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元・兵士 城壁の外へ(1)

「_____やっぱり無計画で(目的地もなく)城下町を飛び出したのは、間違いだったかな。

 でもいいや、何とかなるでしょ。

 それより、仕事(城下町)から解放された今を満喫しなきゃな。」


 1人の男が、小さな袋(少ない荷物)だけを担いで、どこまでも続く広い広い草原を眺める。

そんな何気ない行為が、彼にとっては新鮮で、初めての事だった。

 『改めて』見た城下町の外は、とにかく何も無さ過ぎて、妙に新鮮。


 春の風は、草の匂いに混じって、甘美な蜜(花)の香りも乗せ、景色をより一層美しく見せる。

今まで『灰色の城壁』しか目にしなかった男にとって、あおく鮮やかな草原の若緑色が、目に刺さるくらい(涙が出そうなくらい)沁みていた。


 蒼い空に浮かぶ雲は、あてもなく何処かへ向かっていく。

そんな無計画な空を、彼もまた追いかける。


「___それにしても、まさか城下町の外が、こんなに自然で溢れていただなんてなぁ。

 魔族に荒らされて、もうちょっと荒廃していると思ったけど。」


 男は、呆然と蒼い海(草原)を見つめながら、男は何も考えず、ひたすら歩いていくばかり。

時折すれ違う旅人と、一言二言会話をしながら、興味が向く場所を探す、放浪の旅。

 そんな旅事を、彼自身は突発的に思いつき、思いつきで城下町(故郷)を出た。


 そして、いざ灰色の壁(城下町)を抜け出した先にあったのは、どこまでも続く広大な大地。

整備されない、誰にも見向きもされなかった、まだ人の手がつけられていない、素顔の大地。


 しかし、いずれは素顔の(自然のままの)大地にも人の手が加えられ、獣道にはレンガが敷かれる。

道が凸凹で歩きにくいのも、夜は月明かりや松明が頼りになるのも、これからどんどん変わっていく。


 既に城下町では、門外の整備(城下町への道作り)に取り掛かっているた 

人々が歩きやすくなれば、より多くの人々が城下町を行き交い、お金が流れて来る。

 だから『城壁の撤去』と同じくらい、多くの人々が力を入れている工程。

老若男女問わず、多くの城下町市民が、『バイト』感覚でレンガを地面に並べている。


「___歩きにくいのは不便だけど、こうゆう道も良いんだよなぁ、不思議と。

 だから今のうちに、頑張って歩いておかないとなぁ。」


 男はそう呟きながら、足の裏で砂利を味わっていた(獣道を満喫する)。

まだ道が整備されてなくても、人々が忙しなく歩くことにより、『黄土色の線』が草原を這う。

 地面には、まだ新しい人の足跡や、馬の落とし物(糞)が転がっている。


 男は足元に力を籠めつつ、「空は中(城下町)と変わらないな」と、上を仰ぎながら独り言をふかしている。

 だが男の瞳には、壁の内側(城下町)から見る空よりも、今の空の方が一層蒼く、一層広く見えた。


 男が兵舎でひたすらに訓練の日々を積み重ねていた(続けていた)日々を癒していたのは、今も昔も変わらない、蒼い空だった。

 兵舎を駆け回っている最中、腹筋をしている最中、夜間の見回りをしている最中にも、彼は見上げていた(空を見ていた)。




 男もまた、城下町に住む人々と同じく、いつか自由に城下町を出られる未来を望んで(夢見て)、日々訓練に明け暮れていた。

 時には、城下町へ侵入を試みるモンスターと対峙したり、テロリストもどきを制圧した事も。


 そんな成績もあり、彼が旅に出る(兵士を辞める)事を惜しむ人は、彼が思っている以上に多く、見送りに来てくれる人まで。

 だが当の本人はというと、そんな盛大なお見送りは、かえって迷惑(門出の邪魔)。

挨拶(別れの言葉)もほどほどにして、彼は逃げるように城下町を去った。


 もう今となっては自分が、


『かつて城下町の平穏を守る為に戦ってきた

 元・兵士』


 であった日々が、大昔の記憶にすら思えてきた男。


