第十二章(7) 終わり良ければ・・・
「はい?」
突然、深刻な表情になり、ウズメに向き合うルシベル。
ウズメが「どうしたの?」と言うより先に、彼はウズメの両肩を掴んで、ジッと彼女の瞳を見つめながら、真剣な面持ちで語り始めた。
その内容は、ウズメにとって、ある意味『願ったり叶ったり』な内容。
「ウズメさん、君なら全てを打ち明けられそうなんだ。
私が今まで、側近にも語れなかった事だけれど、君なら信じてくれそうなんだ。
確証がなくても、何故かそう思える。」
「え? え? え?」
「実は私は・・・・・
『前世は別の世界で人間だった』」
「__________それって・・・つまり・・・
『転生』って事ぉ?!!」
ウズメの大声は城中に響き、草むしりをしていた庭師は、びっくりして真上を見た。
しかし、ウズメの声を聞いても、その言葉の意味が分かる筈もなく、周囲は『ウズメがただ叫んだだけ』と思っている。
ルシベルはというと、『転生』という言葉自体は分からないものの、彼女が自分の身に起きたこと(話)を信じている様子に、喜びを隠せない。
ようやく、自分の話を疑わず、信じてくれた人がいた。理解してくれた人がいた。
その喜びは、ルシベルの生涯で、一番のもの。
ただ、ウズメが『転生』という言葉に、どうしてここまで驚愕しているのかが分からない。
確かに珍しい事ではなる、簡単には信じられない(冗談にしか思ない)程に。
ただ、それにしては、彼女の驚き方が、ルシベルの想像を遥かに超えていた。
そんなルシベルの疑問を解決した彼女の言葉(真実)もまた、ルシベルを驚愕させる。
「まさか・・・・・ここに来て『転生仲間』に出会えるなんて・・・」
「『仲間』・・・・・って事はっ?!!」
「そう、私も貴方と同じ。
元は別の世界で生きていたけど、死んでこっちの世界で生まれ変わったの。」
ルシベルは、目を見開きながら、腰を抜かした。
話始めたのはルシベルからだったが、逆に自分が驚かされる流れに、どうすればいいか分からない。
ルシベルにとっても、まさか転生仲間がいるとは思わなかった。
彼はしばらくの間、自分と同じような体験をした魔族がいないか、個人的に調査した事もあるのだが、結果は彼の思っていた通り(仲間は見つけられず)・・・・・
そして、いつの間にか、ルシベルは仲間探しを諦めていた。
それは、いつまで経っても仲間を見つけられない諦めもあるが、周囲のゴタゴタ(魔族による被害)が深刻になってきた為、探す暇さえなかったから。
自分が王座に就いてからは、もうすっかり頭になかった『仲間探し』を、どうしてこのタイミング(ウズメと出会った事)で思い出したのか。
それすら、ウズメの言葉が答えに導いてくれた。
それは、理屈ではない、『見えない糸(感覚)』のようなものが、ルシベルの記憶の断片を引っ張り出した。
記憶の断片は、ウズメと関わる事で日に日に育っていき、いつの間にか彼にとって、『呼び起された(かつて諦めた)希望』となる。
そんな希望を胸に、勇気を振り絞って発言(告白)した結果、ずっとずっと待ち望んでいた転生仲間に、ようやく会えた。
そこまでの道のりは本当に長く、険しいものだったが、ルシベルにとっては、『枯れた木が青々と蘇る』ような気分になった。
そして、ようやく仲間を見つけられて喜んでいたのは、ルシベルだけではない。
この世界に転生して、もうすぐ20年が経とうとしている(20歳になる)ウズメにとっても、初めて見つけた転生仲間。
ただ彼女の場合、ルシベルとは違い、『転生仲間を探そうともしなかった』
その理由もまた、ルシベルと似たり寄ったり。
魔族との戦いが苛烈になり、勇者一行の一員として戦い始めてからは、もうそんな事を考える余裕すらなくなっていた。
その上、彼女は前世の終盤で『大きな失態をやらかした』
だから、こちらの世界では、とにかくヘマをしないように必死で、『わざわざ自分から距離を置かれるような行為』は避けたかった。
普通に考えて(前世の世界も含め)
「ねぇ、貴方、『自分の前世』を覚えてない?」
「この世界に生まれる前の自分は何だったか、考えた事はない?」
「『転生』ってどう思う?」
なんて言っている人がいたら、間違いなく距離を置かれる(異常者扱いされる)から。
「わ、私・・・・・2024年の東京で亡くなったんですけど・・・」
「に、2024年?! 私よりも『100年以上後』なのか!!」
「えぇええ?!!」
「___でも、よく考えてみれば、その時間差があるのも仕方ないか。
ウズメさんは『人間』で、自分は『魔族』 『寿命』に大きな差があるのだから。」
「でもその差がなかったら、私たちはこうして巡り会えなかった・・・・・
ある意味ラッキー・・・だったのかな??」
「あっはっは、確かにそうだね。
今まで魔族として生きてきた私が、[魔族で良かった!!]と思えるようになったのは、今日が初め
てかもしれない・・・!!」
「___で、ルシベルさ・・・ルシベルが前世で亡くなったのって、何年とか・・・覚えてる?
『100年前』っていう事は・・・・・・少なくとも、『私が生まれる前』」
「私がこの世界に転生した、つまり前世で私の命が潰えたのは、確か・・・・・
19・・・42・・・年
だった・・・と思う。
___すまない、記憶が曖昧すぎて・・・・・
転生してから、もう100年以上は過ぎているから・・・」
『100年前の記憶を思い出す』
そんな事、人間にできるわけがない。
データ化された情報なら、まだ引き出せる(分かる)のかもしれないが、そもそも100年なんて、人間として生きていられるか怪しい。
人間よりも長生きできる魔族にしか体感できない感覚に、若干興味が湧いたウズメ。
だが、頭を抱えて必死に思い出そうとするルシベルの姿に、そんな好奇心は一気に冷めた。
人間で例えるなら、老年になった人間が、生まれたばかりの自分の記憶を思い出そうとしている感覚と同じなのかもしれない。
それに、人間の倍以上も生きるのなら、その分『苦労』や『経験』も、人間では想像もつかない程の(膨大な)量になるのも仕方ない。
例えるなら、『乱雑に本が置かれている図書館で、目当ての本の一ページを探す』ようなもの。
ウズメは、そこまで返答を焦らせるつもりがなくても、ルシベルは必死に記憶を引っ搔き回していた。
彼自身、思い出すのがこんなに難しくなるなんて、思いもよらなかった様子。
みるみる青くなっていく彼の顔色に、ウズメが『脳の一時停止』を呼びかける。
「あ、あんまり無理しないでくださいね。ルシベルだって、喋り疲れてるんだから・・・」
「いや、確かに覚えている筈なんだ。でも長らく想い出してなかったから・・・
えーっと・・・確かその頃の私の年齢は・・・・・『10歳にも満たなかった』・・・かな??」
「_____1942年・・・・・
そう・・・・・そうか・・・」
ウズメはその年を聞いて、真っ先に思いついた事。それは
『第二次世界大戦(戦争)』




