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元・勇者様(1)

「ゆ、勇者様!!! よく来てくれました!!!」


 頭が地面に落ちてしまいそうな程、深々と頭を下げる町長とその家族。

___が、『女性陣』の姿は一切見えない。勇者を出迎えているのは、ほぼ『男』

 女性もまばらにいるが、その全員が『老婆や中年女性(勇者の守備範囲外)』


 町に住む若い女性は、各々の家に隠れ、カーテンで家の中が(自分の存在を)分からないようにする。

理由は単純、勇者の目に入らないようにする(狙われないようにする)為。

 目に入ってしまえば、『手をつけられてしまう』のも時間の問題。


 最近の勇者が、どんな女性にも関係を迫っている話は、城下町から離れた町や村でも噂になっている。

関係を持っては離れ、持っては離れ・・・を繰り返すうちに、被害女性は膨れ上がる一方。

 ある女性は全財産を失い、ある女性は婚約者に別れを切り出され、ある女性は家から追い出された。


 ___だが、彼の女遊び(異性関係)は、今に始まったわけではない。

魔王を倒す以前から、彼によって人生を狂わされた女性は数知れず。

 そんな彼の素を、昔から知っていたのは、共に旅をしたウズメ達。

___それか、『勇者だった彼』に手を付けられた女性。


 仲間という名の『ストッパー』を失った今のコーコンにとって、相手の事情なんて視野に入れない。

今の彼にとって、女性は自らの溜飲を下げる(ストレスを解消する)為の、『使い捨て』としか考えられない。


 元からおかしい彼の思考だが、最近では『視界』さえも、常人のものではなくなっている。

視界に入ったものは、無意識に自分の都合によって改変され(認識を捻じ曲げ)、彼にとって都合の悪い存在は、『魔族』と同じ。


 そんなコーコンに逆らえない人々にとって、彼は『次なる魔族・または魔族と同類』


 今までは、魔族の問題を解決していた功績があった為、勇者の悪行を見ても、目を瞑っていた人々。

だが、どんなに物申したくても、どれほど勇者を恐れていても、誰も口にする事はできない。

 勇者のおかげで、この平和な時代を迎えられたのも事実。


 何より、魔王を倒すほどの実力の持ち主に刃向かったら、最悪自分一人の命では済まない。

もう既に、勇者の『気分』で崩壊に追い込まれた村や町がある事は、国王も周知の事実。


 だが国王でも、勇者の傍若無人を止められない。それは国王もまた、勇者によって助けられた身。

彼のおかげで、停滞気味だった国家の経済は徐々に上がり続け、魔族によって国の威厳が汚されることはなくなった。


 今までは魔族を気にして、他国からの要人が来国するのを避け気味だった(遠回しに断っていた)。

だからいつもいつも自分たちが他国に赴く為、その費用を捻出するのも一苦労。

 その疲労と出費がなくなった事だけでも、国の財政に潤いを与える(余裕をもたらす)結果に。

他にも勇者によってもたらされた恩恵は数えるほどある為、彼はますます歯止めが効かない。


「ねぇお母さん、何で外に出ちゃダメなの?

 私も勇者様見たいよぉ!」


「シッ!!! 静かにしなさい!!!

 あんたはまだ10歳にも満たないけど、もしかしたら狙われるかもしれない・・・!!!

 お姉ちゃん、しっかり妹を抑えてるんだよ!!!」


「___ねぇ、お母さん。どうしてお父さん達は、勇者にペコペコ頭を下げてるの?

 来てほしくないなら、そう言えばいいのに。」


「言えたらこんな苦労しないわよ・・・!!!」


 まだ大人の事情(状況)が飲み込めていない姉は、首を傾げながらも、普段は温厚な母の必死な顔の気迫(いつもとは違う母)に、渋々聞き入れている(妹と遊んであげる)。

 姉がへそを曲げている理由としては、いつも通りに学校へ行き、友人と楽しく過ごしている筈だったのに、両親から強引に引き止められたのが原因。


「___というか、あの『勇者の連れ』、誰だ?

