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第二章(3) カミノー村

 カミノー村に初めて足を踏み入れたのは、まだ魔王の存在がはっきりせず(居場所を掴めず)、国中で起こる魔族騒ぎに奔走していた頃。

 その頃の勇者一行は、とにかく闇雲に魔族を倒しながら、僅かなヒント(情報)を集め、魔王の元へと向かおうとしていた。


 時にはヒントに翻弄され、骨折り損をする事も。

その春が終わりかけに入手した情報も、目的地を目指す道中、デマである事に気付いた。


 「魔王の根城らしき、大きな建物を見た!!」という証言だけを頼りに、『森』しかない周辺を歩き回っていた(探っていた)勇者一行。

 だが、そもそも『提供者が罠』だった。

それに気づいたのは、森の中に入った一行を監視する何者かの気配を、勇者が察知した時。


 いきなり真上から飛び降りてきたのは、複数人の『盗賊』

彼らは、冒険者をわざと『自分たちの狩場』に近づけ、獲物から持ち出せる物なら何でも持ち出す。

 

 ただ、勇者一行も、盗賊の対処には慣れていた。

何故なら勇者一行は、いかにも『盗賊に狙われやすい外見』をしているから。

 盗賊も、なるべく『お金を持ってそうな旅人』を狙わなければ、リスクの方が大きい。

だから、『荷物を多く持っている旅人』や、『奴隷を雇っている旅人』を狙っている。




 ただ今回は、いつもとは少し違い、『最初から相手が狙いを定めていた』

狙われたのは、一行の荷物の大半を持っているミラ。


 盗賊はまず、戦えるウズメ達と小競り合いをしつつ、油断した隙にミラから荷物を奪った。

荷物を奪った盗賊はそそくさと退散して、森の中に放置された、『無一文の』勇者一行。

 周囲には木々や草花しかなく、森に入った際のルートも、小競り合いですっかり忘れてしまった。


 この時点で、ウズメは嫌な予感はしていた。

だが、彼女が予感していたよりも先に、ミラの体が真横に飛んでいく。

 それと同時に響く、コーコンの怒声。



「お前のせいだぞ!!!」


 ドカッ!!!


「ごっ、ごめんなさい!!! ごめんなさい!!!」


 殴り飛ばされたミラは、そのまま大木に全身を打ち付け、今にも意識を失いそうだった。

だが、コーコンの怒りは、まだ治まらない。

 彼は顔面を茹蛸ゆでだこのように蒸発させ、ミラの小さな胸ぐらを掴みながら、まるで壊れたおもちゃを無理やり動かそうとする子供の様。

 力任せに振るっている為、ミラの顔は途端に真っ青(貧血気味)に。


 ウズメはその光景に呆然とするしかなかったが、『憤り』という名のマグマが噴火しそうになった。

そして、ミラに怒るコーコンも当然恐ろしいが、それを当然のように見つめている一行にも、殺気を覚える程。 


 ヒスイはというと、鈍い悲鳴をあげる幹の後ろで身を隠しながら、ガタガタと震えている。

なるべく機嫌の悪い(八つ当たり状態の)コーコンの視野に入らないようにする為。

 身を縮ませている姿は、いつものちょっと傲慢さが混じる彼女からは想像もつかない。


 ___だが、今回に至っては、ヒスイのその行動は正しい。

今の(我を忘れた)コーコンに口を出そうとすると、振り切れている怒りが更に増してしまう。

 それでもウズメは、ミラをこのまま見殺しにはできず、勇気を振り絞ってコーコンの肩を掴む。


「ちょ、ちょっと待って、コーコン・・・・・さん!!!

