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バカ女が戦車でやってくる!  作者: TANK_KONG
第一章
4/33

04

 ディーゼルの発電機が動いて、全身に力がみなぎる感じはあったのだが、未だに動かせる身体があるのかすら分からない。

 画面に自分の思った文字を表示出来るか試してみたが、ダメだった。

 そうするうちに、チビ女は何かブツクサ言いながら、すぐに電源を切ってしまい、再び元の暗黒の世界に戻されてしまった。

 多分、デバイスコントローラの再設定が出来なかったんだと思う。

 まず、このOS自体、見たことも無いって顔してたからな。

 操作すらおぼつかない感じだったから、全然分からないので速攻で諦めたってところだろう。

 しかし、この戦車のOSがTR○Nだとすると、専用のコードエディターが要るのだが、見た感じ、それっぽいPCは周囲に確認出来なかった。

 あの娘が持ってたタブレットっぽい端末がどういうシステムか分からないので何とも言えないが、OSが対応してればインストールは可能かも知れない。

 しかし、そもそもあれから何年経ってるのかも分からないのだ。

 普通に考えて、互換性はまず無いだろうな。

 なんとか、当時のPCがあれば、俺でも操作出来るかも知れないのだが、どうすれば意思の疎通が図れるのか。

 何か動かせるものとか、せめてカーソルを動かすことだけでも出来れば随分違うと思うのだがな。

 また、電源を入れてもらうのを待つしかないのか。

 何より、自分がどういう状況なのかも良く分かってないのだ。

 もう一度、冷静に現状を分析してみよう。

 まず、俺自身は多分2026年に死んだのだと思う。

 恐らくは核ミサイルだと思うが、なぜ静岡に落ちたのかは不明だ。

 ともかく、俺はそれで一瞬で蒸発したに違いない。

 で、推測だが、この戦車は当時会場に置いてあった25式と見て間違いないだろう。

 なぜ、俺がそんなものに乗り移ったのかは考えても分からないだろうが、脳の活動は純粋に電磁的なものだとする研究があったような気がするので、俺の意識が電磁情報として戦車なのか、戦車のコンピュータなのか分からないが、それに焼き付けられたのではないか?

 戦車には電磁波の浸透を防ぐシールドがあるので、車内にあるコンピュータに移ったというのは考えにくい。

 となると、戦車本体ってことになる。

 確かあの時は、戦車の前面に立って運転手用のペリスコープを覗きこんでいたんだよな。

 だとしたら、運転席付近に貼り付けられたのかも知れない。

 いや〜、それじゃまるでピョン吉だよ。

 う〜ん、25式の全体像を思い出そうとしたが、最新型でしかも試作車両だったこともあり、あまりハッキリしたイメージは浮かばない。

 ただ、10(ヒトマル)式の改良型なので、車体部分には大きな差は無いはずだ。

 そう言えば、10式には無い、突起の付いた新たな増加装甲が車体前面下部に付いてたな。

 確か、ウクライナでの戦訓を受けての導入だったような。

 ふむ、思い出してきたぞ。

 昔から自衛隊車両は軍用車にしては塗装にツヤがあり、展示車両などはテカテカになっていることが多いのだが、25式はステルス性の高いツヤ消しの塗料を使っていた。

 迷彩のパターンも伝統的なカーキ色とオリーブグリーンのもやもやした柄ではなく、ドットパターンのような、空自の戦闘服のような迷彩だったな。

 そうやってディテールを思い出していくうちに、何となく実在感とでも言うのだろうか、そこに転輪がある、ヘッドランプがある、牽引フックがあるというふうに、感じられるようになってきた。

 電源が入ってないので、何かを動かしたりとかは出来ないが、一つひとつディテールを探ってパーツが実感出来るようになると、何となくではあるが、電源さえ入れば動かせるようなそんな気がしてきた。

