第四章(6) ヒスイの仕事と、村の変化
「2人ともー、夕ご飯・・・・・」
結局、一日中ずっと作業場(自室)に篭りきりだったヒスイとミラ。
夕食を作っている間も、上(二階)から足音が響いたものの、二人の声は全然聞こえない。
宿の床も壁もそこまで厚くない為、2階の話し声は1階でも聞こえるのは、宿に住んで数日のウズメでも分かる。
だからこそ、足音しか聞こえない状況は、違和感がある。
つまり2人は、何も言葉を交わす事なく、ただただ無言の時間を過ごしている事になる。
心配になった主人が、ヒスイの部屋を覗きに行って、ウズメに報告したのは・・・
「あまりにも2人が夢中になりすぎて、おじさんが入る隙もなかったよ。
ウズメ、2人に何言ったんだ?」
「___次の仕事に絶対必要な物ですよ。」
なるべく秘密にしたかったウズメは、それだけしか言えなかった。
だが、まさかヒスイが、ここまで熱を出して(集中して)取り掛かってくれるとは思わなかった為、提案者本人であるウズメもびっくりしている。
てっきり、「これくらいで我慢(勘弁)してよ・・・」と言いながら、原型が残っている防具が返ってくる・・・とばかり思っていた。
しかし、そんなウズメの予想を遥かに超え、原型がほぼ無いくらいの大改造を企てているヒスイ。
これにはウズメも心配になるが、ヒスイはずっと、真っ直ぐな目(真剣な目)を崩さず、指を動かしている。
ミラに促されて休憩を挟むことはあっても、ため息をつくこともなく、弱音(泣き言)を吐くこともなく、ひたすら集中していた。
そんな姿を見せられてしまっては、ウズメも「無理しなくていいよ」なんて言えるわけがない。
むしろ、彼女の集中を妨げないようにしようと考えていると、頻繁に様子を見に行けない。
しかし、ミラは『没案』を見た時点で、もうワクワクが抑えられず、出来上がりの瞬間を見届ける気満々だった。
3人(ウズメ・宿の主人・女将)が心配するなか、ミラだけは、ニコニコしている。
まるで、サンタさんからのプレゼントを待つ子供の様に。
「えぇ・・・・・没案でも相当手が込んでるのに・・・
ヒスイ、一体どこまで作り変える気なの???」
「楽しみですよねぇー!」
ウズメは、ヒスイの部屋に入り浸っているミラを呼び出し、どの程度進捗が進んでいる(形になっている)のかを聞こうとした。
しかし、ウズメが聞くよりも先に、ミラは持って来た『没案』を3人に見せる。
その絵を見た三人は、どうしてミラがそんなにワクワクしているのかが分かり、同時に少し安心した。
そして、三人も完成が楽しみになる。
ただ、ウズメにとっては、『もうこの時点(衣装が完成しなくても)』満足していた。
ヒスイにとって『初めての大きな(デザイナーとしての)一歩』が、仮に『失敗』で終わってしまっても、ヒスイが食事を忘れるほどのめり込めるものが見つかった事自体が、とてつもない大発見だから。
ただ、やっぱり『食事』と『睡眠』は、無理にでも取らせようと、4人はいつも以上に太陽の向き(時間)を気にしながらの生活が続いた。
お昼頃にはヒスイを一階まで引きずって、月が村の真上まで来ると(真夜中になると)、ヒスイをベッドに乗せる。
ただ、それ以外の時間は、必死にウズメの防具に喰らいついているヒスイ。
ミラが真後ろで掃除を始めても、意に返さない程。
そんな彼女の姿を見たウズメは、思わず目を疑ってしまった。
彼女の背中は、どんな強靭な魔族よりも強く、強い意志を感じる。それこそ、魔王に負けないくらい。
4人で話し合い、ヒスイがしっかり完成させる(仕事を終える)まで、まだ作りかけている最中の衣装は極力見ないように決めた。
何故なら、途中で進捗を見てしまうと、完成した際の喜び(感動)が薄れてしまうかもしれない。
最後の最後(衣装が完成して)、ヒスイが皆に作品の発表をする時まで、4人は静かにヒスイを見守る。
「なんか、ヒスイに無理させちゃったかな・・・?」
「___そんな事ないと思いますよ、だって今のヒスイさん、すごく生き生きしてるし。」
ウズメとミラの二人は、ホールの清掃を済ませ、椅子に座って話し合っていた。
かれこれヒスイに衣装作りの依頼をしてから、一か月は経とうとしている。
