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第六章(4) ミラ ヒスイ・17歳 ミラ・13歳

「___その傷跡って、もしかして、その時の?」


 ヒスイの問いに、ウズメは苦笑いしながら頷いた。治療が遅れて、治らなかった傷跡を撫でながら。

もしあの時が、人気の多い『朝』や『昼』だったら、その場に医師がいたのかもしれない。

 しかし運悪く、野次馬のなかに医師はおらず、キュードゥーは近くの診療所までダッシュ(全速力)で向かい、寝ていた医師を無理やり叩き起こして連れて来た。


 そうこうしているうちに、出血と痛みが止まらなかったウズメは、一時意識を失ってしまう。

刃物自体に毒が含まれていたわけではないのだが、傷の深さと、当たり所が悪かった事も重なり、歴戦のウズメでもさすがに耐えられなかった。


 意識を取り戻したのは、翌日の昼頃。ヒスイとミラが、付きっきりで彼女を看病していた。

ウズメが改めて左腕を見てみると、ちゃんと神経は通っていた(腕の感覚はあった)ものの、どう頑張っても消えそうにない、抉れたような(痛々しい)傷跡が残っていた。


 ただ、いつも死と隣り合わせ(命懸け)の環境に身を置くウズメにとって、自分の身体にどんな傷が付こうと、生きていれば問題ない(命があるだけありがたい)。

 ___が、その考え自体が、後々になって『後悔の種』になってしまうのも、また皮肉なもの。


 ウズメが入院するとなると、勇者一行の旅も中断するしかない。


 その間、コーコン・回復師はというと、『感謝・お褒めの言葉を貰う為だけ』に、再び事件のあったレストランへ入り浸るように。

 魔術師とキュードゥーは、負傷したウズメの為、市場に行って精のつく食べ物を買い漁っていた。


 ヒスイ・ミラ・魔術師・キュードゥー達のおかげで、一時的に意識が戻らなかったウズメだったが、数日経った頃には、もう普通に槍が振るえる(何の支障もなく戦える)くらいに復活。  


 一度しか見舞いに来なかったコーコンは、彼女が退院すると


「本当に良かった、君が退場したら、今後の進行に支障が出るところだった。

 僕の右腕は、君しか務まらないからね。」


 と言ってはいたが、ウズメはそんな言葉を聞いても、全く心に響かない(嬉しくも何ともない)。


 むしろ


「私が入院している間、どうして一度しかお見舞いに来なかったんですか?

 まさか、せっかく国王から貰った資金を、自分の遊び(女遊び)の為だけに使ってたんですか?」


 と、問い詰めたいくらいだった。


 元から、あまり彼には期待していなかった(お見舞いに来てくれない事は分かっていた)ウズメ。


 ただ、ウズメが思っている以上に、ヒスイとミラが退院を喜んでくれた事が、とても嬉しかった。

二人はウズメが入院している間、『ウズメがいなくなった一行』と、これから共に行動できるのか、とてつもなく不安だったのだ。


 そこでウズメは改めて、『自分の存在意義』を自覚した。



 自分がいなければ、コーコンの横行ワガママに、進んで頭を下げてくれる仲間はいない。

 そうなれば、魔王を倒すどころの話ではなくなり、仲間である自分たちの立場も危うくなる。

 

 自分がいなければ、ヒスイとミラの『心の柱(支え))がなくなり、体よりも先に心が壊れる。

 荷物持ちだけの仲間なら、お金さえ払えばすぐ雇えるのは、ウズメも知っている。

 それでも、此処まで一緒に頑張ってきた仲間(二人)を、見殺しにはできない(最後まで守りたい)。


 

