兵士・ツルキー(2)
「ちょっとちょっと、そこの兵士さん。」
「ん? どうかしましたか?」
あちこちに視線を向ける(巡回中の)ツルキーに話しかけてきたのは、杖をついたお婆さん。
お婆さんは、市場の方を何度も振り向きながら、真剣に業務をこなしている兵士に、『喧嘩の収束』を求めたのだ。
「あっちで女の子が、男数人に囲まれてるのよ、助けてあげてほしいの。
その女の子、男達が怖いのか、何も言えない様子で・・・」
「分かりました。」
お婆さんに指差された市場通りへ駆けつけると、確かにお婆さんの言う通り、ちょっとした人混みに(野次馬)なっている。
そして、人混みの奥から聞こえる、荒々しい複数人の男の声。
「おい、何とか言ったらどうなんだ? あぁ??」
「おいおい、お前が怖いから何も言えねぇじゃねぇか。」
「「ぶつかってしまってごめんなさい、何でもしますから」の一言も言えねぇのかぁ?
親はどんな教育してるんだぁ?!」
男達の一方的な言い分(喧嘩をふっかけた原因)を察するに、ただ女の子が男にぶつかった為に、こんな騒動になっている様子。
しかも男達の「何でもしますから」は、『相手の尊厳・人権を踏みつけるような行為』も含まれている事が、声のトーンだけで分かる。
ツルキーは人混みをかき分けながら、揉め事の核心(男達が詰め寄っている女の子の元)へ向かう。
兵士の姿を目にした住民たちは、去って行く者もいれば、終結を見届けようとする者も。
やっとの思いで、ツルキーが4人の元へ辿り着いても、男達は一向に怯まない。
その赤い顔と、口から吐き出される異臭から、男達が泥酔している事が容易に判断できる。
「やめなさい!! 今すぐその女の子から離れるんだ!!」
「あぁああ?!! 若造のくせに偉そうに!!!」
男は勢いに任せ、右手を宙に振り上げた。
その瞬間、野次馬の甲高い悲鳴が市場に響き、女の子は強烈な痛みを堪える為、瞼に力をこめる(目を閉じる)。
ツルキーはというと、てっきり『自分に向けての拳』かと思い(予見して)、咄嗟に防御した。
しかし、その拳が向かう先が見当違い(女の子)だった為、すぐにその子を庇うことができない。
だからその場の(泥酔男以外の)全員が、諦めて見届けるしかできなかった。
『彼女』を除いて
ガシッ!!!
「っ?!!」
「私の仲間に、手を出さないで・・・!!!」
男の握り拳を『片手で』受け止めたのは、ツルキーよりも若く、殴ろうとした男よりも華奢な女性。
殴られそうになっていた女の子と同じくらいの年齢にも関わらず、掴んだ拳を宙に振り上げると、男はそのまま後ろへひっくり返る(投げ飛ばされた)。
周囲にいた男の仲間もだが、助けられた『ヒスイ』も、驚きを隠せなかった。
男性を軽々放り投げられた『ウズメ』の力を目の当たりにしたヒスイやツルキーは、ウズメの実力が『予想を上回りすぎて予測不能』なのを直感する。
だが、酔っ払い達は、まだ自分たちの状況を理解できる状態にない(正気に戻らず)。
傍観していた男は一斉に、ウズメへ襲いかかる。
それでもウズメは、平然とした表情のまま、素早く背中に背負っていた相棒(槍)を手に取った。
「う、ウズメさん!!!」
ヒスイが一瞬だけ見たもの、それは男の手に握られた『ナイフ』
思わず大声をあげたヒスイだったが、ウズメはヒスイに笑顔を見せ(余裕を持ち)ながら、石突きを地面に叩きつけ、そのまま宙へと飛び上がる。
ウズメの動きに反応できなかった(驚いた)男達は、そのまま互いにぶつかり合う。
宙を飛んだウズメは、そのまま男の1人の両肩に着地して転ばせ、反応できない男に蹴りを入れる。
その合間は、1秒か2秒の間(ほんの一瞬)。
ツルキーは、まだ微動だにできないまま、男たちがやられていく様を見守ることしかできない。
右手で剣を鞘から引き抜こうとはしているのだが、第三者からの介入(助っ人)がいらない程、ウズメの素早い動きと判断力は、まるで本人だけが『早送り』になっているように見えた。
「て・・・てんめぇ!!!」
それでもまだ折れない(負けを認めない)男の人が、もう一度ウズメに襲い掛かろうとした。
だが、ウズメは呆れた表情で、男の持っていたナイフを『足』で弾き飛ばす。
今度はナイフが宙を舞い、そのままキャッチしたウズメ。
これには、さっきまで鼻息を荒くして暴れていた男たちも、ようやく正気を取り戻し(酔いが覚め)、そそくさと逃げていった。
そんな男性の、情けない姿を見て、ウズメは一言。
「不利になると逃げるあたりは、魔族と同類ね。」
その言葉に、野次馬は一斉に大爆笑。
男性の後ろ姿があまりにも情けなく、同性は小さくなって顔を隠す(自分が恥ずかしくなる)。
そのなかで、たった1人だけ、笑わない(感動している)男がいた。
民を守る立場(兵士)にありながら、誰の助けにもなれなかった、ツルキーだ。
彼の内心を支配している(埋め尽くす)感情は、『恥ずかしさ』と『情けなさ』ではない。
人の目では追えない(理解できない)ほど素早い身のこなし(立ち回り)、そして最後のトドメの一言。
それら全てが、まさにツルキーの理想である、『勇者の姿』だった。
鮮やかに(当然のように)人を助け、武器を自分の分身(我が身)のように扱い、あえて不利になった相手を追う事もしない。
しかし、当の本人(ウズメ自身)、内心あまり考えてはいなかった。ただ、許せなかっただけ。
華奢な女の子に、寄ってたかって追い詰める男たちが。
『多勢に無勢』の精神で、自分を強く見せようとする、滑稽な人間は、ウズメにとっては『魔族以下』の存在。
それなら、例え勝算がなくても(理由がなくても)、堂々と勇者一向に喧嘩をふっかけてくる魔族の方が、ウズメにとってはマシ。
___迷惑な事に変わりないが。
「はぁ・・・・・」
「ご、ごめん。私のせいで手間かけて・・・・・」
「え? 違う違う!
今のため息は貴女に対してじゃなくて、あの『魔族以下の男』に対して!!
___なんでどの世界でも、『ああゆう可哀想な人間』っているのかな・・・・・」
ウズメはまだ怒り心頭ではあるものの、『可哀想』と思っておけば、少しは溜飲が下がる。
もはやこれは、『人間社会で生きる宿命』と考えないと、気が病んでしまう。
何の考えもない、周りの見えない哀れな人間には、何の施しようもない。
何十年と檻の中に閉じ込められ、反省を促したとしても、しない人間はしないから。
どんな徳のある人間が説教をしても、どんな罰を与えても、懲りない人間は懲りない。
『ニュース・ワイドショー』を、飽きるくらい(連日のように)見ていたウズメ。
別に好きで見ているわけじゃない、その報道が『犯罪・再版を繰り返さない為の戒め』だとしても、やはり通じない人には通じない。
そして、この世界でもその諦めを『強要』されなければいけない苦痛は、皮肉な言葉を呟いただけでは紛れそうもない。
だからこの時、ヒスイは恐怖した。自分に絡んできた男性たちではなく、ウズメに・・・・・




