第七章(1) ソラの治癒
「全く・・・どうなる事かと思った。ウズメちゃんもなかなかやるねぇ。」
「私、ツルキーさんの方が心配でした。ツルキーさんも私と同じ(戦う)立場だったから・・・
ツルキーさんにとっても、魔族との思い出は、良いものばかりではなかった・・・ですよね。」
「まぁ確かにそうだけどさ、ウズメちゃんの言葉も、あの・・・ソラっていうスライムの言葉も、筋が
通ってた(間違ってない)からさ。
それに自分としても、もう武器は持ちたくない(戦いたくない)んだよね。
せっかくこの村の生活に馴染んできたのに、また過去(兵士)に逆戻り・・・なんて。
ここで生活して来た意味が全部水の泡(無意味)になっちまいそうでさ。」
ヒスイとミラが、ソラの介抱をしている間、ツルキーとウズメの2人で、森の中を巡回をする。
念の為、もしソラの仲間の誰かがいたら、また色々と面倒なことになるのは間違いない。
半日二人が見回ったが、ソラが発見された以外は特に変化のない、いつも通りの森だった。
ちょっと肩透かしを食らった様子のツルキーに、ウズメは近くの果樹に実っていた果物をあげる。
「___なんか、また村の皆に無理をさせちゃったかな。
私の独断でやってしまった事だから、私もちゃんと責任は取るつもりだけど・・・・・」
「まぁ、最初は何事も受け入れ難いものだよ。俺だって、兵士になりたての頃はそうだった。
数年がたって、それが「懐かしいねー」なんて言い合えるくらいが、一番いいんじゃないか?」
「さすがツルキーさん、やっぱり大人だなぁ・・・・・」
その晩は、とても静かだった。今日は月明かりが美しいにも関わらず、誰も外で上を仰がない。
村の目玉である彼女の舞を見る村人の目も、いつも以上に厳しく感じたウズメ。
しかし、これも『空を引き取った責任』と感じれば、甘んじて受け止められる(耐えられる)。
魔族と戦っていた頃は、これ以上に苦しくて重い責任を背負って生きてきたのだから。
ソラの容体がある程度落ち着いてから、ウズメは宿の主人と女将に、何度も頭を下げた。
魔族を村に連れ込んだだけではなく、宿の一部屋を貸してもらったお詫びとお礼を。
しかし、そんな彼女の重たい気持ちとは裏腹に、二人はせっせと、ソラの看病にあたっていた。
ソラは主人が作った料理をあっという間に平らげ、井戸で汲んだ綺麗な水を飲ませ、体を洗うと、あっという間に体が『快晴の空色』に様変わり。
その姿は、森の奥で怯えていた姿からは想像もできない程、人間では例えられない不思議な美しさ。
これには、ミラの筆も止まらない。
モデルになっているソラがびっくりする勢いで、何枚も何枚も描いては、村人たちに見せていた。
ミラもミラで、村人たちの不安を薄くしてあげようと(ウズメを応援しようと)、色々考えている。
ヒスイも、身一つで村へ来たソラに、持っていた古着を何枚かソラにプレゼント。
ヒスイはサイズを気にしていたが、スライムは体の大きさを自由に変えられる為、サイズは関係ない。
そんなソラの特異体質に、『体重が増えるとなかなか削れない人間』であるウズメ達は、若干恨みを込めつつ「羨ましいぃぃぃ・・・」と呟く。
「___あ、お疲れ様、ミラ。最近、ソラの絵を描くのに夢中みたいだけど、無理はしてない?」
「『無理』だなんてとんでもない! むしろソラさんの姿を描くのは、毎度毎度楽しいんです!
ソラさんの身体は透けているので、向こう側のぼんやりとうつっている景色を描くのがだいぶ難しいん
ですが、だんだん手応えを感じて(上手くなって)いるんです!
