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元・兵士 城壁の外へ(6)

「___で、ツルキーさんは何の用事があって、こんな夜中の宿に?」


「あぁ、ごめん、すっかり忘れてた。




 _____すまん、今まで全然気づかなくて。」


「な、何が???」


 話し始めたと思ったら、いきなり謝罪から始まったツルキーに、ウズメは思わず椅子から立ち上がりそうになる。

 だが、彼がその理由を少しずつ語り始めると、ウズメも思い出してくる。

ウズメの記憶の束に紛れていた、『二つの記憶』



 一つは魔王を倒して、城下町へ無事帰還した際の『凱旋パレード』の時の記憶。

 もう一つは、記憶の奥の奥で風化しかけていた、『城下町での揉め事』の記憶。



 城下町でいざこざ(騒ぎ)なんて、日常茶飯事すぎて、一件一件覚えていられないのが普通。

だが、ツルキーの記憶(脳)には、たった一件、忘れられない事件がある。

 別に内容自体は、そこまで理由(原因)が深刻なわけでもなかったし、死傷者が出たわけでもない。

それでもツルキーにとっては、『忘れたくない教訓(記憶)』であった。


「___失礼を承知で言うんだけど、俺、『勇者様以外のメンバー』に関しては、『名前』と『曖昧な

 イメージ』しか頭になかった(覚えてなかった)。


 あの『凱旋パレード』にも、俺は警備隊として立っていたのに・・・・・


「もしかして、ツルキーさんって・・・・・『兵士』さん?」


「まぁ、もう『元』だよ、も・と。」


 ウズメはハッとして、口元を抑えた。

[聞いちゃマズかったかな?!]と、心の中の声を顔に浮かべながら。


 どんな仕事であっても、どんな世界であっても、どんな国であっても、仕事辞める理由は千差万別。

___『辞めたくても辞められない事情』を抱えている人も、珍しくはないが。

 過去(転生前)のウズメのように。


 ただ、ウズメも勇者一行の一員として、兵士と何回も連携を組んだ(協力していた)事がある為、兵士界隈の事情については、そこそこ知っているつもり。

 大抵、兵士が自らの武器を手放す(兵士を辞める)事情として最も多いのが、『回復不能なほどの負傷』や『精神的な負傷』


 勇者一行と同じく、兵士も、常に命の危機と隣り合わせの仕事。

相応に給料は多いものの、いつ辞める事になっても(命を落としても)おかしくない。

 それを覚悟で望まないと(志望しないと)、『後悔しても遅い結末』になってしまう。


 兵士のなかには、そんな事情で『家庭(妻・子供)』をつくらない人も。

家族や愛する人がいると、そのダメージは大きくなってしまう上に、責任感も大きい。


 ウズメも散々見てきた、目を背けたい気持ちになりつつ、背けてはいけない光景を。

魔族との戦いで、命を落とす兵士の姿と、愛する家族を失って悲しむ、家族や恋人の姿。

 一部の人は、


「どうしてあの人を助けなかったの?!!

 あなた達の力があれば、救えたかもしれなかったのにぃぃぃぃぃ!!!」


 と、勇者一行に泣きついてくる人も。ただ、そんな人も大抵は、しばらく時間が経てば謝りに来る。

何故なら、魔族の危険性と、兵士としての仕事のリスクは、身近な人が一番理解しているから。

 ただ、兵士よりも強い立場(良い境遇)にありながら、それでも救えない苦しみを、『コーコン以外の仲間』はひしひしと感じていた。


 ___コーコンに関しては、本当に『他人の事』だから、そもそも同情しない。


 口では

「申し訳ない・・・」「私の力不足で・・・!!!」

 と、聞いている側の気持ちが良くなる言葉ばかりを並べる。


 だが、後から仲間に対して、ネチネチグチグチと文句をぶつける。

ミラやヒスイに対しては、『力』をぶつけて。


 しかも、一度文句を言われた村(勇者の気に食わない場所)を再び訪れた際は、

 「あの時の事、覚えてるよね?」

 と言わんばかりの言葉ばかりを呟き続ける。



 「あの時はだいぶ取り乱していましたが、大丈夫でしたか?」

というコーコンの言葉は、ウズメが聞くと

 「あの時、俺を侮辱したのはお前だよな?」


 「あの時は助けられずに申し訳ありません、私の力不足が原因で・・・・・」

というコーコンの言葉は、ヒスイが聞くと

 「俺は今も昔も最強なんだよ、だから助けられなくても、それはお前たちの責任だ。」


 「あの時の事は、今でも鮮明に覚えているんですよ。」

というコーコンの言葉は、ミラが聞くと

 「お前があの時、俺を侮辱した事は絶対忘れないからな。」




 そして、愛する家族や恋人である兵士が、『回復不能な重傷を負ってしまった事を知らされた時』もまた、人々は嘆き悲しむ。

 

