第十二章(9) 終わり良ければ・・・
2人が前世の話をあれこれしている間に、さっきまでの青空が赤く染まりかけ、城下町の騒動は、明るく賑やかなものになりつつある。
新聞の内容で騒いだ後は、皆で美味しい料理やお酒に舌鼓を打ちながら、明日の英気を養う。
酒が入れば、新聞の記事も話のネタになり、あちこちのレストランでは
「ウズメ、バンザーイ!!」「ルシベル、バンザーイ!!」
「新たな時代に、カンパーイ!!!」
という声が聞こえ始める。
二人にとっては、『そうゆう風に受け止めてくれる』方が、むしろ報われた気持ちになれる。
別にウズメ達は、同情してほしいわけでもなければ、コーコンの愚行を罵ってほしいわけでもない。
そんな事をしても、2人は素直に喜べないし、『卑怯者』にどんな言葉を吐き捨てたところで、相手は気にも留めない。___彼が例え『生きていた』としても。
酷い騒動ではあったものの、城下町にも被害が出ていれば、ウズメやルシベルの立場も危うかったかもしれない。
悪い意味で『他人事』ではあるが、良い意味でも『他人事』
「そういえば、前から気になってたんだけど・・・・・
ルシベルって、今いくつ?
私は今年で二十歳・・・だけど、ルシベルからすれば、20際なんて『赤ちゃん』なのかもね。」
「少なくとも100年は生きていると思うけど・・・・・ごめん、詳しくはもう覚えてない。
そもそも魔族には『誕生日』という習慣がないから、年はあんまり気にしないんだ。
___そんな感覚に慣れている僕は、もうすっかり、身も心も魔族なんだろうな・・・」
「別に私は、貴方の『種族』なんて気にした事はない。それこそ、『身分』も気にしない。
私はそんな世界を夢見て、今まで頑張ってきたの。」
再びテラスから城下町を覗くと、ルシベルと共についてきたインキュバスとワーウルフが、民衆から取り囲まれていた(注目の的になっていた)
どうやらワーウルフが、レストランから漏れている『美味しそうな匂い』に抗えず(我慢できず)、インキュバスはそれを止めようとして間に合わなかった様子。
新聞にルシベルやその側近についての情報がしっかり記載されていた事もあり、城下町の人々は興味津々で二人を取り囲んだ。
もちろん、まだ怪訝な顔をする(警戒している)人もいるが、村では既に魔族と人間の共存が実証されている事もあり、ウズメの言葉を疑う人間はいなかった。
ワーウルフは、当然のように耳と尻尾を触られているが、村の時と比べると、だいぶ表情が落ち着いているように(焦っていないように)見える。
インキュバスは、持ち前の美貌で女性陣からモッテモテ。
困り顔をしつつ、2人も城下町を楽しんでいる様子に、ルシベルもウズメも、満足した表情になる。
「まだ時間はかかりそうだけど、城下町にも、魔族が住めるようになったらいいね。」
「じゃあ、僕たちが年に何度か、城下町へ泊まりに来よう。
そうすれば、魔族との生活が、自然と人々の間で浸透すると思う。」
「成程、ちょっとした『旅行』みたいな感じで来ればいいのか。
___というより、ルシベルにも、ちゃんと『城』があるじゃない。そっちに帰らないと!!」
「_______あっ、忘れてた・・・・・
うーん、でもどうしようかなぁ・・・・・カミノー村での生活も楽しかったし・・・」
「でも『魔族の長』が、城を持たない・・・っていうのも・・・・・」
「___じゃあ、もういっその事、村を城の近くまで大きくしてみる・・・とか?
