第四章(8) ヒスイの仕事と、村の変化
「___ミラの願いを聞き入れたい気持ちも山々だけど、今はヒスイの件が、どうしても不安で・・・
そこまで深く悩まなくてもいいのは、頭でもちゃんと理解してるんだよ。
それでも、どうしても考えちゃうの。考えないようにしているのに・・・」
「それは・・・私もですよ。」
「変にプレッシャーを感じてないかなー・・・とか
ハードルの高いことを任せちゃったかなー・・・とか。
この村で一緒に生活することを提案した私としては、その・・・『責任』が・・・ね。」
ウズメは、ぎこちなく口元を曲げる(作り笑い)。
言い出しっぺにも関わらず、情けない姿を晒している自分が、哀れなような、馬鹿なような・・・・・
ウズメもウズメで、ずっとリーダー(勇者)の言いなりだった。
何処へ行くにも、誰の依頼(頼み事)を最優勢にするかも。
_____『逆らえなかった』の方が正しい。
ウズメ達の立場(コーコン以外のメンバー)は、あくまで『勇者のサポート』
確かにウズメの戦闘技術は、勇者と肩を並べる程・・・なのだが、ウズメ自身は『勇者ではない』
魔族による事件を解決する度、代表(独り占め)をしていたコーコンだけ、多くの人々から称賛の言葉が送られた。
共に戦った筈のウズメや魔術士は、その光景を、ただ後ろで見ているだけ。
だが、その分『期待』や『プレッシャー』を抱えるのはコーコン(勇者)1人だけ。
つまり今のウズメは、今まで憧れていた『勇者の立場』にある。
ずっと羨ましい立場にあった場所に立ったウズメが、第一に思ったのは、『喜び』ではなく、『不安』
ウズメは初めて知った、誰かを引き連れる事の難しさ(厳しさ)と、発言(提案)の責任。
『転生前』も、部下を1人も持つ事なんてなかった為、上司の立場になれる未来なんて、『考えたくもなかった』
「___そうか、もう私は、戦える技術があるだけ。その技術は、今となってはお役御免。
その他はミラやヒスイと全く変わらない、『普通の女の子』
彼(勇者)のように、現状を見極めて、完璧な作戦を組み立てる事もできない。
ヒスイとミラを誘ったのに、その責任すら負えない。
それなのに私は・・・・・」
ウズメは、その場で膝を抱え、自分の情けなさと葛藤に、恥ずかしさすら感じていた。
コーコンにおいしいところ(見栄え)をほぼ横取りされていた時は、『責任』という言葉に、憧れを抱いていた時期もあった。
___が、実際に経験してみないと、その重さも、苦しみも分からない。
その上、二人と距離が近ければ近いほど(親密になればなる程)、そのプレッシャーも増していく。
ウズメは、今更になって、自分が『責任』という言葉に弱いのかを痛感していた。
でも、話を聞いているミラに関しては、そこまで深く考えていなかった。
_____いや、ウズメとは考えが違った。
「ウズメさんは、ヒスイさんを信じられないんですか?」
「え?」
「今、私たちにできる事は、『ヒスイさんを信じて待つ』・・・という事だけですよ。
だって私も、ウズメさん達が魔王を倒してくれる事を信じて、ずっとついてきたんですから。
だから今度は、ウズメさんが私たちを信じる番ですよ!」
「_____信じて・・・・・ね・・・」
その言葉が耳に入ると同時に、ウズメは、かつて魔王を倒すため、戦いに明け暮れていた時の情景を思い出した。
あの時、確かにウズメも、二人の眼差し(渇望)に気づいていた。
___いや、同じような視線を、これまでに何度も何度も受けてきた。城下町で、村で、町で・・・
それを何故か、ウズメは忘れていた・・・というよりは、『当たり前』になっていて、意識する事すらできなかった。
浴びてきた多くの眼差しの正体、それは『信頼』でもあり、『願望』
「我らは勇者が魔王を倒してくれることを信じている、だから支援を惜しまないよ!」
「どうかこの国に、平和と安心をお与えください。
勇者様方の力があれば、我々の夢が叶う日も、そう遠くはないでしょう。
勇者一行に、神のご加護があらん事を・・・」
「私の祖母や母も、魔族によって命を奪われた。
だから私、大人(母親)になった今、また思うようになったの。
___まだ小さかった頃の私は、「そんなの夢物語じゃん」って思ってた。
けど、勇者様が懸命に戦っているところを見ると、その時の記憶が蘇るの。
どうか、魔族に怯えない日々がきますように
ってね。
何にもできない私は、信じる事しかできないから・・・・・」
「俺はあんた達が、魔王を倒してくれると信じてる!!
そうなったら、もう村から出る時に怯える心配もねぇし、子供達を外で遊ばせることができる!!
これ以上に幸福な事はねぇ!!」
宿屋の主人も、そう言って宿代を断った。
ウズメは、あの時の事(村との出会い)をよく覚えてはいるものの、その言葉の意味(伝えたかった事)を深く考えてはいなかった。
あの時は、泊めてくれるだけで本当にありがたかったから。
ミラをコーコンの暴力から救ってもらったきっかけ、その印象が強すぎた。
しかし、ミラの一言で、今までに聞いてきた言葉と視線を一気に思い出せた。
そして、『今までの自分の考え』という名の『雑草』が、根本から引っこ抜かれたような、すっきりした気分に。
そして、引っこ抜かれた穴に、『信じる』という名の『大樹』が植えられると、途端に暗い感情(不安・自負)が一気に消えた。
ヒスイもまた、ウズメを信じて同行してくれた。それなら、今度はウズメがヒスイを信じる番。
それをひしひしと感じたウズメは、立ち上がって大きく背伸びをした。
なんだかんだ、色々と話しているうちに、満月が真上から地上(村)を覗き見ている。
「そうかそうか! もう私は『期待させられる側』じゃないんだね!
じゃあこれからは私が、ヒスイとミラを信じる番だ!
なら私も、ヒスイを信じてお休みするとしよう!」
ウズメはそう言うと、軽やかに階段を上り、部屋へと消えていく。
ミラは、いきなり元気になったウズメに動揺しつつも、また彼女の快活な笑顔が見られたのが嬉しかったのか、しばらくその場で顔を伏せて笑っていた。
「___あぁ、そっか。私の願い・・・・・
ウズメさんの笑顔を、もっともっと見ていたい
___って、言えばよかったかな。」




