第六章(1) ミラ ヒスイ・17歳 ミラ・13歳
魔王を討伐して、ヘンゼック王国が平和になり、ウズメ達3人がカミノー村に来てから、『2年』の歳月が流れた。
気がつけば、すっかり3人は『村の顔(代表)』になり、『何かあった時は3人に相談』という空気が、いつの間にか当然になってしまった。
村の大改造(柵の撤去)が行われてからは、村は少しずつ、ほんの少しずつだが大きくなっている。
まだまだ村を取り囲む大木の群れを退くのには時間がかかるものの、旅人が『自力で』村を見つけてくれる事が増えたのは、村人の皆が頑張って森を管理してくれている証拠。
2年前まで、とにかく森に木々が密集しているせいで、村から少し出るだけで闇で覆われた世界だった頃が、もう懐かしくなっている。
ただ、それでも『村の外に対する恐怖心』は捨てないように(無駄ではない為)、ウズメ達は村の大人も交えて、子供たちに教えている。
もう魔族の心配は必要ないが、森にはどんな野生生物が生息しているのか、どんな盗賊が潜んでいるのかも分からない。
子供たちが森に行く際には、必ず大人が一緒ではあるが、大の大人でも野生動物や盗賊は怖い。
だから、もしもそんな輩に遭遇してしまった際の対処法を、『実践』も交えて教えるのも、ツルキーの役目になった。
ただ、『人間相手』なら何の問題もないツルキーでも、『野生動物』の対処に関しては、村の大人の方がよく知っている。
それでも、『森そのものを撤去する』という話が出ることは一度もない。
危険な場所ではあるものの、森は村のありとあらゆる個所を支えている、大切な場所である事に変わりはないから。
その森に道を通す(作る)工事は、2年の歳月をかけて、ようやく森を抜ける(完成)。
その『記念式典』は3人も参加、ウズメの踊りを見に来てくれた人とも一緒に、道の開通を喜んだ。
そして、道の両端に作成したのは、村へ客人を案内する『看板』
今まで、チラシを配っている際にウズメ達が持っていた『看板もどき』を、雨風でも負けないように、頑丈に設置する。
3人が村の子供たちに文字を教えたおかげで、子供たちはすっかり文字を書くのが上手になり、看板の文字は全て子供達の手書き。
個性あふれる看板の文字一つ一つは、作業工程を見学しに来た(村を散策していた)観光客にも評判。
こうして、村と森を抜ける道がしっかりした事で、客足はみるみる増えていった。
村人たちは「ウズメさん達のおかげだ!」と言っているが、3人は逆に、村を自分たちの身勝手(趣味)に巻き込んで、申し訳なく思っている。
だから3人は、今日も自分たちの作業に打ち込む。
ウズメは毎日、踊りの練習を欠かさず、新しい踊り方も随時研究。
ヒスイは、生地にできないくらい細かい布を『糸』に変え、少しでも有効活用できる方法を探る。
そんな2人の頑張りを、ミラは紙に描き込む(写生する)。
ウズメだけではなく、ヒスイの腕前(お手製衣装)もアピールする為、
_____が、ウズメは『ある出来事』をきっかけに、『新たな悩み』を抱えてしまった。
それと同時に、村へと忍び寄る、『人間ではないナニか』が迫る・・・・・
「ヒスイさん、新しい古着、旅人さんから仕入れてきました!」
「おぉ! 助かる、ありがとう!