 ウズメにとっても、二人は『生きる柱(支え)』であり、戦い続ける理由でもあった。

いつか三人で、平和になった時代を生きられる事を信じて。




 だが、そんな彼女の思い出が、『歴戦の証(勲章)』とも言えなくなっていた。

ウズメは今まで、上手い具合に隠していたが、実はあちこちに、激戦の痕跡が残っているのだ。



 首には、盗賊の放った矢に射抜かれた跡が   指には、野良犬に噛まれた跡が

 太ももには、『家族』と『正気』を失った男に突き飛ばされた痣が

 右手には、野営中に勢い余って燃え広がった火傷の跡が



 2人の背負っていた荷物の中には、一応応急手当てができる薬や包帯が入っているのだが、常に『死の恐怖』と隣り合わせの状況では、かすり傷程度で痛みを感じている(手当する)余裕なんてない。

 だが、そんな考え方の反動は、かなり重く、ウズメも予想していなかった。


 それを今更になって、『鏡越しの自分』に見せつけられたウズメは、ただ黙って鏡を見つめるしかできない(傷を残して後悔してしまった)自分が、悔しくなった。

 『頼られる嬉しさ・誇り』で誤魔化し続けて来たものの、その効き目(言い訳)が最近になって薄れかけ、同時に心がジワジワと傷み始めたのだ。


 [もっと早くに対処しておけばよかった・・・][もっと自分の体を大切にすればよかった・・・]


 と思っても、過去の自分に語りかける(忠告する)事なんて、できるわけない。


 ウズメの体中に残っている傷跡は、どう頑張っても消えそうにない。

この世界には、『整形手術』等は無いから。


 つまりウズメは、全身に残る『勇者の一員だった証』と、一生連れ添って生きなければいけない。


 それは、これから『踊り子としての(美しさを商売にする)道』を歩もうとしているウズメにとっては、とてつもなく残酷で皮肉な現状だった。


「___こんな姿でさ、私、色んな人に見てもらう『踊り子』になろう・・・って思ってる時点で、頭

 の中おかしいよね。」


 ウズメは、『前世時代でも抱いたことのない苦痛』に、目頭を熱くして2人に語る。

その姿があまりにも痛々しくて、悲しすぎて、ミラは堪えきれずに涙を流してしまう。

 ヒスイは、自らの唇を噛み締め、気の利く言葉が言えない自分が情けなくて、苛立っていた。


 今まで、魔族との激闘でボロボロになったウズメを何度も見てきている2人だからこそ、彼女の苦しみが理解できた。

 誰が悪いわけでもない、悪いとすれば魔族なのだが、魔族にその責任を負えるわけがない。

そもそも、相手(魔族)に『責任能力』があるとすれば、とっくに大勢の人間が救われている。


 国は平穏な時代を迎える(築く)為、『大金』や『土地』を幾度となく手放してきた。

その中の一つには、ウズメのように、『形にはないもの』を手放した人もいる。

 お金は、頑張れば取り返せる。取り返したお金で土地も取り戻せる。


 だが、世の中にはどんなにお金を注ぎ込んでも、戻って来ないもの・返って来ないものがある。

残るとすれば、手放した後悔しかない。

 ソレ(傷跡)はヒスイやミラにもある。

2人の体にも、長い長い、終わりがなかなか見えない旅路に付き合った記録(傷跡)が残っている。


 ___『魔族以外』から残された箇所もあるが。


「___ヒスイ、そんな凹んでても意味ないよ。

 というか、あれだけ舞台で縦横無尽に踊ってれば、体の傷跡なんて見えないよ。

 ね、ミラ。」


「そ、そうですよ!! 