 そして、


『かつて勇者になれる未来を夢見ていた

 非力な青年時代』


 が、男のなかでは一種の『黒歴史』と化している。


 彼が思っていた以上に、『理想』と『現実』の落差は、計り知れず。


 彼は城下町の安全と平和を守るために従事して、『兵士』としては一人前になった。

しかし、『彼の勇者になる夢』は、結局最後の最後まで叶わなかった。


 その『憂さ晴らし(夢を忘れる事)』も兼ねて、彼は長年身を寄せていた場所(城下町)から離れる事にした。

 憧れの為に頑張っていた城下町から離れ、自分自身を見直そうとしたのだ。






 彼の人生は、生まれてからすぐ、悲劇にみまわれた。

元々彼は城下町出身『ではなく』、他の地域(村・町)で生まれた、まだ名もなき赤子だった。

 ところが、名前をつけてもらう前に、彼の生まれ故郷は、魔族に襲撃されてしまう。

結果、彼の両親は亡くなり、城下町に住む親戚の元へと預けられた。


 幼い頃から、彼が自分の両親が亡くなっている事を自覚していたのには、引き取った親戚も、哀れみの目を向けていた(可哀想と思わずにいられなかった)。

 だが、当の本人は、割と淡白だった(両親の死を疑わなかった)。

何故なら、自分の目に焼き付けてしまった光景を、嘘にできない事を、彼は幼くも理解していた。


 一番最後に見た両親の姿は、大人になってからも、彼を支えていた(守っていた)。

今にも大声で泣いてしまいそうな彼の口を、必死で抑える母親の、異常なほど冷たい手。

 父親は、母親に覆い被さるようにしてまで、自分たちの子孫(子供)を、未来に生かそうとした。

時が経って、子供から大人に変わっても、彼は自分の両親を誇りに思い、同時に尊敬の対象である。



 そして、彼が本格的に勇者を目指すきっかけになったのは、親戚に引き取られ、数年が経過した頃。

いつも通り、学校へ登校して、クラスメイトと勉学に取り組み、夕暮れ時の下校道を歩いていた。


 子供たちの学校が終わる頃になると、市場は夕食の食材を求める主婦で賑わう為、下校中の子供たちは、自分たちの母親を探しながら市場を通過する。

 時には、親切にしてくれる店の主人と言葉を交わしたり、靴屋のウインドーに展示された、ピカピカの商品を眺めたり。


 そんな少年の、いつもの帰り道は、『人々の悲鳴』によって一変する。


「きゃー!!! 勇者様ぁー!!!」「た、大変だ!!! すぐに医者を!!!」

「兵士さん!!! こっちです!!!」「こ、こりゃ酷い・・・!!!」


 大人達が一斉に慌てふためいている姿を見て、動揺しない子供はいない。

しかも、悲鳴をあげた(野次馬になっている)大人の会話を聞くに、魔族と最前線で戦い続ける勇者の身に、とんでもない事が起こった様子。


 少年も、多くの子供達と同様、人々を救い、守る勇者を尊敬していた(憧れていた)。

だから多くの子供たちは、学校を卒業と同時に、勇者になる将来の為に頑張っている。

 そんな子供たちの憧れ(勇者)に、とんでもない事が起きたとなれば、少年も他の子供と同様、野次馬に紛れ込む。


 だが、少年が駆けつけた頃には、既に城門前は『石の壁』ではなく、『人の壁』が連なっていた。

少年は、どうにか小さな隙間を移動して、門の前がどうゆう状況になっているのかを確かめに行く。

 野次馬の中には、何としてでも門に向かおうとする彼を止める人もいたが、まともに身動きがとれない中(野次馬の中)では、そんなの不可能。


 少年は、まるで狭い隙間を通り抜ける猫のように、スルスルと野次馬をすり抜け、騒ぎが起きた目前(門の目の前)へと辿り着いた。

 ___が、少年はその光景を見た直後、嘔吐と鼻水(体液)で呼吸が厳しくなるくらい、残酷な光景を目にしてしまう。


「_____あぁ、こりゃもう駄目だ・・・」


「クソッ!!! 魔族の野郎ども!!!」


「こんな姿、勇者様のご家族に見せられない・・・!!!

