表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/101

第八章(4) リーフの旋律

「_____彼は本当に、元・兵士だった・・・のか?」


「そうみたいですよ。まぁ、あんまり詳しい話は聞いていませんけど。

 彼も彼で、辛い思いを散々経験して来たみたいで、聞くのが少し怖い・・・というか・・・」


「貴方はそれで本当に大丈夫なの?!

 いつ命を狙われるか分からない極限状態と同じじゃないの?!」


 リーフは、至って真剣な(切羽詰まる)眼差しで、ソラを問い詰める。

だが、当の本人は、割とのほほんとした雰囲気を崩さず(慌てず焦らず)、この村の魅力を語る。


「ツルキーさんは、私の言葉を一度も疑う事もなければ、何かあれば駆けつけてくれる。

 ___ツルキーさんだけじゃありません、村人全員が『家族』のような存在なんです。

 

 そりゃ・・・最初は警戒されましたよ、色んな人から。でも、それは仕方ない事だと思ってます。

 ___私が直接人間に危害を加えた事はありませんが、村人たちのなかには、魔族によって人生を狂

 わされてしまった人の話を、時折聞きます。

 

 そんな人たちの悲痛を考えると、警戒されるのは当然だと思うんです。」


「_____私は、住んでいた森を人間に踏み荒らされた。それで家族と、離れ離れになった。

 もう100年以上くらい前の話だけど、あの時の事は、まだ忘れてない(覚えてる)わ。」 


「そっか、そうなんですか・・・・・



 じゃあ、貴女とレモン君が出逢った、あの森はどうですか?

