第十一章(1) 手を取り合う未来の為
「ミラちゃーん!! 黒(塗料)の追加を持ってきたよー!」
「ありがとうございまーす!!
___あ、ソラさん。こっちの角も、やすりで削って(丸くして)ほしいです。」
「こ、こんな所にも拘るんだね。流石・・・・・」
「私だと、ハシゴを使っても届きそうになりから、よろしくお願いします。
ソラさんはいいなぁ、高いところにも 手が届くから・・・・・
私、成長すればもっと背が伸びると思ってたのに、数年前(荷物持ち時代)と全く変わらない・・・」
「ミラさんはそのままで十分可愛いですよ。」
「『可愛い』って言われるのは嬉しいですけど、もうちょっと・・・こう・・・
ウズメさんやヒスイさんみたいな、『頼れるお姉さん』になりたいんです。」
「私から見たら、ミラさんは十分お姉さんだけどなぁ。
ほら、子供たちの面倒を見ているところとか・・・」
丘の上でひたすら木版に塗装を施す(色を塗る)ミラと、ひたすら木版の表面を滑らかにするソラ。
スライムの体には『骨』がない為、ソラは脚を『噴き出す噴水』のように伸ばして、削りつつ塗り残しがないかチェックする。
ソラは、描く場所が『紙』から『木版』になっても、その腕前が劣ることはない(絶好調)。
「そんなところ誰も見ないだろ」と言われそうな場所にも拘り、少しずつではあるが、「野外にダンスホールを作って」というウズメからの指示は、形になってきている。
だが、それが一番信じられない・・・というより、『無謀』と思っていたのは、製作者のミラ自身。
それでもウズメの後押しもあり(ウズメからのお願いを断れず)、とりあえず筆を進めてみると(作り始めると)、思っている以上に楽しくなった(つい熱が入ってしまった)。
勢いのまま、ミラは昼夜を問わず制作に没頭(舞台に入り浸る)。
そんなソラを見て、ミラに負けじと手を動かし、舞台周りの草むしりや、松明作りにも精が出る。
村の子供たちの協力もあり、『草の塊』にしか見えなった丘が、『若葉色の(綺麗な)大地』になる。
「二人ともー!! お昼ご飯持ってきたー!!」
「え?! わざわざ持って来てくれたんですか?!
ごめんなさい、つい塗るのに没頭しすぎて、お腹が空くのも忘れてました・・・」
「オロチさんも材木運びで大変なのに・・・・・お疲れ様です。
___あ!! オロチさん、ストップストップ!!
腕に出血が!!」
「あ、多分材木の角で掠ったのか。」
丘の上まで材木を運ぶのは、人間の男でもなかなか骨が折れる(手間と時間がかかる)作業。
オロチは村の男達に混じり汗を流し(木材を運び)、ちゃんと皆のお昼ご飯も作って持って行く。
その働きぶりに感動していたのは、村の男衆ではなく『女衆』
オロチの料理が美味しい事も一因だが、彼の顔立ちは、『村で一番の若人』と並ぶくらい整っている。
家事もできる、力仕事もできる。こんなにも頼もしい男性に惹かれない女はそうそういない。
種族の境界が薄いこの村では、『恋愛』も自由になりつつある。
だが当の本人はというと、女性の熱狂的な視線に関しては、まだ慣れていないのか、そんな心境を二人に打ち明ける。
「俺、女の『甲高い声』っていうのは、やはり慣れない。『ヤカンが沸騰した音』の方がマシだ。
___こんな事、2人以外には話せないがな。」
「まぁまぁ、気持ちはわかりますけど、『悲鳴』じゃないだけ良いじゃないですか。
私は、オロチさんが異性から注目される(人気な)理由、よく分かります。
___いっその事、『ソラさんと同じく』、人生のパートナーを見つけたら、そうゆう声が減るんじ
ゃないですか?」
「え・・・?!」
「そうか、その手があった。」
2人が[閃いた!!!]と言わんばかりの顔をしている隣で、顔を赤く染めるソラ。
もうソラの『恋愛事情』は、村を取り組んでの『一大ニュース』になりつつある。
邪魔はしないが、2人の関係が進展するのを、皆でにこやかに見守っている。
何故なら2人とも、とても良い子で、とてもお似合いだから。
「私、もういっその事、彼と一緒に住んでも構わない・・・とすら思いますよ。
だってあの人と話していると、時間が経つのも忘れちゃうくらい・・・・・」
「いいなぁ、二人とも、私は未だに、『そんな気持ちになれる相手』が見つかりません。
