表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/101

第十章(2) 新たなる魔族の王・ルシベルの懇願(こんがん)

「そ、その傷は・・・・・?!」


「城から抜け出す際、ロープを伝って地面へ着地したのだが、バランスを崩して木の枝で擦りむいてし

 まって・・・

 此処へ辿り着く道中にも、あちこちで転んでは全身を擦りむいてしまい、このような格好に・・・」


 ローブ自体が暗い色だったから気づかなかったが、フードから飲み込んだ水分が離れていくと、フードのあちこちに『泥』や『枯葉』がへばり付き、布があちこち切れているのが見えてくる。

 一目見ただけでは『浮浪者』に間違えそうな姿になってでも、彼はウズメに会おうとしていた。


 だが、さすがに魔王の息子でも、傷をいつまでも放置していたら、ジワジワと大きくなる痛みに耐えられない(我慢できない)。

 彼は両膝を抱き寄せるように、その場でしゃがみ込む。痛みと同時に、疲れも押し寄せてきた。

その動作に、一番素早く反応したのは(動いたのは)、『案の定』、ソラ。


「そのまま動かないでください!! 無理に動くと、傷口が広がっちゃいます!!」


「おぉ、村にはスライムもいるのか。なら村の住民は、『怪我の心配』をする必要がないのか。」


「え・・・??」


 ウズメはルシベルに、「貴方はスライムの特性を理解しているんですか?」と聞こうとしたが、その直後に色々と考えた結果、その言葉は押し込めた。

 よく考えてみれば、魔族を統率する存在が、個々の魔族の特性を理解していない方がおかしい。


「ほら、そこの椅子に座って!! 

 ___あ!! 傷口に触らないで!!」


「お、俺、そのフードを乾かしておく。」


 オロチはビショビショのフードを部屋の奥へ持って行くと、厨房で『火を焚く音』と、『食器がぶつかる音』が聞こえた。 


 ツルキーはというと、ウズメの横で、ずーっとルシベルを監視している。

ウズメもルシベルから目が離せない状況ではるが、ルシベルを見るツルキーの表情は、普段の朗らかな彼とは全くの別人レベル(完全に兵士)。


 彼の険しく、冷徹な顔の理由は、ウズメだけではなくソラも察している。

ソラ達でもあれほど警戒していたツルキー、魔族の親玉と対面したら、それこそ、彼が奇襲を自ら仕掛けてもおかしくない。


 しかし、それでも彼が剣の柄を握れないのは(踏み込まないのは)、ルシベルの毅然とした態度によるもの。

 そんな相手に奇襲を仕掛けるのは、さすがに無礼すぎて、ツルキー自身のプライド諸々が、彼を引き留めている。


 ずっと葛藤を堪えているツルキーに、ウズメは「上の階に行けば?」と提案するが、ツルキーは首を横に振る(拒否)。

 後ろからかなりプレッシャーを感じながらも、ウズメは怪我の治療を終えたルシベルに尋問する。


「あの・・・・・色々と聞きたい事は山々なんですけど・・・」 


「すまないが、まず私の話を先に聞いてくれないか。

 ___恐らく、私が城を抜け出した事は、既に部下に知れ渡っている。

 君たち人間の世界に、何をするかも分からない。


 ___つまり、早く何か手を打ちたい。

 私としても、これ以上立ち止まってもいられない、城から抜け出したのは、第一歩に過ぎない。

 ___もう時間は残っていない、確実に。」


「つまり貴方は、そんな重大なリスクを、穏やかなこの村に持ち込んだ・・・と?」


 ツルキーは、詰め寄るようにルシベルに問う。

ウズメも本当はルシベルと同じ質問をしたかったが(疑念を抱いていたが)、彼の真剣な眼差しは、決して嘘を言っているようには見えなかった。


 彼女の対応に、ルシベルは深々と頭を下げながら、弁解する。

そこから判明する、今各地ですっかり姿を見せなくなった魔族の、今の状況。

 先ほどルシベルの言った「もう時間は残っていない」の要因も垣間見れる。


「それに関しては、本当に申し訳なく思っている。ただ、これしか方法が思いつかなかった。

 部下に、「カミノー村を訪問してみたい」と言っても


「人間の部落に立ち寄る必要(意味)はありません!!!」

「ルシベル様の身に何が起こるか分からないのですよ!!!」

「『人間と魔族が共存する村がある』なんて、所詮は非力な(戦えない)人間達が謳う戯言!!!

