また何処かの世界で・・・(2)
アナウンサーは、息を呑んだ。
職業柄、『そんな事件』を報道して、実際に『現場』を目にした事もある。
だからアナウンサーは、社長が危惧している事が身近に聞こえていた。
縁遠い場所で働いている人、もしくは全く耳にしない人なら、職場(環境)に恵まれている。
だが、現実問題、ブラック企業は全国のあちこちに、確かに存在する。
部下を『奴隷』のように扱い、相手の尊厳を踏み躙り、一種の『洗脳』状態にする。
そんな企業が表沙汰にならない原因は、そんな歪んだ世界(会社)を支配する側にも、『やってはいけない事をしている』という自覚があるから。
にも関わらず、部下を労わらないのは、もはや誰にも分からないし、誰も解明しようとはしない。
事情は企業によって違うものの、そんな会社の成り行きよりも先に、被害に遭った人間の救済の方が重要・・・と考えたのが、梅社長。
何故なら、働く人がいなければ、『会社』とは言えない。
働く人がいなければ、『社会』は成り立たない。『経済』も成り立たない。
つまり、働いている人間を追い込むことは、自分たちの生活している国の経済を、崖っぷちに追いやっている事にも繋がる。
にも関わらず、『社員=会社の奴隷』として見ている企業は、なかなか消えてくれない。
「一つの会社のパワハラを特定するだけでも、骨が折れる程の時間と労力がかかるんです。
しかし、我々の活動により、大勢の社会人の命が救われている事実が、我々にとっては救いです。」
「苦労する要因とかって・・・ありますか?」
「基本的にブラック企業に勤めている人は、『自身の命』よりも『会社』を優先します。
だから、上司の言う事は絶対であり、我々外部の人間を敵視している企業もありますね。
___そうゆう『洗脳』を受けてしまった人間を説得するのは非常に難しく、時には若干強引な手段
を打って出ないと、『手遅れ』になる場合も珍しくありません。
企業からの妨害もあり、どの会社も一筋縄ではいかないんです。」
「そ、それは恐ろしいですね・・・・・
社長自身も、何度か危ない目に遭っている・・・とか?」
「___否定はしませんね。
嫌がらせの『電話』や『メッセージ』なんて序の口。『殺害予告』なんかもされましたね。
会社の玄関に、ゴミを投げつけられた事も、会社のホームページが荒らされたりした事も・・・
まぁ、最近では、そういった行為も『犯罪』に繋がるので、ある意味助かってますね。
今は『証言』だけではなく、『防犯カメラの映像』や『ネット上の書き込み』も証拠になります。
___警察からは、「またあなたの会社ですか」なんて言われる事もありますが。」
社長は、笑いながら当時の状況を語るものの、アナウンサーは笑顔を作るだけで精一杯の様子。
そんな話し相手の空気なんて気にする事なく、ペラペラと当時の状況を詳細に語る社長に、カメラマンですらドン引き。
『殺人予告』までされて、ヘラヘラしていられる方が、普通はおかしい。
だが社長にとっては、既に『日常茶飯事』と化している。随分、殺伐としているが・・・・・
「まぁ、こんな笑い話にできるようになったのは、つい最近ですよ。
警備員を雇えるまで、この会社が大きくなった事で、嫌がらせの数もだいぶ減りました。
実際、様々なテレビ局が、大々的に報道してくれましたからね。
「梅社長の件がニュースで報道された事で、ウチの会社でパワハラをしていた上司が、ようやく大人し
くなしました!!」
ってメッセージを貰った時は、何だか・・・・・『ボヤの段階で火を鎮火できた』気持ちでした。」
会社に因子が『たった1人』いるだけでも、社内の空気は瞬く間に変わっていく。
特にその因子が、『部下を従える者(上司)』だった場合は、そのスピードが速い上に、誰も止められない(部下は従うしかない)。
そのたった1人のパワハラが、他の人間に伝染して、更に別の人間に・・・を繰り返すだけで、あっという間にブラック企業の出来上がり。いわゆる『パワハラのパンデミック』
そして気がつく頃には、自分たちが『違法な行為』の自覚がなくなり、結果的に救い出すのに時間がかかってしまう。
その流れを学んでいる社長は、『あえて』自分たちの活動を公にしている(隠さない)。
被害も甚大ではあるが、『抑止力』としての効力も、送られて来るメッセージで実感している。
実際、『違法な行為をしていた人間がどうなったのか』・・・という一連の流れを公表すると、瞬く間に応援や支援のメッセージが届くようになった。
SNSでは賛否両論な社長の活動だが、実際に被害に遭っている人間からすれば、どんな形でも良いから抜け出したい(助けてもらいたい)。
そう、梅社長が、『良くも悪くも』注目されている理由、それは
『ブラック企業殲滅チーム』
を創立した、第一人者だからである。
「_____それにしても、どうして社長は、そんな目に遭ってでも、ブラック企業を撲滅しようと奮
闘しているんですか?」
「うーん・・・・・
『あの女性』に、憧れたから・・・かもしれません。」
「『あの女性』とは・・・『社長同士のお知り合い』ですか?
それとも『お母様』とか・・・・・」
「うーん・・・どう表現すればいいのか・・・・・
_____こんな話、信じてもらえるかどうか分かりませんが、今日はこの後の予定も特にないの
で、話してみようと思います。
少し・・・長いお話になりますが、お時間、大丈夫ですか?」
「は、はぁ・・・・・」
アナウンサーは、まだ女社長の意図が分からず、とりあえず頷くしかなかった。
女社長がインタビューを受けている間も、隣のオフィスではパソコンと向き合っている社員と、ヘッドセットのマイクに向かって接客する社員が、いつも通り働いている。
この会社に勤めている人間は、老若男女だけではなく、『国籍』や『身体』も問わない。
マイクに向かって『英語』で受け答えをする外国人や、『車椅子』を器用に動かしながらお茶を入れている社員も。
この会社が注目されているのは、ブラック企業の撲滅を掲げているから・・・だけではない。
様々な人が(どんな人でも)働ける社会を目指す為、彼女の派遣会社が『お手本』となり、様々な試みに力を入れているのだ。
働いた際に気になった事、不便に思った事もサイトに載せ、それに様々な専門家の意見も載せる。
意見を述べる相手が、日本人じゃなくても正社員じゃなくても関係ない。
とにかく様々な人の意見をまとめて、試せるものからとことん試す。
失敗も経験として、次に活かす為に話し合う。
否定意見にも目を向けて、『具体的に何が』不都合なのか、『誰』にとって不都合なのかを、細かく区分分けする。
他にも、『こんな会社だったら働きやすい』という個人のアイデアを取り入れては、社長の会社で試して、その評判を多くの会社で共有。
そんな数々の活動の影響で、会社のSNSをフォロワーには、世界で活躍する『超・大手企業』や『タレント事務所』の名前が連なっている。
テレビや雑誌で、
『新たな日本社会の先導を切る、新たな時代の社長』『社会の多様性に革命をもたらす天才』
と、様々な方面から注目されている梅社長。最近は、テレビへの出演も増え、CMにも抜擢された。
だが、梅社長の斬新な試みには
『お手本』がいた。
もう会えないものの、社長の記憶にはしっかり残っている。
その記憶を辿るように、彼女は動いている。そして『あの人』の願いを、引き継ぐ為に・・・・・




