第十二章(8) 終わり良ければ・・・
「___その反応から察するに、ウズメさんの時代になっても(月日が経っても)、『僕達』が必死に
なって生きていた時代の記録は、残り(生き)続けているんだね。」
「当たり前じゃないの・・・!!!
というか、覚えて残す事が、貴方たちが生きた証であって、戒めでもあるんだから!!!
_____って、かっこつけて言ったけどさ・・・・・
__________」
「___ウズメさん??」
ウズメは、言いきれない気持ちのまま、倒れているルシベルを引っ張り上げて、部屋の椅子に座る。
そして、テーブルの上に放置されている、飲み干すのを忘れていた紅茶を飲み干し、なるべく言葉を選びながら(慎重に)話を続けた。
「_____ごめんなさい。」
「な、何が・・・ですか?」
「いや、私が直接悪い事をしたわけではないよ。
それでもやっぱり、まだ世界各地で争い(戦争・紛争)が起きている責任は、『生きている人間全
員』にあると思う。
平和な時代を守る事、その為に、過去に起きた凄惨な事実を、しっかり後世に伝えていく。
それが、貴方達の努力(命)を無駄にしない、それが未来を生きる私たちにできる『労いの形』」
「___そうか、じゃあ僕たちの犠牲は、決して無駄ではなかったんだね。」
「当たり前じゃない!!」
ウズメ(舞)が、『平和になった日本』で、何の変哲もない毎日を過ごしていた頃。
連日報道されていたニュースを、[ふーん]程度にしか思わなかった(気にも留めなかった)自分。
しかし、テレビで報道されている『他国の戦場』は、かつて自分たちが生きていた日本でも起きていた事実。
それは、小学校の社会の授業で散々学んでいた。
小・中・高と、学生時代の授業で、この時代が説明されなかった事はない。
戦争を体験した老人の話や、視聴覚室で戦争のドキュメンタリーを見聞きして、感想文を書く。
実際に戦争の爪痕が深かった地域では、歴史の資料館に、もっともっと詳しい資料が残されている。
それらの授業を経て、未来を生きる子ども達に、今の平和な時代がいかに尊く、大切なものなのかを
実感してもらう。それも授業の意図。
だが、少し向ける視点を変える(ニュースを見る)だけで、その凄惨な歴史が、まだ終わっていない(日本以外の場所で起きている)現状を突きつけられる。
ウズメ自身、その他国と何か関わりがあるわけでもなければ、その土地の言語すら知らない。
それでも、『同じ人間』というだけでも、罪悪感を少なからず感じてしまうのだ。
「_____そっか、未来でも、戦争はなくならないんだね。」
「うん、詳しいことは、あんまりよく分からない・・・というか、そもそも理解できなかったけど。
でも、時代が進んで、科学が進化していくと、戦争もより恐ろしくなっていくのは感じてる。
結局、どうすれば戦争を止められるのか、どうすれば争わない道を、一緒に歩むことができるのかは
誰にも分からない。
でも・・・・・それでも・・・・・
争いたいなら、争いたい者同士だけでやってほしい。
何の関係もない人を巻き込まないでほしい。
私が考えているのは、そればっかり。」
「あははっ!
出会った時から思ってたけど、ウズメさんって、『相手の気持ちを代弁する』のが上手いよね!
私の考えている事をスッパリ(躊躇なく)言ってくれて、急に心が軽くなったよ!」
大笑いするルシベルを見て、少しだけ安堵したウズメ。
だが、自分と同じ思いを抱えていた彼を思うと、ますます申し訳ない気持ちが加速する。
彼は笑っていたが、実際に巻き込まれた(被害を受けた)側からすれば、たまったものではない筈。
それなのに、彼はどうして笑い飛ばせるのか、驚きを通り越して、不思議に思ったウズメ。
「そう、僕の周りにいた人だって、同じ考えだった(言いたい事が沢山あった)筈なんだ。
それでもやっぱり、『お国』の意思には逆らえない、『お国』の意思は絶対。
___ただ、その『お国』っていうのが、結局のところ、赤の他人でしかなかったんだよね。
でも、やっぱり怖かった。
逆らえば、自分だけではなく、自分の周りにいる人間にも、被害があるかもしれない。
だから無理をしてでも、自分の気持ちをが言えなかった、心にもない言葉を言うしかなかった。
僕にとっては、『空腹』や『貧困』より、そっちの方が辛かったんだ。
言いたくもない、やりたくもない事なのに、自分の気持ちを押し殺し続けて、明らかに人道に反する
事でも正しくなってしまう。
誰もがおかしい気持ちを抱かずにはいられない、でもそれを誰も口にできない。
『命を大切にする事』の、何が罪になるんだ・・・!!!」
ルシベルは、ウズメに吐き続ける(打ち明ける)。
今までずっと胸に封印されてきた、前世でのあらゆる愚痴の数々。前世では言えなかった気持ちを。
笑えるような内容もあれば、彼自身も疑いたくなるような話まで。
騒ぎを聞きつけた、城の執事やメイドが、ちょっぴり開いているドア越しに2人の話を聞いていた。
だが、話の内容が分からないのか、すぐ立ち去ってしまう。
ウズメも正直、話の全てが理解できているか自信はなかった。
それでも、ルシベルの気持ちは、目が熱くなるほど(涙が出そうなほど)理解できる。
言いたいことも言えない、やりたい事もできない。
しかもその理由が、『たった一部の人間の押し付けた決まり』によって。
そんな状況下を生き抜いた自分達の祖先が、一体どれだけ逞しい心身だったのか、身震いする(恐怖を覚える)ほど感じたウズメ。
「___でも、僕にとって、何よりも辛かったのは
『外国人の知り合いがいる』っていうだけで、皆から煙たがられた事・・・かな。
僕のお父さんの仕事は、転生してからようやく分かったんだ(幼い頃は分からなかった)。
お父さんは多分、『通訳者』だったと思うんだ。」
「あぁ、それで・・・・・」
「うん、お父さんは、とにかく色んな国の言葉が話せたんだ。
だから僕がまだ小さい頃は、『金髪の人』や、『肌の色が濃い人』が遊びに来ても、町中で盛大にお
迎えしていたんだ。
家に遊びに来る外国人の人が皆、僕を「キュート」「キュート」って言ってくれてたから、僕一時
期、『自分の名前』を「キュート」だと思い込んでた頃もあったよ。」
「___で、貴方がこの世界に転生する前は、何て名前だったの?