 そんな根も葉もない噂を、魔王であるルシベル様が信じてどうするんですか!!!」


 _____と、耳が痛くなるほど聞いたよ。


 何度も話し合おうとしたけれど、結局今の彼らは、私の話を耳にできない状態なんだ。

 ___もちろん、私にも問題はあるのは分かってる。

 私はまだ、父親のような威厳を身につけたわけでもなければ、実績があるわけでもない。」


「___そうゆう問題ではないと思いますが・・・・・」


 耳を塞ぎながら語るルシベルの姿は、疲れ果てて参っている(終電に乗る)人間とほぼ同じ。

そして、彼のそんな姿に一番共感していたのは、先ほどまで最大の警戒心を胸に抱えていたツルキー。


 彼もまた、大勢の人間の話を聞く立場にあった。

それこそ、国王よりも、よりリアルで生々しい国内事情の話を。


 ルシベルとツルキーの違いは『種族』だけではなく、その『立場』も、『仕う側』と『仕える側』

それでも、『仕う側』のツルキーにも、かなり覚えがある(ルシベルの気持ちが分かる)様子で、彼の顔がほぼルシベルと一緒になっているのをソラだけが目撃して、思わず吹き出しそうになっている。


 時には『王』の言葉より、『民』の言葉の方が重くなる時だってある。

特に、国民の悩みや不満(マイナスな考え)は、同情できる仲間が多い分、すぐ重くなりやすい。

 まるで、水を含むと重くなるスポンジのように。


 そのスポンジ(民衆の不満)を処理するのが、役人の勤めでもある。

だが、それにどれだけ多くの役人が苦しめられているのか・・・


 もちろん、スポンジのなかには『将来の役に立ちそうな悩み』もある。

しかし、『解決しようがない・自己中な悩み』の処理(相手)もしなければいけないのは、処理する側にも不満が溜まる。


 そして、どんなに偉い人の言葉だとしても、話を聞かない(信じない)、自分の考えをとにかく通そうとする(曲げない)存在がいるのは、人間も魔族も関係ない。

 『自分の考え=絶対的な正義』と思って疑わない存在の相手は、どちらにしても疲れる。

もはや『キャッチボール』ではなく『一歩的に攻められるドッチボール』


 そこまで相手を知らず、調べる事もしない、ただひたすらに自分を貫く姿勢を崩すのは非常に難しく、無理に崩そうとすると二次被害が発生する。

 ルシベルの周囲は、そんな魔族だらけだったから、誰にもまともに話を聞いてもらえなかったのだ。


 そんな彼の苦しみを、ツルキーも何度か経験している。

何度も「大丈夫」「安心してください」という言葉をかけ、相手を落ち着かせようとしても(会話を試みても)、相手が話を聞かないなら、その言葉の効力は皆無。


 2人は、『話を聞かない相手』がどれだけ厄介で、相手をするのがどれだけ大変なのかを知っている。

知っているからこそ、『種族の壁を超えた悩み』に、喜んでいいのか、呆れればいいのか、分からない様子のツルキー。


「しかし、私は『魔族の王』として、どうしても、『止めなければいけない』」


「___というと?


 _____あ、ソラ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど。」


「はい、何でしょう?」


 ある程度の治療を終えたソラは、椅子に座ってぐったりしている(力の使いすぎで疲れている)。

ウズメは彼女を自室で休めるのを促しつつ、『まだ事態を知らない仲間』への説明役も任せることに。


「2階にいる宿の主人達にさ、」


「宿のロビーの窓ガラスが割れているから、しばらく部屋で待機して

 割れたガラスの処理と、新しいガラスの張り替えは、ツルキーと私で十分だから。」


 って、伝えてくれない?」


「分かりました。」


 ソラは『手すりを使いながら』階段を登り、オロチは沸かしたお湯とお茶のセットを持って来て、話を聞きながら手を動かす(お茶を入れる)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