 どのくらいの時間、そうやってパーツの確認を続けていただろうか、戦車の外側のイメージをほぼ網羅したところで再び電源が入れられた。

 エロ娘は前回と全く同じ服装で、身体の汚れた箇所もそのままだった。

 風呂とか入んないのか、それとも入れないのか。

 まあ、確かに水は貴重な物なのかも知れないが、年頃の娘にしては不摂生だねぇ。

 っと、そんなことを言ってる場合じゃない、どうやらこの娘はコンピュータを取っ払うつもりらしいので、それをやられると外部へのインタフェースを完全に失ってしまう。

 なんとかこちらの存在を知ってもらわないとな。

 車体のイメージは掴めたのだが、砲塔や車内は未知の領域だったため、そっちはまだ良く分からない。

 ただ、この娘に知らせるなら車内にある何かを動かす必要があるな。

 パッと見回して、こちらで操作出来そうなものは、そうだなぁ、砲塔の旋回用モータが見えたので、それを動かしてみよう。

 モータを回すイメージを思い浮かべたり、砲塔が回っているイメージをして見たが、ウンともスンとも言わない。

 モータの電源がどこに繋がっているかを辿っていくと、そこのスイッチがOFFになっているのが見えた。

 電子的に切り替えるタイプではなく、物理的に接続を切るタイプのスイッチだ。

 物理的にOFFになってるスイッチをONにするのはさすがに無理だな。

 他の手を考えよう。

 そうだなぁ、車内灯はどうだ?

 車内灯は砲塔内と車体の運転席の後ろに2箇所設置されている。

 これは、常夜灯みたいな物で、夜間に暗い車内に入っても見えるように、主電源とは別系統の電源装置に繋がっている。

 本来ならオルタネーターや太陽光パネルなどで発電された電気をバッテリーに溜めておき、24時間本隊からの通信も受信出来るよう、けっこう長時間使える物だったはずだが、おそらくこの娘が改造したのか、見たこともない電源装置に繋がっていた。

 ただ、本来の役割通り、バックアップ電源として使われているようで、発電方法は不明だが、ON/OFFの切り替えは無く常時発電している物のようだ。

 この、車内灯を明滅出来ないか、ちょっとやってみよう。

 ランプはおそらくLEDなので、単純に主電源の電圧を上げ下げしただけでは明るさは変わらない。

 LEDに電流が流れすぎて熱暴走を起こすのを防ぐため、定電流回路が付いているからだ。

 なので、明滅させるには、電流を完全に止めるしかない。

 そんなこと出来るのかな。

 そもそもあの電源装置の発電方法が分からないからな。

 それでも、ランプからのコードが目で追えるので、その導線の抵抗値を思いっきり上げてやれば良いのではないか?

 どうだろう、どうやったらそんなこと出来る?

