その頃、城下町では(1)
「お! 勇者様だ!!」「勇者様だわ!!」「きゃーっ!! 勇者様ー!!」
魔王を退治してから、一ヶ月の月日が経っても、城下町の歓喜ムードは静まる気配を見せない。
勇者が少し城下町に顔を見せる(出歩く)だけで、人々の歓声が響く。
その対応に、勇者と他の一員も満足した表情で胸を張り(堂々と)、歓声にゆっくり浸る。
勇者を見て手を振る者もいれば、涙を流して手を合わせて崇める者も。
城下町を監視している兵士も、勇者には深々と頭を下げている。
もはや、「この国で一番偉いのは勇者様!!」と言っても差し障りのない。
国王も、この国の歴史を大きく好転させてくれた勇者には、頭が上がらず。
そして、城下町の景色も、一ヶ月で大きく変わってきた。
まず一番分かりやすい変化は、城下町を囲っていた(守っていた)、頑丈で強固な壁。
まだ一ヶ月しか経っていないのだが、城の半分を覆っていた高い壁が、4分の1程度まで減っている(削れている)。
王族も貴族も、今後の経済(収入)の為なら、無理は仕方ない。
相当な資金で工事が行われた結果、急ピッチで工事が進み、城壁回りが静かになる時間帯はない。
おかげで、城壁の周りは削れた石や砂(壁の残骸)で汚れている。
城壁近くに住んでいる人は、毎日毎日、その後始末(掃き掃除)に追われていた。
だが、今まで外の景色をじっくりと見たことのない(城下町から出たことがない)人々にとっては、少しずつ削れていく壁の向こうが、とても輝いて見えていた。
だから今のところ、城壁近くが汚い事に関するクレームは来ていない。
少しずつ見えてくる外の景色を見届ける事が、城下町に住む人の習慣(日常)になっている。
壁がなくなった事で、兵士(門番)の仕事も半分以上減り、今まで魔族の相手をしていた(危険な仕事が当たり前だった)兵士たちの顔にも余裕が生まれ始める。
いつ魔族が攻めて(侵略して)来るか分からない恐怖を、最前線で受け止め、戦ってきた(防いでいた)ストレスから解放され、兵士たちの固かった顔が徐々に緩くなっていく。
これから兵士の相手をするのは、『魔族』ではなく『人間(盗人など)』
兵士の持つ武器も変わりつつあり、今までは頑丈で切れ味の鋭い『剣』や『槍』が重宝されていたが、人間相手ならそんな武器を使わなくても、『弓矢』や『魔術』だけで十分。
魔族の脅威がなくなったことで、『ジョブチェンジ(転職)』をする兵士も増え始め、兵士達の会話もそれで持ちきりだった。
___が、必ずしも『明るい話』とは限らない。
「なぁ、聞いたか?
医療班の班長、『回復士』になったらしいぞ。」
「まぁ・・・そうだろ、もう兵士が重症を負う心配もないんだから。
意地になって職に就き続けるのは、もう古くなったんだ。」
「___だからこれをきっかけに、俺も辞めようかなーって思ってるんだ。」
「え? いいのか??
お前の家って、代々兵士の家系なんだろ?