思い切って、『風景写生の修行』も兼ねて、『パートナー探しの旅』に出てみたいです。」
「___あぁ、そんな話を、『衣装係』も言っていたな。
だが、自分から考えておいて、「そんな未来が見えてこないからやめた」と言った時は、さすがに「何
だよそれ!」って言っちまった。」
「それは・・・ヒスイさんが悪いですね。
___まぁ、ヒスイさんが言っている言葉も、分かりますけどね。
私、ヒスイさんとは、かれこれ数年の付き合いですけど、ヒスイさんが旦那さんと仲睦まじく過ごし
ている(家庭を持った)光景って・・・・・想像できないんですよね。
ヒスイさんは、とにかく仕事一筋・・・というか、誰かに告白されたとしても、『本気にしない』と
思います。」
「そこまで想像できるのは、さすが二人の仲ですね。
_____なんか羨ましいかも。」
「貴女たちはこれからですよ!!」「貴女たちはこれからだ!!」
丘の上で、3人があれこれと語り合いながらも作業を進めている(舞台を作成する)間、村の方でも、『準備』が着々と進んでいた。
だがその輪(村)の中に、ツルキーの姿はない。
何故なら彼は、国王が住う城下町へ、今も全力で向かい続けている。
徒歩では数日はかかる距離でも、『ソラの彼氏』に頼み込んで、馬を使わせてもらえば、1日で城下町へ着ける。
___が、出発前のツルキーは、『着いた後』の事を考えていた。
「城下町へ行くのは別にいいんだよ。でもこの話を、どうやって国王陛下に届けるか・・・だよな。
何の突拍子もなく現れた男が、いきなり
「城下町に向かって、大量の魔族が押し寄せて来ます!!!」
って言ったところで、信じてくれるかなぁ・・・・・
まぁ、俺も全力で頑張るつもりではあるけど、援軍は・・・あんまり期待しないでくれ。」
そんなツルキーの考えもあって、当初は国王に協力を仰ぐべきか、自分たちだけの問題にするべきか、多少揉めた(決められなかった)ウズメ達。
ツルキーの意見も最もで、どうやって『真実の信憑性』を説けばいいのか、ツルキーはルシベルと協力しながら、何度も『リハーサル』を行った。
最悪、ウズメ達に疑いがかけられ、せっかく勇気を振り絞って村に来たルシベルが捕えられ、彼の努力が全て無駄になるかもしれない(最悪の結末を招くかもしれない)。
ただ、勝手に自分たちで事を進めて、後から「何故言わなかった?!!」と問い詰められても、それはそれでまた問題が発生するかもしれない(面倒)。
そんなジレンマを抱えての話し合いで導き出された結論は、
『信じてもらえるか否かは、もうこの際どっちでもいいから言ってしまえ作戦』
という、かなり『投げやりな結論』になった。
「ツルキーさんにも見て欲しかったなぁ、私の『渾身の作品』」
「事が全部片付いてから、俺たちもじっくり見るから、頑張ってくれ。」
「___はいっ! 頑張りますっ!」
ミラは、オロチの作った『お手製ローストビーフのサンドイッチ』を頬張りながら、まだ未完成の舞台に向かって、期待を寄せていた(やる気を見せる)。
「___そういえば、ウズメさん達の方は大丈夫でしょうか?」
「あぁ、彼女なら、今汗だくになりながらも、『ルシベル様』と一緒に『練習してる』
俺が見た限りでは・・・かなりチグハグだったけど、まぁ彼女なら大丈夫だろう。」
「ウズメさんは誰よりも、『努力しようと頑張る心意気(根気)』がありますからね。
本人も納得する形でないと、休む事すらできないのかも・・・・・
___彼に頼んで、『睡眠薬』でも取り寄せてもらおうかな・・・?」
「それは多分・・・大丈夫だと思いますよ。だって下(村)にはヒスイさんがいます。
私、丘へ来る前に伝えておいたんです。
「ウズメさんが意地でも休憩を取らなかったら、無理やりにでも取らせてください。」
って。
ヒスイさんの『ここぞとばかりの気迫』は、ウズメさんでも敵いませんから。」
「___ミラちゃんもミラちゃんで、ウズメさんをよく理解しているのね。
私、ウズメさんに村へ招待されてから、もうだいぶ時間が経つんだけど、それでもまだ分からない。
あの人の事を知ろうと努力はしてるんだけど、なんだか最近だと、予想する自分が馬鹿馬鹿しくなっ
てきた・・・というか・・・」
