第十二章(10) 終わり良ければ・・・
前世の両親を思い返しながら、真似したい(やってみたい)事がないか考えていたウズメの前に、突然ルシベルが差し出した『小さな箱』
その箱が目にはいった瞬間、ウズメは前世で見た『恋愛コメディー』を思い出していた。
そのラストシーン、男性が女性の前にひざまづいて(上目遣いになり)、手に持っている小さな箱をゆっくりと開けると、そこには・・・・・
「い・・・いつの間に用意していたの・・・???
というか、さっきの『パートナー』って、まさか『そっち』?!!」
「ウズメが国王と話し合っている最中、兵士さんに聞いたんだ。
「城下町で、『結婚指輪』を購入できるお店は何処ですか?」
ってね。
その兵士さん、今のウズメと同じくらい驚いていたよ。
でも自分の気持ちを正直に話したら、すんなり教えてくれた。
___どうやら兵士の皆も、君の『大人としての幸せ』を、望んでいたみたい。」
普段の冷静で落ち着いた(大人びた)表情とは違う、まるでイタズラをカミングアウトする少年のような表情に、思わずウズメの心は揺れ動いた(ときめいた)。
箱の中、月の光と夜の城下町の灯りに照らされたもの、それは紛れもなく、『婚約の証』
『指輪』
一体何処で購入したのか、兵士たちがルシベルにどんなお店を紹介したのかは、その指輪の質を見るだけで分かってしまう。
城下町にも、お店によって『ランク』がある。
ルシベルが持っている箱の中に入っている指輪は、誰がどう見ても『本物の指輪』
おもちゃ屋さんで売られているような物でもなければ、安価な品を大量に仕入れているお店で売られているような物でもない。
職人が一品一品、手間暇をかけて作り上げた逸品は、ルシベルがウズメに対して向けている気持ち(愛)そのもの。
『冗談』や『親愛』ではなく、『伴侶』として、『新しい家族』として・・・
「は・・・ほ・・・本物だ。
___え、ちょっと待ってよ、その右手の薬指の・・・・・」
「やっと気づいた。もう・・・朝からずっとつけてたのに、全然気づかないんだから・・・」
「それは・・・ごめん。」
『本物の宝石』がはめ込まれている指輪は、貴族や王族の娘にとっても、憧れの存在であり、なかなか手が届かない代物。
ウズメも、城下町のお店で、何度かウインドー越しに見ていた(目にした事はあった)ものの、手に取ろう(欲しい)とは思わなかった。___色々と怖いから。
前世で『舞の両親』だった二人の結婚指輪は、娘の舞もよく目にしていたが、明らかに宝石なんて物はついていなかった。
ただ裏側に、二人のイニシャルが彫られているだけの、だいぶシンプルなもの。
初めて宝石を間近で見たウズメは、指輪を受け取るよりも先に、興味の方が優ってしまう。
観る角度で色が違い、まるで『数多もの小さな鏡の塊』のように、幾つもの小さなウズメがうつる。
そんな『小さい神秘』がはめ込まれている輪の大きさは、丁度ウズメの薬指にピッタリ。
実はルシベル、指輪の購入(告白)を検討した段階で、ウズメの薬指の大きさを測っていた。
兵士に事情を説明して、喋り疲れた彼女の安眠を妨げないよう、細心の注意を払って。
その際、兵士はウズメの『指の細さと硬さ』に驚いていた。
まるで『小枝』のような指にも関わらず、硬さが『岩石』以上だった為、兵士たちは驚きつつ、ルシベルにこう言った
「勇者・・・・・コーコンに無理をさせていた自覚はあったが、その仲間にも無理をさせた結果、彼女の
身体そのものを変えてしまった・・・
だから貴方には、せめてウズメさんを、『普通のお母さん』にしてほしい。
城下町で一番評判のいいお店を紹介してあげるから、どうか彼女と『夫婦』になってほしい。」
と。
その話を聞いたルシベルは、この話を決して彼女には言わないように心に決めた。
もしこの話を彼女が聞いてしまったら、落ち込むのは目に見えている。
本人の許可もなく、薬指の計っただけでなく、苦労を垣間見てしまった。
ウズメにだって、隠したい過去やプライドがある。
それを踏み荒らした責任として、そのお店で『一番高い注文』をお願いした。
魔族は基本的に『通貨の概念』がない。
しかし、『お金の使い方・有難み』を知っていたルシベルは、数百年もの間、あちこちからコツコツ集めていた。
___もちろん、働いて稼いだわけではない。
野良の魔族を退治した際、彼らが『意味も分からず持っていた』お金を、コツコツ貯め続けていたのだ。
魔族にとってお金とは、『人間が命の次に守る物』という認識でしかなかった為、そんな物をずっと集め続けているルシベルに、周囲は異端の目を向けていた。
それを、どうゆうわけか、村に向かう際のルシベルは、『何かに使えるかもしれない精神』で持って来ていた。
別に何か買い物をしたいわけでもなければ、返そうにも返せない。
だから村を目指している最中、何度も何度も
[コレ(お金)がなければ、もっと身軽になるんじゃ・・・??]