 回復不能・・・という事は、日常生活もまともに送れない『元・兵士』も珍しくない。

そうなると、やっぱり人の助け(介助)はどうしても必要になる。

 それが恥ずかしくて(プライドもあり)、『自らの兵士としての価値がなくなった事を悟ると同時に自害を決める兵士』も、この世界では珍しくない事は、ウズメも知っている。


 自ら命を絶たなくても、不自由になってしまった自分自身に耐えられず、廃人になってしまうケースもある。

 ある程度歳を取った(退職間近な)兵士なら、まだそのショックは軽いもの。

だが、まだ何十年も未来が残っている(働かなくてはいけない)若い兵士ほど、『死傷』を恐れている。


 それでも、自らの負傷を受け止められる兵士も、いないわけではない。

兵士として心身を毎日鍛えていれば、新しい生活にも順応できる。

 ツルキーもその一人かと思ったウズメだった・・・が、ツルキーの姿形は、『男の村人』と大差ない。

だからウズメは、さりげなく聞くことにした。


「___お、お仕事、大変だったでしょう。」 


「まぁ・・・・・ね。

 否定はしない。俺と一緒に頑張っていた同期の何人かは、もう『地面の下(骨)』だからな。


 ___でも、君たちがその元凶を絶って(魔王を倒して)くれたんだ。

 だからこれからは、現役の兵士が俺みたいに『取り残される思い』をしなくてもいいのは、感謝の一

 言では足りないくらいだよ。」


「そうですか。

 ___なんか改めてそうゆう言葉を聞けて、私も嬉しいです。


 ツルキーさんは、どうして城下町を出たんですか?

 一人暮らしのツルキーさんなら、城下町で暮らし続けても、さほど問題はないのに・・・」


 城下町は国の中心(核)、魔族対策も他の村や町に比べたら格段に強い。

それを魔族側も分かっているのか、それとも単に目立つからなのか、魔族が城下町へ向けて押し寄せて(攻めて)来る頻度は、村や町に比べると格段に多い。


 その際に負う痛手をいかに食い止める(最小限に抑える)かは、兵士たちの技量にかかっている。

だが、どんなに武器・資材を準備して襲撃に挑んでも、どんなに腕の立つ兵士が門番をしていても、予想以上の被害を受けたりもする。


 それに、兵士の仕事場は、城下町に限った話ではない。

時には村や町に出向き、事件が大きくなる前に沈静化したり(仲裁に入ったり)、あちこちで悪さをする魔族から人々を守るのも、国を支える立派な仕事。


 その仕事の最中、怪我をするのは当たり前の覚悟で挑むのが、戦う人間にとっては当然。

特に魔族と戦うとなると、『治らない程の大怪我』を負うことは覚悟の上で挑まなければ(魔族と戦わないと)いけない。


 ウズメもかつては、そんな状況のなかで生きていた。

だからこそ、深手を負って人生に絶望した兵士の気持ちが、痛いほど理解できてしまう。

 そして、自分がもう戦えない事を、『諦め』という形で理解する兵士の気持ちも。


「そんな深い事情なんてないよ、ただ単に、『兵士を辞めたい』、ただそれだけの理由だよ。

 平和になった今だからこそ、こうゆう理由も許されるってわけ。」


「_____あぁ・・・成程・・・」


 変に気を遣っていた(言葉を選んでいた)ウズメは、何だか恥ずかしくなる。

よくよく考えれば、彼女も分かっていた。もう兵士の界隈も、怪我が隣り合わせな環境ではない事を。

 ただ、昔の考え方(悪い癖)が抜けておらず、ついつい悪い方向にばかり考え込んでしまう。


「___でも、俺にとってウズメちゃんは、俺の兵士生活を支えてくれた存在でもあったんだ。」


「え??」


「いや、分からなくていんだよ、俺が勝手にそう思い込んでいただけだから。

 ___だけど、俺にとっては、忘れちゃいけない記憶の筈だった。

 でも何でかな、そうゆう記憶に限って、頭の中から離れかけちゃう(忘れちゃう)んだ。」


「それ、分かりますよ。」


「だけど、ようやく確証が持てた。やっぱりウズメちゃんは、『あの時の勇気ある女性』だった。」

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