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第二章(1) カミノー村

「えーっと・・・・・

 確かここの道を曲がって・・・・・


 って、え?? もうちょっと先だったっけ・・・???


 森を彷徨う(村を探す)こと、およそ数時間。

ウズメは辺りをキョロキョロしながら、頑張って『古びた(ボロボロの)地図』と睨めっこ。

 その様子を見て、ヒスイもミラも顔を見合わせながら失笑・失望するしかない。


 村に向かう前に、準備万端にした『つもり』だった・・・

しかし、ウズメの貧乏性(勿体無い精神)は、魔王を倒した後も治らなかった。

 今まで使っていた地図を、勇者から譲ってもらったのだが、手垢や目印だらけで今にも千切れそう。

ヒスイがブツブツと文句を言ってしまうのも仕方ないくらい、地図が役目を果たしているのか怪しい。


「___というか、王様から山ほどもらったお金、なんでケチって新しい地図買わないのよ。」


「別にこの地図を使い続けてもいいでしょ、地形が大幅に変わったわけでもないし。」


「文字が霞んで見えなくなってる時点で、地図としての役目は果たしてないでしょ!!

 はぁ・・・・・せめて出発する前にでも、新しいブーツでも買っておくべきだったか・・・」


「ミラ、ごめんね。荷物色々持たせちゃって・・・」


「いいえ、これが私の仕事ですから。

 と、とにかくウズメさんは探してください・・・」


 勇者一行(6人分)の荷物を背負っていた頃と比べると、ミラの顔にも余裕が出てきている。

それもそのはず、ミラが背負っている荷物は、お金とちょっとした日用品くらい。


 一行が野営するための道具は、もう必要なくなって捨ててしまった。

もう野営をする必要もないし、かなりボロボロになっている。


 軽い足取りで(身軽に)移動できるのが、ミラにとってはこの上なく嬉しい様子。

道に迷いながらも、周囲を見回して景色(森林)を眺めているミラ。


 ヒスイも、背中が重くないのが違和感なのか、時折自分の背中を見るために振り返っている。

大きな荷物を背負っていた頃は、暑さで背中が汗でべっちょりして、不快感と重量感に耐えていた。


 そんな日常から解放された二人は、今更になって、それがまた気持ち悪くなる。

まるで、『定年で仕事を辞めてしまった人』のように。


「あともうちょっとで着く・・・・・筈だから、二人とも、もうちょっと頑張って!」


「はぁー、ウズメは本当に相変わらずね。」


「そうですね、魔王を倒した後も、いつものウズメさんです。




 _____ん? 二人とも、あれって・・・???」


 ミラが指差した方向が、かなり開けていた。そして、遠くの方で、『木造の建物』が見える。

それに気づいたと同時に、三人は駆け足で森を抜け、ようやくカミノー村(目的地)に着く。


 カミノー村は、一行が以前来た(助けてもらった)時とほぼ変わらず。

あまり人の往来がなく、家もだいぶ年季が入っている。

 村へと続く道も、まともに整備されておらず、村民の服装もだいぶ貧しい。

これこそ『ザ・田舎』


 それでも、三人にとっては、この村に『命を救われた』、大切な場所。

3人が村へ駆け寄ると、数人の村人が気付き、大いに迎える。

 ___いや、森で『若い女性の声』が聞こえていたのは気付いていた。

全員ではないものの、様子を見に来た村人の数人が、3人の顔を覚えていた様子。


「あらー!! あなた達、勇者一行にいた子でしょ?!」


「こんな小さくてか弱い体で、よくこんなど田舎まで来てくれたなぁー!」


 ___だが、3人の『名前』を言ってくれる村人は、『今のところ』誰もいない。

『勇者一行の一員』としてのイメージが濃く、話も魔王に関する事ばかり。


 3人の中で、当時の話ができるのはウズメくらい。

他の二人は、自分の身を守る(隠れる)だけで必死だったから。

 だから語れない二人の代わりに、ウズメが村民全員の相手(質問返し)をする。


「やっぱり魔王って、相当強かったんか?!」


「そりゃもちろん!