作業に集中してると、窓の外とか全然見ないから、全然気づかなかった。
お金は後で手間賃も込みで払うから!」
「いえいえ、いいんですよ。
同じ体制のままだと(絵を描き続けると)疲れるので、外を散歩していたら、たまたま商人さんが古
着を溜め込んでいるのを見ただけですから。
_____それより、ヒスイさん。」
ミラが買い占めた古着を、とりあえずベッドの上にドサっと置くと、最近気になっている『ウズメの仕草』について相談する。
「なんだか最近、ウズメさん、『鏡』を見ながらため息をついている事が多くなったんですよ。」
「『鏡』・・・・・あぁ、数ヶ月前くらいに、ウズメが商人さんから買ってたよね。
___でも今考えると、ウズメが鏡だなんて・・・・・
踊り子としての自覚を持ち始めた・・・というわけでもないような・・・・・」
ヒスイも、作業の(針に糸を通す)手を止めて、改めて当時を思い返していた。
チラッとしか見なかったものの、鏡で自分の姿を見ていたウズメの表情は、何故か『悲しげ』だった。
しかもその時の彼女の姿は『下着のみ』
まるで、鏡に映る自分を慰めるように(同情する様に)、鏡を片手で撫でるウズメの姿は、いつもより小さく見えた。
「鏡を見て、身なりを整えてる・・・とも思えないんですよね。
なんだか・・・・・落ち込んでいるような。」
「『落ち込む』って・・・何に?」
「それが何なのかさっぱりで・・・」
ヒスイもミラと同様、首を傾げながら考え込んだ(思い当たる節を考えた)。
3人の付き合いはだいぶ長いが、それでもやっぱり分からないところが色々とある。
ただ、今までウズメが、人目を気にせずため息をついた事がなかったのは、2人もよく知っている。
そんな彼女のため息は、2人にとっては『コーコンの皮肉』よりも、聞いて辛くなる声だった。
何より、どうして毎日元気いっぱいのウズメが、あんなに重いため息をついているのか、その意味と原因が見当もつかない2人。
それらが分からないことが、2人の心配や不安を更に重くしている要因だった。
そもそもウズメが鏡を購入した(部屋に置いた)時点で、2人は彼女の心の変化に気づいていた。
何故ならウズメは、今まで鏡なんて一切興味がなかった上に、貴族の男性から鏡をプレゼントされた際に
「私が持っても無駄にしそう(割って壊しそう)だから、受け取れません」
と、突っぱねてしまった。
確かにウズメの言葉が最もだったが、あまりにもウズメが迷いのない返答をした為、貴族の男性は、呆然としながらその場に立ち尽くした(彼女を引きとめる事すらできなかった)。
しかし、その会話を陰から聞いていた2人には、ウズメの言い分が分かる。
魔族との戦いになれば(戦場では)、お洒落なんて当然二の次・三の次。
常に生き延びられる方法(生存戦略)を模索して、どんなにボロボロになっても、傷だらけになっても、とにかく生き延びれば大抵どうにでもなる。
それを常に心に決めていないと、不便(苦労)だらけな旅や戦いに慣れない。
身につけるもの一つで、戦況は大きく変わる。それが、ウズメ達の日常(命を懸けた戦い)。
だからウズメは、必要最低限の防具しか身につけず、攻めと守りをバランス良く(自分の状況を)見極めていた。
勇者一行の一員として、常に前線戦い続けてきたウズメは、それを人一倍(身体が)理解している。
理解しているから、最後の戦い(魔王との戦い)に生き残る事ができた。
もし、何か一つが欠けていたら成し遂げられなかった勝利の為、ウズメは我慢も惜しまなかった。
そんな彼女が、防具や武器を身につける必要のなくなった(平和になった)今、鏡(自分自身の姿)を気にするようになった事は、2人にとっても喜ばしい事・・・の筈。
しかし、どこか違和感を感じていたと同時に、疑問がどんどん大きくなっていく。
「___なんか、身だしなみを気にしている様子でもないんだよね。」
「そう思いますよね。
でも私が一番気にしているのは、鏡を見ながら『ため息』をついているところなんです。
ヒスイさんは、何か知りませんか?」
「ミラでも分からないなら、私でも分からないわよ。
___もしかして、成長してきたけど、なかなか背が伸びないのを気に病んでいる・・・とか?」
「髪の色を変えたいと思っている・・・とか?」
互いに首を傾げながら考え込むが、やはり明確な答えは出てこない。
何故2人がここまで真剣に考え込んでいるのか、その理由は、自分たちの知らないウズメを知りたい探究心が、一番の要因。
「____まさかウズメ、ツルキーとかいう男に気があったりして。」
「え? あの男の人ですか?