うーん・・・ちょっと無理があるかなぁ・・・・・」
「さすがに無理すぎるって。」
「もしくは、村自体をお引越し・・・は、村の皆が嫌がるよね。」
「『大通り』を作ればいいと思う。そうすれば、お城に住んでいても、すぐ村へ来れるよ。
というか、城の復興は進んでるの? 私たち、結構派手に壊しまくったから・・・・・」
「_____そっちもしなくちゃいけないね。」
「手伝いに行くよ。
___貴方のお父様が、安心して私たちを見守れるように、花の一輪でも供えたいから。」
ウズメは村を出発する前まで、ヒスイやミラも同行させたかったが、当の本人たちは、意地でも村から出たがらなかった(断固拒否)。
二人にとっては、城下町の路地裏で生活していた子供たちと同様、良い思い出が無いから。
断られる事を前提に聞いてみたウズメだったが、二人は拒否の言葉に付け加えて・・・
「あれ買ってきて」「これが欲しいんですけど、お金はこれで足りる筈・・・」
___と、ウズメに『買い物リスト』とお金を渡し、彼女にお使いを任せる始末。
これにはウズメも苦笑いをしてしまったが、二人が欲しい物は、陛下との話し合いが進んでいる間に、兵士数名に頼んで買ってもらった。
自分の意地はしっかり通すものの、欲望には逆らえない(欲しい物を手に入れたい)気持ちもしっかり貫く二人の姿勢は、『色々な意味で』二人の強さを表していた。
___ある意味『ウズメそっくり』
ソラ・オロチ・リーフ達も誘ったのだが、皆口を揃えて
「村のでの生活で、今は十分満足しているから行かない」
と言って、また一層、人の往来が多くなった(忙しくなった)村で、今も各々頑張っている。
ソラの診療所は、怪我だけではなく、相変わらず『美』を求める人で賑わっている。
城下町では、既にソラの力(綺麗な肌)を求める人々で、旅行団体が結成されていた。
国王との面談が終わった後、ウズメに話しかけてきた貴族の女性集団も、「そのスライムをここに連れて来れないかしら?」と、口々に聞いてきた。
ウズメが首を横に振っても、「じゃあやっぱり、自ら出向くしかないのかしら・・・?」と、まるで『出歩くのを渋る老人』のような顔の貴族女性たちに、ウズメは呆れた。
[貴女達の『美』に対する意識なんて、『所詮』はそんなものでしょうよ]と、心の中でぼやき。
村に来てでも(苦労してでも)傷とオサラバしたい旅人の方が、よっぽど自分を大切にしている。
それに、ソラは、只今彼氏と絶賛良好中。
わざわざ城下町まで行ってデートなんて、する必要を感じさせないくらいの相思相愛っぷり。
二人の『今後(結婚式)』を、村全体で祝福する為にも、今は村でのんびり過ごしてもらいたいのが、ウズメの本心。
『魔族と人間の結婚』は、ルシベルの父親の時代でも類を見なかった為、多少難航気味ではあるが、ウズメも含めて、皆そこまで心配していない。
魔族と人間が手を取り合えるのなら、更にその先も、難なく突破できる事を、皆が信じている。
「お城で出される料理も美味しいけど、そろそろオロチ君の作ったご飯が食べたいね。」
「私も思った、美味しいんだけどねぇ・・・」
騒動で村に来た兵士にも、オロチの料理は大好評。その美味しさは、城下町への帰還を渋らせる程。
報告の為に渋々帰還した兵士が、城下町で宣伝する事で、更に村へ観光客が来てくれる。
彼のおかげで、村では手に入らない調味料や食材が、村の全員に行き渡る日も近い。
村で生産・狩猟される食材も、その影響で売りあげ上々。
ウズメが引き籠っている間にも、彼女の気持ちを少しでも軽くさせる(癒す)為、『デザート』の研究に勤しんでいたオロチ。
初めて知る『甘い』という感覚も、あっという間にオロチを虜にしてしまう(夢中にさせた)。
そして、ウズメが城下町で頑張っている(国王と話し合っている)間、宿では『昼間の営業(喫茶店)』も始まっている。
これは、オロチからデザートの作り方を学んだ主婦や子供たちが、自分たちの腕前を試す場所でもあり、疲れた旅人や村人を甘味で癒す休憩場所。
その影響もあって、リーフ達の演奏は、昼夜を問わず、村の何処に居ても聞こえるようになった。
彼女たちの頑張りは、『旅の音楽家』にも影響を与え、舞台上で演奏するのは、リーフ達だけではなくなった。
宿の舞台上は、基本的に誰でも出入り自由なのは(上ってもいいのは)、昔から変わらない。
だが最近になって、演奏を試みようとする(自らの演奏も披露しようとする)宿泊客が現れるように。
最近のカミノー村では、『異種族による音楽対決』が流行り、ウズメの舞がなくても、宿泊客が減ることはなかった。
楽器の音色がが一気に増えた事で、村はまた一層賑やかになり、カミノー村を取り囲む森は、『奏でる森』という別名がつけられた。
綺麗な音色なら、森に棲む動物たちも文句は言わない様子で、昼間のリーフ達は森の動物に、演奏の感想を聞きに行っている。
「___僕はまた、君にお礼を言わなくちゃいけないね。
忘れかけていた僕の記憶(前世)を、思い出すきっかけをくれたのだから。」
「わ、私は何もしてないんですけど・・・・・
___でも、私も嬉しいです。『転生仲間』に巡り会えて。
というか、私って今年、『転生直後の年齢』なるんだった。
いつの間にか大人になっちゃったけど、とても充実した未成年時代だったなぁ。
___いい思い出だけとは限らないけどね。
「僕なんて、もう『何百年』も生きているから、そんな気持ちになれるウズメさんが、正直羨ましい。
魔族の時間感覚って、本当に長すぎて、油断すると記憶を落としそうになるんだ。
でも君のおかげで、『生きる糧』を見つけられた気がする。
数百年生きている自分が、唯一行けなかた王都に、こうして足を踏み入れる事ができたんだ。
これから、もっともっと色んな人と関わっていきたい。自分の過去(前世)を忘れない為にも。」
「そうね、村はもう、私が舞台で踊らなくても(観光客を集めなくても)十分やっていけそうだから。
私も前世の後悔と心残りを、この世界でどんどん解消していく。
まずは・・・何をしようかな・・・・・もう20歳になったわけだし、お酒・・・とか??」
「_______大人になればできるようになる事って、まだ色々あるよね。
コレとか。」