 なんかさっきから、ずっと後ろで気まずい顔をしているけど。

 仲間・・・にしては、勇者が彼(後ろ)を気にする様子もないし・・・」


 勇者の名声にベッタリだった(おこぼれを貰っていた)回復師も、さすがに最近気づき始めた。

自分が、とんでもない四面楚歌(味方のいない)状況に立たされている事に。

 今更勇者のお供を辞めたら、たとえ仲間であっても、何をされるか分からない。

コーコンが味方に対しても容赦しないのは、『彼がかつて雇った奴隷ミラ』で十分知ってる。


 つまり、回復師は完全に、『逃げるタイミング』を失ってしまったのだ。

魔王を倒して、速攻でコーコンの元から離れたウズメ達を、その当時は『馬鹿な奴ら』と思っていた回復師が、そう考えていた自分自身の愚かさにようやく気づいた。


 今はもう、おこぼれどころか、周囲から『腫れ物扱い(コーコンと同類)』

表向きだけ頭を下げられ、口だけの称賛の言葉。その本心は全く真逆な感情。

 そんな歪な空気が、回復師の精神を徐々に削り続け、もう彼も自分が何を求めているのか(逃げたいのか否か)すら、分からなくなりつつある。


 コーコンの元を離れたかつての仲間に助けを求めたくても、もう彼の周りには味方になってくれる人なんていない(仲間が何処に居るのかすら分からない)。

 誰かに聞く事すら、そもそも誰かと会話をする事すらままならない回復師が、この状況から逃げ出す術は、もう殆ど残されていなかった。


 数日前、彼が一人で(コーコンと離れて)城下町を歩いていた時も、周囲の人間は距離を置く。

その理由は単純、勇者と一番近い人間だから。そんな人間に、好き好んで関わりたいとは思わない。




「この町の辺りに、魔族はいませんか? 私が難無く退治して見せましょう!!」


 言葉だけは正義感たっぷりなものの、彼の目からは、完全に自身の欲望が漏れ出ている。

しかもその欲望は、ただ単に魔族を倒したい(剣を振るいたい)・・・というものではない。


 魔族を倒すことで、周囲からチヤホヤされたい、感謝の言葉と品をたんまり欲しい。


 そんな醜い欲望を、本人は上手に隠しているつもりなのかもしれない。

___だが、そう思っているのは本人だけ。

 彼の瞳は、下心がむき出しの状態。獲物を狙う肉食動物の瞳の方がマシに思える程。


 コーコン自身、村や町の住民が、自分を恐れていたとしても、そんなの彼にとってはどうでもいい事。

彼はただ、自分がチヤホヤされれば、相手が自分を見下そうが、恐れようが関係ない。


 そもそも、相手は自分に逆らえない、何故なら相手は脆弱だから。

魔物退治を、かつては勇者一行に全て押し付けていたのだから。


 だから何をしても構わない、相手がどんな気持ちになろうが、自分には関係ない。

それが、『弱い者の使命』・・・と、彼は自分自身の中で、勝手に解釈している。




 ___だが、最近のコーコンは、常に満たされない気持ちから解放されない。

何故なら、どの村へ行っても、どの町へ行っても、魔物退治を依頼されないから。


 彼が欲しいのは、表面上の言葉ではなく、どんな低姿勢でもない。

最強の自分を見せびらかし(魔族を退治して)、人々から尊敬される優越感が欲しい、尊敬されたい。

 しかし、そんな彼の望みを叶えてくれる場所は、数年もの間、国中を放浪しても見つからない。


 だから最近のコーコンは、常に『飢えている』

最近では、あまりにも歯切れが悪い民に対し、剣を振るい見せつけて、どうにかして魔族の情報を聞き出そうと(口を割らせようと)躍起になっている。


 それでも、彼が続ける旅路は、悪い方向に転がっていくばかり。以前とは比べ物にならない程。

魔族のいなくなった世界では、武器や刃物は身近な存在ではなくなり、好き好んで持つ人間は『危ない輩』か『専門職人』


「えぇ・・・いやぁ・・・・・」


 町長が言い渋るのは、コーコンが恐ろしいのも一因だが、ここ最近、町の付近で魔族の姿を一切見かけないから。

 そのおかげで、町の経済は潤滑になって、町民もホクホクだったのだが、その矢先に勇者の到来。


 質問をさりげなく受け流す町長の言葉すら耳に入らないコーコンは、しつこく町長に聞き続けた。


「遠慮しないでください!! 私は魔王を倒した勇者、倒せない魔族なんていません!!」


「あ、いえ、そうじゃなくて・・・・・」


「もしお代がなかった際は、『町の観光』でも全然構いません!!」


 その言葉に、町長を含んだ一同が息を呑む。『町の観光』とは、『若い女探し』・・・という意味。


 コーコンの居場所もだが、彼のやり口や弁解の台詞(文句)も、巷で飛び回る噂の中に含まれている。

魔族が消えたことで、『新聞』や『噂』が広まるスピードは速くなった為、対抗できない(はっきり言えない)人間でも、今までどうにか難を逃れる事ができた。

 

 しかし、歪みが酷くなるばかりのコーコンは、もう相手の言葉すら耳に入ってこない。

だから、どうにかこの場を言い逃れようと(町から立ち去らせようと)、必死になる町長の言葉は、彼にとって『虫や動物の鳴き声』と同等。


 行く先々で総スカンを喰らった苛立ちが、ついに表面上に(顔や態度に)現れ始めているコーコン。

その苛立ちが、彼の傍若無人な振る舞いを加速させ、爆弾の導火線はどんどん短くなる一方。

 しかもその爆弾は、ただの爆弾ではない。魔王を倒すほどの力のある、相当危険な爆弾。


 魔族の脅威のない、平和な世界を望んだ誰もが、こんな未来(日常)になるなんて思わなかった、思えなかった。

 あの天下の勇者様が、これほど下衆な人間だとは、誰も思わなかった。


 ___『かつての仲間』であっても。

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