 というか、もしウズメさんの傷跡を馬鹿にするような人がいたら、私の『お腹の痣』でも見せて、私

 も馬鹿にされます!!」


「いやいや、それは私が嫌だって。」




「ウズメさーん!!! ウズメさーん!!!」


 窓の外から、ウズメを呼ぶ声がする。

呼ばれた本人ウズメが窓を開けて外を見ると、何人もの村人が、不安げな様子で手招きしている。

 いつもとは明らかに違う村人の様子に、ウズメはそのまま『窓』から外に出て、村人に話を聞いた。


「何かあったんですか?」


「そ、それが・・・・・」


 村人は説明するよりも先に、ウズメを『森の奥』へと連れて行く。

後から来たヒスイとミラも一緒になって、一行は村からどんどん離れていく。

 しかし、木こり達が頑張って木々を整理(伐採)したおかげで、森の中はだいぶ明るくなった。

森を開拓した辺りにも近々、何かしらの建物が建つ・・・『予定』ではあるが、まだまだ未定。


 今日も村人は、いつも通りの仕事(開拓の真っ最中)の筈だった。

しかし、村人が困っているのは開拓に関しての事ではない。

 だが、村人にとっては、非常に重大。自分たちだけでは、どうしたらいいか分からない。

だから、『この手の類に慣れているウズメ』に、助け(判断)を求めたのだ。


 村人たちに誘導されるまま、3人が奥へ進んでいくと、人だかりが見えてきた。

『ナニか』を囲むように、ヒソヒソと話し合っている。荒い声色で怒鳴る人も。

 その内容は明らかに物騒、ウズメは話し合っている内容を聞いて、思わず駆け出した。


「どうする?! 俺が鉈を突き刺しても、すぐ再生しやがる!!!」


「まさか斧で切断しようとしても無駄なんて・・・なんて生命力だ・・・・・」


「もういっその事、放っておくべきなんじゃ・・・?」


「馬鹿!!! もしそんなことをしたら、後でどんな仕打ちが待ってるか分からないんだぞ!!!

 せっかく村も大きくなって、ようやく人も来てくれたのに・・・!!!」


「でも一体どうして、今更になってこんな場所に来たんだ・・・??

 ___もしかして、元々『コイツ』の棲家だったのか?!」




「ちょ、ちょっとすいません!!!何があ・・・・・」


 村人が取り囲んで、押し問答をしている原因の正体は




 スライムの娘だった



「う、ウズメさん、どうしましょう・・・」


「確かスライムって、力が強ければ強いほど、『人形ヒトガタ』になるんですよね?」


「って事は・・・・・



 ___ウズメさん、やっぱりコイツ、生かしておけませんよ・・・」


「俺たちが慌てて『斧』とか『鉈』で追い払おうとしたんですけど、傷一つもつけられなくて、俺たち

 では対処できないんです。」


 村人たちが横からあれこれと現状を語ってくれるものの、ウズメの耳には一切入ってこない。

何故なら、ウズメ達の目の前で震えている(怯えている)スライムの娘は、一切攻撃してくる様子も、闇討ちをする様子もない。


 今まで数多くの魔物と戦い続けてきたウズメにとって、『襲ってこない魔族』なんて、前代未聞。

基本的に魔族は、どんな人間であろうとも(女子供関係無く 兵士であっても)襲ってくる。

 その理由については分からないままだったが、かつてウズメと共に旅をした魔術師曰く


「そこら辺にいる魔族に、人間と同等の知能はない。あるとしても、せいぜい『7歳程度』

 だけど、長い年月を生きていたり、力が強かったりすると、話は違う。

 人間に似た姿形になるだけではなく、知性もどんどん成長する。


 だからウズメ、魔王もタチの悪い人間と同じく、何を仕掛けてくるか分からない。

 十分に注意して挑もう。」


 そう、最終決戦の(魔王と戦う)直前、そう言われていた事をウズメは思い出した。


 今のスライム娘は、『ある程度の知能がある故の行動』をしている。

魔術師の通り、もしスライム娘が『7歳程度の知性』しか持っていないのなら、ウズメが来る前に、もっと大騒動になっていた筈。


 しかし、今ウズメ達の前で固まっているスライム娘は、体を震わせているだけ。

襲うでもなく、威嚇するでもなく、命乞いをするわけでもない。

 『賢い人間』と同様、とにかく『穏便に済ませる方法』を考えている様子にも見えた。


「___う、ウズメさん、どうしたんですか?」


「ウズメさんなら、こんな相手(魔族)の1匹や2匹、簡単に葬れるでしょ?」


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