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ようやく事件は表に出てくる(1)

 いつものオフィス街 いつもの出勤者の群れ いつものバス いつもの電車


 それらの何か一つが 突然少しだけ変わっただけでも 案外すぐ気づいてしまう


 『見慣れた光景』というのは 少し表現を変えれば 『細部まで覚えている光景』という事


 それがどんなに 小さな事でも 自分には関係のない事でも・・・・・


 平日のオフィス街は、常にスーツを身に纏う社会人が闊歩している。

電話越しに謝罪しながら歩く男性、ハイヒールをけたたましく鳴らして歩くOL、ため息をつく中年。

 スーツだけを見ると、もう誰が誰なのか分からない(個人の見分けがつかない)。


 そして、彼らを取り囲むビルの壁もまた、揃いも揃って、同じような姿形(外観)。

ビル群のてっぺん(屋上)には、カラスが下界(人間社会)を見下ろしている。

 ひたすら自分のありとあらゆるものを削りながらも働く人々を、ただ黙って。


 世間では『クリスマス』に備え、多くの人々が予定を立てたり、日程を調整している。

だがオフィス街から、働いている人が消えることはまずない。年末も、お盆も同じ。

 オフィスビルは、年中無休、24時間機能している。


 それに、オフィス街で働いている人は、サラリーマンやOLだけではない。

ビルと合併しているコンビニ店員は、渋い顔をしながらサンタの帽子を被り、接客をする。

 灰色のビルを綺麗にする掃除屋のおばさんは、今日もモップとダンス。

電車やバスの運転手(人々の通行手段の担い手)にとって、季節のイベントは稼ぎ時。


 そう、この国だけではなく、全世界の人が、一斉に休む事はできない。

誰もがお金を稼ぐ為、生活する為に働く。イベントなんて関係なく働いても、別におかしくない。


 そんな働き詰めの毎日なか、ちょっとした異変に気付いたとしても、大半の人は何も感じない。

何故なら、確かめる余裕(時間)も気力もないから。




 しかし、その日のオフィス街は、『違和感』では片付けられない、『物騒なサイレン音』がこだましている。

 その甲高い音が、本社と通話中の男性の謝罪を妨害した為、男性は『サイレン音に感謝しながら』、一旦電話を中断する。


 ただ、男性の右耳だけ、サイレンの音が小さく聞こえる。

つい先ほどまで、本社から散々説教を喰らっていた鼓膜は、もうその機能が失われつつあった。


 右耳と頭の痛みを抑えつつ、横断歩道を渡ろうとする男性とOLは、いつもならすぐ渡れる横断歩道が、今日に限って全然進まない事に腹を立てていた。

 通行止めになっているわけではないのだが、横断歩道の向こうで、大きな人の塊(野次馬)が道行く人の進路を妨害しているのだ。


 ため息をついていた男性は、すかさずスマホで目の前の状況をカメラに納め、SNSを開いている。

自分の状況を宣伝するのではない、勤めている会社に連絡しているのだ。


「人混みが凄くて、遅刻するかもしれません」


 と。

ただ、そんなメッセージを打った男性は、何故か笑みを浮かべている。

 そしてそのまま、男性は人込みに突っ込むでも、人混みが落ち着くまで待つでもなく、会社とは『別方向』に向かって歩く。


 そう、男性は手に入れてしまったのだ。『遅刻の言い訳』を。

予め、『遅刻する理由』と『遅刻しても仕方ない現状の写真』を送りさえすれば、もうどの程度遅刻しても大目に見てもらえる。


 実際、人込みとサイレンの影響で、道路も徐々に混雑してきている。

子供を保育園に届けてから仕事に向かう筈だったママさんは、この渋滞に出勤する事を諦め、子供と一緒に家へ帰り、在宅ワークに切り替える事に。




 オフィス街全体が、ジワジワと非日常に変わっていく発端となったのは、『たった一軒のビル』だけ。

だがそのビルの異変は、もはや『火災』と同等の騒ぎ。


 ビルを取り囲む白と黒のパトカーからは、水色の制服を着た人々(警察)が次々とビル内に出入りしている。

 無線で誰かと連絡を取っている人、カメラ等の機材を出し入れする人・・・等、『社員らしき人間(サラリーマン・OK)』が出入りしている姿は一切見れない。


 この騒動を見て、道行く人は恐怖を感じつつも、スマホで写真・動画撮影は忘れない。

___もはや一種の『現代病』なのかもしれない。

 

