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第四章(2) ヒスイの仕事と、村の変化

「え・・・あ・・・・・

 あの時(晩)の事、覚えていたの?!!」


「うん、『嬉しい晩』だったから。」


「な、何よ、『嬉しい』って。」


「まぁまぁ、今私が話したいのは、そうゆう事じゃないんだって。



 ヒスイ、ここから先はヒスイの仕事だよ。


 私の今まで集めた防具を、『踊り子の衣装』に変えてみてほしいの。」


「_______________




 はぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあああ?!!」


 ヒスイの絶叫(大声)は、村を覆う木々(森)を駆け抜け、鳥の飛び立つ音が直後に村へ届いた。

まるで『突風』のように、家々の窓も揺らす勢い。


 馬車の床を地面と挟まる形で直していた主人も、その音に驚いて床と顔面衝突。

___結果、空いていた小さな穴が大きくなる始末。

 洗濯物を干す準備をしていた女将も驚いて、せっかく洗った服を地面に床に落としかけた。


 彼女の近くにいたミラは、まるで脳天を突かれた(撃たれた)感覚が襲い、その場でしゃがみ込んで耳を塞いだ。

 ヒスイとウズメが、慌ててミラに歩み寄ると、ミラは涙目になりながら頭を抱えていた。


「ご、ごめんミラ。まさか、あんな大絶叫するなんて思わなくて・・・・・」


「当たり前よ! 突拍子すぎるって!