 昔住んでいたあなたのふるさとに、似ていますか?」


「___あの時の私は、まだ幼かったから、故郷の正確な場所については分からない。

 でもこの村の奥にある森は、すごく良いと思った・・・から、思わず入っちゃったの。

 空気も澄んで、木々や草花が生き生きとしている。動物も虫も、自由に暮らしている。」


「でも数年前まで、あの森には人が入れないくらい、危険な場所だったんですって。

 木々が生えすぎて、光が差し込まないから、『野蛮な魔族や人間』の棲家だったみたいです。」


「___じゃあ、あの森を作ったのは、人間・・・って事?」


 リーフがふと、窓の外に目を向けると、いつの間にか村人たちの姿が消えていた。

よく見てみると、向こう側で、いつの間にか肩車をやめたヒスイとミラが、村人を窓から遠ざけている。

 ソラとリーフが、真剣な話をしているのを察した二人が、ソラ達の邪魔をしないように気を遣った。

その行為(光景)を見て、またリーフは笑ってしまった。


 村に来たばかりのソラには理解できなかったが、人間社会(村)に馴染んでいる今のソラは、二人の行動(気遣い)の意味が理解できる。

 そしてリーフもまた、『人間の絶妙で複雑な気遣い』が理解できている様子。


「___そっか、村が素敵な場所だから、森も素敵になるんだ。

 魔族に対して、こんな思いやりができるなんて、村の人全員が、崇高な人徳者に見える。」


「皆とっても良い人たちばかりですよ。

 時にはトラブルになったりもしますけど、『流血沙汰』にはならないので。」


「すんなりおっかない言葉を口にするのね・・・・・・」


「村での仕事に、怪我はとっても身近な存在なんですよ。

 今まで私がいなかった村では、ちょっとの怪我で命を落としてしまう事も多かったそうです。」


「まぁ・・・それは仕方ないわよ、人間は私たち魔族とは違って、怪我にも病気にも弱いんだから。」


「だから皆、周りの住民に声をかけ合いながら、自分も気をつけている。

 そして仕事を助ける道具も丁寧に扱う姿勢は、目上の人を敬う姿勢そのものなんです。

 弱いからこそ、できる事をできる限りやってみる。それが人間の良さの一つだと思うんです。 


 村での生活は、毎日発見だらけで、まだちょっとよく分からない事もしばしばあるんですけど、その

 度に色んな人から助けて(教えて)もらっているんです。

 [面倒だな・・・]と思う事も色々ありますけど、それでも私がこの村に住み続けているのは、やっ

 ぱりこの村が好きだから・・・なんでしょうね。」


 ソラは、村での生活を詳細に語る。

皆とは違う(人間ではない魔族の)自分を受け入れてくれた村での生活は、一体どんなものなのか。

 普段はどんな生活なのか、ソラはどんな仕事をしているのか、最近勉強した事・・・等。


 もちろん、良い事ばかりというわけでもなく、時には胸が苦しくなるような出来事も起きる。

それでも、ソラにとっては、一緒に悩みを共有してくれる存在のありがたさを、しみじみ感じていた。


 今まで一人ぼっちで(孤独に)過ごしてきたソラにとっては、どんな些細な事でも、新鮮そのもの。

リーフはそんな彼女の話(自分語り)を、頷きながら聞き続ける。

 いつの間にか、問い詰めるのも忘れるほど、ソラは生き生きと、村での生活を語ってくれた。





 何だかんだ、二人で話し合っていると、もう日が完全に隠れ、『黄色い弓』が夜空に浮かんでいる。

語り続けるソラと、話を聞き続けるリーフは、自分たちのお腹が空腹を訴えているのも忘れ、このひと時を楽しんでいた。


 二人の会話が途切れたのは、向かいの家の松明の灯火が、ソラの視界に入った頃だった。


「___なんかごめんなさい、私ばっかり話しちゃって・・・」


「いいえ、いいんですよ。貴女の話を聞いて、もうこの村を疑うのはやめました。」


「それは良かったです!」


「それにしても、まさか魔族の力を逆に利用しようとする人がいるなんて・・・・・

 『命知らず』とも言えるし、『好奇心旺盛』とも言えるし。


 ___きっと、そんな人間だから、魔族の長(魔王)に勝ったんでしょうね。

 まぁ、私は魔王なんて知らないし、言葉だけ聞いただけだから、よく分からないけど。」


「私も、ウズメさんの話を聞いて、魔王の存在を初めて知ったんです。

 魔王について書かれている本は、いくつか『廃墟』で見つけたんですけど、『御伽話』くらい、大昔の 

 話だと思ってました・・・・・




 ___あっ、そろそろ始まる時間かも!」


「え? 何が?」


 ソラが目を向けた先にある宿には、いつの間にか、宿の扉から溢れるほどの人だかりが。

宿は昼間の数倍も賑やかになり、『口笛』や『歓声』も聞こえてくる。


 ソラはリーフを連れて、宿へと向かう。もうすぐ、『この村一番の目玉』が登場するから。

二人は人混みをかき分けて宿の中へ入ると、既にホールは人でいっぱい。美味しい匂いが立ち込める。

 一体どこにこんな大勢の人間がいたのか、不思議に思える程の人で溢れていた。

そして二人を見かけたミラが、2人を『あらかじめ開けておいた席』へ誘導して、料理を提供する。


 リーフはお皿いっぱいの料理に、目を輝かせながら(感動しながら)味わっていた。

村に来たばかりのソラと同じく、なかなか良い食い付きっぷりの(料理に夢中な)リーフに、ミラは追加で色々持ってきてしまう。


「リーフさん・・・ですよね? 私、ミラっていいます。

 普段はポスターの制作をしてるんですけど、夜は宿のお手伝いをしてるんです。


 何か好きな食材とか、食べられない食材はありますか?」


「そこまで気を遣ってくれなくてもいいよ、もう・・・全部美味しい!!!」


「ふふふっ、ありがとうございます。」


「それにしても、人が作る料理が、こんなに美味しいなんて・・・!!!」


「この村は気候にも土壌にも恵まれているので、冗談抜きでこの村に住んでいると、病気ひとつ罹らな

 いんです。

 国の中心地である城下町の食事も、私は何度か口にしたんですけど、村の食事に慣れてしまうと、な

 んだか不味かった気が・・・・・」



 ドォン!!!


