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第五章(3) ミラの仕事と、村の未来

 魔族によって、住民を失ってしまった(廃墟になった)村や町は数知れず。

人から忘れ去られた場所は、国中のあちこちに、探さなくても(嫌でも道中で)見つかる。

 よからぬ集団(盗人)や、魔族の住処にされる事もあるのだが、人も魔物も長く居座れるような場所ではない(相当荒れ果てている)。


 その為、野営をする場所としては、もってこいの場所。

一晩だけなら、『ハリボテの家屋』も、『城下町の城壁』くらい、ありがたく思えてしまう。

 魔族の一撃を喰らっただけで、崩壊してしまいそうな程、朽ちていても。『心の問題』である。


 『今晩もまた』、魔族のイザコザを片付けている間に日が暮れてしまい、近くの廃墟で火を焚く。

そこで、ヒスイとミラ以外のメンバーは休息を取り、2人は周囲を警戒する、朝までずっと。


 休む側(コーコン達)にとっては、ボロボロの壁でも心の支えになるが、深夜まで起きていないといけない二人にとっては、廃屋は夜が深まれば深まるほど(暗くなればなるほど)恐ろしく感じる。

 何もない真っ平らな場所(荒地・野原)で野営するのも落ち着かないが、まだ人が住んでいた痕跡がある場所は、怖さよりも『不気味』さが勝る。


 いかにも『化けて出てきそうな独特な空気』は、2人の心をジワジワと蝕んでいた。

二人にとっては、『魔族・幽霊』より『人間』の方が怖いのだが、それでも怖いのに変わりない。


 壁にパックリ開いている穴から通る隙間風は、まるで女性の甲高い悲鳴のように聞こえる。

または、何者かが闇討ちする為、覗いてたとしてもおかしくない。

 2人は、なるべく穴に目を向けないように、眠気を必死に耐えていた。

だが、気を引き締めれば引き締めるほど、睡魔の誘惑が憎らしいほど襲ってくる。


 廃墟には、決まってゴミが散乱している。

つい最近捨てられた物なのか、『家主の物』なのかは分からない。

 ただ、今回寝床とした廃墟に落ちているゴミは、ただの通りすがりが捨てたとは思えない物ばかり。


 使われた痕跡があるものの、その形跡が最近のものには見えない食器や日用品。

『黒い液体』がべっとり付着している衣服で、此処で一体何が起きたのか、どうして此処が廃墟になったのかが、容易に想像できる。


 そんな想像が、余計に二人の思考を狂わせてしまう為、視界に入らない場所へと追いやる。

___ただ、その最中をしている二人にのしかかる『罪悪感』

 かつて人が平穏に住んでいた頃を訴える(証明する)ような、遺品たちの声なき訴え。

大事な家や故郷を、魔族から守ってほしい訴えは、忘れ去られた土地からも感じられる。




「_______お水ぅ・・・」


 地面で丸まっていた(寝ていた)ウズメは、喉の渇きで目を覚ます。

此処(廃墟)にも井戸はあったのだが、その機能を果たしていなかった(枯れていた)。

 だから、予め2ミラ・ヒスイに持たせていた飲み水を貰おうと、まだ眠気が取れない体をゆっくりと起こすウズメ。


 焚き火は相変わらず、ボロボロに朽ちた壁や柱を鮮明に照らし、白い煙が星空へと溶けていく。

大穴が空いている屋根の向こうから見える夜空は、何故か寂しく見える。

 屋根の穴から伸びる(差し込む)月明かりが、廃墟の物悲しさを一層引き立てていた。




「えっと・・・これは・・・・・『タコ』? 『イカ』?」


「さぁ、どっちでしょう?」


「えぇっと・・・・・頭が三角なのがイカで・・・丸がタコ・・・・・でしたっけ???」


「フフフッ、さぁどうでしょう?」


 廃墟の奥、『煉瓦が積み上げられている場所(暖炉だった所)』で、ヒスイとミラが楽しげに話し込んでいる。

 ウズメが静かに近寄ってみると、2人は『かつて調理道具だった棒(おたまの持ち手部分)』を手に持って、地面をゴリゴリと掘っていた。


 一瞬、(二人の頭がおかしくなったの・・・?!!)と思ったウズメだったが、二人が見つめている地面を見て、何をしているのか察したと同時に安心する。


(成程・・・・・『絵しりとり』か。)


