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第八章(2) リーフの旋律

「___あ、見て見て。」


 ヒスイが指差しているのはソラの診療所(家)・・・ではなく、ドアの隙間から、村の中央を覗き見ている(観察する)ソラ本人。

 何故彼女がそんな事を(家でコソコソ)しているのか、それは彼女の目線の先にあった。


 村の中央では、ウズメと同い年に見える若い商人が、せっせと村人たちに商品を売り込んでいる。

その若い商人も、ソラの視線に気づいているのか、時折視線をソラの家に向けては、ドアが閉まる・・・を繰り返していた。


 モジモジしているソラの意図に気付いたウズメは、宿を飛び出し、ソラの元(家)に駆けつける。

宿の2階からでは見えなかったが、ソラは手に『ヒスイが作ってくれた財布』を握り締めていた。


 ソラがずっと躊躇していた事、それは、周囲の村人たちと同じように、『買い物』がしたかった。


 ただ、やはりまだ魔族に対しての警戒が濃い人(観光客)は、ソラにとっても恐怖の対象。

自分のせいで、平穏な村に騒ぎが起きてしまわないように(迷惑がかからないように)という、彼女なりの配慮が、彼女を挙動不審にさせていた(ソラの意思を留める)。


 しかしウズメは、その若い商人を見て、彼ならソラの丁寧な仕草や言葉遣いを見れば、商品を売ってくれると思った。

 ___確証はないが、そんな気がした、ただそれだけ。


「ソラ、私も一緒に行くからさ、何か買い物しようよ。」


「えっ・・・?」


「せっかく旅商人が来てくれたんだよ、次いつ来てくれるか分からないんだから、今のうちに買っておか

 ないと、後で後悔するよ。」


「___じゃあ、ちょっと待っててください。」


 そう言うと、ソラはドアの横にかけておいたローブを手に取り、顔を隠すように、深々と被った。

___が、ドアの向こうにいる商人は、ソラが人間ではない(スライムである)事に気づいている。

 気づいていなかったら(ソラが人間だと思っていたら)、彼自ら、ソラのもとへ歩み寄っている筈。

彼が一歩を踏み出せない理由は、相手がまだよく(話しかけていいのか)分かっていないから。


 だが、実際に面と向き合い、一言二言会話をするだけで、若い商人はすぐに営業スタイル(スマイル)に切り替わる。

 ソラはまだ緊張しながらも、ウズメと一緒に買い物を楽しんでいた(お金の使い方を勉強している)。

その表情は、まるで『初めてお小遣いで買い物をする女の子』のようで、若い商人は見入ってしまう。



「えーっと・・・ホウキ一本と、チリトリ一個と、紙50枚で、合計・・・」


「こ、これで足りますかぁ?!!」


 自分で買った商品にホクホクしながらも、全財産を商人に見せつけるソラには、ウズメと商人が笑いながら説明を加える。

 そんなソラを、若い商人は、相当気に入った様子で、おまけで『ハンカチ』までサービスしていた。


「え?! こんなに良い品を・・・いいんですか?!」


「いいのいいの、記念に貰ってよ。

 それにしても、なんか鼻が高い(胸を張れる)なぁ。俺、魔族にも商売できたんだから。」


「確かに、きちんとお金を払って商品を買う魔族は、ソラが史上初なんじゃない?」


 ソラは顔を真っ赤にさせながら、買った商品を抱えて、足早に家へと帰ってしまう。

そんな彼女の様子を、若い商人は心配していたものの、「嬉しくてしょうがないだけですよ」とウズメが解釈すると、安心する商人。


「此処が良い村だから、ソラさんは自分の家を持てるん(村に馴染めている)ですね。

 羨ましいくらいだよ、本気で。


 ___俺、この村に移住して、村で収穫した野菜を、城下町へ売りに行く仕事でもしようかな。

 ちっちゃい時から、この荷車と一緒に過ごしてたけど、そろそろ旅も飽きちゃったし。」


「『可愛い医師』もいますよ。」


「_______住む、此処に。」


 若い商人は、窓から見える、家の中で購入した商品を持ってはしゃいでいる(達成感に浸る)ソラの姿から、目が離せない様子。


