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第九章(3) オロチの味

「___どう?」


「うんうん!!! めちゃくちゃ美味い!!!

 調味料を制限してこの美味しさなんて、お財布にも優しいよ!!!」


「___『サイフ』???」


「オロチさん、『サイフ』を知らないんですか?

 ほら、こうゆう『布製の入れ物』です。これにお金を入れて、お買い物をするんですよ。」


 ソラが若い商人から買ったサイフをオロチに見せている(自慢している)間、ウズメ達はオロチが考えたメニュー、『カリモチ・魚のソテー』を無我夢中で食べる。

 そしてスープには、『捌くのに失敗した魚』を入れたところ、こちらも大好評。


 上手く捌けるように(ちゃんと切り身に)なるまで、何十回も失敗してしまったものの、オロチは何度も何度も挑戦した(諦めなかった)。

 それくらい、彼はすっかり、料理の虜。

そしてウズメ達にとっても、オロチに魚を見せたことによって、新たな発見が得られた。 


 『リザードマンは『水』に弱い』・・・・・というのは、前々からウズメやツルキーも知っていた。

ただ、まさか『川のせせらぎ』にまで、恐怖心を抱くとは思わなかったのだ。

 『井戸』や『バケツの水』なら問題ないが、オロチはこの村に初めて来た(美味しそうな匂いを嗅ぎつけた)際にも、川のせせらぎを器用に避けて来たのだ。


 オロチは川のせせらぎを少し耳にするだけで、全身を掻きむしってしまう。

これにはウズメ達も焦ったが、せせらぎが聞こえない場所に来れば(村に帰れば)、オロチはようやく落ち着いてくれる(元に戻る)。


 オロチが魚を見たことも、食べたこともない理由は、リザードマンの体質にあった。

ただ、オロチは『水の中に棲む生き物』なら平気な様子で、自分で作った魚料理を、あっという間に平らげてしまう。


「それにしても、水が流れる音だけで、あんなに肌がザワザワするなんて・・・・・」


「スライムの私は、川と一緒に流れるのが好きですけどね。あったかい場所も大好きです。

 でも・・・・・『水が全くない場所(砂漠・荒野)』は苦手ですね。


 いつだったか・・・・・雨が半年以上降らなかった時は、さすがに辛かったです。」


「それは人間でも辛いよ。『水』も『火』も、人間の生活には絶対必要な存在だから。

 苦手なものがあるのも仕方ない、私だって、『崖』は苦手だよ。足が震えて動けなくなる・・・」


「えっ?! ウズメさんに苦手なものがぁ?!!」

「えっ?! ウズメさんに苦手なものがぁ?!!」


 見事に重なるソラとオロチの言葉に、ウズメは驚きつつも、イラッとする。

「私に苦手なものがあるのが、そんなに不思議?」というウズメの言葉に、2人は同時に頷き、弁解する気が失せたウズメであった。


 最近は毎晩、宿泊客が寝静まった頃、ホールで『勉強会』をするのが、恒例になっている。

ソラ・リーフ達・オロチは、仕事が全て終わった夜の時間を利用して、村での発見や、疑問に思っている事を話し合う。


 毎日同じ村に住み、同じ仕事をこなしていても、いつだって何かを発見してしまう3人。

そんな話を、興味本位で聞いていたウズメも、時には驚き、時には3人と一緒に考え込んでいる。


 ウズメが魔族について分かっている事は、ほぼ『戦いの場面』でしか使えない知識のみ。

それ以外の魔族に関する情報は、知ろうともしなかった(彼女にとって必要なかった)。


 『弱点の部位・属性』『特定の魔族の生息地』『その魔族に関する被害の規模』


 生き残る為に、それらを道中で頭に叩き込んでいた(覚えていた)ウズメ。

その知識を味方につけ、危機を脱した(生き延びた)事も多々あった。


 一方、『戦法』や『危険度』以外の事柄で、ウズメが持っている知識が相当浅いことを、最近彼女自身が『あらゆる五感』で学んだ。


 ソラの心地良い肌触り 再生能力の高さ 

 リーフの自然と同調する感覚 特殊な楽器を奏でる技術力

 オロチの炎を操る力 水の気配を察知する直感


 今まで『魔族』と一括りにしていた自分が恥ずかしく思えるほど、ウズメは短期間の間で、彼らのありとあらゆる事を学んだ。

 でもまだ、試したい事が色々ありすぎて、踊りに熱中していた頃とはまた違った楽しい毎日。

