第八章(5) リーフの旋律
村の目玉(ウズメの舞)に、新たな魅力(見せ場)が加わったことで、村の知名度は再び鰻登り。
少し前まで、森の前で声を張り上げていた(お客を呼び込もうと必死だった)時期が嘘のように、村人全員の数よりも増えた観光客。
その影響で、村には『数十年ぶり』に『商店』がオープン。
オープンセレモニーでもウズメが開店を盛り上げ(記念の舞を披露して)、もはや『村』とは呼べないくらいの規模になってきた。
その商店のオーナーになったのは、前に村へ来た時、ソラの事が気になっていた、若い旅商人。
彼もすっかりソラと仲良くなり、ソラは彼が取り寄せてくる商品に、いつも胸を踊らせている。
実は、リーフが『初公演』を終えた夜の事、再び村に、『エルフ』が来てくれた。
しかも、『1人』だけではない、まさかの『2人』も。
その理由について、リーフは村人たちに説明する。
「エルフは、人間より耳が良いんです。
きっと『彼ら(エルフ仲間)』は、ヴァイオリンの音色を聴いて、村に迷い込んだのかも・・・」
リーフに続き、新たに村の一員となった2人のエルフは、まさかの『兄弟』
彼らの出生もまた、リーフと同じく、気づいたら2人きりで、人目につかないように彷徨っていた。
___そして、ウズメの踊りを支える音色に、『チェロ』と『フルート』が加わった。
試しに、リーフ達3人で合奏すると、ウズメも含めた村人たちは
森の木漏れ日を浴びているような 川のせせらぎを聞いているような
眠っている動物を眺めているような 花畑でお昼寝しているような
穏やかで温かい気持ちになった。
3人の奏でる独特の音色は、城で多くのクラシックを聴いている王族でも、聴いた事がないであろう音。
もはや『楽器』の領域を超えているような音。
その音色は観光客にも大絶賛され、ウズメの常人離れした動き(踊り)と合わさる事で、舞台上を『幻』のような空間にしている。
神秘的な音色を纏うウズメは、まるで『妖精』の様な、はたまた『風に舞う花びら』の様な、とにかく人間である事を疑いたくなるほど美しい。
踊っているウズメも、その美しい音色をバックに踊っていると、つい心を奪われそうになる。
だから舞台上では、互いの仕事(踊り・演奏)に魅了されて、手が止まらないように集中。
お互い口にしたわけではないが、宿の舞台上では、そんな『魅力による魅力の為の戦い』が繰り広げられている。
もちろん、見ている側(観客)には一切分からない(全く関係のない)事情。
だが互いを意識して、相手よりも更に上を目指そうと努力する様は、まさに『ライバル』
舞台上では、一体どちらが観客を魅了するかの合戦が、毎晩のように開幕している。
「___お姉ちゃん、ちょっとテンポ早すぎるんじゃない?」
「ま、マジ? ルーフに言われるまで、全然気づかなかった・・・・
レーフはどう思う?」
「まぁ確かに早い気もするけど、そのくらいの早さなら、俺たちでもついていけるよ。」
村に来た当初、名前すらなかった2人だったが、リーフが2人の『姉』になり、2人に名前を与えた。『ルーフ』と『レーフ』は、姉と共に、『アパート』へ移り住んだ。
そのアパートは、一室がソラの診療所、他の部屋が『魔族専用の部屋』となっている。
村に魔族の住民が増えたことで、ソラの家を広く大きく改築して、魔族がまとめて住める『アパート』にしたのだ。
3人が村に来たばかりの頃は、リーフ達一人一人に、一軒ずつ家を貸していた。
だが、いつの間にか4人は、いつも同じ家(ソラの家)で寝泊まりするように。
「もう一人で静かな夜を怯えて過ごしたくない」
という、4人の願いは叶った。
ウズメ・ヒスイ・ミラに関しては、その話を宿の主人から聞いた際、一瞬だけ脳裏に『野宿の辛さ』が過ぎった。
もう『屋根のある場所(自室)で眠れる事』が当たり前になってしまったウズメでも、当時の思い出は、不思議と頭に残り続けていた(離れない)。
寒さ いつ襲われるか分からない不安 暗闇に対する恐怖 小さな物音だけでも精神を削る
そんな過酷な環境に身を置いていたのが、自分だけではなかった事を考えたウズメは、共感できる仲間がいる嬉しさよりも、『野宿=魔物にとっては当然』と思っていた事がが恥ずかしかった。
ソラやリーフ達が村へ来てくれた事で、魔族に関する様々な事が分かるのは面白かったが、時はに判明した真実が、自分たちの知識の浅さを痛感させられる。
自分たちがどれだけ偏見持ちだったのか、自分たちの知識しか判断材料にしなかったのか、散々勝手に決めつけておいて、真実を調べようともしなかったのか。
そんな自分たちの偏った考えを、真っ向から否定されたような気持ち。
『後悔』と『申し訳なさ』でいっぱいになったものの、やはり知らない事を知れた喜びに勝るものはなかった(もっともっと魔族が知りたくなった)。
それはソラ達にとっても同じだった様子で、互いに判明した事・思い込んでいた事を語り合うのが、毎晩の恒例になりつつある。
「皆ー! そろそろ休憩にしようよー!」
ウズメが持ってきた差し入れは、皮はパリッと、中はトローリとしたシュークリーム。
材料を商人が仕入れてくれた為、ウズメはミラと女将の3人で、『人生初のお菓子作り』に挑戦した。
ヒスイも誘ったのだが、「シュークリームは食べ飽きてるから」と言って、参加を拒否。
どちらかというと、ヒスイは『砂糖菓子』よりも『甘酸っぱい果物』が好きな傾向にある。
勇者一行の一員(荷物運び役)だった頃、よくヒスイは、城下町の市場に並んでいる果実の山を見ながら、食べたい欲求(唾)飲み込んでいた。
村の一員になってからも、時折ヒスイは森に行っては、自分で果物を採っては食べている。
シュークリーム作りには参加しないものの、彼女が自分好みで混ぜ合わせた特製ジュースは、いつの間にか宿の看板商品になっている。
ウズメの持つトレーの上に並んでいるシュークリームを目にしたリーフ達は、思わず固まった。
その理由は単純、シュークリームを見たのが初めてだったから。
果物の色とは違う、ふんわりした色、甘い匂い、枯れ葉のような手触り。
弟に関しては、一瞬『特殊な石』に見えてしまい
[まさか人間は、石を食べるのか・・・?!!]
と、本気で想像していた程。
しかし、そのサクサクの生地と、口に溢れるホイップの甘さに、3人はすぐ虜に(完食)。
口のあちこちにクリームをつけて喜んでいる様子に、『味の確証』が持てて満足するウズメ。
[転生前も、お菓子なんてあんまり作ってこなかったけど、やっぱり教えてくれる人がプロだと(上手
いと)、簡単にできちゃうもんだなぁ・・・]