そんな事したら、親父とか親族が黙ってないんじゃ・・・」
「でもこのまま、ただボーッとしているだけの門番続けてても、給料が上がるとは思えない。
___もしかしたら、国の方針次第で、俺たちの給料も減らされるかもしれないんだぞ。」
「確かになぁ・・・・・
もうこんなに大勢で門番する必要もなさそうだし。」
「あはははっ! 君たちも平和を実感してくれているのか!」
「ゆっ、勇者様!!!」「これは大変失礼!!!」
コーコン(勇者)が声をかけると、兵士たちは一斉に姿勢を正し、深々と頭を下げる。
確かに兵士達の言葉通り、門番をする兵士たちの役回り(仕事内容)は、外から来る人間の(盗人ではないかの)チェック、手荷物検査が主になった。
以前の仕事内容は、とにかく緊張感と責任が常に付きまとう、かなりプレッシャーのかかる仕事で、辞職率も多かった分野。
復帰不能な大怪我を負う事も多く、誰も城壁前には就きたがらない為、常に人手不足で悩んでいた。
しかし、危険な仕事を任される兵士は、あらゆる人々から重宝され、毎日のように感謝の言葉を貰っていた。
仕事が退屈になるのも辛いが、そんな言葉が一切聞けなくなった虚しさもまた、兵士たちの今後(自分たちの将来)を迷わせていた。
今までは散々頼りにされてきた分野の人間が、今では見向きもされない。
まさに『時代の流れ』を彷彿とさせる光景。
だが、勇者にとっては、そんな事情知った事ではない。
彼は、国に最大級の貢献をした(魔王を倒した)自分を褒め称えてくれないと、気が済まないのだ。
城下町の経済がどう変わろうとも、人々の生活がどう変わろうとも、自分が国の歴史の転換をもたらした事に変わりはない。
そして、勇者の後ろを歩く残りのメンバーも、その余韻を味わっていた。
おこぼれ程度でも、大勢の人々から歓喜の声を聞けるのは、やはり気持ちが良い。
だが一行(勇者以外)は、まだコーコンに対してペコペコと頭を下げる関係が続いている。
勇者が怖い・・・というのもあるが、大勢の歓声に浸れるのはコーコンのおかげなのを自覚している。
だからこそ、今も一行は、勇者の意見や気分が最優先で、自分たちの意見を持てないのだ。
___これだけ国内が変わっていくなか、この歪んだ関係性だけは、一切変わっていない。
しかし、大きな環境の変化により、違和感を感じ始めている仲間が一人だけいる。
それは、『弓使い』の『キュードゥー』
他の魔術士・回復士に関しては、勇者に依存している(ベッタリ)状態。
その光景を傍から見て、改めて自分たちの関係性に、気持ち悪さを感じていた。
同時に、あの激闘を終えても、全く変わらない自分たちの関係が、すごく虚しい。
どうして周囲が変わり続けているのに、自分たちは変わらないのか。どうして変わる事ができないのか。
「_____あれ? キュードゥーは?」
ふと、魔術士が後ろを見ると、キュードゥーの姿が消えていた。
___が、残る二人(勇者・回復士)は、適当に受け流す(まったく気にしない)。
「ガキじゃないんだから、心配する必要ないだろ。
それより勇者様、今日はどこで昼食にしますか?」
「そうだなぁ、あの教会近くの喫茶店に、美人のメイドがいる話を聞いたから、行ってこの目で確かめ
てみよう。」
そんな会話を、弓矢使いは大通りから外れた路地で聞いていた。
薄暗く陰気な『国の闇(裏側)』を、丸ごと押し込めたような、そんな場所。
そこをキュードゥーは黙って見つめながら、何故か安心している。
変わっていないのが、自分たちだけではない事が、少しだけ嬉しかった。
___が、そんな喜びは、路地裏で暮らしている(生きている)子供たちの無感情な視線により、一気に現実へ戻される(冷める)。
同時に、今までに感じた事のない羞恥心苛まれ、自分で自分を殴りたい気持ちになっていた。
でも子供たちは、キュードゥーに対して悪気があるわけでもなければ、彼から何か盗む気もない。
普段、こんな場所(路地裏)まで足を踏み入れる人間なんていないから、ただ単純に珍しいだけ。
何故ならこの路地は、『城下町で1・2を争うほど危険な場所』とされている。
『違法な薬物』『無断の売買』『自らの体を売る人間』が跋扈する、まさに魔境。