 まずは冷静になって、『今晩』を乗り切る方法を考えた方がいいですって!!!」


 今、ウズメの脳内を支配する『恐怖』は、『勇者に対する恐怖』ではない。

『ミラを見殺しにしてしまう恐怖』だった。

 しかし、そんなウズメの勇気を嘲笑うように、彼女の肩を魔術師が引っ張る。

___魔術師なりに彼女を心配しての行動だったが、ウズメは自分を止めに入った魔術師を睨みつける。


「___此処で奴隷の一人や二人死んだところで、盗賊に全て擦り付ければいいだろ、ウズメ。

 俺たちはコイツの油断のおかげで、城下町に戻れるかすら分からないんだぞ・・・!!!」


「で、でも・・・・・」


 ウズメは、魔術師が自分を心配している気持ちを無下にはできず、コーコンの肩を掴む手を離す。


 コーコンの気をこれ以上荒立てないよう、いつもよりも口調を荒くして彼女を説得する魔術師。

仲間の異変を察知したコーコンも、ようやくミラから離れてくれた(苛立ちを沈めた)。

 魔術師も魔術師で、コーコンの暴力を止めようと、最善を尽くしたのだ。

彼の発言は、決して大袈裟でもなければ、『もしもの話』でもない。


 コーコンの一言で、『付き人の虐待』も、簡単に『事故』になる。

その上、この国の常識として、雇い主が奴隷を殺害したところで、罪には問われない。

 周囲から冷たい視線を向けられはするが、雇い主が勇者ともなれば、その視線すらも相殺できる。


 勇者に絶大な信頼を寄せる人々は、彼の言葉を鵜呑みにする(決して疑わない)

ミラの怪我を誰かが疑ったとしても、


「転んだだけですよ。」「ぶつけただけですよ。」


 の一言で、全てが片付く(誰もが納得する)。


 労働力(奴隷)を売る商人に関しては、


「もっと丈夫で可愛い子を仕入れてますよ!」


 と、自らビジネスを持ちかける有様。


 ミラのように、まだ小さくて幼い(世間の闇を知らない)子供は、この不遇な待遇を無理やり受け入れるしか、生きる術はない。

 基本、一度奴隷(売り物)になってしまうと、そこから『普通』に成り上がるのは、『鯉』が『龍』になるより難しい。

 

 だからミラも、渋々雇いコーコンの暴力を受け続けるしかない。

奴隷の身分がどれだけ過酷なのかを知っているから、彼に反抗しようとも思わない。

 それが、『奴隷なりの賢い生き方』




「ウズメ、盗人は?」


「___あの様子じゃ、この森に随分詳しい。追う方が危険かもね。」 


 この絶望的な状況に、誰も何も言えない。コーコンも、ミラに暴力を振るう気も失せる程。

せめて、逃げた盗賊の足取りを追えば、自然と森の出口に辿り着ける。

 だが、現在時刻はもう日の光が弱くなる時間帯。追うにも追えない。


 森の静寂が、やけに冷たく、恐ろしい。恐ろしい対象が、コーコンから、いつの間にか森へ変わる。


 野営をしようにも、必要な荷物は全て奪われてしまった為、装備が不十分の状態で乗り切るしかない。

夜に奇襲を仕掛けてくる魔族も恐ろしいが、寒さ対策を怠って体調を崩すのも恐ろしい。


 その上、全員がこの森に入ったのは初めて。

何処が出口なのか分からない『木々の迷路』を、ただ闇雲に歩いても脱出できない。


 この森を十分把握した上での『計画的窃盗』に、ウズメは若干感心してしまう。

国の言いなりにはならない人間(盗賊)にとって、勇者一行は『ご馳走』のような存在。

 勇者一行の懐から盗める金品は、名も無き旅人よりも遥かに多い。

だから彼らは、あえて『自分たち(勇者一行)にしか』デマ情報を流さず、狙いを絞って金品を奪う。

 

「と、とりあえずこの周辺を探してみましょう。人家があるかもしれません。」


「で、でも地図にはそんな記載なんてなかった・・・」


 魔術士が、自らの懐から、『予備の地図』を抜き取る。

そして、紅の光(夕日)を頼りに、現在地の確認と、周辺に何があるのかを調べた。


 ___だが魔術士の言う通り、勇者一行が今留まっている場所の周りは、ほぼ緑色(森)


「_____これは、もうしばらく野宿で乗り切るしか・・・」


「そうね、食べ物や飲み物なら、その辺りを探せば見つかりそうだし。

 迷い込んだ場所が森だったのが、せめてもの救いかもね。」


 回復師が見つめる先には『野生動物の鳴き声』が、ウズメが見つめる先には『川のせせらぎ』が聞こえる、だから少なくとも、『飢え死に』の心配はない。


「___チッ!!!」


 だが、そんな二人の気遣いが、勇者には一切届いていない(聞こえていない)様子。

再び怒りが頂点に達したコーコンは、まだ息がちゃんと吸えていないミラの首を、再び鷲掴みに。

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