 だから長年、国を悩ませてきたんですから。」


「かなりの時間を要したって話ですけど、まさか1日中ずっと戦い続けたんですか?!」


「そこら辺は・・・覚えてないですねぇ。

 もう、戦うだけで必死だったので。」


「こんな小さい小娘に、よくそんな偉業が為せたもんだ!!」


「それは本当・・・自分でも信じられませんよ。」


 ウズメが村人全員の質問攻めに応対(返答)している間、二人はお世話になった『宿』を探す。

以前足を踏み入れた際は、二人ともかなり動揺していた為、村の何処に何があるのか分からない。

 

 以前は『勇者の側から離れる事は厳禁』という暗黙のルールに縛られていた二人。

だが、今はその恐ろしい雇い主はいない。二人きりで、どこへ行っても自由。

 ようやく二人も、この村を思う存分に観光できる(しっかり覚えられる)。


「なんか・・・不思議な気分です。こうしてヒスイさんと、二人きりで歩くなんて。」


「そうゆう話は禁止。せっかく村に来れたんだから、さっさと宿を見つけて休もうよ。」


 二人に課せられた『雇い主のルール』は、とにかく多かったものの、端的に言えば


『自分の命令以外の行動はとらない事。

 もし約束を破った場合は、罰も覚悟する事。』


 彼の傍から離れる事だけではなく、責務(雑用)を放棄する事はもちろんNG。

そして、二人は武器どころか、『刃物』を持つことも禁じられた。

 理由については、雇い主によって違うものの、ウズメは何となく察していた。


 勇者コーコンが二人に刃物を持たせないのは、『裏切り(反逆)』を防ぐため。

___つまり、コーコン自身も、二人に酷い待遇を強いている自覚(罪悪感)があるのだ。

 それでも尚、二人への当たりが強いのには、さすがにウズメも呆れるしかない。


 旅の道中、ミラが一度だけ、勇者が棚の上に放置した『短剣』を、手に持ったことがあった。

本当に手にしただけで、鞘から抜いたわけでもなければ、人に向けたわけでもない。

 ___しかし、それを目撃した勇者は、ミラを平手打ちした。


 現場はウズメも目撃していた為、彼女は慌ててミラをコーコンから引き離す。

腫れてしまったミラの頬は井戸水(冷水)で冷やしてあげた為、ミラの柔らかい頬は元通りになった。

 その後、ウズメは勇者から散々皮肉を言われたが、『いつもの事』なので、『いつも通り』にスルー。

ミラはしばらく、勇者に対して謝罪の言葉を繰り返していたが、彼は聞く耳すら持ってくれなかった。


 ミラはただ単に、勇者が持ち忘れた忘れ物を届けようとしただけ。

彼はミラの言い分を一切聞かず、一方的に彼女を痛めつけておいて、傷にならなかったミラの頬を恨めしく睨んでいた。


 その一件以来、ミラもヒスイも、決して武器を手にしないように、細心の注意を払っている。

ヒスイは奴隷ではない(商品ではなかった)ものの、自分が『拾われた身(身寄りのない人間)』である事を自覚しているため、ミラと同じ立場・同じ姿勢を心がけていた。




「_____あ!! 

 ヒスイさん、あれじゃないですか?!」


「え? 見つかった?」


「ほら、あの一際大きい建物!!」


「あー! 成程ー!

 ウズメー!! そろそろ話切り上げてー!!」


 ヒスイに呼ばれ、ウズメは話が止まらない村人に軽く会釈をして、二人のもとへ駆け込む(逃げる)。

何十人の話し相手を一手に引き受けた反動で、息切れが止まらない(ヘトヘト)。

 だが、3人には休んでいる暇なんてない。村を目指していた三人だが。目的地は村の中(宿)。 


 3人が宿を探している間にも、勇者一行の一員が村へ来た事は、既に村全体に知れ渡っていた。

そこまで大きな村ではない為、一か所が賑やかになれば、村全体の大騒ぎになる。

 家の窓から3人に手を振る村人や、遠くからコソコソ観察している子供達の姿も。


「いやぁー、この『村特有の独特な空気』、久しぶりだなぁー」


 ウズメは、とりあえず落ち着きを取り戻すのも兼ねて、思いっきり深呼吸をする。

鼻の中に入ってきた『森の匂い』と『土の匂い』が混ざりあった独特な匂いは、脳に染み渡っていく。

 不思議と全身から力が抜け、深く考える事すら無駄に感じてしまう、不思議な魅力。

ウズメ達は幾つもの村を目にしたが、カミノー村の雰囲気は、3人の心をガッシリ掴んだ。


 『村』は『村』でも、一つ一つの地域で細かい違いがあったり、何かと難しい。

ミラとヒスイだけではなく、勇者一行の全員も、その複雑なルールに翻弄されていた。

 ほんの少しでも、村にとっては間違いになる事を行えば、せっかく見つけた宿(村・安息の地)から追い出される事も。


 だが、カミノー村には、そのようなルールは一切ない。

あるとするなら、『不便な村だからこそ、助け合って生活しましょう』という雰囲気。

 

