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・脅迫状から始まるソーミャとの冒険

 皇太子殿下の演説は大成功。これまで中立に立っていた多くの有力者、民衆が皇太子への支持を表明した。

 皆、この国の衰退の原因が非課税の荘園と、あまりにも安すぎる奴隷労働者の賃金にあると、わかってはいたようだ。わかって皆、目をそむけていた。


「遠い未来に反乱、報復が待っているとしても、そのツケを自分の代が払うとは限りやせんからねぇ。現状維持、これ幸いなり、ってお久しぶりでございやす」


「会いたかったよ、ゴルドーさん。元気?」


「ドンパチドンパチ、きっついすわー。先週も同僚が3人――あ、いや、なんでもねぇっす」


「それは大変そうですね……。大丈夫ですか……?」


「ははは、おやさしいねぇ、王子殿下は。いや、大丈夫でさ、頼もしい援軍もじききますんで」


「今になって援軍、ですか……?」


「ま、すぐにわかりやす。あ、エマのやつですが、屋敷で腐ってますぜ、殿下がいねーとつまんねーって」


「エマさんとあの屋敷が恋しいですよ。ゴルドーさんの送り迎えも」


「俺もでさ。おっと、そろそろ行きやす。戴冠式まであと5日……。もうちっとだけの我慢ですぜ」


 さっき帰ってきたばかりだというのに、皇太子殿下はまた護衛を引き連れて赤竜宮を出て行った。

 中立を続ける辺境の貴族の元にこれから日帰りで向かうそうだった。


 もう少し俺が大人だったら、ゴルドーさんと一緒に戦えたのだろうか。

 陽気なゴルドーさんと、威風堂々とした皇太子殿下を見送った。


「お、お兄様は……っ!?」


「遅かったね、たった今出て行ったよ」


「そんな……わたくし、どうしましょう……」


「その様子、何かあったの? ソーミャ、落ち着いて」


 取って置きの敬称抜きの言葉を投げかけても、ソーミャ皇女は心細そうに動揺するばかりだ。


「わたくしには解決のできない、深刻な問題が起きました……」


「どういうこと?」


「母が……母が捕まりました……。フリントゥス兄上にさらわれたようです……」


 ソーミャに手紙を見せられた。皇后様の印が蜜蝋に刻まれたもので、中には本人の署名もあった。


『皇后の身柄を預かった。母親の命が惜しければ、蛮族のクソガキと一緒にフランジの廃教会にこい』


 正気とは思えない。実の母親を人質にするなんてそんな暴挙は聞いたこともない。


「今から兄上を追えば、フリントゥス兄上に気付かれてしまいますよね……?」


「そうでしょうね、そこは慎重に行いたいところです」


「では、どうすれば……。ああ、このような人の身では、天罰も下せません……」


 不安そうなソーミャ皇女を横目に書面を読み返した。誘拐犯は俺たちに頼みごとをしたいだけと言っているが、どう見たって嘘だ。身柄を確保して皇太子殿下を脅したいのだろう。


「ここは俺に任せて下さい」


「ぁ…………っ! で、でも……」


「見て下さい、この脅迫状を。彼は俺たちを舐めています。要求に素直に従うような、未熟な子供だと思い込んでいるのだと思います」


「でも、わたくし……貴方が、貴方が心配です……」


「とてつもない力をくれた天使様本人が、それを言いますか?」


「理性ではわかっています……。でも、貴方がもし酷い目に遭ったりしないかと思うと……怖くて……」


「俺、手柄を上げたいんです。具体的には、皇后様と皇太子殿下に恩を売りたいんです」


 ソーミャ皇女の手を取って、それだけでは足りない気がして肩を何度も叩いて励ました。


「どうして、ですか……?」


「今のままでは貴女と釣り合わないからです。前の夜会で皇太子殿下に言われたんです。ソーミャが欲しければ手柄を上げて名を上げろ、って」


 属国の王子が皇帝の娘と結婚したいなんてバカげている。でもこの2年、社交界で交流を交わすにつれて、どうしてもソーミャ皇女が欲しくなってしまった。


「ソーミャ! この事態は君と俺が対等になるチャンスなんです!! 他の誰かと君がいつか結婚するなんて、考えたくない!!」


 らしくもなく情熱的に彼女を抱き寄せて、ずっと抑え込んでいた気持ちを伝えた。


「フ、フフ……まあ、それは素敵……」


「ソーミャ……?」


「わたくし、今すげー勇気もらっちゃったぜ、センキュー、な心境にございます」


「あの……そこはもう少しムードのある言い方にしてほしいです……」


「かしこまりました、では、参りましょう」


「…………え!?」


 不安に曲がっていた背筋を伸ばし、ソーミャ皇女は俺の手を引いた。


「殿方任せにはいたしません。ご招待いただいたからにはわたくしも、あのベリーベリーキモいクソ兄をサンドバッグにしたく存じます。さあ、参りましょう、わたくしの彼ピッピ様!」


「え……? え……ええっ!?」


 そもそもどうやって彼女はこの赤竜宮から脱走するつもりなのだろうか。出せと言っても近衛兵さんたちは俺たちを絶対に自由になどしない。職どころか、自分の首が飛びことになるからだ。


 敵もそこは承知のはずで、恐らくはここに間者が迎えがくる。


「こーんなもこともあろうかと……じゃーじゃじゃーん!」


「女官の、制服……? えっ、2人分……!?」


「未来の旦那様の女装姿を拝見できるなんて、わたくしは果報者にございます……」


「まっ!? 待って、それはダメだよっ、他の方法が――」


「ございません。わたくしは皇女、貴方は王子、自由はございません、永久に。よって、そこに自由がなければ、自らの手で切り開くのでございまーすっっ!!」


「え、ええええっ!? 嘘でしょぉ、こんなのーっっ?!!」


「れっつ、メタモルフォーゼ! で、ございます」


 俺たちは皇后様をお救いするために、赤竜宮からの脱走を試みた。


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