元・兵士 城壁の外へ(5)
「ツルキーさーん!
子供たちに、あっち側(新居建設予定地)の雑草取りを任せたいんだけど、見守りお願いできる?」
「了解。村の中とはいえ、これだけ雑草の背丈が高いと、見失いそうになるからな。」
「どうせならこの際、大きな横長住宅(長屋)にして、複数人でも住める家が作りたくてな!!」
「無理だけはしないでくださいね。」
「ツルキーお兄ちゃーん!! どこー?!!」
「あーこらこら、あんまり奥に行くんじゃないよぉー」
「___俺もいつか、ツルキーお兄ちゃんと同じくらい、大きくなりたい。」
「そうだね、お手伝い頑張ったら、きっと俺より大きくなるかも。
そうなったら、今度は俺の役目を、『バトンタッチ』してほしい。」
「うんっ!! 頑張るよぉ!!」
こうして、邪魔になってしまった杭の残骸は、家になって再利用された。
そして、あっという間にツルキーも村に馴染み、村で唯一の『警備兵』に。
この村には泥棒なんていないものの、『野生動物』や『盗賊』は、魔族がいなくても相変わらず。
時には力仕事(運搬や修理)を任されたり、子供達の遊び相手(遊具の代わり)になったり。
ツルキーの、若干軽いものの、お人好しで気配りができる性格もあり、子供からも好かれている。
城下町の兵士としての仕事は、時間毎にビッチリ予定が組まれていた(仕事内容が決まっていた)。
しかし、今のフリーダムな村の(全然何も決まっていない)警備は、ツルキーにとっては新鮮。
常に緊張感の漂っていた(何が起きてもおかしくない)城下町の警備とは違うものの、ツルキーは自らの仕事に対する誇りを忘れず、子供の相手でも真面目に取り組んでいる。
城下町での生活も、彼にとってはそこまで苦ではなかった。
だが、改めて生活スタイルを変えてみると、意外な発見があったり、新鮮な学びがあったりする。
今まで剣や槍(武器)しか持たなかったツルキーは、半日草むしりをするだけで、『スライム』のようにヘトヘトになって帰ってくる。
「いよっと・・・・・・はっと・・・・・
うーん、やっぱり『舞台』があるのって、それだけで本格的だなぁ。
無茶を承知で頼んだけど、作ってもらって本当に良かった。」
夜の宿に響く、木材が軋む音。
そして月明かりに照らされたウズメは、まるで照明のライトを独占している、『舞台の主役』
『トンッ トンッ トンッ』と、リズム良く跳ねるウズメは、作ってもらった舞台の踏み心地や具合を確かめる。
床が安定した(本格的な舞台が出来た)とはいえ、感覚を掴むのには、やはり練習が必要不可欠。
ある程度家を作った村民が、次に手掛けたのは(作ったのは)、ウズメが立つ(踊る)舞台場。
今までは狭いタライの上で踊っていたウズメにとって、広々とした舞台を用意してもらえた事で、踊りのバリエーションが一気に広まった。
そして、舞台のあちこちには、『ウズメの踊りならでばの特徴』が、あちこちに見える。
一番分かりやすいのは、舞台の真ん中にある『ひし形の穴』
穴の周りは鉄で枠組みされて、刃物で傷つけても、穴が広がらないようになっている。
最近のウズメは、『穴に何度も何度も矛先を突き立てる練習』に明け暮れていた。
その『特殊な穴』を作るように、ウズメ自身が村人にお願いしたのだ。
その理由は、『舞が始まる合図』に関係している。
ウズメの舞は、『槍を床に突き刺す』のも見せ場の一つ。
別の登場のやり方も考えたが、やはり今までのやり方を続ける事にした。
見る人がびっくりしてしまう事も多々あるが、その分インパクトがあって、人々が一気に舞台に注目(集中)してくれる。
ただ、それでは床がいずれ壊れてしまう。何度も作り直すのは、資材と時間を無駄にしてしまう。
だからウズメは、舞台の真ん中に穴を開けて、そこを『矛先の着地点』とした。
最初はなかなか矛先が穴に入らなかったものの、練習を重ねていくうちに、今ではそっぽを向いても(狙わなくても)入るようになった。
___まるで『ゴルフ』か『ゲートボール』をしているような気分になり、ついつい練習が脱線。
我に返ったウズメは、もう夜にも関わらず、今度は床の具合(感触)を確かめる。
ちなみに、使い古したタライはというと、どうしても手放したくなかった(捨てたくなかった)為、部屋に飾っている。
『努力した証』として。
キィィィィィ・・・・・
「こんばんわ、お疲れ様。」
「あ、ツルキーさん、こんばんわ。ごめんなさい、うるさかった?」
「いや、違うんだ、君にちょっと用があって。」
夜中に宿へ来たツルキーは、その辺にあった椅子に腰掛けながら、「もっと見せて」と言って、ウズメの練習に付き合う(鑑賞する)。
『1人だけに見られる舞台』は、少し恥ずかしかったウズメだったが、目を逸らさずにジーッと見ている彼に押され、なるべく彼の方を見ないようにして(意識せずに)練習する。
___しかし、ツルキーが見ていたのは、実は彼女自身ではなく、彼女が持っている『槍』
まるで『強風で煽られる風車』のように、クルクルクルクルとウズメの周囲で廻る槍を凝視しながら、彼は『確認』をしていた。
本当は、『ずっと前』から気づいていた。
でもこの村に来てから、色々とバタバタして、言う機会がなかった。
(このまま離さなくてもいいかな・・・?)と思っていたツルキー。
だが、宿から聞こえる『木材が軋む音(ウズメが踊りを練習している音)』を聞くと、いつの間にか家を飛び出し、宿のドアを開けていた。
彼が『思い出したきっかけ』は、正確には『槍』ではなく、『槍の扱い方』
やっぱり人によって、武器の扱いはだいぶ変わる(様々)。
武器と長年連れ添ってきたツルキーだからこそ、各々の『癖』や『特徴』に、何となく気づく。
特にウズメの扱い方は、『戦い向け』というよりは『魅せる向け・惑わし向け』
ただ単に槍で突くのではなく、どんな動きをするか分からない槍の動きで、敵を翻弄させる。
この戦法は、ウズメが誰かから習ったわけでもなく、自分自身で取得した戦い方(技法)。
彼女なりに、『生き残れる方法』を模索した結果は、今にもちゃんと繋がっている。
試行錯誤していた頃のウズメは、まさか自分が踊り子になるなんて、思いもしなかった。
彼女の場合、『踊り子になる為に技術を高めた』のではなく、『高めた技術の使い道が踊り子になった』という流れである。
「ふぅ・・・・・疲れた。」
そろそろ『体力』と『眠気』の限界を感じたウズメは、舞台から飛び降りて、ツルキーの隣にある椅子に腰かける。