 ミラとリーフが話し込んでいると、ミラの後ろで大きな音がする。

その直前に、彼女の真後ろに槍が落ちてきたのを目にしたリーフは、椅子に座ったまま飛び上がった。

 リーフはてっきり、人間が攻撃を仕掛けてきたと思っている様子に、ソラは『宿の2階』を指差す。

この大きな音が、ウズメの舞が始まる合図であり、観客が一斉に口を閉ざすように促してもいる。


 2階から軽やかに飛び降りたウズメは、いつも通り、石突に着地。

ウズメが飛び降りた直後に慌てかけたリーフだったが、そのまま石突きの上で踊り始めたウズメを見て、宿は歓声の渦に包まれる(大盛り上がり)。


 彼女が廻る(踊る)度に、身につけた衣装が灯りに照らされ、まるで『日光を乱反射する粉雪』を纏っているようにも見える。

 ウズメの踊りに目を奪われた(感動する)リーフだったが、同時に彼女は本当に人間なのか、本気で疑ってしまう。


 確かに、常人では決してできないような動き(舞い)は、いくら人間より体幹のあるエルフ(リーフ)でも、『真似できる』とかの次元ではない。

 一歩間違えれば大怪我は免れない体制のまま舞い続けているウズメの度胸は、何度も目にしているヒスイやミラでも、毎回ヒヤヒヤ(心配)している。




 だが、こんなに素晴らしい舞いにも、『足りないもの』がある事に気づいたリーフ。

つい夢中になって(ウズメから目が離せず)、一歩も動けなかったリーフだったが、『ソレ』に気づいたと同時に、無意識に『自分の数少ない荷物』を漁る。


 人間よりも長寿なエルフが、『数百年』という長い旅路で、リーフがずっと手放さなかった物。

それは、かつて両親から譲ってもらった物。

 つまり、彼女が生まれる前に制作された物(数百年・数千年物)。


 リーフは『ソレ』を抱えると、ウズメが踊る舞台の真横に立ち、『調節』をした後・・・・・


 ___♪ ___♪ _______♪


 ___♪ ___♪ _______♪


「___ん? なんだ?」 


「『楽器』? にしては、すごい・・・・・」


「あ、あの姉ちゃんが奏でてるのか・・・・・!!」


 ウズメも、いつもは聞こえないような『凛とした音』に、ついダンスを中断してしまう。

全員の視線が自分に向けられた事を察知したリーフは、『エルフが一人に一つは持っている楽器』を奏でながら、舞台に姿を現す(登る)。


 エルフは魔族の中で、社会性に優れている(群れで生活するのが当然の)種族であり、家系に伝わる楽器を、子孫へと受け継いでいく風習がある。

 リーフが親から引き継いだ楽器は、そのあたりの木材からは作れない、特別な素材で作られた『ヴァイオリン』


 素材も特別だが、その音色も、人間が作る楽器(音色)とはまた違う。

『楽器』のように、同じような音が奏でられているのではなく、同じ音程でも毎回違うように聞こえる『自然の音』に等しい。


 それは『川のせせらぎ』のようにも、『木々のなびき』のようにも聞こえる。

時間・季節・天候によって、自然の音色は変わり続ける。しかし、その音には飽きがない。

 同じ森・同じ海・同じ山・同じ川から聞こえる音も、その一瞬一瞬にしか奏でられない音色がある。

それを、リーフの楽器は忠実に再現している(奏でている)。




 とにかく口では言い表せないその音色は、ウズメでも耳にした事はない。

そもそも、エルフの生態系も、習慣も知らなかったウズメ。

 だから誰もが、そんな音色が楽器から奏でられているものだとは思わなかった。

同じくツルキーでも、楽器の音色とリーフのテクニックに、絶えず飲んでいた酒のグラスを止める。


 あまりにも皆が静かに聞いていた(ウズメがいつまで経っても踊りを再開しない)為、リーフはウズメに目配せする

 [私が盛り上げるから、踊り続けて!]と、目線で訴えて。


 そんな彼女の期待(目線)に応えるように、ウズメはヴァイオリンの独特な音色に合わせ、再び石突の上に飛び乗る(舞を仕切り直す)。

 打ち合わせ(練習)をしたわけでもないにも関わらず、お互いの調子を合わせながら、魅せる踊りと演奏で、宿にいる全員の心を鷲掴みにする。


 リーフの伴奏が入る事で、もう観客が手拍子でリズムを刻む必要がなくなったものの、観客は手を叩くのをやめない。

 それは、今にも弾けそうな(抑えられない)感情からくる、無意識の手拍子。

今夜の宿は、いつもより一層賑やかになり、観客の歓声も、いつも以上に盛大な夜になった。




 そして、この村に、また新たな『仲間(移住者)』が加わったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