表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/101

第十章(1) 新たなる魔族の王・ルシベルの懇願(こんがん)

コンッ コンッ コンッ


「___?」


 コンッ コンッ コンッ


 大粒の雨が激しく窓を叩く音に混じり、『それ(雨音)とは違う音』を耳にしたウズメ。

玄関前に置いてある薪の束を持ち上げようとしたウズメは、一旦玄関に聞き耳を立てる。


 ウズメの異変に気付いたツルキー・ソラ・オロチの3人も、ドアに近寄るとその音を耳にした。

音をよく聞いてみると、誰かが一定のテンポで、ドアをノックする音だった。


 しかし、外は豪雨、出歩くのも困難な天気。こんな時に、誰かが訪ねてくるのは、明らかに不自然。

ただ、『開けない(無視する)』という選択肢は、どうしてもできなかったウズメ。

 もしかしたらソラ達と同様、森で迷って助けを求めているのかもしれない。

もし宿の前で事切れていたら、後味が悪すぎる。


 強盗のような『よからぬ集団』だとしても、ウズメにはまだ、『勇者の右腕だった頃の記憶』が、体に残っている。

 数年が経過しても、その感覚が未だに消えないのは、彼女の舞いが、かつて戦っていた頃の名残があるから。


 ウズメは一旦3人の方へ振り向き、[開けるよ・・・]と、目線で合図を送ると、3人は静かに頷く。

どちらにしても、ドアを開けるだけ(普段の何気ない動作)でも、だいぶ怖いこの状況。

 厄介事の対処には慣れているウズメでも、『心霊的な恐怖』には弱く、ノブを握りしめる手にも力が入ってしまう。




 ギィィィィィ・・・・・


「_____すいませんが、此処はカミノー村の宿でしょうか?」


「はい、そうですけど・・・・・」


「___じゃあ、『ウズメ』という『人間』をご存知ですか?」


「__________」


 ウズメは、何も答えられなかった。

こんな豪雨のなか、村に来る時点で相当怪しいのだが、一番違和感を感じたのは、その『言葉』


 普通

「『ウズメ』さんをご存知ですか?」「『ウズメさんという方』をご存知ないですか?」

 と聞くのが普通。質問する本人が、『同じ人間』なら


 魔族という存在を知らない、前世のウズメ(舞)だったら、何の違和感も抱かなかったかもしれない。

だが、わざわざ言葉に『人間』という単語を含ませた時点で、含みがあるのは、ほぼ間違いない。


 ずぶ濡れになった真っ黒のフードを深々と被っている為、相手が男なのか女なのかも分からないが、今の一言である程度、相手の正体が掴めたウズメとツルキーの2人。


 相手は、『魔族』 しかも『相当知能がある』


 わざわざ家の中の人がドアを開けるのを待ち(勝手にドアを開けず)、此処へ来た目的まできちんと説明してくる相手が人間なら、2人はそこまで警戒しない。

 だが、ここまで懇切丁寧でマナーのある魔族は、前代未聞。


 しかも、相手はウズメを『名指し』で聞いてきた。

ただ、『名前』を知っているだけで、どうゆう人間なのかは知らない様子。


 ウズメが怪しんでいる様子を察した訪問者は、咳払いをしながら、少し『言い方』を変える。


「この村は、『魔族』と共存している話を聞いている。

 その発起人が、『かつて魔王を倒した勇者の仲間』である事も。」


 この発言で、ますますウズメ達から怪しまれた訪問者だったが、彼は至って堂々とした姿勢。

逃げるでもなく、「改めて伺います」とも言わない、『怪しまれる事を恐れない態度』

 今まで多くの魔族を迎え入れてきたウズメ達にとっては、今までにない新しいタイプ。

ウズメは相手の姿勢に負けじと、勇気を出して口を開いた(聞いた)。


「あの・・・・・私が貴方の探しているウズメですけど・・・・・

 貴方は何が目的なんですか?」


「___やはりそうか。なら単刀直入に言う、


 どうか『私たちの歴史』の為に、『大切な仲間』の為に


 尽力してほしい事がある。




 私は、勇者一行に倒された魔王の『息子』


 『ルシベル』と申します。」


「っ??!!」


 ウズメは、思わず腰を抜かした。

