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バカ女が戦車でやってくる!  作者: TANK_KONG
第一章
3/33

03

 チビエロ娘は名を田宮美奈子といい、2036年生まれの25歳。

 25歳なのでロリでは無いのだが、チビで童顔なため周囲からは中学生としか思われてない。

 中学卒業時から外見がほとんど変わっていないため、やむを得ないことだが、もちろん生まれてこのかた、女として扱われたことなど無い。

 もっとも今の時代、女が女として振る舞えるのは、ほんの一部の金持ちだけである。

 家族は父親だけで、母親は美奈子を産んですぐに死んでしまったという。

 真実を知っているのは父親だけなので、本当に死んだのかは定かではないが、この時代、病院で子供を産める身分の者はごく一部の富裕層で、産後死や死産だった例は枚挙に暇が無い。

 その真実を知っているはずの父親も、去年、病気で死んでしまった。

 元看護士だった町内会の藪医者によれば、不完全な防護服で屋外作業を続けたせいだと死因を断定したが、満足な検査も出来ない環境では本当のところは分からない。

 しかし屋外作業が必須な業種には、常にこういった危険が伴う事も事実であり、防護服を着ずに外に出るなら装甲車に乗る必要があるのだが、そんな物を誰もが持っているわけでは無い。

 25式はレストア中で動かないのだが、そのレストアを続けるにはスクラップの回収が必要であり、それを続けるには放射能の飛び交うスクラップ場まで行かねばならない。

 おそらく父は、そうなることを覚悟で美奈子にこの戦車を遺したのだ。

 つまり美奈子は天涯孤独の身であり、残された25式は父との繋がりを残す、言わば形見のようなものだ。

 そんな戦車を大事に修理しながら、地下街の隅っこの倉庫に、引き籠もって暮らすのが、彼女の生き様であった。

 ただ、引き籠もりではあるが、商店街の中で孤立しているわけではなく、折に触れ彼女を気にかけてくれるような人も何人か居る。

 彼女の生活の糧はいわゆる廃品回収業である。

 25式のパーツを探す傍らで、売れそうな物も拾ってくるという、シンプルだが危険な作業だ。

 汚染地帯を調査するのでリスクもあるが、その分稼ぎにもなる。

 もちろんそれだけで生活していけるものでもないが、時々アルバイトや町内会のイベントに参加し、その際の参加費として食料などをもらってくる。

 そうやって、緩い人間関係を維持しながら生きている彼女のような者は他にもたくさん居るが、若い女性では珍しい方だろう。

 大抵は家族に先立たれた寡婦とか、仕事も生殖能力も失った年寄りの男などが、そういった世捨て人的な生活をしている。

 単純に父親の仕事を引き継いだとも言えるが、彼女自身に労働意欲とか、生活の向上を求める欲求が無いことも理由の一つだろう。

 エロく見えるのは単に若いからであり、本人にその意識は無いし、何よりずぼらであるため、汚れるし単に着替えるのが面倒という理由で布の面積が少ない服を着ているに過ぎない。

 そもそもエロに需要が無く、そのエロに反応する男もいないため、いかに露出が多かろうがそっち方面で危険な目に遭ったことは無いというのが現状である。

 なので、たとえ25歳であっても、性に関しては無垢な思春期の少女と何ら変わらないのだ。



 現在25式のレストアは9割方終わり、ハード的な問題はほぼ無くなっていたが、画期的な戦車であるが故に、ソフトウェアに関してはかなり難航していた。

 そもそもの機器全体をコントロールするOSが、国産某OSということで、開発環境そのものが失われて久しい。

 現在のコンピュータ事情は、アメリカのみが開発を許されている状況で、他の国家はアメリカから提供されるものを受け容れて行くしかない。

 完全な独占状態となっていた。

 核戦争前からその状況はあったが、それでも中国がそれに風穴を明けようと独自のOSを頒布したり、プロセッサ技術を国家的プロジェクトとして推し進めていたが、核戦争によってそれらは全て無くなり、中国という国家も消滅し、海岸付近の都市と台湾に僅かに人々がしがみついているに過ぎない。

 多くの国は、2026年時点で保有していたコンピュータをそのまま利用するか、更新されたとしてもソフトウェアのみで、高精細な半導体を大量に作ることが出来なくなっていた。

 アメリカのみが地下に都市を造り、MITなどが特殊な用途向けに量子コンピュータなどを開発して、技術と情報の独占を行っていた。

 まるで、アメリカだけが生き残るよう核戦争を仕掛けんじゃないかと、世界各国からの怨嗟の言葉が寄せられるほど、核戦争後のアメリカのあらゆる分野においての寡占状態が、確固たるものになってしまっていた。

 そんな中で25式のソフトウェアは、レガシーかつクラシックな国産OSである。

 彼女じゃなくてもおいそれと手出しが出来る代物ではない。

 彼女はそれをなんとか自分でも理解出来る一般的なOSに変更したかったのだが、これまで手を付けてこなかったのはやはり面倒なのと、今のシステムに代わるコンピュータが無いため、そちらをまず何処かから入手せねばならない。

 今はこの国産OSが辛うじて稼働しているが、システムを入れ替えたら全ての設定を1からやらなくてはならないため、二の足を踏んでいたのだ。

 一度だけ、父がこれに手を出そうとしているのを見たことがあるが、結局起動することも出来ず、そのままになっていたのだ。

 美奈子は意を決してついに禁断の領域に踏み込むことにしたのだが、起動してみてやはり別のコンピュータなり、プログラミングが出来る環境が無いと、どうにもならないということが分かった。

 それなりに高性能なPCは、もちろんそれなりに高価である。

 それでなくても、半導体は希少価値が高い。

 貧乏なジャンク屋風情が金を出して買うことなど不可能である。

 やはりPCパーツを求めてジャンク漁りに出かけるしかないのだが、そんなに簡単に見つかるなら誰も苦労はしない。

 宝くじを買うような、かなり確率の低い幸運に期待するしかないのだった。


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