頭を抱えるソラを見て、同情するオロチと、笑いを堪えるミラ。
だがミラは、決してソラを馬鹿にしているわけではない。
彼女の気持ちが誰よりも共感できる為、自分も同じ気持ちになった時の事(昔)を思い返していた。
「ゼェー・・・ゼェー・・・・・」
「ル、ルシベル様、そろそろ休憩しましょうよ。
私の体力に合わせていたら、あなたの体がもちません。」
「いや・・・・・大丈夫。これしきの事で・・・ゼェー・・・弱屁を吐く程度では・・・・・」
宿の舞台で、何時間にも渡って『練習』をしていたウズメとルシベル。
ウズメは、まだ余裕のある表情をしているが、ルシベルはというと、息をするのが精一杯なくらい疲弊している(虫の息)。
最初はルシベルに教わりながらの練習だったものの、ウズメが慣れてからは、主導権が交替。
『一族の王としての教育』を受けてきたルシベルでも、何時間も体を動かし(練習を)続けていれば、頭も体も疲れ果てる。
「魔族の王子様でも、やっぱりウズメちゃんの体力には敵わないのか・・・・・」
「ちょっと!! 『やっぱり』って何ですか『やっぱり』って!!」
以前の腰痛を感じさせない宿の主人が、ルシベルに冷たいお水と果物を差し入れ。
女将はというと、森を抜けた先で、看板に『チラシ』を貼り付けに行っている。
その内容は
『しばらく村は改装の為、宿泊客は受け付けられません
申し訳ございません!! また来てね!!』
チラシの作成についても色々と話し合ったが、やはり一般人を巻き込まないようにする作戦に落ち着いた為、しばらく村を『立ち入り禁止状態』にした。
宿泊に来てくれた観光客に、協力を仰ぐ案もあったものの、やはり村の方針を、まだ受け入れられない旅人がいる事も事実。
つまり、ルシベルの存在に驚いた人間が、周囲の人間に『誤った報告』をする未来も考えられる。
それを防ぐ為にも、女将や子供たちは、村の外で必死に頭を下げている(謝り続けている)。
「そんな汚れ仕事、俺が全部受け持つ!!!」
と、出発前の主人は言っていたが、女将はそんな主人の言葉を一蹴。
「私はね、伊達にあんたの女房やってないし、宿を切り盛りしてないよ!!
面倒な客の相手と変わらないよ!!」
と言って、主人の心配を振り切り、森の方へ向かってしまう(村を出た)。
女将の方も上手くやっているのか、今のところ、村で大きな騒動にはなっていない。
「それにしても、私のせいで、宿の収入がしばらく無くなってしまうなんて・・・・・
事が全て終わったら、倍額で返すので、もう少しの間、ご協力をお願いします。」
こんな状況でも、まだ『統治者』としての立場を忘れないルシベルには、ウズメも感服。
だが宿の経営者勢(宿の主人・女将)は、収入が停止する事より、『作戦実行』の方が心配な様子。
「焦る気持ちは分かるけど、二人とも無理するんじゃないよ。
ちゃんと適度に休憩入れないと、後から疲れが倍になって返ってくるんだから。」
___人間の俺の言葉は、薄っぺらいかもしれないが、お金じゃ健康は買えないんだからさ。
俺みたいに無茶をすると、1ヶ月はベッドの上から離れられないんだぞ。
そうなったら、もうお終いだ。」
主人の言う通り、作戦の大黒柱を務めるルシベルとウズメが体を壊してしまったら、元も子もない。
しかも今回の作戦は、村だけの問題ではない。国の全土(命運)を賭けた、一発勝負。
いつもは明るく軽い主人の雰囲気にも、少し重みを感じたウズメとルシベルは、しっかり食事と水分を補給して(体調を崩さないように気をつけながら)、再び練習に励む。
そんな二人の頑張りを、宿の外から見ていた子供たちも、2人に差し入れ。
___というより、皆でおやつを半分にして、その片方を二人にあげる。
「お兄ちゃん、私のおやつもあげるから頑張って!!!
私も『お兄ちゃんとウズメちゃんの本番』見てみたい!!!」
「___分かった!!! 頑張る!!!」
こうして二人は、休憩を交えつつも、互いの『難しい・苦手な箇所』を語り合う。
それをどうカバーするか、どうすれば上達するのか、連日ずっと研究いている。
せめて『本番』までに完成度を上げる為、一分一秒でも無駄にしない為。
そんな彼の姿勢は、『反対派』だった村人を、一斉に沈ませる程の覚悟があった。




