第五章(5) ミラの仕事と、村の未来
「う、ウズメさん、まだその体制のままでいられますか?」
「うん、全然平気。描き直すの?」
「はい、もうちょっと角度を変えて・・・・・
ヒスイさん、脚立って倉庫にありましたよね?」
「え? 脚立に乗ったまま描ける?」
「でも今回のヒスイさんの新作、『髪飾り』もすごく綺麗なので、そこもしっかり描きたいんです。」
「ダメだぞ!! これは俺が先に拾ったんだから俺のだ!!
チーロにはあげないぞ!!」
「そんなぁー!! ふぇぇぇーん!!
ミラお姉ちゃーん!!」
「こらこら、ヒノ君はもう2枚も持ってるんだから。
他の人と仲良くできない男の子には、これからは一緒にお勉強できません!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!!
___あ、チーロ、そこ『あ』じゃなくて『お』。
それじゃあ、『あこしください』になる。」
「___『あこしください』って何?」
「お前が間違えたんじゃねぇか!!」
ヒスイの時と同様、ミラが『途中で描くのをやめた絵(失敗作)』も、手伝ってくれる子供たちが争奪戦になる(捨てたくない)ほど好評。
中途半端に筆を止めている(書いた途中)絵でも、ちゃんとモデル(ウズメ)が一目で分かる。
ウズメの綺麗な紅梅色の髪も、細いがしっかり筋肉のある腿も、少ない画材でしっかり表現している。
子供たちの貰い物(失敗作)は増えていく一方だが、それでも着実に、(読みたい!!)と思えるチラシが出来上がっていく。
ミラが一生懸命筆に描く傍らで、ヒスイは、子供たちが書いた『誘い文句(文章)』を確認する。
もちろん、その間もヒスイは、自分の作業(新作の着手)を怠らない。
子供たちの様子を観察しつつ、ウズメの防具を細かく砕いている(ラメを作る)。
部屋で1人きりですると退屈になる(眠くなる)作業でも、誰かが隣で一緒に頑張ってくれるから、ウズメの防具はあっという間に小さくなる(必要な部分だけが余る)。
「ヒスイお姉ちゃん、これで文字合ってる?」
「_______うん、よしっ!
これで・・・30枚目!!
どう? まだ書けそう?
疲れたら一旦もう今日はお開きにするけど・・・」
「文字書くの楽しいから、まだやるもーん!」
「___というかウズメ、あんたそんな薄着でずっと立ってるけど、寒くないの。」
「夏が近いからね、そんなに寒くないよ。
それに私、連続で野宿しても風邪ひかなかったもん。」
「あんたねぇ・・・・・
ほらほら、そっちは絵に見とれてないで、ちゃんと書いてねー」
予めヒスイやウズメが、『チラシに書く文章の見本』を制作。
それを子供たちに一枚一枚配り、その文章を真似して書いてもらう(チラシを量産)。
スラスラと書ける子もいれば、一文字書くだけでも時間がかかる子も。
別の子は、自分の家から持って来た紙に、苦手な文字を書き連ねて、コツを掴もうと奮闘している。
子供を見守る保護者たち(父親・母親)は、頑張って机にしがみついている(文字を覚えようとしている)我が子を見て、感慨深い気持ちに浸っている。
試行錯誤して、時折喧嘩をしながらも、文字を覚えようと頑張っている子供の姿を、窓の向こう(外)から無言で応援していた。
子供たちの親も、学校に通って勉強した事はなく、各々が自力で覚えるのが、この村の常識。
だが、それを不便に思った人も多かった。
その証拠に、文字を教える3人と、頑張って勉強する我が子を、羨ましい目で見ている大人も数名。
村に住む年長者の話によると、大昔はこの村にも、ちゃんとした学校があったそう。
ところが、生徒に教える先生がいなくなった事で、学校自体が取り壊されてしまった。
こうして、村の子供たちは親から色々な事を教えてもらう(各々で学ぶ)形式になった為、大勢で固まって勉強する光景を、見た事がない大人が大半なのだ。
「ねぇねぇヒスイお姉ちゃん、この『ぜひ(是非)』ってどうゆう意味?」
「え? えぇー・・・・・っと・・・
『無理しないで』って意味・・・かなぁ?」
「えー? でもウズメお姉ちゃんの踊り、もっと皆に見てほしいから、無理してほしい!
ね、ウズメお姉ちゃんもそう思うでしょ?」
「うーん・・・・・
でも、『相手の都合』の事も考えなくちゃいけないでしょ?
そうゆう事も考えて、言葉は選ばなくちゃいけないの。」
「ふーん、なんか難しいね。」
「まぁね。でも、そうゆう気遣いができる大人って、すごくかっこいいよ。
大人でもね、相手の都合を考えずに威張ってる、『子供みたいな大人』っているの。」
「___僕はちゃんと、大人になれるかな?」
「相手のことをしっかり思いやれる気持ちがあれば、もう立派だよ。
自分だけで生きるより、やっぱり皆と一緒に生きる方が楽しいし、安心できるからね。」
「___なんかヒスイ、場数を踏みまくったおばちゃんみたいだよ。」
ヒスイのその言葉に、ウズメはバランスを崩しかけた。
「やかましいわっ!! これでも色々と苦労を重ねてきたんだからね!!」
「知ってるよ、それくらい。これでも、ウズメを近くで見ていたんだから。」
常人ではかなり辛い体勢(片足立ちのまま)でも、普通にヒスイと会話をするウズメ。
ミラが正確に彼女の姿を美しく描けるのも、モデル(ウズメ)がしっかり体勢を維持しているから。
何枚も何枚も描き上げるミラの絵は、どれを見ても『同じ絵』はない。
一枚一枚『角度』も違えば、微妙に『色』も違う、その辺りは、ミラのアレンジも交えている。
画材が乏しくても、色を掛け合わせれば、『それっぽい色』になる。
それをミラは分かっている(知っている)、勉強しわけでもないのに。
「___チーロちゃん、本当にいいの?
