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第八章(1) リーフの旋律

「___ウズメ、ちょっと・・・・・手伝ってくれる?」


「ん? どうしたの、ヒスイ・・・・って、えぇ?!!

 何その大量の武器と防具?!!」


 ウズメの目に飛び込んできたのは、全身を防具や武器で固めた亀の様に背負いながら、虫の息で必死に宿(作業場)へ戻ろうとするヒスイの姿。

 一瞬そんなヒスイの姿に笑いかけたウズメだったが、涙に見えるほど大量の汗を流しているヒスイの表情に、慌てて背負っていた防具の一部を受け持つ。


 ウズメが受け持った量だけでも、防具を着慣れているウズメが重く感じる程の量。

ウズメはちょっと怒り気味に、この大量の防具の説明を求める。

 もしウズメが助けなかったら(宿の前にいなかったら)、ヒスイは大量の防具に潰されて、ペチャンコになっていたかもしれない。


 しかし、そんなウズメとは対照的に、大量に素材(防具)を手に入れて、喜んでいる様子のヒスイ。

苦しそうに階段を這いながら(登りながら)、次回作(新しい衣装)への意欲を嬉々として語る。


「まったく・・・買うのはいいけど、私を呼んでよ。びっくりしたじゃない。」


「いやぁ・・・かなり安く売ってくれたから。これで次の衣装が2・3着は作れそうね。」


「いや、そうじゃなくてさぁ・・・・・」


「あ、ミラは今、画材を見てるみたい。

 ただ、どうやって買えばいいのか分からないみたいだから、様子を見に行ってくれない?」


「おぉ、お買い物するミラ、見てみたい・・・・・


 というか、買うならもうちょっと加減しなさいって。よくこんな大量に買えたね。」


「だって・・・・・商人さんが困ってたみたいだし・・・」


「『困ってた』?? 何に??」


 二人でヒスイの部屋の床にまとめたのだが、重すぎて床が壊れそう(抜けそう)だった為、とりあえず一階にも分けて保管する事に。

 その量を見た主人と女将は、興味津々でお古の(始めて見る)防具や武器を眺めていた。


 武器はほぼ刃こぼれして、武器として使えても『鈍器』くらいにしかなりそうにない。

防具の欠損が特に激しく、なかには防具だったのかも分からないくらい、粉々寸前の物も。

 それらを見たウズメは、商人が困っていた(ヒスイに全部売った)理由が理解できた。

こんな物を求めるのは、せいぜい素材(金属)が欲しい鍛治師や装飾師。


「なんかね、こうゆうボロボロなのはともかく、城下町ではもう、武器や防具はほぼ売れないみたい。

 どんなに安価にしても、別の場所(村・町)で売り出しても、なかなか売れないから。

 だから城下町の鍛冶屋も、ほぼほぼ赤字なんだってさ。」


「なら、もう防具とか武器以外の商品で頑張る(商売する)しかないのね。」


「その影響で、鉄の塊一握りでもケチる(値切る)鍛冶屋が増えてきたから、商人としても困り果ててた

 んだって。

 武器や防具なら、値切り交渉は許容範囲だったけど、素材は難しいみたい。


 一部の鍛冶屋からは「もう只でよこせ!!」って言ってるみたいだけど、そうもいかないじゃない?」


「まぁね、鍛冶屋にも生活があるように、商人にも生活があるもんね。

 いくら安価だからって、『只』と『安価』を一緒にされたくない気持ちも分かる。」 


「だからね、素材になるようなガラクタは、もう持っているだけでトラブルにしかならないんだって。

 商人さんも、当初は死守してきたんだけど、安価な物にそこまで執着するよりは、もっと新しい商品を 

 売り出したいみたい。」


「___つまりヒスイは、『処分セール』に惹かれちゃったのね。」


「え? 何?? 『しょぶん』???」


「あぁ、いいのいいの、ただの独り言。」


「___ウズメの独り言って、時々『よく分からない言葉』が混じってるよね。

 別の国の言語?」


「ま、まぁ・・・・・うん・・・間違ってはいない。」

 