そして、ウズメと同じように、村人全員が、『知る喜び』を実感している。


 ただ、魔族は種類だけではない。国中には、まだまだ沢山の魔族が生息している。

その全種類を全て解明するには、1000年はくだらない。

 そして、人間の事を勉強するソラ達にも、まだ分からない人間の不思議が沢山ある。

そう、まだウズメ達は、『スタートライン』から駆け出したばかりに過ぎない。


 しかし、ひと昔前なら、そのスタートラインですら、誰も想像できなかった(考えられなかった)。

ウズメ達はスタートラインがある(人間と魔族が共存できる)事を証明しただけではなく、魔族がしっかり人間社会に馴染める事すらも、実現させてしまう。


 今までの価値観では到底至らなかった考え方だが、やってみたらやってみたで、案外上手くいったり、いかなかったり・・・・・

 ただ、上手くいかなかったとしても、それはそれでまた新たな発見(無駄ではない)。


 ちゃんと相手を理解すれば、デメリットよりも大きなメリットを授けてくれる。それが魔族との生活。

___つまり、人間同士の関係と、さほど変わらない。

 相手を理解しなければ良い関係を築けないのは、人間同士でも同じ。 


「___川は怖くても、村は好きだ。あと料理も。」


「リーフは? 『料理』って言葉自体は知ってた?」


「あるけど・・・・・でも実際に、『料理』がどうゆうものなのかを知ったのは、つい最近よ。

 そもそも私たちエルフは、食材に味をつけず、そのまま煮て焼いて食べてたから。


 村の料理を最初に見た時は、(野菜や魚に何て事をしてるの・・・!!)って思ってた。

 でも、なんか今となっては、どうして自分があんなに調味料を毛嫌いしていたのか、自分でもさっぱ

 り分からない。


 ___スープおかわり、まだある?」


「これで最後の一杯、また作る。

 今度はもうちょっと薄味の方が・・・・・」




 ピュワァァァァァン・・・・・


「___あー、えー、薄味の方が私はす」


 ギニャァァァァァ・・・・・


「わ、分かった、次は味を抑え・・・・・ぐふふふふふっ・・・・・」


 堪えきれなくなったオロチは、震える手で、どうにかリーフに最後の一杯を届けた。

ウズメとソラは、笑いを堪えすぎてスープが飲み込めない。下手に飲み込むと吹きそうになる。


 天井(2階)から聞こえる、不協和音の正体。

それは、初めての楽器演奏に四苦八苦している、ヒスイとミラによるものなのは、誰も口にしなくても分かっていた。


 だが、普通は2人のようになるのが当たり前(普通)。

ウズメは中学生時代、『吹奏楽部』の一員だったのだが、クラリネットの音程が綺麗に奏でられるようになるまで、半年は費やした。


 それでも2人が熱心なのは、『村の演奏家』を増やす為。 

宿の主人の一大事は、たまたま匂いに誘われて来たオロチによって、騒動(大損)にはならなかった。

 だが、ウズメの舞を盛り上げてくれるリーフ達の代わりは、今のところ、まだ決まっていない。


 今では舞台上の演奏も、村の名物の一つとなっている。

リーフ達の技術に届かなくても、せめてウズメの舞を盛り上げる音楽は必須となった。

 だから、リーフ達に何かあってもいいように・・・と、2人が提案した。


 ___が、まずは『楽器の音』を鳴らせるようになるまでは、曲なんて奏でられない。

だから2人は、『獣の鳴き声のような音色』をまずどうにかする為、とにかく練習を続けている。


 プピー!!!


 グギギギギギギギギギギギギ・・・・・


「___あのさ、私も上に行っても(2階の練習に付き合って)いい?

 なんかこのままだと、楽器が壊れそうで・・・・・

 聞いてる分には面白いけど、怖くなってきた。」


「そ、そうね、お願いします・・・!!!」


 リーフの弟二人が、ヒスイ達の指導を手掛けているのだが、姉御が練習に参加した(リーフが二階に上がった)途端、あのおかしな音もようやく落ち着く(まともな音色になる)。

 ようやく3人は、落ち着いて『試食会の後始末』に入る。




 ガチャッ


「ふぅー・・・」


「あ、ツルキー、お疲れー」


「いやぁー・・・・・今日すごい雨だわ。

 どうにかお客様は全員森の外に送れたけど、大丈夫かな・・・?

