第八章(3) リーフの旋律
「___しょ、い・・・」
「ダメ! わ・・・ね、・・げんと・・に・・られないの。」
「_____ん?」
ウズメが、森の奥深くから、『2人分の声』をキャッチ(聞く)。
ソラとツルキーと一緒に、その声が聞こえる方向を探ってみると、あおあおとした雑草に混じって、『金色』が見え隠れしていた。
『長い耳』と『緑色の瞳』が見えた瞬間、ウズメとツルキーは、相手が『エルフ』だと分かった。
3人で足音を立てないように近寄ってみると、件の目的(子供)とエルフが、押し問答をしていた。
エルフは困惑しているが、子供はエルフの腕を引っ張りながら、村へと向かおうとしている。
その際、子供は村の仲間(ウズメ達)を見つけ、ウズメ達にも懇願する(頼み込む)。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんからも言ってよ!
『リーフ』さんね、怖いから村に来たくないんだって。」
「ちょ、レモン君!!」
心配していた割に、探していた子(レモン君)は意外と元気そうで、ウズメ達は安堵する。
だが、男の子が村に招こうとしているリーフは、今にも逃げ出しそうな体制のまま、固まっていた。
レモン君の様子と、リーフとの会話で、ウズメは男の子になにがあったのか、男の子が何をしたいのかを何察した。
「もしかして、貴女がレモン君を、村まで送ろうとしてくれたの?」
「っ!!!」
リーフはウズメの言葉を聞いた直後、強引にレモン君を振り払い、この場から立ち去ろうとする。
___が、駆け出そうとした途端、リーフは転んでその場(地面)に倒れ込む。
木の根に足が引っかかった様子、村の人間でもよくあるハプニング。
慌ててソラが駆け寄ると、リーフの膝が『真っ青に腫れ上がっている』のを目にした。
彼女の膝を見るなり、ソラはウズメとツルキーを押し除ける勢いで飛びついた。
その勢いに、リーフは情報量の多さにショート(思考停止)。
ソラの心配する目線は、嘘偽りもない、真剣な眼差し。
そんな目で見られては、逃げるわけにもいかない。___それに、膝が痛み始めていた。
「ダメですよ! 無理に歩こうとしたら!!」
「ソラちゃん、この子の怪我は治せそう?
なんなら、俺とウズメちゃんで村まで運ぶけど。」
「うーん・・・・・詳しく見ない限りは・・・」
ウズメはこの機を見逃さず、ツルキーと一緒にリーフを担ぎ上げた。
リーフは村に着くまで、どうにかこの場を切り抜けようと(弁解しようと)、終始何かを口走っていたが、3人は『あえて』聞かない。
リーフをソラの家までワッショイして(運んで)、ソラの診察を受けている間も、リーフは上の空。
その間、一番肝心な件は、母親の元へ帰って行った。
心配しすぎて、情緒が不安定になった母親は、見つかった我が子を怒るやら安心するやらで、2人揃って泣きっぱなし。
幸い、レモン君には怪我一つなかった。
リーフを村に連れてきた事に関して、異議を唱える村人も、ソラの時に比べると、だいぶ少ない。
「あ、あの・・・・・
スライムさん、ありがとう。」
「あ、まだ自己紹介がまだでしたね。私、ソラです。
最近この村で、『お医者さん』・・・とも違うのかな?