 2人にとって、焚き火に照らされた濃色こきいろの地面は、退屈な時間も、辛い境遇(待遇)も忘れさせてくれる『キャンパス』

 地面には、『ちょっとよく分からない形の絵』と『実物そっくりのリアルな絵』が混在していた。

カオスだけど趣のある(個性ある)絵がズラリと並んでいる。


 描かれた絵の数を見る限り、何時間も2人で『絵しりとり』をしていた事が分かる。

しかも、ちゃんとしりとりになっていた。___何の絵か分からない絵が混ざっていても。

 リアルな絵は、遠目で見ているウズメからでも何が描かれているか判別できるのだが、よく分からない形の絵に関しては、何が描かれているのか全然分からない。


 ただ、ミラが棒を地面にトントン叩きながら頭を抱えている(次の絵が描けない)原因は、その絵が何を表しているのかが分からない・・・のではない。

 ただ単純に『タコ』と『イカ』に馴染みがないから、どっちがどっちなのか分からないのだ。

 

 レストランで提供される事はあっても、それはあくまで『調理済み』

まだ人の手がつけられていない(解体されていない)、生のままのタコやイカを見る為には、城下町か港町に出向く必要がある。


 おまけに、漁の具合によっては、並ばない事も珍しくない。

『子供向けの本(絵本)』には、イラストで紹介されているが、ミラはそれらにも馴染みがない。


(改めて考えてみると、私の生きていた時代って、とんでもなく便利で広かったんだなぁ。

 いつスーパーに行っても、同じ物が売られている・・・って、この世界の住民からすれば、ありえない

 話なんだよね。



 _____で、多分だけど、あの『ヤバい絵』を描いたのはヒスイで、こっちの上手い絵は・・・)


「_____よしっ! ヒスイさん、これ何でしょう?」




「『イヌ』ね。」


 ウズメがヒスイの答えを横取りすると・・・


「ヒャァアアア!!!」 「あぁっっっ!!! う、ウズメさんっ?!!」


 ミラは、精一杯声を押し殺したが、ヒスイは焚き火にぶつかりそうな勢いで吹っ飛んだ。

ウズメがそれを慌てて引っ張り、後ろを振り返るが、奇跡的に誰も目覚めなかった。

 それを見た3人は、静かにその場へ座り込み、ウズメは当初の目的(目覚めたきっかけ)であったお水を、大量の荷物の中から引っ張り出す。


 ウズメが倒れ込みそうになっているヒスイを助けたのは、事故(火傷)を防ぐ為でもあり、せっかく描いた2人の絵を、メチャクチャにされたくなかった気持ちが無意識に働いたから。


 喉を潤したウズメが、改めて2人が描いた絵を見てみると、相変わらずヒスイが描いた絵は、生命なのか物なのかも分からない。

 だがミラの絵は、地面にただ描いたとは思えないほど、立体感のある絵。

単純に『犬の顔』だけではなく、きちんと『犬の体』や『首輪』までしっかり描き込まれている。


 地面に描くのが勿体無いくらいの出来栄えの絵と、うまくはないけど引き込まれる絵の混同に、まるで『有名絵画』を見たような気持ちになるウズメ。

 だが、それにしては、ヒスイの絵があまりにも独特すぎて、思わず笑いが込み上げてしまう。


「_____ぷっ、ぷふふふふふっ!!!」


「な、何よ!!! 下手なら普通に言いなさいよ!!! 

 というかウズメ、あんたそろそろ背後からヌッて来るのやめてよ!!! 心臓に悪い!!!」


 小声でも、ヒスイが本気で怒っているのが分かって、ウズメは「ごめんごめん」と言いながら、半分になってしまった水袋(皮の水筒)を荷物の中に戻した。


「というか、ミラの絵が上手すぎるのよ。」


「え?? いや、そんなつもりじゃないんですけど・・・・・」


「いやいや、ヒスイは怒ってるわけじゃないのよ。実際、私でもこんなにしっかり描けないわ。

 ___まぁ、私もヒスイの絵を笑える立場にないんだけど、絵心皆無の私でもそう思うんだから、も

 う『画伯』よね。」


 ミラは照れながらも、しりとり(イヌ)の続きを描きつつ、『まだ商品だった頃(過去)』を思い返していた。



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