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第五章(1) ミラの仕事と、村の未来

「うーん・・・・・・・」


「__________っ。」


 テーブルの上で突っ伏して唸る(考え込む)ウズメと、それを心配そうに見つめるミラ。

___だが、ミラも内心、憂鬱であった。その理由は、口にはしないが、ウズメと同じ理由。

 せっかくここまで良い具合に来れたのだが、ウズメの踊り子人生、ついに『壁』にぶち当たった。


 というのも、今の時代の変化は、『良くも悪くも』、ウズメ達の道を大きく左右している。

久しぶりに見た『村の外の変化』に、二人は唖然とするしかない。

 

 気がつけば、もう魔王を倒して『1年』が経過すると、村・町・城下町(人が密集している場所)以外にも、徐々に変化が見え始める。

 自分たちの人生に必死だった分、劇的なまでに変化した森の外に、『時が経つ恐ろしさ』を実感している二人。




 この場(宿のホール)にいないヒスイはというと、もうすっかり、自室に篭りっきり(四六時中の制作活動)がデフォルメになってしまう。

 その理由は、ウズメの初舞台が大成功で幕を下ろした後、ヒスイに任された(押し付けられた)『大量の衣服』


 どれもこれもが、かなり古い時代のかたなのだが、保存状態が良かった為、改造(切る・縫う)しても全く問題ない。

 ヒスイはそれらの古着に囲まれながら、ウズメの次なる衣装を制作する為、試行錯誤の真っ最中。

前回の反省点も考え、『自室のドアは開けっぱなし(安易に相談できる環境)』にして。


 こうする事で、ウズメやミラが、部屋を覗きに(様子を見に)来てくれる。

そこで試着してもらったり、第三者からの要望を聞ける。

 ヒスイなりに、『一方通行』にならないように工夫を凝らしているのだ。


 ただ、ヒスイは下の階にいる二人が相当悩んでいる事に、まだ気づいていない。

___というより、ヒスイは衣装の制作で常に悩んでいる(迷っている)為、他の悩みは頭に入らない。




 二人が悩んでいる理由、それは『集客』


 せっかくウズメが踊りの技術を磨いても、ヒスイがどんなに綺麗な衣装を制作しても、『観客(お金を払う人)』がいなければ意味がない。

 お金が稼げるようになって、初めて『職業』として、堂々と胸を張れる。


 村人全員からの評判も上場だった為、衣装制作で忙しいヒスイを除いた二人で、村に人を呼び込もうと、久しぶりに森を抜けた(村を出た)。

 その際、ミラが第一声に


「ひ・・・人が普通に歩いている・・・?!」


 と、のんびりと道中を楽しんでいるを見て、無意識に呟いていた。

おかしな言葉ではあるが、ウズメもミラと同じ理由で驚く。


 ほんの半年前まで、村や町が周りにない場所には、人が歩いた痕跡(足跡・ゴミ)はあるものの、滅多に人とすれ違う事もなかった。

 また、すれ違ったとしても、『一人だけ』なんてもっての外。

魔族や盗賊にとっては、一人旅をしている人間は、都合のいい(狙いやすい)餌でしかない。


 兵士も雇えない、武器も安易に手に入らない庶民にとっては、旅なんて高嶺の花(趣味)。

すれ違う人間の大半は、戦い慣れている人(兵士・警備兵)を引き連れている、貴族か王族。


 景色自体は綺麗なのだが、周囲はどこに危険(魔族・盗賊)が潜んでいるか分からない上、助けてくれる人に出会えるかすら、それこそ0(零)以下の可能性。

 それが、『1年前』までは、ごくごく当たり前の常識だった。


 まだ人が殆ど歩いていない時代・世界を見てきた(歩いてきた)二人にとっては、『信じられない光景』と言っても差し障りはない。

 二人は一瞬(夢を見ているの・・・?)と思っていたが、少し暑くなった春夏の風や、真横を通り過ぎる虫の羽音が、今が夢中ではない事(現実)を証明していた。


 道端で地図を広げる女の人や、広大な景色にはしゃぐ(喜ぶ)子供達の姿。

まさにその光景は、『平和』以外の一言では言い表せない。

 ウズメ達が、死を何度も覚悟してでも望んだ(目指した)世界が、目の前に広がっていた。

二人はそれが嬉しくて嬉しくて、初日はその光景を堪能する(眺める)だけで終わった。


 ヒスイにも見せてあげたかったものの、ウズメは村に住む女性たちから貰った服の山を崩すのに忙しかった為、ミラが嬉々としてその時の心情を語っていた。

 跳ねるような口調で語るミラに、もうどっち(ミラの話・様子)に集中したらいいのか分からなかった一同(村民たち)。


「もう本当に、『楽園』を見ているような気分でした!!

 皆さんが安心して旅を楽しんでいる光景を見ていると、目が熱くなっちゃうくらい嬉しくて!!