 騒動を挟んだ反対側・隣のビルから、件のビルを覗き込む社会人が見える。

だが、どの部屋もブラインドでしっかり目隠しされている為、ビル内で何が起こっているのか、見当もつかない。


 時間が経てば経つほど、パトカーの量も増えていき、報道陣も押しかけてきた。

件のビルの入り口には『黄色いテープ』が張り巡らされ、既に向かい側の道路でスタンバイしている報道陣にも一声かける。


 そして、準備を整えたアナウンサーが、時折後ろ(ビル)を振り向きながらレポート。

音声のなかには、普段の光景(オフィス街)が変わってしまった事に同様する人の声も紛れていた。


「えー、今、私の後ろに見えるビルが、『女性の遺体』が見つかった現場です。


 今日の6時過ぎ、警察に

「ビルの非常階段で、女性が冷たくなっている」

 という通報を受け、警察が駆けつけてみると、13階の非常階段の踊り場で、女性が首の骨が折れた状

 態で発見されました。


 女性は、死後約一ヶ月は経過しており、警察は、『事故』か『他殺』かの調さ・・・・・」


 アナウンサーが饒舌に(スラスラと)語っていると、突然真横から『一枚の紙』を、アナウンサーに差し出すスタッフの手。

 突然の横槍に驚きながら、アナウンサーは渡された紙の内容を、気持ちとセリフを切り替え、再び語り始める。


「えー、今、速報が入りました!


 えー・・・警察は、このビルで亡くなっていた女性の死に関与しているとされる、14階のテナント責

 任者を、逮捕する方針です。

 繰り返します、このビルの14階で、株式会社 Haiで課長を務めていた 黒原 薬(くろばら や

 く)容疑者、49歳を逮捕する方針です。


 警察の調べによりますと、黒原陽容疑者は、日常的に自身の社員へパワハラを繰り返していたとさ

 れ、署へは『匿名の通報』も寄せられています。

 非常階段で発見された女性も、黒原容疑者の部下だった・・・という事です。


 ま女性の衣服には『揉み合った形跡』も発見された為、黒原容疑者が、非常階段で女性を突き飛ばし

 た可能性があるとみて・・・・・」


 アナウンサーのレポートを聞いていたサラリーマンは、早速その内容を、愚痴の集積場(掲示板)に書き込む。

 ひとしきり情報を語り終えたアナウンサーは、そそくさと現場を去り、また次なる餌場(レポート先)に向かって行く。

 

 周囲の報道陣も、似たような内容を語っている為、野次馬の興味はどんどん薄れていき、野次馬がどんどん小さくなっていく(交通が安定する)。


『悲報

 俺の会社のすぐ隣のビルが事故物件になりそうな件』


「マジ? 何があったの?」「事件でも起こったの?」

「あ、もしかして、今ニュースで報道されてる『パワハラ殺害事件』?」

「社会人は出社する時間ですよ、家でダラダラテレビ見てる暇があったら働け」


『働いてるっつーの

 出社の途中ですごいパトカーの数が列を成しててヤバい

 というかパワハラの域を超えた殺人とか、マジ日本どうかしてる』


「多分捕まったおっさんも、懲役数年で牢から放り出されるんだろうな。怖い怖い」

「ワイドショーとかで『パワハラ』なんて聞き飽きた単語の筈なのに、自覚がない人間は文字すら読め

 ないのか」


 サラリーマンがスマホをポケットに入れている間にも、掲示板には小言や暴言が飛び交う。

既にSNSでは、『パワハラ』や『OL 転落』という単語がトレンドに入っている。

 一際大きなビルに設置された大画面のなかでは、ワイドショーに出演しているコメンテーターが、あれこれと持論を繰り広げていた。

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