表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/101

兵士・ツルキー(1)

 あれは、まだウズメが勇者一行の一員として、本格的に戦いの(勇者の右腕としての)道を歩み始めた頃の出来事。


 当時の戦況は『やっと五分五分』


 コーコンが勇者として正式に認められる以前にも、今までに数多くの勇者が、魔族の問題を次々と解決(人々を救済)に導いてきた。

 しかし、『起きている問題の数』と『解決できた数』が全然釣り合わない状況が、何百年にも渡って、ズルズルと続いていた。


 その理由として、武術や戦術を極めた勇者でも、人間の常識が通じない(未知が多い)魔族との戦いに、『確実に勝利する方法』なんてものはない。

 例え小さい魔族でも、幼い魔族でも、簡単に人は命を奪われてしまう(敗れてしまう)。

勇者であっても、少しでも気を緩めれば(油断すれば)、あっさり命を落とす。


 今までに何十人、何百人もの勇者が、魔族との戦いで命を散らしている(敗北している)。

___その原因が『魔族以外』にもありそうな件はちらほらとあるが・・・・・

 しかし、歴代勇者の尊い犠牲(屍)により、国の平和がどうにか維持できているのも事実。




 そんな当時(兵士時代)のツルキーは、ずっと煮え切らない(憂鬱な)気持ちが続いていた。

勇者から助けてもらった思い出を糧に、彼もかつては、勇者に憧れ、勇者を目指していた。

 同期にも同じ志を持つ(目標に向かう)仲間がいた為、ツルキーも彼らと共に、訓練に明け暮れ。


 どんなに辛くても、どんなに厳しくても、とにかく『自分が皆を守れる存在』になれる未来の為に。

そんな志を胸に、何年、何十年・・・・・


 しかし、勇者の壁は、ツルキーや仲間が思っている以上に高く、相手(魔物)も思っている以上に強くて狡猾。

 自分たちを厳しく鍛え上げてくれる(指導する)兵士長でさえ、治らないほど酷い負傷を負い、泣く泣く辞任する非情な光景を目にしてきた。


 そんな光景に違和感を持たなくなった(慣れてきた)頃。

既にツルキーの仲間は、兵士としての立場(現状)を維持するだけで精一杯になる。

 彼がそれに気づいた頃、同期はかつて憧れていた存在(勇者)を『敬うだけ』

自分も勇者になれる未来(望んでいた夢)を、完全に諦めていた。


 ___が、ツルキーにも、その心変わり(挫折)は理解できた。

だから、諦めてしまった仲間をなぐさめる事も、見下す事もしなかった。

 しかし彼だけは、ずっと諦めきれず、ずっと夢に向かって突き進んでいた。

理由は彼自身にも分からない、ただ、『諦めるタイミング』が分からなかっただけなのかもしれない。


 そんな彼に対し、同期は


「お前、夢の見すぎで(無茶して)死ぬんじゃないぞ」「死んだら元も子もないんだ」

「まず自分の命を守れるかどうかを見極めるんだ」「もうこれ以上、仲間を失いたくない・・・」


 と、魔族との戦い(現場)の生々しさが詰まったアドバイスを、毎日のようにかけていた。


 兵士が国民を守らなければ、国はあっという間に地獄絵図と化してしまう。

そんな国の結末にならない為にも、命がかかっていたとしても(嫌でも)魔族と戦わなくてはいけない。


 勝てるかすらも分からなくても、ツルキーは戦い続けた。自らの夢と、人々の生活を守る為にも。

同期の兵士は、いつの間にか『死』を恐れるようになり、あえて『比較的安全な職務』を選ぶようになっても、ツルキーだけは変わらなかった。



 そんなツルキーも、時には『城下町の見回り』という、リスクが低い(安全な)仕事を任される事だってある。

 久しぶりに城下町での勤務になったツルキーは、時折道に迷いながらも、人間同士の争いトラブルが起きていないか、五感を研ぎ澄ませていた。


 夕方の城下町は、お酒の匂いが充満する時間帯(夜)と同じくらい、トラブルが起きる。

『酔っ払い同士』の争いもややこしいが、『同性同士』の争いというのも、なかなかに厄介。

 内容(原因)は大したものではないものの、男性よりも女性の方が、なかなか鎮静化できない。

___それが兵士界隈では、『暗黙のルール』ならぬ、『暗黙の法則』


 そして、揉め事を傍観(観察)している野次馬も、争いの発端(騒動の張本人)と同調して、更に事を荒立てる事も珍しくない。

 最悪、兵士の面子が問われる事態(大騒動)になる事も。

おまけに、事を大きくした野次馬は罪に問われないのだから、兵士が野次馬を忌み嫌っても仕方ない。


 結局、楽な仕事(見回り)でも厳しい仕事(魔族との応戦)でも、兵士とは『面倒な役回り』である事に変わりない。

 よく庶民が皮肉交じりに言っている


『王族・貴族の犬』『清掃係』『嫌な役回り』


 も、あながち間違いではない。


 ただ、城下町での仕事を、『ちょっとした散歩』として捉えている別の兵士からすれば、ツルキーは『おかしいくらい真面目』

 誰かの大声を耳にしただけで、音の発信源へと向かい事情を聞く。噂を鵜呑みにしてしまう。

そんな彼の真面目さが、時に『大爆笑』を巻き起こす事も。


 少し前、ツルキーが大声を聞きつけて向かった市場。そこの主人曰く


「売り込みのために大声を出しただけだ!!」


 と、魚屋の店主がご立腹してしまう珍事件が発生。

ツルキーの指導兵でさえ、怒っていいのか慰めていいのか分からない、ある意味後味が悪い一件を起こしてしまった。


 だが、魚屋の主人は、怒りつつもツルキーにこう言った。


「まぁ・・・あんたみたいな真面目君が市場を守ってくれるから、俺も商売ができてるんだがな。

 この程度でへこたれるんじゃいぞー! 

 まだまだ若いうちから挫折されたんじゃあ、俺が面目ねぇんだからよぉ!」


 そんな魚屋の喝を、今日も胸に掲げながら、ツルキーは今日も真面目に巡回する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