 ウズメは心の中で、(『国』どころの違いじゃないんだけどなぁー・・・)と思いつつ、せっせと整理を手伝う。




 ウズメが思い出した前世の光景は、中学生時代。

お店の存在感が薄い田舎では、買い物をするのも一苦労。品数も少ない上に、種類もない。

 特に学生(子供)は、クラスメイトとは違う文房具や雑貨を持っている事が、一種の『ステータス』のようなものだった。

 

 だから月に1回のペースで、家族と町の大型ショッピングモールに、幼い頃から舞を連れて行くのが恒例だった。

 大型ショッピングモールに行けば、何でも揃う、子供が遊べる設備も盛り沢山。

だから舞にとって、その月一の楽しみ(お出かけ)の為に、勉強や親の手伝いを頑張っていた。


 そして、並んでいるお店の真ん前には、よく『SALE』という売り出し文句が張られているワゴンが設置されていた。

 中にあるものは、大抵『流行が過ぎて売れなくなったもの』


 それは物に限った話ではない、『食べ物』でも、『服』でも、流行が過ぎれば誰も手に取らない。

お店側もずっと店内に置いておくわけにはいかない為、値段を下げてでも、強引にでも売り出す。

 


 そんなお店の策略を、総じて『処分セール』『棚卸しセール』と呼んでいる。



「___いやね、さっきヒスイが言っていたイザコザをどうにかする為にも、このガラクタ達を処分した

 かったから、イザコザが起こらないこの村で全部売る事にしたのかなー・・・ってね。」


「成程なー・・・・・

 というか、城下町から来ている観光客も結構多いけど、最近の城下町、けっこう混沌としてない??」


 カミノー村に来てから、まだ3人は城下町に足を踏み入れてはいない(行ってない)。

だが、村に来る人(旅人・商人)との会話から、その内情(城下町の変化)が垣間見える。

 

 ひと昔前までは、鍛治職人はまさに『稼げる職業』の定番であった。

将来、自分の店を持つ為(お金持ちになる為)、弟子入りする鍛治見習いもいた程。

 まだ学校に行くような歳でも(幼くひ弱ながらも)、手を真っ黒にさせながら、炉と睨み合っている(修行している)子供がいるのは、当たり前だった。


 その価値観自体が変わってくると、物の需要も大きく変わっていく。

これに巻き込まれていない(関係のない)人間は、ほぼいない。

 何故なら人間は、生きるために稼がなければいけない。稼ぐ為には、仕事を選ぶのも重要。

ならば、多少冷酷な手段だとしても、選ぶしかない。そうしないと、生きられない。


 『物理的な死』が身近にあったウズメにとっては、『社会的な死』が軽く見えた時期もあった。

だが、今ではウズメも、『社会的な死』を恐れる一般人(『物理的な死』が遠くなった)。

 だから。あれこれ踊りの種類やポーズを変えて、見てくれる人が絶えないように努力している。


「なんか最近は、『旅グッズ』が飛ぶように売れてるみたいで、お高めの物からお手製のものまで、と

 にかく在庫がないみたい。

 その代わりに下落したのが、武器や防具・・・って事。


 あ、あと城下町に『移住する人』と『地方で暮らす人』で、役所はだいぶバタバタしてるみたい。」


「カミノー村の住民も増えたからね、村の何倍も大きい城下町の方は何倍も大変だよ。

 ___あ、そうそう、ミラの所にも行かないと・・・・・」


 ウズメがヒスイの部屋から出ると、跳ねるような軽やかな足音が、部屋へ近づいている。

足音の主は、立派な『イーゼル』を持ち、鼻息を荒くしている(興奮気味な)ミラ。

 今までミラは、地面や床の上に紙を置いて描いていたのだが、これで腰や首を痛めずに絵が描ける。


「おぉー! ミラもなかなか良い買い物してるじゃん!!」


「ひ、ヒスイさん・・・・・これ1人でどうにか(処理)できるんですか?」


「まぁ腐る物でもないし、大丈夫大丈夫!!」

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