あ、ちなみに私の前世での名前は 草凪 舞だったよ。」
「えーっと・・・・・確か・・・
高岡 栄太郎
___だったかな?」
2人は、机の上にある紙とペンで、互いにうろ覚えになりつつある、前世の名前を書き留めた。
久しぶりに前世の名前を書いた2人は、互いの名前を見つめながら、この世界に転生する前(ウズメ・ルシベルになる前)を思い出していた。
「___いつ頃からだったかな、僕たち一家を見る目が変わってしまったのは(冷たくなったのは)。
学校では、僕の机と椅子だけ無くなって。授業さえまともに受けられない。
町では
「非国民は日本から出て行け!!!」
って、石を投げられた時は、すごくすごく悲しかった。
お父さんは仕事を辞めさせられて、町で働こうとしたんだけど、どこも雇ってくれなかった。
地主さんからも見放されて、家を追い出されて・・・・・
僕たちが身を寄せたのは、『橋の下』だったんだけど、食べる物が何もなくて・・」
ウズメはその話を聞くまで、ルシベルの前世の死因は、『空襲による焼死』と思っていた。
だが、彼女が思っている以上に、ルシベルの過去は、あまりにも理不尽なものであった。
ただ父親が外国と関わりがあるだけで、後ろ指を指され、同じ人間として接してもらえず・・・
ルシベル・・・基、栄太郎の一家の命を奪ったのは、戦闘機でもない、兵器でもない。
一家の住んでいた町の住民が、間接的に栄太郎一家の命を奪ったのだ。
それが果たして、何が目的だったのか、どうしてそんな事をしたのか、それは単純。
『外国と関わりがあるから』、ただそれだけの理由で、栄太郎の一家は破滅した。
それ自体も恐ろしいのだが、その出来事が『過去だけの話』とも限らないのが、ウズメの胸の悪さを更に加速させる。
戦争が終わって、時代が何代も移り変わっても、そんな差別が、まだ日本のあちこちに残っている。
どんな形であろうとも、悪い風習は、意地汚い(しつこい)くらい、人間の生活から離れてくれない。
それが、今も昔も変わらない、人間の愚かさを象徴していた。
「_____私もね、同じような経験をしたの。」
「えっ? ウズメさ・・・・・舞さんも、外国人の知り合いがいるの?」
「いやいや、いないんだけどさ。
___本当、人って何年時が経っても変わらないよ。それが良い事ならまだしも・・・・・
私が働いていた場所(会社)でもね、偉い人(上司)によく言われてた。
「田舎で生まれ育った輩は、都会の苦労を知らない生意気な奴ら」とか
「まだ社会の荒波を知らない若人が、ピーピー弱音を吐くんじゃない!!」とかね。
貴方の身に降りかかった不幸と、私の不幸なんて、比べものにならないんだけどね。
でも、そんな人間がまだまだ未来には蔓延っているのを考えると、もう・・・自分が情けなくて。」
落ち込んでいるウズメに対し、ルシベルは優しく背中を撫でながら、彼女を慰めた。
「それは・・・・・仕方ない事だと、僕は思うよ。
戦争が起きる前から、『そうゆう事を言う人』って、普通にいたから。
ただ僕の生きていた時代は、そんな人間が多かった(増えた)・・・っていうだけだよ。」
「うーん・・・・・なんか栄太郎君の死因を聞いた後だと、私がこの世界に来たきっかけ(前世の死因)
が、しょぼく見えちゃうよ・・・
上司と揉み合いになった挙句、足を滑らせて転落死・・・なんて、今考えたら笑い話じゃん。」
「どうして喧嘩したの?」
「朝も昼も夜も関係なく、ずーっと机の前に座らされていた生活から抜け出そうとした結果だよ。
日本には、もっと色々な仕事が沢山あったのに、先走っちゃった私は、変な場所(会社)に押し込め
られちゃったの。」