 勇者一行が初めて村を訪れた時も、まさかこんな森の奥深く(人気のない場所)に村があるなんて、誰も知らなかったほど、地図にも載っていないカミノー村。

 この村が『森で迷った旅人の作った集落』であることを教えてくれたのは、三人が向かっている『クニツの宿』の主人。


「ここはモンスターの襲撃もないから、すごく安心できますね。」


「ミラ、もうモンスターの事なんて考えなくてもいいんだから。」


「あ、そうだった・・・・・

 ついいつもの癖が・・・」


 少し照れながら頭を掻くミラと、ウキウキしながら宿へ向かうヒスイ。


 そう、もうこの国は、モンスターに怯える事も、防衛も必要がなくなった。

こんな辺鄙なカミノー村にも、魔王が倒された情報が何処からか伝わり、村の周囲を取り囲むピリピリした空気(緊張感)は無くなった。


 森の奥深くにある村だが、昔はこんな場所でも、モンスターによる襲撃があった。

幸いなのが、カミノー村周辺に出没するモンスターが、だいぶ弱いこと。

 だから、農具でもどうにか相手にできるから、この村は存続できた。


「へぇー、意外と大きかったんだね、宿。」


「ひ、ヒスイさん、失礼ですよ・・・

 でも確かに、かなり奥行きがありますね。昔は沢山の旅人が泊っていたんでしょうか?」


「だろうね。ほら、あっちの方、明らかに『壁の色』が違う。

 きっと宿泊客の多さに、増築されたんだろうね。」


 村自体が、世間から忘れ去られている(廃れている)事もあって、宿もかなり古めかしい。

看板はあるのだが、文字が掠れてほぼ読めない。

 目印になるような物も特になく、ただ村の中で一番大きな建物・・・というだけ。


 嵌め込まれている窓も、今にも砕けそう(割れそう)なほど古く、壁自体もかなり薄くなっている。

だがこの宿は、村で唯一の『お食事処』も兼ね備えている為、無碍にはできない、大切な場所。


 勇者一行も、最初クニツの宿を見た時は、色々と心配していた。

部屋はちゃんとあるのだが、家具ベッドは成人男性が座るだけで割れてしまいそうなほど古く、窓を遮るカーテンもない。


 だが、当時の勇者一行にとって、そんな場所でも『天国』だった。

それは、一行が野営をするリスクを全員が知っていたから。

 野営がどれだけ厳しいものかを、身をもって理解しているから。

『魔族』『盗賊』等に怯えながら休む事なんて、『慣れの問題』ではない事を知っているから。


 周囲にいるかもしれないモンスターに怯えることなく眠れることは、勇者一向にとって、この上ないリラックスタイム。

 茶色に変色したシーツでも、隙間風の声が聞こえても、自分を守ってくれる壁があるだけでも違う。


 そして、宿に泊まれる日が特別なのは、ヒスイもミラも同じ。

夜にゆっくり休めるのは、宿に泊まった時しかない。

 例え部屋がなくても、ベッドがなくても、ぐっすり眠れる夜は二人にとっても貴重。




 トンッ トンッ トンッ


「こんにちわー!」


 ウズメが軽くドアを叩いてしばらくすると、中から『50代くらいのおばさん』がドアを開ける。

おばさんは、ウズメ達の顔を覚えている様子で、ドアを開けた直後、テンションMAXの状態でウズメの両手を握る。


「あらー!! ウズメちゃん達じゃないのー!!

 わざわざこんな所まで来てくれたのー?!」


「はい、改めて、『あの時』のお礼がしたかったので・・・」


「そんな、わざわざ・・・・・

 私たちの生活を守ってくれる勇者様一行のために尽くすことなんて、当たり前のことじゃない!」


「でもこの村の人たちが助けてくれなかったら、森のなかで命を落としていたかもしれないんです。

 この村の住民全員が、命の恩人なんです。」


(冗談抜きで、ミラちゃんがあの時、


 『クソ野郎』に殺されかけたからな・・・)


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