そんな場所を、国が手をつけないのは、手をつけても結局はイタチごっこになる。
いくら景気が上昇する兆しが見えたとはいえ、抱える問題(闇)は、なかなか消せない。
特に『人間同士の問題』は、魔族関係なく、必ず国の何処かで起きている。
___だが、その被害に、何の罪も関係もない『子供』が巻き添えになってしまう事は、とてつもなく残酷で理不尽である。
路地裏の奥でキュードゥーを睨みつけている子供たちは、全員がボロボロの服、バサバサの髪、彼の持つ弓のように細い手足。
表通りが活気に溢れているのに、路地裏にはその活気に混ざれない子供達がいる。
そして子供たちは、たどたどしい言葉で言葉を交わしながら、その場から動くことができない様子。
子供たちは学校も行かなければ、家庭を持っていない為、言葉はほぼ独学(市場)で覚えるしかない。
「アレ、何?」 「怖い、怖い。」「どうして、私たち、男、見てるの?」
「ご、ごめんな。俺は別に、お前たちに危害を加えに来たわけじゃないんだ。」
「_____『キガイ』???」 「分からない、でも悪い人じゃない、お前。」
一応、城下町に点在する教会には、『孤児院』も併設されている。
だが路地裏の子供達は、正式な手続きすら成されなかった(してくれる人がいない)、この世で本当の独りぼっち。
孤児院にも当然、国からの支援(資金)が必要不可欠。
だからこそ、どこの誰かも分からない子供に、貴重なお金を使わせるわけにもいかない。
その上、彼らは十分な栄養を貰っていない(得ることができない)影響で、ちょっと重い荷物を持っただけで、骨が折れてしまいそうなほど貧弱。
ほぼ肉体労働として使われる『奴隷商品』にすらなれず、彼らはただひたすら、1日1日を必死に生きるしかない。
時には誰かから物を盗んだり、頭を下げて物乞いをして、その収穫(お恵み)を仲間内で分ける。
失敗すれば兵士から手痛いお仕置き(暴力)を受けるのだが、その日を生きられるだけで十分幸せな彼らにとっては、痛くも痒くもない。
___だが、彼らは勇者一行に慈悲(お金・食べ物)を求める事もしなければ、遠くから見るわけでもない。
それは、『妬み』からくる、彼らなりの反抗(訴え)
彼らは街を歩けば、何処からでも「勇者様!!!」「勇者様!!!」ともてはやされ、何もしなくても(働かなくても)、何でも手に入る。
そう、路地裏で人知れず生きている彼らとは、全てが真逆。
街を歩けば、言われる言葉は大抵『冷たい言葉』
「汚い!! 側に来るな!!」 「やだ!! こっち来ないで!!」
「俺の店に近づくな!! どうせ盗もうとしてるんだろ!!
パン一つも買えないお前たちに、俺の店に近づく権利なんてない!!」
「そんな場所で物乞いをしても、邪魔になるだけだ、立ち去れ。」
多くの人から蔑まれ、追いやられ、食べるものも満足に手に入らない。
様々な人から、ありとあらゆる物を支援してもらっている勇者に、そんな彼らの葛藤も苦痛も、分かるわけがない。
だからこそ、彼らは勇者が憎いのだ。
勇者の昼飯一食分で、数人の孤児の命が救えるかもしれない。
そんな事情を知らない勇者は、少しでも味が気に食わないと、せっかくの食事(喫茶店のサンドイッチ)を、地面に投げ捨ててしまう。
その光景を、孤児達は、川を挟んだ向こう側で見ていた。キュードゥーも一緒に。
普段なら、地面に落ちた物がサンドイッチではなくても(パンの欠片でも)、我先に拾い食いしようと駆け出す孤児達。
だが、彼らはそんな哀れなサンドイッチですら憎くなってしまう。
それくらい彼らは、正常な判断ができない(空腹なのだ)。
そして、今のキュードゥーにも、彼らの気持ちが理解できてしまう。
ついさっき知り合った(?)ばかりなのだが、彼らがコーコンを憎む気持ちは、彼の心の奥底にも、似たような感情があった。
どんなに頑張っても、命懸けで戦っても、褒められ、讃えられるのは勇者様のみ。
他のメンバーは、ウズメも含めて、ただただその光景を眺める(羨ましむ)だけ。
下手にしゃしゃり出ると、後からコーコンに何をされるか分からない。
彼は、自分よりも他の人が目立つ事を嫌い、それが例え仲間であろうとも容赦しない。