___というより、私が無理をさせてしまったかも。
村に来たばっかりなのに、あまりにも体色(水色)が綺麗だったから、つい色々とポーズまで注文して
しまったんです・・・・・
_______あれ。ウズメさん???」
「ん? 何??」
ミラがウズメと廊下で雑談をしていると、ミラがふと、違和感を感じた。
まるで、『間違い探しを見つけた気持ち』のような、『ウズメの偽物を見ている気持ち』のような・・・
しばらくミラは、ウズメの全身を嘗め回すように観察。
そして、ようやく自分の感じていた違和感の正体が判明すると、大声で「あっっっ!!!」と叫ぶミラ。
違和感の正体、それはついこの前(ソラが村に来る前)、ウズメに相談された(見せてもらった)『ある筈のもの』
それは、ちょっとやそっとの事では無くならない筈。少なくとも、この世界での医術では。
だからウズメは、苦笑しながらも二人に相談したのだ。
だが、ミラが見ているウズメの『左腕』には・・・・・
傷跡が無い
「ウズメさん、『左腕』・・・・・」
ミラのその言葉に、ウズメを確認すると(左腕を見ると)、ウズメもミラと同様、首を傾げた。
確かにウズメの左腕にある筈の傷跡が消え、確認の為にウズメは反対側(右腕)も見てみたが、左腕と全く変わらない(傷跡のない綺麗な腕)。
「う、ウズメちゃん、一体どうやって・・・?」
「い、いいえ、特にな・・・・・」
ウズメは自らの左腕を見つめながら、今までの記憶を脳内で巻き戻し(振り返り)、何かヒントがないか思い返す(可能性を考える)。
___しかし、考えるまでもなかった。何故なら、村にはついこの前、『劇的な変化』があった。
それ以外は、至って普通の日常であり、考えられるのは、もう『彼女』しかいない。
「___まさか!!!」
ウズメは宿の階段を駆け上がり、ソラのいる部屋のドアを勢いよく開ける。
するとそこには、ベッドの上で窓(村)の外を見るソラの姿が。
いきなりドアを開けて現れたウズメに驚きつつも、しっかりとベッドの上で座り直して(正座をして)、元気になったお礼を述べようとしたソラ。
だが、今のウズメは、それどころではない。
突然ソラの部屋へと走り出したウズメの背中を眺めながら、ミラは[一体何だったんだろう・・・]と思いつつ、ソラの看病で使った布を洗おうと、一階へ降りていく。
キッチンへ向かうと、女将が明日の仕込みでバタバタしていた為、ミラも雑談を交えつつ手伝う。
「ソラちゃん、本当に良い子ねぇ。
ベッドを使わせてあげたら、遠慮しながらも何度も頭を下げてくれるし、
「ソラさんの気持ち、私は分かります。
やっぱり地面の上より、ベッドの上の方が落ち着いて眠れますから。
今はもう、毎日ベッドでしっかり睡眠が取れますけど、それが数年前までは、すっごく特別だったん
ですよ。
そんな時期を思い返しながら眠ると、毎日の夜がすっごく特別に思えます。」
「___やっぱり、『良い子』には『良い子』が集まるのねぇ。」
「へ?」
その頃、2階のウズメは、ソラに『あるお願い』をしてみる。
もし、ウズメの推測が正しければ、左腕の異変だけではなく、ウズメの悩みの『大半』が解決する。
___いや、悩んでいるのはウズメだけではない。
特に『ウズメと同じようなコンプレックスを持つ人』なら、誰でも食い付きそうな大発見だから。
「ソラ、ちょっとコレ見て。」
ウズメは徐にスカートを捲りあげ、びっくりしたソラがベッドの上でのけぞったが、ウズメの太ももに残っている痣を見て、もっと混乱してしまう(どう反応すればいいのか困る)。
そんな彼女の様子を見たウズメは、『自らの体質』を、ソラ自身でも理解していない事に気づいた。
だが、ウズメは『あの時(森の奥で)』、確かに見て、確かに聞いた。
その記憶が思い返されると、色々と辻褄が合う(説明がつく)事に気付いたウズメ。
それは、村人がソラを追い出すため、斧や鉈で彼女の体を傷つけている際の記憶。
___いや。『傷』なんてレベルではなかった筈。農具だとしても、その殺傷力は馬鹿にできない。
しかしソラは、痛がっている様子を見せず、怯えてばかり。
そんな彼女に対して、村人が溢していた言葉。
「どうする?! 俺が鉈を突き刺しても、すぐ再生しやがる!!!」
「まさか斧で切断しようとしても無駄なんて・・・なんて生命力だ・・・・・」
村人達の言葉が正しければ、ソラの体は、鉈や斧で切断されたくらいでは、即座に再生できる。
ウズメも含め、人間だったらひとたまりもない(一生ものの)重傷でも、ソラは外れてしまった体の部位でも再生できるか、もしくは繋ぎ合わせる事ができる。
スライム自体がかなり特殊な体質を持っているのは、ウズメが実戦で経験している。
槍や弓矢(物理)の攻撃は全く効かず、結局魔術師に頼って、どうにか難を逃れた。
その時に(ウズメが初めて)出会ったスライムは、人の形はおろか、液体状で襲いかかってきた。
だから、その回復力の強さより、見た目の気持ち悪さが勝って、ウズメもすっかり忘れていたのだ。
ソラを見た瞬間、ウズメは彼女がスライム(普通の人間)に見えなかったのは、『人型のスライム』を見たのが初めてだったから。
しかし、知れば知るほど、人間の知識を遥かに凌駕する魔族の体質に、人間はついていくだけでやっとだった。
しかし今は、『対処法』ではなく、『有効利用』を考えられるようになった。