 顔なんてもう・・・うぅうう!!!」


 少年と同じく、涙でその場に跪く女性の頭上では、『腐りかけている肉の臭い』に惹きつけられたカラスが、『勇者だったモノ』を眺めている。

 人々の目は『勇者が無惨に事切れた悲しみ(涙)』と、『魔族に好き勝手にされた怒り』で満ちていたが、カラスだけは、『獲物を見る無感情な目』をしていた。


 誰もが尊敬の眼差しを向けられる筈の勇者様は、『そこら辺に落ちている生ゴミ』だと思っても仕方ないほど、ボロボロにされていた。

 顔はもう凹んで判別できず、立派に鍛えられた剣と防具を身につけて(装備して)いなければ、その物体が勇者である(かつて人だった)事に、誰も気づかなかったかもしれない。


 腕や足もありえないくらいに伸び(骨が外れ)、腹からは『中身』が溢れでている。

そんな光景を、まともに見てしまった少年の腹から込み上げてくるものは、鼻水や涙だけではない。


 何故なら少年は


 かつて勇者に拾われ、勇者の手によって、城下町へ届けられたのだから


 少年は、いつか自分を救ってくれた勇者に、直々に感謝を伝えられる日(夢)を信じて、学校で勉強や運動に励んでいた。

 それがどんなに高い壁であろうとも、少年にとっては、そんな未来を夢見るだけで、両親を目の前で失ったショック(苦しみ)が緩和できた。




 そんな少年の夢は、『勇者の死』という、最悪な終わり方で幕を下ろした(潰えた)。

野次馬のなかで、誰よりも泣き、誰よりも現実(勇者の死)を疑った。


 瀕死状態の勇者を連れてきた(背負ってきた)仲間の傷もかなり深刻なもので、魔術師に至っては視野(両目)を失い、馬は門を過ぎた辺りで事切れてしまう(息絶える)。

 生々しい血の臭いが辺りを包み、嘆き悲しむ声(騒動)は一向に鎮まる気配を見せない。


 少年は、臭いの気持ち悪さと動揺で、その場に倒れ込み、その直前に聞こえたのは


「お、おい!! 誰かこの坊主を医者のところへ・・・!!!」


 医者の元へと担ぎ込まれた少年は、2日間も寝込んだ(起き上がれなかった)。

目は開くが、開いた目からはとめどなく涙が溢れ出る(流れる)。


 彼を診た医者も、確かに勇者の死を悲しんでいたものの、少年が気を失うほど動揺している理由が、いまいち分からなかった。

 しかし、駆けつけてきた彼の両親の話(少年が勇者に救われた話)を聞いて、医者も思わず涙を流しながら、少年を慰めた。


 「悲しかったな」「辛かったな」と言われるたびに、少年は小さく頷き、その光景を見ていた両親も、涙を堪えきれなかった。


 少年が入院していた約一か月間、新聞の記事は『勇者の死』に関してのみ。

毎日市場で話し込む主婦でさえも、勇者を失った無念を分かち合っていた。

 勇者の葬式は厳かに執り行われ、『歴代勇者の墓』に、もう一人の犠牲者が仲間入りする。


 退院した少年は、そのお墓に花を手向け、自分の夢を『新たな形』に変えて、再スタートする。 

それは、自分自身が『勇者になる』という夢。

 

 魔族よりも強い勇者になる

 大勢の人を守れるような勇者になる

 悲しみの連鎖を終わらせる勇者になる


 そんな願いを胸に、少年は学校を卒業。そこから自分自身を鍛える為に『兵士』となった。




 ___しかし彼は、結局『最後まで(城下町を出るまで)』知らなかった。

彼を救ってくれた勇者の死因が、『魔族ではなかった事』を。

 何故なら、この事実を知るのは、王族の一部のみ。


 どうしてその事実を公表しないのか、それは、あまりにも『非道な事実』だから。

その上、もしこの事実が公表されてしまうと、国としての面子メンツにも関わる事を危惧した。

 ___国が自主的に動く件といえば、大抵は『そうゆう事情』が絡んでいる事は、国民全員が薄々気付いている。


 人々から頼られ、尊敬される勇者を、あれほど無残に殺害したのは、勇者の荷物を狙った『盗賊』

彼らは、勇者と仲間の持ち物を奪うだけでなく、国や世間に対する鬱憤を、勇者で発散したのだ。

 その光景を目撃した、生き残った勇者の仲間に関しては、国から多額の『見舞金』+『口止め料』を貰い、各々で生活を始めた。


 勇者の命を奪った盗賊集団は、後日、発見されて拘束された。

そして、無残な姿にされた勇者と同様、惨たらしい姿にされ(拷問にかけられ)、処刑されている。

 

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