体がつい反射的に、いきなり回避の体制に入ってしまう(危険を察した)。

 しかし、混乱する頭では体が上手く動かせず、そのまま床に倒れ込んだウズメ。


 そんなウズメの様子を見て、魔王の息子(魔族の王子)ルシベルは、ゆっくりと宿に入ると、今まで被っていたビショビショのフードを取る(改めて挨拶をする)。

 雨の中を、ずっと歩き続けたのか、髪も顔も濡れているが、彼は寒さに凍える様子を一切見せない。


 彼の顔を見た瞬間、その場にいたツルキーやソラ達も、思考を停止してしまう(体が動かない)。

ウズメ達との話し合いで、魔王についての詳細は何も知らないソラ達ではあったが、そんな彼女達でも、彼が魔王の息子である事を疑えなかった。


 風格や威圧感は、並大抵の魔物なんかではない。

ウズメやツルキーが、今まで見てきた(頭を下げてきた)貴族や王族とは、比にならない程。



 頭に生えた湾曲したツノ 燃えるような真っ赤な瞳 

 まるで夕暮れが終わる直前のような、紫紺しこん色の長い髪は、雨粒が伝うほど光る



 その姿を見て、ウズメは思い出した。

かつて、傷だらけになりつつも立ち向かい、何度も何度も力の差に圧倒された、『最後の戦い』

 それは、ウズメが『勇者の右腕』を名乗っていた、最後の瞬間。


 ウズメの決死の争い(反撃)で、ようやく魔王の顔があらわに。

それと同時に、勇者の剣が魔王の胸を貫いた際、その顔をようやく拝む事ができた。

 ただ当時は、勝てる確証が限りなく低かった事もあり、ウズメ達は、魔王の顔をしっかり確認する(見る)余裕もなく。


 だが、鮮明に刻まれた記憶が呼び覚まされると同時に、今更になって思い出した『魔王の素顔』

その顔は、今目の前でウズメを見下ろしている、若い魔族と『瓜二つ』

 ウズメ以外の仲間に関しては、そもそも魔王の顔を知らないものの、ウズメの青くなりながら唖然とする様子を見て、彼の言葉が本当であることを悟る。


 魔王の素顔を見たのは、あれが最初で最後だったものの、その瞬間が、劣勢だった戦況がひっくり返った『運命の一瞬』

 それと同時に、この国の時代が大きく変わる、まさに『歴史的瞬間』

その瞬間が過ぎたと同時に、魔王軍は敗北。勇者一行の勝利に終わった。


 それからすぐ、魔王は首を斬られ、その首は、城で魔術師達の手により葬られた。

炭も残さないほど、徹底的に燃やし尽くす光景が、ウズメの瞳の中で『録画』のように再生される。

 その映像が現実の目線(ルシベルの姿)に切り替わったと同時に、ウズメは今の状況に『血生臭い未来』しか考えられなくなり、焦って体勢を元に戻す(立ち上がる)。


 だが、彼女の目の前にいるルシベルは、至って冷静な顔で、紳士的な振る舞いを続けている。

よく見てみると、彼は武器を一本も身につけていない(完全に無防備な姿)。

 よくそんな姿で、此処まで来れたのか不思議に思えるほど。


「当然訪問してしまい、申し訳ない。

 ただ、『人の目も魔族の目も少ない』今だからこそ、私は此処へ無事に来ることができた。

 ___城から抜け出すまでも、かなり苦労したが・・・」


 ルシベルが顔を擦った箇所から、血が滴り落ちていた。

雨に濡れていた為、気づかなかったウズメ達だったが、肌が暖炉の熱で乾いてくると、徐々にルシベルの顔に刻まれた傷が露わになる(見えてくる)。


 その傷口から染み出してくる血の色は、あの時の光景(父親)と同じ。

ウズメは彼の頬から流れる血を見て、魔王の首が完全に首から離れた瞬間の『ズバッ・・・』という、生々しい音が頭に響くのを感じ、思わず口を押さえてしまう(吐き気を催してしまう)。


 あの時は、自分たちの勝ち取る事に必死だった。決着がつくまでは、『帰れなかった』

約1日を費やして、最終決戦を生き残ることができたウズメ達だったが、あの頃の自分が、今では『魔物以上に恐ろしい存在』に思えてしまうウズメ。


 今のウズメは、相手が人間だろうと魔族であろうと、傷ついていたら慌てふためく。

過去の自分から、どうして今のように変われたのか(常人の感覚に戻れたのか)、率直に疑問を抱く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