こんな・・・全色揃ってるクレヨン貰ったりして・・・」
「うん、なんか使おうと思ったけどね、使うのが勿体無かったから、ずっと机の中にいたの。
だからもう、ミラお姉ちゃんにあげちゃう。
それに、退屈してもお兄ちゃんが一緒だから、お絵描きする暇がないの。
お兄ちゃーん、間違ってるか見てー。」
「はいはい。えーっと・・・・・
おぉ、やっと全部ちゃんと書けるようになったな。
___まだ文字の大きさがメチャクチャだけど。」
「えぇー?? 難しいよぉー・・・・・」
「ふふふっ、それもそれで良いと思うよ。その方が、何だかお洒落に見える。」
画材に関しては、村の子供達から借りることに。
その量もだいぶ微々たる物だが、『無いよりはマシ』の精神で、ミラは描き続ける。
ただ、画材を貰う交換条件として、子供たちに文字を教える件については、3人のなかでミラが一番困っていた。
ヒスイもミラも戸惑いはした、カミノー村を将来支えていかなければいけない子供たちの将来(未来)を考えると、プレッシャーだった(責任が重すぎた)。
しかし、子供たちの飲み込みの(覚えの)早さと、自分たちで頑張って学ぼうとする姿を見ると、断るわけにもいかない。
一番不安だったミラに関しては、『ヒスイの提案』で、どうにか納得してくれた(決心がついた)。
「城下町の市場の看板が読めるだけで、もうバッチリだよ。
___まぁ、私も学校へは通ってなかったからね。家庭教師から教わっていたから・・・」
「でも、ヒスイさんはちゃんと勉強してたじゃないですか。私はただ、文字が読めるだけで・・・」
「でも、今の村の子どもたちは、城下町の看板も読めない子供もいると思う。
だって、村には看板が一枚もないし、本も数少ないからね。
だからさ、城下町で見つけた看板とかの文字を、子供たちに教えてあげるのは・・・どう?」
ウズメが画材をかき集めている間、ヒスイとミラで相談しながら、子供たちに出す『プリント(問題集)』を作成していた。
ミラの記憶(記憶にある看板)をなぞりつつ、ヒスイがかつて、町のお嬢様だった時代に、家庭教師から提出されていた時の記憶も加える。
ウズメも城下町の看板は飽きるほど見てきたが、改めて『言葉の意味』や『由来』を考えると、城下町へ直接確かめに行きたくなる(もう一度勉強したくなる)。
普段見慣れているものほど、一度疑問に思うと(違和感を感じると)、底の見えない沼に足を突っ込んだように、どんどん知識の奥に誘われていく。
(_____私も今から、色々勉強してみようかな。
今思い返すと、私って『勉強道具(ペン・本)』より『槍』を持ち歩いているた期間の方が長かった
かもしれない。
でも、槍が『商売道具』になった今なら、ゆっくり色んな事が勉強できるかも。
___あぁ、そういえば私、『田舎にいた頃(前世)』、親から
「大学は出た方がいいんじゃないの?」
って言われたんだっけ・・・
思い返すと、お母さんたちの言う通りにしておくべきだったのかな(大学に行くべきだったかな)。
___そんな事、今更頑張っても叶わないけど(後悔しても遅いけど)。
あの時の私は、とにかく田舎から出るのに(都会へ行くのに)必死で、高校で勉強した事とか、もう
全部実家に置いてきたかも。
でも、「何を勉強するの?」って聞かれても、まだ漠然としてるんだよなぁ。
『踊りの勉強』も、城下町に行くしかないし、『経営の勉強』って・・・・・この世界に『経営・経
済の参考書』みたいな物ってあるのかな?)
「__________んぐぅ!!!」
ドゴッ!!!
「フベェ!!!」
「あぁ!!! ウズメさん!!!
そんな長い時間逆立ちしてたら、血が頭にのぼって・・・!!!」
ミラは心配していたが、ウズメも含め、ミラ以外の皆は大爆笑。
ひっくり返った本人も一瞬、自分がどうゆう状況(痛みの正体)が分からなかったが、今自分がミラのモデルになっていた事を、すっかり忘れていた。
気づけばミラの隣には、『箱状にまで積み上がったチラシ』が置かれ、ミラは凝り固まった両手をほぐしている。
長い時間、ずっとチラシに集中していた(下を向いていた)為、普段は温厚な顔つきをしているミラの顔が、まるで石像のように硬くなっている。
子供達から借りた画材は、ほぼ半分くらい使ってしまったが、誰もミラを責めなかった。
むしろ、文字を覚える事(勉強)が楽しかった様子。
「次はどんな文字を教えてくれるの?!」と、ワクワクしている子供たち。
「うーん・・・・・まぁこのチラシの『成果』があったら・・・ね。
なかったらなかったで、また別の誘い文句を考えなくちゃいけないし。」
「じゃあ私もチラシ配りに行くー!!
お母さんいいでしょー?!」
「え?! うーん・・・・・
___そうね、ウズメちゃん達が一緒なら大丈夫かしら。
じゃあ、私も久しぶりに、森(村)を出てみようかしら?」
「じゃあその間に、男勢で村の柵を全部取っ払って、客が気軽に入れるようにしよう!!」




