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・アルヴェイグ14歳

 それから2年の時が流れた。

 俺は14歳となって身長162センチの若者となった。


 赤いオーラを放つ品とは結局出会えずじまい。けれど緑のオーラを放つ少し便利な品々を手元に置いて、なんだかんだ自分のチート能力を享受していた頃、ついにその時が訪れた。


 その日、昨晩の夜会から朝帰りした俺を、エントランスホールでご近所の少年少女が迎えてくれた。

 みんな俺の元依頼人たちだ。みんなが俺を慕ってくれていた。


「ヴェイグ兄さん! 兄さんが探している品とは、もしかしてこのような品ですか!?」


 そう興奮気味に声を上げるのは、くせっ毛のブロンドが特徴の近所の少年ロドニアだ。10歳の子爵令息にあらせられる。あのピエールとは今もいい友達だ。


 俺はそのロドニアに目もくれず、エントランスホールに置かれていた古い杖を凝視した。

 その杖からこの2年間探し続けていた特別な光、赤いオーラが高々と立ち込めていた。


「どこでこれを……?」


「はい、帝都外れの廃墟です! 僕たちで探検に行ったのですが、たまたまそこに、ヴェイグ兄さんが欲しがりそうな古い品を見つけて――持って帰ってきてしましました!」


 少年少女は悪びれることなく得意そうに笑った。兄貴分のアルヴェイグが杖に夢中になっている姿に、それはもう嬉しそうに仲間内ではしゃいだ。


「すごいよ、みんな……。ここ2年間、俺はずっとこういう品を探し続けてきた。それを見つけてしまうなんて……みんなすごいよ!」


 杖の材質は青銅。鉄よりもずっしりとしていて錆び付いている。

 けれどそこから立ち込める気品は本物だ。杖の上部には大粒の宝石はめられていたと覚しき台座が付いていたが、既に石は持ち去られていた。


「エマさんっ、俺の友人たちに最高の歓待を! 俺はちょっと、部屋でこの杖と話してくる! みんな少し後で!」


「おうっ、でかしたぜ、悪ガキども! 王子殿下が戻るまで、おっちゃんが話し相手になってやらぁ!」


 小さな友人たちをゴルドーさんとエマさんに任せて、青銅の杖を持って自室に駆け込んだ。


 俺は窓辺の朝日に杖をかざして、その古めかしい姿に惚れ惚れとした。ボロボロのサビだらけで蜘蛛の張り付いた品に気品を感じた。


 すると――


『我が輩は杖である。名をカール・アウグストともうす』


 尊大で気位の高そうな声が杖から響いた。それこそがオーラを持つ特別な品の証明だった。


「俺はアリラテ王国が王太子アルヴェイグともうします。以後お見知り置きを、カール・アウグスト殿」


『おお、これは失礼。王子殿下にあらせられたか。かくいう我が輩は、初代皇帝が宝杖――であった物の、なれの果て、である……。はぁ……笑え……』


「え…………?」


『笑え、笑うがよい……』


「笑ったりなんてしませんよ。……見たところ宝石目当ての盗賊にご自身を奪われ、廃墟に捨てられた、といったところでしょうか?」


 かつては美しい宝杖だったのだろう。初代皇帝の手に握られ、多くの臣下をかしずかせたのだろう。

 それが今ではメッキがはげてボロボロのサビまみれ。落ち込む気持ちもわかった。


『紆余曲折の経緯あれど、概略すればそのようなところ。さあ、笑え……惨めな我が輩を笑え……』


 こんな自虐的な杖は初めてだ。笑えという要求に、俺はできるだけやさしく微笑み返した。


「皇帝家から奪われ、自慢の宝石を失い、いっそ死んでしまいたい。といったお気持ちでしょうか……?」


『左様。しかし我が輩は死ぬこと叶わず。最期に死が約束されている人間の、いかに幸せなことよ……』


「死は祝福。哲学的なお言葉ですね」


 これならば話が早そうだ。これが赤いオーラを放つ品でなかったら、修復して皇太子殿下に献上したのだけど、もはやその予定はない。


「カール・アウグストさん。杖とは異なる別の姿となって、新しい人生を生きたいとは思いませんか?」


『笑止……! 我が輩の晩年を知っているかね? 乞食の杖だよ……乞食が我を突いて練り歩き、あまつさえ物干し竿や火かき棒に使う!!』


「ああ、それでそんなにサビだらけのボロボロに……?」


『皇帝と共にあったこの我が輩がっ!! なぜ火中の芋を転がさなければならんのだねっっ!?』


「ええと……宝杖としては、さぞや屈辱でしょうね……?」


『杖は、もう嫌だ……。人間どもよ! 我が輩を頼らずに足で歩きたまえ、足で! 杖に体重をかけるんじゃぁないっ!!』


 突かれない杖は杖なのだろうか。それはただの手持ちぶさたな棒となるのではないだろうか。

 よほど廃墟に放置されていた鬱憤がたまっていたのか、カール・アウグストさんはその後も愚痴のマシンガントークを俺に放ち続けた。


『人間どもが我が輩の杖になればいい!!』


 言っていることがメチャクチャだった。


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