 ついこの前まで、人が歩いているだけでも珍しかったのに・・・

 なんだかそんな時代を抱えている自分自身が、古臭い人間に思えたり・・・」


 まるで、『遠足の感想を延々と親に言い聞かせる幼稚園児』のように、ニコニコと喋っているミラは、ようやく『年相応』になった様子。

 ウズメにとっては、人が自由に出歩けるようになった景色を眺めるより、それが一番嬉しかった光景でもあった。


 やっぱり『他人』が喜んでいる姿より、『自分の近くに居てくれる人(身内)』が喜んでいる姿の方が、嬉しさは倍以上になる。

 我を忘れて語るミラは、ヒスイでも見たことがない光景で、コクコクと頷きながら、そのひと時を楽しんでいた。




 ___その翌日、二人は気を取り直して、ウズメのダンスを見てくれる観客を集めに、旅人に片っ端から話しかける。

 「あれだけ人が歩いてれば、誰か一人は連れて来れるでしょ!」と、余裕綽々で森を抜けたウズメ。


 だが、ウズメの期待に反して、人は全く集まらなかった(村に人は来てくれない)。

というより、村の外(ヘンゼック王国自体)が、ウズメが思っている以上に、自由を謳歌していた。


 行ける範囲が増え、今まで行けなかった所に行ける。会いたい人に、好きな時に会いに行ける。

今までの苦労(我慢)を解き放った人々は、『自分の目的』以外の事に関しては、あまり興味を示さなくなった。


 良い事なのかもしれないが、集客を意気込む二人にとっては、『Batタイミング』

それこそ、あちこちの村や町を経由しないと、身の安全が保障できなかった以前(魔王討伐前)の方が、村へ立ち寄ってくれる人がいたかもしれない。


「あ、あの・・・・・」


「え? 何?

 今知り合いの住んでいる村へ向かっている最中なんだ、邪魔しないでくれ。」


 ミラが旅人の一人を呼び止めたが、本題(勧誘)に入る前に去ってしまう。


「今夜、この森の奥で私が舞踊をするんですけど、見に来てくれませんか?」


「ごめんなさい、持ってきたお金は、城下町で全部使う事に決めてるの。」


 ウズメが声をかけた女性陣は、ウキウキで流行が集う町(城下町)へ向かって行く。


 この結果に、二人は何も言えずに帰宅する(村に戻る)しかなかった。


 話を聞いた村の住民は

「めげずに頑張ればいいよ!」「もしよかったら、私たちも手伝うからさ!」

 と、二人を慰めてくれた。


 でも、ヒスイを含めて、3人はこれ以上、今まで散々お世話になった人たち(村人たち)に頼りたくはなかった。

 カミノー村の人々は、3人を快く村の一員として加え、3人の夢(将来)も応援してくれる。

これ以上何かを求めるのは、3人も気が引けた。自分たちが許せなかったのだ。


 3人は村に来る前、自分たちが村をもっと賑やかにしたい(豊かにしたい)気持ちを胸にして来たのに、このままでは本末転倒になってしまう。

 宿の主人や女将も含めて、「焦らなくてもいいよ」と言ってくれたものの、数年後・十数年後(これから先)を考えると、このままではいけない(焦る)気持ちがどんどん増していく。


 だが、具体的にどうすればいいのかは、まだ明確な答え(集客方法)が出ない。


 2人も、ただ考えているだけではなかった。できる事は色々やってみた。

『看板』を制作して、村への道の舗装ほそうも手伝い、村への往来も簡単にした。

 ___それでもなかなか決定打が見出せないことに、そろそろ二人に疲れが見え始める。


 ただ、ノロノロしているわけにもいかない。二人が悩んでいる間にも、時間が過ぎている。

春が過ぎて、暑さが猛威を振るう夏になると、今度は『熱中症』という脅威が旅人を襲う。


 ウズメは、まだ勇者一行の一員ではなかった時代、何度も熱中症になっては、医務室に運ばれた。

だから彼女は、熱中症の辛さを人一倍理解している。

 水分補給を欠かさなくても、鋭い日差しに当たり続けるだけで、平衡感覚がおかしくなってしまう。


 旅が続いていた(勇者一行の一員だった)頃のウズメにとって、魔族も脅威ではあったが、夏も脅威だった。

 人里に滞在すれば、水問題はなくなるのだが、飲み水が確保できない場所で水分が尽きると、相当大変。夏場は特に。


 夏場に旅人の足が少なくなってしまう事や、客を呼び込む自分たち体力も考え、本格的な夏が来る前に、、一人でもいいから観客を呼びたいウズメ達。

 ただ、その『たった一人でいいから』という要望が、不思議なほど高く感じていた。


(___今の状況を考えると、前世の『SNSの広告』とかって、かなり便利なツールだったんだな。


 現時点でこの世界は、前世で言うところの『中世』・・・とか『江戸時代』の頃だよね。

 そう考えると、都市から離れた村が閉鎖的なのも、今の状況を考えると納得できるかも。

 村を存続させたくて、色々と対策を打っても、来る人がいないと意味がないからなぁ・・・)


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