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第十二章(3) 終わり良ければ・・・

 せっかく、数年ぶりに戦友と再会を果たしたウズメ。

だが、目覚めたウズメは、また部屋(自分の殻)に引きこもってしまう。

 キュードゥーがあれこれと声をかけた(フォローした)ものの、彼1人の励ましでは、彼女の後悔を癒すことはできなかった。


 ウズメが引きこもってしまった理由としては、ツルキーの負傷と、彼に全ての責任を負わせて(人殺しをさせて)しまったのも要因。

 ツルキーは、勇者一行の一員でもなければ、コーコンと関わり合いがあったわけでもない。

村に来る前から、人々の為に奮闘してきた、立派な世間の貢献者であるツルキー。


 今回の一件で、そんな彼の誉高い一生に、『決して取れることのない泥(罪)』がついてしまった。

それがウズメにとって、自分自身を許せない(納得できない)結末となったのだ。


 ウズメは勇者一行の一員になった時から、どんな汚名も罪も、受け入れる覚悟で戦っていた。

だから今回の一件も、何があっても自分一人で全ての罪と責任を背負う覚悟があった。

 しかし、その汚れ役を、コーコンとは全く無関係だったツルキーが被ってしまう。




 しかし、彼女が部屋に籠っている最中も、コーコンの一件は、国全体で大騒ぎになっていた。

___が、彼の先立ちを悲しむ人間はあまりおらず。

 むしろ村や町に住む(コーコンの標的になりやすい)人々は、急に来訪する殺人鬼がいなくなった(落ち着いた)生活ができる事に安堵している。


 村で暮らすウズメたちは知る術もないが、城下町では、コーコンの死が賛否両論で分かれていた。

「無関係な人々の命を奪った罪は重い」「勇者とはいえ、この強行は許されない」


 という言葉と

「こんな結末になる前に、何か対策が打てたのではないか」

「苦肉の策だったとはいえ、人殺し(ツルキーの行い)が許されてはいけない」


 という、『第三者同士の討論』が行われていたが、この討論に参加しているのは、あくまで貴族や王族(本当の意味で傍観者)。

 あちこちの村や町に行く機会のある一般市民からすれば、『再び現れた旅先の脅威』から解放された事は、嬉しくないわけがない。


 コーコンの行いに頭を抱えていた、国一番のお偉いさん(国王)としても、『事故・正当防衛』という形で、コーコンという『大きな問題』から解放された。

 彼ら(上)にとっては、ある意味『棚からぼたもち』

だからツルキーに対する処罰自体も、異例なくらい軽かった。


 ___それでも、やはりウズメにとって、そんな情報を与えられても、それが彼女自身への慰め(立ち直るきっかけ)にはならなかった。

 ツルキーに対しても、コーコンに対しても、やりきれない気持ちは日増しに増していくばかり。


 一行に加入している(勇者の右腕だった)頃から、コーコンの行いにはうんざりしていたウズメ。

それでも、『かつての仲間』、多少の情はあった(失いたくなかった)。


 彼を止める方法があったかどうかは、もう考える必要(意味)もない。

それでも、『主犯が命を経って迷宮入り』という結末は、誰も納得できない終わり方。

 にも関わらず、皆がこの一件を終わらせようとしているのは、『終わり良ければ全て良し』の精神。


 だが、その代償と言わんばかりに、ツルキーがその罪を全部背負ってしまった。

ウズメは、その責任を取れなかった悔しさと、第三者にその罪を背負わせてしまった後悔から、なかなか抜け出せずにいた(部屋から出られなかった)。


 ところが、『平和慣れしてしまった自分』を責めるのも、何かおかしい気がしたウズメ。

