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第七章(5) ソラの治癒

「_____でも、そんな生活が、ある日突然、終わってしまったんです。


 ある日、私はいつものように、外で本を読んでいたら、『何かが壊れるような音』がしたんです。

 驚いた私が、その物音がした場所を見てみると、『二人の人間』がいたんです。


 1人は、町をキョロキョロ見回している様子でした。

 しかし、もう1人の人間は、とにかく暴れ回っていたんです。


 せっかく私が、頑張って整理した町を滅茶苦茶にされて、当然腹が立ちました。

 ___でも、怖かったんです、その人が。すごく立派な『剣』を持っていたので。

 その剣を見た瞬間、私は物陰に隠れながら、2人の動向を見守っていました。


 _____そして、私は『暴れている方』の顔を見た瞬間、その場から逃げ出しました。


 だって『彼』は、魔物が最も恐れていた存在・・・・・」


 そこまで聞いたウズメは、勘付いた。


 人間よりも強く、人間よりも生命力がある魔族が、何よりも恐れていた存在。

それは、魔物より強く、魔物よりもしぶとく生き残ってきた。

 そんなの、『人間の領域を超えた彼』しか見当がつかない。


 しかし、そんな彼だからこそ、この平和な時代を実現できた。

人を超えなければ勝てなかった、人を外れていなければ、人々の理想を実現できなかった。

 ___『彼以外の仲間』も、軽く人の常識を超えているが。


 そして、勘付いているのはウズメだけではなかった。

ソラが恐れていた正体に気付いたツルキーは、ウズメと声を合わせた。



「勇者 コーコン」「勇者 コーコン」



 2人の発言に、その場の空気が一瞬止まった。

ヒスイとミラに関しては、その名前を聞いた途端、顔が固まった(思考が停止する)。

 久しぶりに聞いた『恐ろしい存在の(散々傷つけられた)名前』に、すっかり鈍っていたのだ。


「そう、忘れる筈がありません。『あの文字だらけの紙』に描かれていた似顔絵。

 集めた紙のなかに、勇者の顔と名前が記載されていました。

 そして、彼が各地で、どんな魔族と戦って、功績を残して(勝利して)いたのかも・・・・・」


 ソラの言っている『文字だらけの紙』とは、恐らく『新聞』

つまりソラは、実際に勇者の顔を見るより以前から、勇者 コーコンを知っていて、警戒していた。

 彼女の長年に渡る趣味(読書)は、彼女の命を助けたのだ。


 事前の知識と、咄嗟の判断が、決して間違いではなかった事を、ソラはその時の光景(危機的状況)を思い返しながら語る。

 何故ならソラの発言は、元・仲間だった3人が聞いても、信じられない内容だった。


「私の目は、『グリフォン』よりは良くないです、でも、そんな私の目でも見えたんです。

 私の目にも見える程、彼は遠目から見ても、明らかに異常でした。」


「そ・・・それって、どうゆう風に。」


 まだ話についていけないツルキーが尋ねると、ソラは震えながらも、詳細を説明する。

だが、『彼の本性(裏の彼)』を知っている3人には、ソラの話(当時の状況)が理解できた。

 ツルキーや村の住民が、ソラの話を飲み込めない(理解できない)のは、彼らの知るコーコンは『猫を被った姿(表の彼)』だから。


「とにかく血眼になって、まだ形を保っている家を次々と破壊していました。

 勇者の連れ添いの方は、その様をただただ見ているだけで、咎めたりもしていない様子で・・・


 ___それで、私が住み慣れた町(故郷)を投げ出したのは、勇者様がブツブツ呟いていた言葉を理

 解した、その直後でした。

 彼は確かに言ってました。



「魔族はどこだ・・・・・魔族はどこだ・・・・・

 らないとと俺の人生が・・・・・」


 と。」


 ウズメ達3人を含む、全員の空気が戦慄した。「嘘だろ?!」とも言えないくらい、重い空気。

ウズメも内心、ちょっとだけ信じられなかったが、ソラが嘘を言わないのは、もうよく分かっている。