 ランプから逆に辿って、その導線に電気が流れている状態をイメージしてみた。

 すると不思議なことに、何となくだがその回路の全体像がボンヤリと把握出来るような感じがしたのだ。

 人間が内臓の動きを普段は意識してないけど、二日酔いで胸焼けがするときなど、胃袋の存在が顕著に感じられる時がある。

 そういう時は胃袋の形まで、なんとなく分かるのだが、それに近い感触だな。

 そして更にイメージを強めていくと、ついに電流の流れている回路がイメージ出来るようになってきた。

 その回路の中にトランジスタを発見したので、それのスイッチの役割をしているコレクタを、ちょいと流れを悪くしてやればスイッチが切り替わる。

 かつて存在した、超能力少年のごとく、曲がれ!とイメージしたところ、なんと回路の+−が一瞬入れ替わった。

 そして見事その瞬間だけ、車内灯の灯りが消えたのだ。

 エロ娘は「おろ?」と言いながら周りを見回し、四つん這いになって件の電源装置に向かって行った。

 相変わらず、ハミ肉がもれ出そうである。

 そして、最も原始的な手法で調整しようとする。

 いわゆるぶっ叩くってやつだ。

 拳でガンガン殴って、症状が出るか試したのだろう。

 まあ俺もこういうケースならとりあえず、ぶっ叩くだろうけどな。

 電化製品の基本操作と言っても良い。

 娘は首を傾げながら「バッタもん摑まされたかな」とか言いながら、元のポジションに戻ってきた。

 そこで、もう一回ランプを明滅させる。

 「なんなの?もー」と言いながら、再度電源装置に向かうが、今度はぶっ叩かず、装置の蓋を開け、中の様子をジッと調べている。

 怪しいと思しき箇所を、色々いじっているが、ランプの明るさは変わらない。

 「おっかしいな」と、口をとんがらせながら再び作業を再開させようとする。

 そこで、再度ランプを点滅させると、「おら〜!どうなってんだ?」とガラの悪い悪態をつく。

 あまり育ちの良い娘では無いようだな。

 まあ、その服装から想像は出来たが、やっぱりって感じだ。

 そして原因がランプにあると考えたのか、車内のランプを別の物に変えて、これで大丈夫と思ったのも束の間。

 またしても点滅するランプに苛立って、今度は電源装置から車内の導線を介さずに、別の電線を持って来てランプに直結させた。

 ほほう、なかなか柔軟性のある頭の持ち主のようだ。

 これで、今度こそ大丈夫と思ったのだろうが、そこはお約束である。

 またしても点滅するランプに、発狂したかのように頭を掻きむしり、「あ”〜!どうなっとんのじゃ!」と叫ぶ。

 まるで虐めているような感じではあるが、これも俺が生き残るためだ。

 決して反応を見て楽しんだりはしていないぞ、可愛いとは思うけどな。

 こうやってポルターガイストみたいな現象を起こせば、作業を止めてくれるかも知れない。

 実際、霊みたいなもんだしな。

 しかし、その娘の行動は俺の予想の斜め上を行った。

 車内灯をコードと電源装置ごと取り外してしまったのである。

 代わりに手持ちのランタンのような電灯で車内を照らし、再びコンピュータを取り外す作業を再開しようとする。

 やれやれ、どうしても取っ払いたいようだな。

 そうだな、次に動かせそうな物は…と探したところ、車内灯の後にあったので気付かなかったが、消火装置が付いているのが見えた。

 これは、車内での単純火災用で、被弾したときの誘爆防止用では無い。

 なので、噴射されるのは恐らく普通の粉末消火剤だ。

 ただ、熱と煙で勝手に作動するので、被弾すれば普通に作動してしまう。

 戦闘中にそんなもんが作動したらどうなるのだろうとは思うが、徹甲弾が貫通したらそれどころでは無いからな。

 ともかく、消火剤は人畜無害なはずなので、ちょいといじってやるとしよう。

 因みに、弾薬室やエンジンルームには別の消火システムがある。

 こっちは不燃性ガスを噴出させて酸素を追い出して、延焼を防ぐ方式だ。

 なので、酸素マスク無しでやると窒息してしまうので要注意だ。

 さて、温度センサーのコードを辿って、先ほどのように回路をイメージする。

 消火装置は本体とは完全に独立した系統なのだが、信号線だけは統合システムと繋がっていて、機器が作動しているかどうかを把握出来るようになっている。

 そこから消火装置本体の回路にアクセスすれば、操作可能になるだろう。

 温度計のサーミスタのセンサーの抵抗値をグッと下げてやれば、温度が上がったと勘違いして、薬剤を噴出させてくれるはずだ。

 そして、娘がコンピュータの筐体に手を掛け、固定してあるボルトを緩めようとしたとき、頭上から白っぽく濁った液体がドバドバと噴出された。

 おお?なんじゃこりゃ?

 白い粉が出ると思ったのだが。

 娘は「うぎゃぁ」という、悲鳴とも驚声ともつかない叫びを上げると、慌てて外に逃げ出そうとした。

 だが、戦車というのは、なかなかすぐにパッと非難出来るようには作られていない。

 それなりに訓練をしないと、咄嗟の避難行動は大抵どこかに頭をぶつけたり、膝や肘をぶつけてひどい目に遭うのだ。

 案の定、頭を天井にしこたまぶつけて、頭を抱えてしゃがみ込んでいる。

 その上から無情にも降り注ぐ、怪しく白濁した液体。

 いやあ……絵面がエロ過ぎる。

 彼女のせいでは無いとは言え、なんとなくドジっ子的な可愛さを感じてしまうな。

 それにしても何だろうこの液体は。

 消火剤が古くなって液状化してしまったのだろうか。

 それとも、どこかから変な液体が混ざり込んでしまったのか。

 人体に無害な液体であれば良いが。


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