 というか、雨が降っている森って、とんでもなく怖いんだな、口にはできなかったけど。」


「1年に一回くらい、こんな風に大雨が降るんだよね。大雪とか。」


 地面に激しく衝突するような雨粒が降り注ぐ外に繰り出したツルキーは、案の定ずぶ濡れ。

森を出る前は、まだ曇り空だったが、日が沈んだ途端に、まるで『透明の(雨)幕』が村中を覆うような光景になった。


 まるで、川にそのまま落ちたような姿に、ソラとオロチは、慌てて拭けるものを探す。

ツルキー自身は涼しい顔をしているが(隠しているが)、やはり寒いのか、体が小刻みに震えていた為、ウズメは暖炉に火を灯す。


「あぁ、そういえば、主人は大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、今女将さんが、付き添いで看病しているみたいだから。

 だから、復帰も割と早いんじゃないかな?」


 ウズメ達が宿を切り盛りしている為、女将は主人が無茶をしないか、徹底的に見張れる。

だが、ウズメ達が村に来たことで、めっきり取れなくなってしまった『二人きりの時間』

 口にはしないものの、2人は楽しんでいる。ウズメ達には見え見えだが。

だから皆、『2人(夫婦)だけの時間』を邪魔しない為、自分たちでやれる事は何でもやっている。


「はい、これで体拭いて。

 ___俺、『あのおじさん(主人)』と、どっちが上手く料理できるか、勝負したい。」


「それもそれで、また村のイベントになりそうですね!

 あ、このタライの中に足を入れてください、お湯を入れてあるので、暖かくなりますよ。」


「ソラちゃんもオロチ君も、すっかり『おもてなし』が上手になったね。

 城下町の宿と同じくらいの手厚さだよ。

 ___まぁ、いくら天下の城下町でも、ヤバいところ(宿)はあるんだけどね。」


「ウズメから聞いた『じょうかまち』って、この国の中心なんだって?

 人がいっぱい住んでるって。」


「そんな場所の宿って、ちょっと気になるかも・・・・・」


 ツルキーは、すっかりソラ・オロチ・リーフ達の『父親のようなポジション』になっている。

念の為、警戒を怠らずに監視していたが(様子を見ていたが)、それですっかり気に入られた様子。


 時折、ソラ達を目にすると大声で彼女達を罵倒する旅人も。そんな時こそ、ツルキーの出番。

同じ人間(村の住民)が聞いてもドン引きするくらい、汚い言葉の雨霰には、正直ソラ達も困っている。

 その人達の気持ちも、分からないわけではない。それで村でも、一悶着あったのだから。

しかし、罵詈雑言をぶちまけている人間というのは、誰が見ても気持ちのいいものではない。


 しかしソラ達は、そんな相手を目の前にしても、反論しなければ、手を挙げる事もしない。

ただひたすらにグッと堪える姿を見れば、誰が悪いのかは一目瞭然の状況になる。


 ソラ達が一切反論しないのは、『下手に言い返すと面倒事になるから』というわけではなく、『魔族によって人間が苦しめられた時代』を受け止める為の、彼女達なりの『けじめ』


 しかし、ソラをいじめてくる観光客を、村の皆が、ただ黙ってみているわけがない。 

ソラ達への対応が悪すぎる旅人に関しては、物を売らなかったり、宿に泊まるのを拒否されたり。


 それをソラ達は『自分のせい』と思っていた時もあるが、もてなす側にも『お客を選ぶ権利』があっても不思議ではない。

 『何事にも文句を言える天才』は、同族(人間同士)でも嫌われる。一緒にいたくない。

『面倒事の避け方』がまだ難しいソラ達をカバーするのも、村人たちのお節介の一つ。


 そんな人々のおかげで、ツルキーもそんなに気負いする事なく(多忙にはならず)、ウズメ達と一緒に日々新しくなる日々を楽しんでいる。

 最近彼が森を見回りする理由も、『迷い人探し』というよりは、『迷い魔族探し』になっている。


 村人が動き回れる森の範囲も着々と広くなり、何十年も村に住んでいる老人(森を知り尽くしている筈のベテラン)でも見つけられなかった森での発見が、最近の子供達のブーム。

 最近では、『森の外に続く道』を、もういくつか増やす計画も進行している。


「そういえばさ、この前皆で話してた、『宿の二号店計画』はどうなったの、オロチ君。

 建てる場所が決まったなら、俺も手伝うけど・・・・・」


「断った。」


「えぇ?! また何で?!!」


「ウズメの踊りが見られるのは、『此処』しかないから。それが良いから。」


「_____なんかごめんね、お節介だった・・・?」


「だから、宿を大きくする計画になった・・・って話。」

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