 全身をガタガタ振るわせ、思い返そうとする自分の思考を止めるように、両手で頭を抱えるソラ。

ソラが不憫に思ったミラが、側にあった膝掛けを、彼女に被せてあげる。


そしてソラの体を優しく撫でながら、ミラは呟いた。


「___きっと我らが勇者様は、まだ追いついていないのかもしれません。

 『魔族の脅威のない、平和な時代』に・・・・・」


 ミラのその言葉は、ウズメ達の言葉に深く突き刺さる。

何故ならミラの推測は、本来の勇者を知っていないツルキーや村民ですら、納得する言葉だった。




 平和な時代は、誰もが望み、誰もが目指した、まさに『理想』そのもの。

その理想が叶った今(世界)を、誰もが涙を流して喜んだ。

 今までの苦労が報われ、今まで窮屈に思っていた事から解放される。

それは、誰にとっても素晴らしい事の筈。


 ___しかし、理想の為に全てを尽くし、全てを捧げた者に残るモノは、一体何なのか。

全てを捧げ、理想が叶った今、何を求め、何を糧に生きるのか。

 それが、平和な時代を生きる(生き残った)者達への、新たな課題であり、問題でもあった。

村の皆は、その課題に向けて、今も少しずつ取り組んでいる(村を広げている)。


 しかし、この国に住む全員が、新しい時代へ、前向きに取り組む人ばかりではない。

それは『種族の違い』というよりは、『性格(考え方)の違い』

 平和になった時代で、課題が(次にやる事)見つからない者、平和な時代に馴染めない人は、どうなってしまうのか(どう未来を生きるのか)。


 頑張って課題探しに勤しむか、新たな時代に馴染む努力をするか、大半の人はそうする。

時代の変化についていく事も、生きる上では必要。仕事の為、人間関係の為、変わり続ける未来の為。


 ところが、一部の人間は、『物騒な時代(過去)』に縋り、手放さない。

『過去の自分』や『過去の名誉』がなければ、自分を維持できないから。


 まさにコーコンは、その典型だった。

もはや今の彼にとって、『新しい時代を受け入れる事』は、『自分そのものを捨てる事』


 『手強い魔族に対抗できる、唯一無二の存在』

そんな彼のアイデンティティは、彼の命(人生)そのもの。

 心臓の形を変える事ができないように、コーコンは自身の価値観を、変える事ができなかった。

結果、ひたすら過去に執着して、変わってしまった(平和になった)今を憎む。


 しかも、当の本人コーコンは、自分がおかしくなっている事に気がついてすらいない。

こうなってしまっては、もう誰にも止められない。元・仲間だったウズメ・ヒスイ・ミラでも。


 ツルキーや村の住民は、目線で[何とかできないの?]と3人に目線で訴える。しかし

3人は首を横に振る事しかできない。


 何故なら、相手が何をしても自分(意思)を曲げなかったのは、3人がよく知っているから。

 3人がただ首だけ振り続けて、詳細を言わない理由は、信じてもらえないのは分かっているから。


 彼をフォローしたい(庇いたい)気持ちは、一ミリもない。ただ、面倒を避けたいだけ。

むしろ、自業自得すぎて(今までと全く変わらず)、少し笑えてしまったウズメ。


「それで、町を出た私は、しばらくあちこちを彷徨って、カミノー村の森で発見されて・・・」


「うん、そこまで聞けた(話してくれた)だけで、俺も皆も満足だよ。」


 ツルキーは、もうこれ以上、皆の頭に情報が入りきらない事を察して、今晩の話し合いをとりあえずお開きにする(終わらせる)。

 ウズメ・ヒスイ・ミラの3人はというと、『思い出したくない出来事(眠っていた過去)』を、再び頭の中に押し込めていた。


「はぁ・・・・・それにしてもあのや・・・我らが勇者様は、何をやってるんだか。

 まぁ、村に被害が出なければ良いんだけどさぁ。」


 ウズメがそう呟くと、ヒスイとミラは、静かに頷いた。


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