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Ep.5 草薙との対談

なにぶん初めて小説を投稿したものですから、至らない部分も多々あると思いますがそこはご容赦願いたい。

 京流が投稿していないことに気づき、私はとてつもない不安感に襲われた。と言うのも、彼には自分の命を勘定に入れないきらいがある。中学校でも何度か「あいつの怒った時の〈感情(いろ)〉が見たい!」などと言って相手を怒らせ、ボコボコになって帰ってきたことがあった。

 それだけならまだいいのだが、時折手を出してはいけないような相手にまで突っ込んでいくのだから困ったものだ。その度に助け出しにいくこっちの身にもなってほしいと前々から思っていた。

そんな京流がいないと言うことは、私が見ていない間にまた命に関わるようなことをしたんだろうと悪い想像ばかりが浮かんで仕方がない。

 担任の草薙も草薙で、京流の休みに全く触れずにまるで最初からいなかったかのように振る舞っている。ここまで来ると嫌でも考えてしまう。

 

 ――彼、秋瀬京流は死んでしまったのかも知れない。


 いつ死んでもおかしくないような奴だとは思っていたが、まさか〈学園〉に入学したその初日に死んでしまうなんて、なんて運のない奴なのだろう。ああ、可哀想に。

 そんなことを考えながら私は胸元で十時を切って彼に黙祷を捧げた。

 こんなことをやっているが、どうせ京流は生きているだろう。彼ほど悪運の強い人を私は今まで見たことがない。今までなんだかんだと生き延びてきたしぶとい奴、それが私の彼に対する評価だった。

 そう言えば先ほど面白いことがあった。休み時間中、クラスの女子の幾人かが私に話しかけてきたのだ。何が目的なのかは分からないが「中学校はどこだったの?」とか「趣味はなんなの?」などと言うくだらない話をいくらか交わしていた。

 っと……噂をすれば何とやら。教室の後ろの扉がガラガラと大きく開き、京流がさも当然のように入ってきた。

 何事もなかったかのように着席した彼を見て、思わず突っ込みそうになってしまったがその気持ちをグッと堪え、小声で問いただしてみた。


「サラッと座っちゃってるけど、何当たり前のように遅刻してるのよ」


 私の言葉に悪びれもせず彼は返してきた。


「仕方ないだろ。色々あったんだ」

「まあいいわ。後でじっくり聞くから」

「ほどほどにしてほしいなぁ」


 彼が軽口を叩きながら前に向き直り授業を受け始めたのを見て、私も授業に集中することにした。


   ◇◇◇


 一体僕は何でこんな目に遭っているんだろうか。いや、ある意味原因は明らかなのかも知れない。

 昨晩僕は商店街に出た帰りに、謎の触手を持つ浮浪者のような怪物によって殺されかけた。そこからの記憶はあまり鮮明ではないが、おそらくはあの時に助けに来た教師、担任の草薙によって保健室に運ばれ、今朝方目覚めた、と言うことだろう。

 正直な話、僕自身も何が起きたかについてあまり理解していない。なので今すぐにでも草薙に問いただしたいところなのだが、生憎と彼からの音沙汰はないし、どうすればいいか分からないでいる現状だ。

 それなのにも関わらず、目の前の万波稀穂なる人間は僕に昨日何があったかだの今朝は何をしていただのとやかましい質問ばかりを繰り返してくる。

 思えば彼女の心配性は今に始まったことじゃない。僕が何かをしようとするたびにやたらと心配して引き止めてくる彼女のお節介には昔っからうんざりしていた。ただ、その心配性が功を奏したこともある。中学の頃、何度か僕がヤバいような状況に陥った時に、いつもどこからともなく現れては僕を助けていく。

 まるで第2の能力で〈第六感〉でも持っているんじゃないかと思えるほど鋭い彼女の感に助けられたこともあるので、僕も強くは出れないのが現状だった。


「なるほどね……昨晩の夕飯のために商店街に出た帰りに触手の異常者に襲われ、気絶していたところを草薙先生に助けられて、保健室で朝まで介抱されていた。と」

「ち……違うよ!」


 慌てて反論すると、稀穂は不思議そうに首を傾げる。


「草薙が来るまでは意識があった」


 彼女の〈感情(いろ)〉が呆れに変わった。


「はぁ……重要なところはそこじゃなくてね……いや、もういいか」

「さっさとしてよ。僕だって暇じゃない」

「私のことを心配させといてどの口が言ってるのよ」


 なんか大分失望されたような気もするが、とにかく稀穂の呪縛から解放された僕は草薙の元を訪れてみることにした。


   ◇◇◇


 放課後、職員室にいた草薙に昨日の件でと言うと、小さな面談室に通された。


「はぁ……簡潔に行こう。何が聞きたいんだ秋瀬?」


 彼は教壇に立っている時と同じように一貫して怠惰な表情で僕に問う。


「何がなんてもんじゃないですよ!アイツは何者なんですか!?それにあのあと音沙汰なしって、僕何かあったのかって心配だったんですから!」


 少し取り繕って声を荒げてみる。すると草薙はますます面倒くさそうに、


「何だ、そんなことで呼び出したのか」

「そんなことって」

「この2日間で分かったと思うが、俺は面倒ごとが嫌いだ。だからできる限り不要な説明は省きたいと思っている。だが、それでもお前が聞きたがるなら教えてやるよ」


 何ともまあ捻くれた性格だこと。それでいてその〈感情(いろ)〉にはムラがなく、本当に怠惰だけで生きていることを理解させられる。彼を前にして僕は、苦手だと言う印象と、それでいて興味深いなと言う印象を受けた。

 ここまで生きてきてこれほどまでに〈感情(いろ)〉にムラがない人間を僕は今まで見たことがなかったから、いつか彼の〈感情(いろ)〉をぐちゃぐちゃにしてみたいと、心のどこかでそう思うのだった。


「あのあと音沙汰が全くなかった理由は分かりました」

「ならもういいか、俺だって仕事が残ってる。暇じゃないんだ」

「で、あの怪物は何者なんですか?」


 爽やかな作られた笑顔から放たれる僕の言葉に、草薙は大きくため息をつく。

 これはただの僕の感だ。だがそういう感ほど結構当たるもんで、どことなく草薙が怪物について触れるのを避けている印象があった。


「やっぱり、お前その内死んじまうんじゃねぇかと、俺は心配だわ」

「答えになっていないですよ」


 正直な話、僕もさほどあの怪物についての興味はない。だが、〈学園〉の教師たる草薙が隠そうとしているその秘密に、もしかしたら何か僕の興味を惹くものがあるかもしれないと思ったのだ。

 

「……悪ぃが、入学して2日目のやつに教えられるほど優しい話じゃないんだわ。そもそも、お前があそこで倒れているのも少し想定外だったもんでな」

「そうですか。それは残念」


 そうして席を立ち、その場を後にした。

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