それでもヒスイは、自らの手を止めず、集中力も途切れる気配を見せない。
ここまでくると、さすがに心配になってしまったウズメ。
そして、ようやく彼女は、ミラやヒスイが感じていた『見守る不安』というものを実感している。
かつてその役回りは逆だったため、ウズメはどうして二人がそこまで心配するのか分からなかった。
しかし、その信用が深ければ深いほど、不安が大きくなってしまう不思議な原理を、ウズメも身をもって痛感している。
ウズメも、ヒスイを信頼しているから、今後の自分たちに関わる重要な仕事を任せた。
その判断が、ここ最近揺らぎ始めているウズメ。
ミラはもう嫌でも慣れてしまったのか、考え込むウズメとは対照的に、楽観的な様子。
今まで生死を問われる戦いを見守り続けてきたミラには、今感じている不安の方がよっぽどマシなのだ。
「もし、ウズメさんの舞が大人気になったら、この宿もきっと『以前』のようになりますね!!」
「やめてくれぇ、プレッシャーをかけないでぇ・・・」
カミノー村で生活しているうちに、3人も村人たちから、『勇者一行が訪れる遥か前の村の話』を聞いている。
話を聞いた当初、3人はつい疑ってしまう。
まさかカミノー村にも、『村民100人以上』だった時代があった事が、色々と信じられなかった。
それでも、村民全員の話が一致している事を考えると、信じざるを得ない。
しかも、昔は『村の大きさ』も、以前はもっと大きかった。今の村の2倍くらい。
だが、そこから今に至る流れは、ウズメがかつて(前世の)テレビで見た『田舎の衰退』と同じ。
村で生まれた若人が村を出て、そこから別の場所に移住。
別の地域からの移住者を募るにしても、このカミノー村は、旅人に気づかれる事もない、深い深い森の中にある。
自然が豊かで、食事が美味しくても、なかなか人が集まらない。
かつて、主人も女将も、あの手この手で村に人を呼び込もうとした。
ところが、村の頑張りも虚しく、村は森にのみ込まれていき、森の外に通じる道も途絶えてしまう。
こうして、村の人々はいつの間にか、村に人を呼び込もうとする活動をやめてしまい、今に至る。
それでも、まだ主人たちがこの村に住み続けているのは、やはり愛着がある場所だから。
廃れていく村の中で、一生を終える覚悟を、村の住民全員が決めていた。
・・・ところに、ウズメ達がやって来た為、村民全員が3人の活動を積極的に応援しているのだ。
まさに3人は、万策尽きた頃にやって来た、『本当に最後の救世主』
だから余計に、ウズメ達の気合も入る。
3人にとっても、このままカミノー村がなくなってしまう事は、何としてでも避けたい。
「___じゃあ、部屋一つ一つも家具も綺麗にする(新調する)必要があるかもね。
まぁ資材が豊富なこの村なら、最初(骨組み)から全部作る方が早いんだろうけど。」
「_____実は私、ベッドで寝るのに、まだ慣れてないところがあるんですよね。
私、ずっと『硬い床』とか『冷たい地面の上』で寝るのが普通だったので・・・・・」
「ならミラには、もっとフカフカな布団を使って欲しいなぁ。
寝心地が良くなれば、すぐ慣れてくるよ。今はまだペラペラの布だけどね・・・
でも、地面で寝るより、今の寝心地の方が、何倍も寝心地が良いでしょ?」
「それは・・・・・当たり前ですけど。
でも、今私が使っている寝具も、悪くはないんですよ。
長年多くの人を安心させてきた貫禄・・・・というか・・・」
「分からなくもない。」
宿の主人や女将が宿を始めた頃も、ちゃんとお客さん(宿泊者)はいた。
その名残として、古いテーブルや椅子には、使い込まないとできない凹みや傷跡がある。
ただ、この村には特に目立った観光地やお店があるわけでもない。
だから、『少し歩けば何でも揃う場所(城下町)』に住んでいる人々にとって、『遠出しないとお店がない(カミノー村での生活)』というのは、かなり辛く見える。
強いて言えば、森を彷徨っている魔族がそこまで強くなかった為、戦いに慣れていない人でも、安全に村まで来れる。
だからカミノー村では、『魔族の被害』よりも『よからぬ集団(盗賊集団)の被害』が大きかった。
___盗まれるのは、もっぱら『野菜』なのだが。