と思ったものの、何故か捨てられなかった。
___ルシベルはその時、改めて自分が『元・人間』であった事を自覚する。
もう何百年も前から、自分の前世を少しずつ忘れかけていたルシベルであったが、心のどこかで、捨てられずにいた。
そして、そんな『人間の性』が、巡り巡って、こんな形で使う事になるなんて、夢にも思わなかった。
そもそも『結婚指輪』という存在自体も、ルシベルの父親から教えられた知識であり、『栄太郎の時代』は、そんな物にお金をかけないのが当たり前。
だから購入直前は、まだ心に若干の迷いがあったものの、自分たちを祝福してくれる人間思っている以上に多かった事を知り、告白に対するハードルが一気に下がった。
そしてこの世界で、『好きな人と結ばれる自由』を噛みしめたルシベル。
かつてのルシベル(栄太郎)にも、『好意を寄せている人』はいた。
しかし当時は、『本人の意図を無視した婚姻』が当たり前な為、『好意=儚い夢』という感覚だった。
だからウズメにとっても、舞にとっても、
ルシベルにとっても、栄太郎にとっても、
『プロポーズ』は初。
定まらない視点と、乙女のように戸惑う、いつもとは違うウズメの様子が見られたルシベルは、堂々と彼女に宣言する。
「___ウズメ、これからも、私と一緒に踊ってくれませんか?」
ウズメが幼い頃、夢に見ていたセリフ。
絵本の中で、エンディング(おしまい)直前のページにあったセリフ。
(いつか私も、そんなセリフを言われてみたいなぁ・・・・・)
と思っていたものの、いざそんな言葉を言われてしまうと、どう返答すればいいか分からない。
そもそも舞は、恋愛ドラマや映画は見て、ときめきはした(夢見た)ものの、彼女自身が恋愛を意識した事は一切なかった。
理由としては、彼女が生まれ育った田舎では、同世代の異性(男の子)が少なかった事に加え、ブラック企業でそんな気持ちになれるわけがない。
ウズメとして生きているこの時代でも(生まれ変わっても)、仲間の恋愛にはよく首を突っ込むものの、いざその対象が自分になると、まるで孤島で置き去りにされた気分になる。
そして今更になって、恋愛に無頓着だった自分が、『色々なものを無駄にした気持ち』に襲われ、告白に返答する事すらできない。
もちろんウズメにも、『将来のパートナーになる相手の条件』はある。
お酒はほどほどに・タバコは吸わない・女遊びしない・ギャンブルしない・ちゃんと働いている
___以外の事柄に関しては、全くと言っていいほど考えていない(ほぼ適当)。
外見も、雑じゃなければ関係ない。体重も、太っていても痩せていても別に問題ない。
性格に関しては、イメージが掴めないから分からない。
そもそも自分の事(好み)すら、よく分かっていないウズメに、相手を選ぶ思考すら浮かばない。
そんな彼女に差し出された『婚約の証(指輪)』に、どう向き合えばいいのか分からず、しばらくウズメは硬直してしまう(迷ってしまう)。
別にルシベルが嫌いな(嬉しくない)わけではない、ただ、前世の自分も経験していなかった事もあり、後一歩が踏み出せずにいる(勇気が出ない)。




