けれど反面、新しい生活に期待していた。

 転生した俺の新しい人生がここから始まるような、そんな予感を胸に抱えてこの馬車の旅を楽しんでいた。


「わかった……じゃあ、お姉ちゃんの膝にきて……?」


「話、繋がってませんよね、それ?」


 姉さんは唇を突き出して、だだっ子のように身を揺する。これではどっちが姉か弟かわからない。

 俺は姉さんの膝に頭を預けて、馬車酔いの警戒態勢に入った。


「ごめんなさいね、お役人さん。この子、本当は甘えん坊なの」


 御者席のお役人さんは愛想笑いをするだけだった。

 しかし姉さんがこうなるのも無理もない。

 12歳で引き離される運命の弟を持ったら、徹底的に甘やかそうともなる。


 皮肉なことに離別の運命が家族の絆を強く結び付けていた。


「よしよし、いい子いい子……」


「姉さん、恥ずかしいです」


「そうだわっ、昔歌った子守歌、歌ってあげるから目を閉じてっ♪」


「だから、酔いますってば……っ」


「ごめんなさいね、お役人さん。この子がどうしても、ってせがむから……」


「言ってないですってばっ、もう……っ!」


 姉さんに頭を撫でられながら歌声に耳を澄ますと、産まれたばかりのあの頃に戻ったかのように感じられた。


 帝都での生活で始まれば俺は独りぼっちだ。

 家族に甘えられるのは今だけだった。

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