 村に来る人によっては、「魔族がいるのはちょっと・・・」と言って、宿泊を断る人もいる。

しかし、ソラが気になっている若い商人のように、積極的に声をかけてくれる人もいる。

 なかには『好奇心』で声をかける旅人もいるが、そんな相手にも、ソラはしっかり対応する(様々な質問に答える)。


 だから、自然とソラは人間との関わり方を学び、村に来る人々の価値観も、どんどん変わっていく。

若い商人も言っていたが、人間社会に馴染むだけではなく、売買の礼儀作法(流れ)もしっかりマスターしている魔族なんて、もう人間と区別がつかなくても仕方ない(同じ)。


「貴方みたいな人が移住してくれると、私も嬉しいです。

 咄嗟の行動ではありましたが、ソラをこの村に招いて、本当に良かったと思えます。

 これからも、ソラをよろしくお願いします。」


「___あなた彼女の『お母さん』ですか?」


「まだ『彼氏』すら作れない私に対して、その発言ですか・・・・・

 まぁ・・・・・『責任感』・・・というものですよ。」


「___確かによく考えると、貴女はかなり大胆な行動力ですよね。

 過去に何かやってたんですか?」


「_____別に何も。」


 もう戦いたくないウズメ自身が行動に移した(ソラを村に招いた)事で、村だけではなく、村を訪れる人々にも変化をもたらしている。


 商人とソラが、楽しそうに会話をしている姿を、遠目で観察していた井戸端会議中の主婦の1人が、こんな言葉を呟いた。


「もしかして、ソラちゃんみたいに、人間社会(私たちの生活)に馴染もうとする魔族って、実は他に

 もいたりして・・・?」




 ___数時間後には、その発言が現実になるとも知らずに。






「レモーン!!! レモーン!!!

 レモン、何処なのー?!!」


 森の奥で、必死に名前を呼ぶ(叫ぶ)女の人の声が、村へ微かに響いてくる。

その声に気づいたソラが家から出てくると、ウズメと二人で、声が聞こえた方(森の奥)へと向かう。

 女のSOS(呼び声)が聞こえたのはウズメとソラだけではなかった様子で、ウズメの後ろから、ゾロゾロと村人が列を成す(ついてくる)。


 数分も歩かないうちに、声の主(女性)が切り株の上に座り込んでいる(疲弊している)姿を発見。

女性は、女手一つで子供を育てている、村人の1人。

 息を切らし(もう歩けない)ながらも、まだ辺りをキョロキョロと見渡している(探している)。

そして、ウズメ達の聞き間違いでなければ、それは女性の一人娘の名。


 母親がパニックになっている(疲れ果てている)理由は想定できるが、念の為ウズメが「どうしたんですか?」と声をかけると、女性は泣き崩れるように、ウズメへ寄りかかる。

 相当長い時間、森の奥を彷徨っていたのか、ウズメに寄りかかったまま動けない様子の女性。

枯れかけた声で、ウズメに今の状況(何が起きたのか)を簡潔に説明する。


「む、息子が・・・・・私の代わりに、森へキノコを採りに行ったんですけど・・・

 全然戻ってくる気配がなくて・・・」


「分かりました、私達で手分けして探しますので、お母さんは一旦お家に・・・」


「いいえ!! 私も探します!!!

 だってあの子は、亡き夫との・・・・・ゲホッ!!! ゲホッ!!!」


 今にも倒れそうな母親だが、ウズメの体を意地でも離さない(捜索を続けたい)様子に、折れたウズメと一緒に捜索する。

 とにかく日が暮れる前に探し出さないと、夜の森はとにかく寒い上に、視界も悪くなる。


 傷跡を治せるを治せるソラでも、『体の内側で起こる異変(風邪・病気)』には対応できない。

長年この村に住んでいる人でも、夜の森に足を踏み入れれば、翌朝まで見つからない。

 つまり、早く見つけ出さないと、探す側(ウズメ達)の身も危うくなる。


 だが、村人たちも協力して探し始めた時点で、もう太陽が傾きつつある(夕暮れ間近)。

後から合流したツルキーも、気迫のある大声を出しながら、懸命に草をかき分ける(子供探す)。

 『諦めムード』にはならないよう、各々が必死で探し続けた。

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