何故なら、平和にどっぷり浸かっている毎日の為に戦って来たのは、他でもないウズメ自身。

 そんな激動の人生を否定する・・・という事は、ヒスイやミラの頑張りも否定する事になる。




 部屋の中で、ただ自分を責め立てているウズメの元には、毎日いろんな村人がお見舞いに来た(部屋の前でウズメに声をかける)。

 色々と大事件(コーコンの乱入)はあったものの、どうにか良い方向に向かいそうなのに、その『立役者(主役)』がそんな調子では、喜びたくても喜べない。


 ウズメからの返答はないものの、村人たちは、とにかく自分たちの近況を語りながら、色んな相手との関わり(日々の楽しみ)をウズメに伝える。

 そんな皆の会話(日常)を聞いていたウズメは、自分が塞ぎ込んでも(動けなくても)、村は相変わらず穏やかな様子に、安心して心身を休められた(話を聞いていられた)。


「また村に貴族が来て、オロチの料理か、ミラの舞台か、リーフ達の演奏が目当てだと思ってたの。

 そしたら、まさかの目的が『私』だったの。

 ___というより、『私が作ったウズメの衣装』だった。


 あんたが出てこれない間は、飾って展示してたんだけど、お嬢様の1人が

「買い取りたい!!!」

 とか言ってきた時には、さすがに焦ったわよ。


 ___で、どうにか丁重に断ったら、今度は

「じゃあ私のドレスを作って!!! お金はいくらでも払うから!!!」

 なんて言ってきたから、暫くはソレをどうにか対処しないと(ドレスを作らないと)・・・・・」


 ヒスイはウズメの部屋の前に来ては、作成しているドレスの進捗状況を伝えていた。


「ウズメさん、私の作った舞台。今も沢山の人が使って(踊って)くれてるんですよ。

 だから最近、あの舞台の上に、『宿 第二号』を建設する計画を立ててるみたいです。

 オーナーに関しては、『渋々』ではあるんですけど、オロチさんになる予定みたいです。


 オロチさん、最初は反対していた・・・というより、『別の人を推薦』していたんです。

 でも、宿の主人が頑張って説得した事もあって、宿の第二号の建設計画が、近々本格的に行われるん

 ですよ。」


 ソラの話がすごく気になったものの、まだ今の彼女には、協力できる気力が戻っていない。

だから、宿の二号がどんな形になろうと、何を要望されようとも、受け止める決心だけはしていた。


「ウズメさん、本当に体調が悪くなったら、ドア越しでもいいから相談してくださいね。

 ___実は私、この村の『医師』として、家をちゃんとした『病院』にするんです。


 お師匠はそのまま引退して、此処で隠居生活をするみたいなので、私はお師匠の体調も逐一確認しな

 がら、これからも村の皆の生活を支えるつもりです。


 お城から来た兵士さん達は

「城下町で働いた方が儲かるんじゃないのか?」

 って言ってたんですけど、この村で働くからこそ、私は私でいられるような気がするので、丁重に断

 っておきました。」


 ソラはドア越しでも、ウズメの『メンタルケア』に勤めた。

引き籠ってから一週間も経てば、もうウズメも、一言二言なら会話をするようになる。

 『相槌だけ』でも、返事をしてくれるだけで、ソラにとってはもう十分(診察になっている)。


「ウズメさん、弟たちも心配してるよ。

 実は昨日さ、私たち初めて、『人間が製作した』楽器を買っちゃったの。

 見た目はそこまで変わりないんだけど、細かい部分が色々違っていて、見てるだけで飽きない。


 なんか子供たちのなかに、

「将来リーフさん達みたいな音楽家になりたい!!」

 って言う子がね、親に楽器をせがんでいるみたいなんだけど、楽器ってだいぶ高いでしょ?