でもちょっと・・・年齢に幅がありすぎるような・・・」
ニヤニヤしながらヒスイが見ているのは、窓の外(村の広場)で旅人を案内しているツルキー。
彼は村の警備も怠らないが、村人への手厚いサポートも欠かさない。
怪我をした村人の代わりに仕事をしたり、高齢の村人の家には毎日訪れている(様子を見に行く)。
そんなツルキーの真摯な対応と優しい心遣いで、ツルキーはあっという間に『村のヒーロー』に。
『元・兵士としての勘』もあるのか、ツルキーは初対面の人間でも、その人がどうゆう人柄なのかが分かる。
『相手の職業』ならウズメ達(3人)も、どうにか言い当てられる。『服装』などがヒント。
だが、その人の内面というのは、聞いてもなかなか教えてくれない(分からない)もの。
ツルキーが培った直感は、多くの人種が行き交う場所(城下町)で、長年勤めていた(警備していた)経験のおかげ。
どんな心理状態の(どんな理由で村に来た)人間か、どんな仕草をしているか、どんな口調で話すか。
少ない情報からでも相手を判断できれば、村の被害を最小限に抑えられる。
城下町のように、安易に武器が手に入らないカミノー村では、ツルキーは武器の代わりに『長い棒』や『斧』が相棒(武器)になるが、元・兵士なら『素手の勝負(格闘技)』も馬鹿にできない。
だから、手ぶらで見回りをしている彼の姿を見るだけでも、村人は安心して彼に全てを任せられる。
時折村に来てくれる人のなかにも、ツルキーが元・兵士である事を見抜く人もいるが、その人も大抵、ツルキーと同じ『元・兵士』
ツルキーはあまり旅人と長話はしないのだが、彼が長く話し込む人の大半は、『同じ境遇の人』
お互い何処に配属されたか、仕事内容は何だったか・・・等の話題よりも、一番持ち上がる話題としては、『どうして今に至ったか(兵士を辞めたか)』
そしてツルキーは、元・兵士たちと話をしているうちに、ある事に気づいた。
それは、『身勝手な理由(自分の都合)』で辞めても、もう誰も止める事はなくなった兵士業界。
つまり、戦う必要(仕事)が極端に減った今の兵士業界は、『人手不足の逆』状態である事を。
長年人手不足で悩んでいた兵士業界としては、今の状況は類を見ない異常事態。
今まで、兵士を引退する際は、兵士業界を管理する貴族(上)からの承諾が必要。
しかもその承諾は、なかなか受け入れてくれるものではなかった(殆ど撤回されてきた)。
___つまり今までの兵士業界は、『入ったら出られない』という、『食虫植物』のような内部構造になっていた。
『戦えない程の大怪我』 『精神的ダメージの溝』
が、受け入れてくれる理由の一部だが
『引越し』 『転職』 『新たな職(自分)探し』
では、なかなか受け入れてはもらえず。
だから、どうしても引退したい兵士のなかには、『わざと』体に大怪我を負ったり、精神的に不安定になった『フリ』をする人もいた。
だが、それが嘘だと見抜かれてしまうと、叱責よりも、もっと恐ろしい罰が加えられる。
そんな環境で働いていた者同士じゃないと、分かり合えない話。
横にいる子供たちは、ツルキーと遊びたい気持ちを我慢しつつ、大人2人の話に全くついていけず、いじけて帰ってしまう子も。
「俺もねー、ついこの前までは門の前で血眼になってたけど、もうその必要がなくなったと同時に、なん
かあそこ(兵舎)が居心地悪くなってさぁー」
「分かる分かる、今まで散々頼りにされてたのに、魔族がいなくなった途端、『便利屋』みたいな扱い
になってるんだもんなぁ。
___まぁ、この村での俺の仕事も、そんなもんだけど。
でも、城下町と比べたら、断然こっち(村)の方が居心地良い。
食べ物は新鮮で美味しいし、何より色んな人から頼りにされて、色んな人から感謝されるからな。
ミリーさんは門番になる前、魔族が幅を利かしていた頃は、『貴族の護衛担当』だったんだろ?
よく門番になれたな。
貴族が警備兵を手放す・・・なんて、今まではちょっと考えられなかったぞ。」
「でも、その門番の仕事も、結局退屈になって辞めたんだけどな。
___実はさぁ、俺を雇っていた貴族が、いわゆる『魔族と戦う為の道具』の経営をしていたんだ。」
「あぁ・・・成程・・・・・」
その一言だけでツルキーは、彼の周囲で何が起こっていたのかを察した。
「最近は売れ行きがガタ落ち、鍛冶業界の混沌、どんなに安くしても需要がない
___とまぁ、こうゆう事情が重なりまくるとな、やっぱり無理があるんだよなぁ。」
「そりゃあ・・・そうだよな。道具を使う為の魔族がいなくなったんだから。」
「多分俺以外にも、貴族や王族の護衛をしている連中(同業者)も、クビ切りに遭ってるんだろうよ。」
「じゃあお前さんもどうだ? ここでいわゆる、『せかんどらいふ』っていうのも。
入居者は随時募集してるからな。」
「うーん、でも他の村とか町にも行っていたいんだよな。
俺、城下町で働き始めてから、ウン十年もあそこで軟禁されてたようなもんだし。」
「へぇ、じゃあまた今度、村へ遊びに来てくれよ、土産話でも聞きたいからさ。」