ともかくこの村で、皆さんの怪我を手当てしているんです。」
リーフの膝は、ソラの治療によって、あっという間に肌の色が戻った(治癒された)。
その技(ソラの力)を見たリーフは、ウズメ達と同様、興奮しながらソラに感謝の言葉を並べる。
どうやら彼女も、スライムの能力(体質)を知らなかった様子。
そんな彼女の反応を見て、ウズメとツルキーは察した。
魔族は魔族でも、違う種族間との交流はほぼ無い事を。
そうじゃなかったら、違う種族でも(リーフが)そんな反応をするわけない。
分からない事だらけだった魔族界隈の事情が分かる事は、村にとっても大きな情報。
ウズメとツルキーはその件を、ソラの家の外で語り合っていた。今後の村の将来も考えて。
リーフは改めて、治療を施してくれたソラに頭を下げる(お礼を述べる)。
「___なんか、もうどこから驚けばいいのか分からない。」
「気持ちは分かりますけど、このカミノー村にとっては、これが普通なんですよ。」
笑いながらそう言うソラだったが、まだ彼女の言葉が信じられない様子のリーフ。
そんな彼女を見ていると、ソラは自分が森で迷い込んだ時の(まだ村の一員ではなかった)自分を思い出し、まるで『後輩』を見るような目で、リーフと会話をする。
「あなたは・・・リーフさん・・・でいいんですよね?」
「リーフでいい。
で、私を軽々と持ち運んだ女性と男性は・・・恋人か何かか?」
「違うんですけど、あの二人、なんか雰囲気が似てるんですよね。何となくですけど。
ウズメさんに関しては、もう相手が人間でも魔族でもお構いなしに、村へ招いちゃうんですよ。」
「え?! 『招く』?!!」
リーフは驚きながら立ち上がり、驚くソラと、後ろで『熱々のお茶』を持って来たツルキー。
ウズメは『今晩の準備』の為、一旦宿に戻った。
二人が『ちょっとだけ』心配だったツルキーが、女将に頼んで、暖かいお茶を作ってもらった。
___ツルキーは今まで、自分で湯を沸かす事もしてこなかったから(自炊の経験がなかった為)。
振り返った(後ろの気配に気づいた)リーフは、ツルキーを問い詰める。
その圧にちょっとだけ押されそうになるが、ツルキーは彼女を宥めつつ、一つ一つ丁寧に答えた。
「で、でも、どうしてそんな・・・・・
あなたたち人間にとって、魔族は敵視すべき存在の筈なのに・・・」
「それはもう『過去の時代』の話だよ。
___まぁ、俺もあんまり、こうゆう事を言える立場じゃないんだけどさ。
ウズメちゃんの考え(方針)に、俺たちも賛同した、ただそれだけだよ。
まだまだ魔族と人間の間にある隔たり(壁)は、高くてなかなか消えるようなものでもないよ。
これから何十年、何百年とかかるかもしれない。」
「それなら尚更、どうして・・・・・」
「それでも、やっぱりいつまでも、ズルズル暗い記憶(歴史)を引きずるべきじゃないよ。」
「___それで貴方は、本当に納得できるの(ウズメさんに賛同できるの)?」
「_____まぁ、少々むず痒いところもあるよ、俺も一応、昔は兵士だったからね。
でもね、そんなむず痒さは、ウズメちゃんに賛同しなくても反対していても、結局は残ると思うんだ
よね。
それに、まだ魔族と敵対したままだったら、むず痒さが、『痛み』に変わっていたかもしれない。
今までも散々、心身ともに痛い思いをしてきたのに、これ以上はもう、勘弁なんだよ。
君だってそうじゃない?」
「それは・・・・・」
「___それに、俺たちがこうして歪みあったままだと、これから先の未来を生きる子供たちに、申し
訳ない。」
ツルキーが目配せした窓には、ソラの時と同様、村に住む子供たちが、恐れる様子もなく(興味津々に)リーフを観察していた。
子供たちの顔からは、[早くお話ししてみたい・・・!!!]という思考が滲み出ている。
人間の美しさとはまた違う、『綺麗』とも『美しい』とも例えられるその魅力は、村の大人も惹きつける魅力がある。
同じ魔族でも、スライムとは違うエルフの魅力は、ソラの家の前をモミクチャ状態にする程。
リーフはそんな子供たちの視線があまりにも眩しかった(熱々だった)のか、顔を真っ赤にさせながら目を逸らす。
もう既に彼女の名前が村中に広まっていて、外から彼女の名前を呼ぶ声に、ついつい反応し(振り向き)つつ、また窓を見ては目を逸らす・・・の繰り返し。
そして、群衆の後ろでは、『肩車』を披露しているヒスイとミラに、リーフは不意打ちを喰らって笑ってしまう(吹き出す)。
彼女が笑ってしまったのは、『相方を担いでいる側(下の人間)』が、どう見ても担がれている側(上の人間)よりも体格の小さいミラだったから。
子供たちは、そんな雑技団顔負けの技を披露するミラとヒスイに、拍手して応援する始末。
今日は村の中が、いつもより一段と賑やかで、毎日村を覗き見て来る野性動物すら見当たらない。
ミラは余裕な表情を見せていたものの、何故周囲がそこまで大爆笑しているにか分からない様子。
ヒスイに関しては、顔を赤くしつつ、ソラの家の中を窺う(当初の目的は忘れない)。
最初はミラを担ぎ上げようとしていたのに、ミラがあまりにも軽々と(有無を言わさず)自分を持ち上げてしまった為、もう降りる気も失せてしまった。
そんな窓の窓の外に気を取られながらも(もっと肩車する二人を見ていたい気持ちを抑え)、ツルキーはリーフの警戒心が完全に解けてくれた事が分かると、そそくさとソラの家から出て行ってしまう。