 ___私たちエルフは、『楽器を製作する技術』も持ち合わせているから、ダメ元で教えてみようか

 なー・・・なんて、弟たちと話し合ってるんだ。」


 リーフ達は、子供に『楽器の弾き方』を教えつつ、『作り方』まで教える。

___だが、やはり自分たちで演奏もしたいのか、ウズメがお休み中でも(舞台に立てなくても)、毎晩一階のホールでは、彼女達の演奏が響いていた。


 そして、絶えず足を運んでくれる人や魔族が、ウズメの回復を祈る言葉を、リーフ達を通じてウズメに届けていた。

 ウズメの踊り(村の目玉)がなくても宿は営業できるものの、やはり彼女の舞を見に来たお客様に、申し訳ない気持ちになっているリーフ達だが、それはウズメも同じだった。


「ウズメ、今日はちょっと味付けが面白いんだ。

 食べ終わった食器を取りに来た時にでもいい、感想を聞かせてくれ。


 なんたって城下町からわざわざ取り寄せた品だ、そうそう味わえるものじゃない

 『ソラの彼氏』には感謝している。


 最近、俺もようやく、『美味しいの感覚(人間の好み)』が分かってきた気がする。

 気づいていない(見ていない)と思うが、近頃は宿の主人のチェックがなくても、客に料理を出せる

 ようになったんだ。


 だから今度は、女将から『モリツケカタ(盛り付け方)』っていう技術を教わっている。

 料理をただ作って出すよりも、なんか楽しかった。難しいけれど、全く飽きない(奥が深い)。

 城下町にいる彼ら(ツルキー達)が戻って来たら、もっともっと美味いものを作る。」


 オロチがそんな事を(食べる前から)言わなくても、ウズメには分かる。

毎日、少しずつ変化しているオロチの食事が、外を拒否するウズメを、『体の中』から癒してくれた。

 だから、ほんのちょっとの違いでも、ウズメの脳が感じ取る(違いを見つける)。




 そして、ウズメの部屋の前まで来てくれたのは、彼女の知人(村の住民)だけではない。

ウズメも『聞き覚えのない声』に驚いていたが、話の内容を聞いて、すぐ相手が誰なのかを理解した。


「ウズメ・・・って名前だよな。

 『あの時(舞台上)』では、名前を聞けなかったから、村の人間から教えてもらった。」


「その声・・・は・・・・・ワーウルフさん?」


 ウズメが少しだけ、ドアを開けて廊下の様子を伺うと、ワーウルフは尻尾と耳をダランと垂らし、体育座りをしていた(小さく座っていた)。

 舞台上で共に踊っていた時とは全く違った様子のワーウルフに、さすがにウズメも焦った。


「俺は、魔王の側近として、ルシベル様の側近として、何もかも駄目な魔族だった。

 あの時、俺はルシベル様を庇うどころか、動く事すらできなかった。

 こんな俺なんて・・・・・ルシベル様の側に居ていいわけない。」


「そんな・・・・・私の方こそごめんなさい。

 せっかくの記念すべき瞬間を、『同族』が邪魔してしまって・・・


 そういえば、一緒にいたインキュバスさんは?」


「ルシベル様と共にいる。」




 そして、最近村に移住してきた、『小さくて可愛い新入り』も・・・・・


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。キュードゥーがね、寂しがってるよ。」


「うん、キュードゥーね、


「早く君たちに紹介したいけど、本人が出て来ないんじゃ仕方ない。」


 ってさ。あんなに落ち込んでるキュードゥー見たの、初めて。」


「お姉ちゃんってさ、キュードゥーの『彼女』?? それとも『親戚』・・・とか??」


 聞き覚えのない、無邪気で純粋な子供たちの声。

その声を聞きつけた『孤児院のキュードゥー』が、凄まじい速さで子供達を回収(連れ出す)。

 その一覧の流れをドア越しで聞いていたウズメは、布団の中で笑ってしまった。


 そして、一階から聞こえてきた、子供たちを説得するキュードゥーの声。

___どうやら彼の引き取った子供たちは、『キュードゥーとウズメが喧嘩をしている』と思い込んでいる様子。


 人間と魔族との関係がまだギスギスだった(互いの理解がなかった)時代の話をしても、子供たちにとっては、もはや『遠い過去の話』

 どうやって説明したらいいか分からず、困り果てているキュードゥーの声を聞き、放っておく事ができなかったウズメは、仕方なく子供達を部屋の前まで連れて来る。


 そして、子供たちの前で彼女は、とにかく語り続けた。今の平和がいかに尊いのか、大切なのかを。

ほんの少し前まで、国の未来をかけた戦いに、自分とキュードゥーが命をかけていた事。


 ___そして、全てが終わった後で、また新たな問題が発生していた事も、人間と魔族の関係が変わりつつある事も。

 魔族に関して、まだまだ分からない事は沢山あるが、全員が人間に対して敵意を持っていない事を。


「ね、だから、もうこれ以上、キュードゥーをいじめちゃダメ。

 キュードゥーもね、色々と辛いんだよ。」


「___じゃあ、どうしてキュードゥーは、私たちを育てているの?

 自分も辛いのに・・・・・」 


 1人の少女が、不安そうな顔でキュードゥーを見つめる。

城下町の端の端でたくましく育った(必死に生きてきた)彼女たちは、まだ子供にも関わらず、大好きな相手には無理をしてほしくない気持ちを持っている。


 だが、キュードゥーとの生活(暖かい日々)を手放したくない気持ちも同伴している(無視できない)為、複雑な表情になっているのだ。

 そんな彼女の気持ちを感じ取ったキュードゥーは、笑いながら女の子の頭を撫でながら答える。


「君たちを育てている事なんて、あの命懸けの日々に比べたら、苦でも何でもないよ。

 ___むしろ僕は、君たちを育てる事で、自分を成長させているんだ。

 だからまだまだ俺も、君たちに迷惑をかけたりしてるんだけどね。」


「あらら、すっかり『立派な父親』になっちゃって・・・・・

 でも、子供たちがこの村を気に入ってくれて、本当に良かった。

 私も、努力した甲斐があったよ・・・・・」

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