 でもごめん、ミラ。すぐ隣にミラが立ってたの、すっかり忘れてた・・・」


「い、いいえ、いいんですよ。それに、今は私の心配より・・・・・


 ヒスイさん、できますか・・・??」


 まだ頭に絶叫が反響しているものの、ミラはトントンと自分の頭を叩きながら、ヒスイを心配する。

だが、彼女の問いに、ヒスイはまだ答えられない(できるかどうか分からない)様子で、下を向いて考え込み始めた。


 ウズメも、無茶で突拍子もない注文をしたことは重々承知している。

でも彼女なりに、溜まりに溜まった防具を、どうすれば今(平和になった世界)でも活用する事ができるか、真剣に考えた結果なのだ。


 飾ってばかりでは、勿体無い。防具は身につけてこそ、本領発揮する。

身に纏って戦った(守ってくれた)からこそ、そう思える。

 重くても、傷があっても、身につけた人の歴史(頑張ってきた過去)を垣間見れる、それが防具。

防具も武器と同じく、扱っていた人の歴史(人生)の一部。手放すわけにはいかない。


 ウズメにとって、あの旅の日々は、お金では買えない大切な存在であり、色褪せてほしくない。

だからこそ、旅を支えてくれた道具は、一つでも無駄にしたくない。

 そんな思い出の品々を、また新たな形で使う為、ヒスイにお願いしたのだ。


 もちろん、ヒスイが直してくれた『あの思い出の一品(上着)』も、しっかり村へ持って来た。

洗い続けて布地が変色してしまっても、ヒスイが直してくれた箇所は、まだしっかり繋がっているまま。


 焚き火の光だけが頼りだった、あの暗い暗い森の中のひと時を、上着もしっかり覚えているのか、布地には『焼け焦げた匂い』と『土の匂い』が染み付いている。

 嗅ぐ人によっては、あまり良い匂いではないのだが、ウズメにとっては、冒険時代を思い出させてくれる匂い。


 だから、どんなにボロボロになっても、その匂いが完全に消えるまで、布地状態になっても持ち続けるつもりでいるウズメ。

 彼女は、ただのケチなんかじゃない。一つ一つの思い出を、大事にしている。




 ___しかし、ヒスイは考え込んでいる体制のまま、OKともNGとも言わない(ずっと動かない)。

これにはウズメも、(ちょっと無理があったかな・・・?)と思い、「無理なら無理って言ってもいいんだよ」と言いかけた・・・・・


 その直後、急にヒスイが、滑舌に、早口でウズメに質問攻めを始める。


「どれくらい?」


「え???」


「どれくらいの期間待てる?」


「え、えーっと・・・・・特に規定はない。」


「どれくらい形が崩れてもいい?」


「そ、それも任せる・・・」


「道具・・・は・・・女将さん持ってるかも。

 ミラ、試しに女将へ聞きに行ってくれる?」


「え? いいですけど・・・・・

 ___え?? ヒスイさん、どこに行くんですか???」


 ミラがそう問うが、ヒスイの耳(頭)には入ってこないのか、それとも反応しないのか、ヒスイはそのままフラフラと歩いて宿へ戻った。

 心配になり、二人ミラ・ウズメが後ろからついていくと、ヒスイは宿のホールにある『紙』と『羽ペン』を持ち出すと、自室でインクを紙に走らせる。


 急に黙り込んだ後、また急にあれこれと質問をして、ある程度納得すると、すぐ動き出す。

しかも、質問をする際・筆ペンを走らせる際の勢いは、ウズメも圧倒された。

 まるで、「余計な会話は不要」と言わんばかりのヒスイは、まるで筋金入りの職人。


 作業にのめり込んでいるヒスイは、周りがほぼ見えていない様子。

声をかける事すら躊躇するほど、ヒスイが集中しているのは、後ろ姿(背中)だけ見ても十分伝わる。


 羽ペンが紙の上を走るその音は、まるで刃物で岩を削るような、荒々しい音。 

書き殴る音は何時間にも渡って、宿中に響き続け、何時間経っても、その体制を崩さない。

 動いているのは、羽ペンを操作している(持っている)左手のみ。

右手は、頑張って紙(図)を押さえている。




 昼食を持ってきたミラが部屋を開けると、いつの間にか部屋の四方が『紙屑の山』と化していた。

それでも、まだ机に向かい(作業を)続けるヒスイが心配だったミラが、足音を立てないように、ゆっくり彼女のもとへ歩み寄る。


 そして、机の上に並べられた数枚の図(衣装のイラスト)を見て、ミラはつい、声を発してしまう。


「か・・・・・


 かわいぃぃぃいいいー!!!」


「うわぁぁ!!!」


 いきなり真横から声が聞こえて、びっくりしたヒスイは、椅子に座った状態のままひっくり返る。

地面に落ちていたグチャグチャの紙(没案)のインクが、まだ完全に乾いていなかった為、床にひっくり返ってしまったヒスイの背中には、インクの染みがポツポツ染み込んでしまう。


 長時間、ずっと同じ体制のままだった(作業を続けていた)ヒスイは、いきなり声をかけられた衝撃で、心臓が喉元にまで達していた。

 床に倒れた状態のまま、目を丸くして(驚いて)いるヒスイだったが、ミラは卓上いっぱいに広がる、数々のイラスト(衣装)から目を離せない。


 まず、ウズメが今まで身につけた(持って来た)防具を元に、『切り取る部分』や『形を残す部分』などを書き加えて、他に何を継ぎ足したらいいのかを、図の隅に書いていく。

 まだイラストの段階ではあるが、城下町(本物)の踊り子が身につけている衣装と大差ない。

これにはミラも、早く完成したヒスイの手作り衣装が見たくて、ついテンションが上がってしまう。


「ヒスイさん凄い!!! まさかこんなに本格的なところまで作り込もうとしているなんて・・・!」


 その言葉に、ヒスイはようやく我に返り、集中していた分の疲労がドッと押し寄せる。

椅子に座り直す気力もなく、その場に倒れ込んでしまった。

 その光景を見たミラは、今までの興奮が一気に冷め、ヒスイの顔色を伺うようにしゃがみ込んだ。


「だ、大丈夫ですか?!!

 とりあえず、ウズメさんを呼んで・・・!!!」


「いや、ちょっと待って!!!」


 心配する気持ち(勢い)に身を任せ、ウズメを呼びに行こうとするミラを、ヒスイは慌てて止めた。

その素早さは、まるで獲物を見つけて突進する猫の如く。

 ミラはヒスイの部屋に入ってから、何度も何度も驚かされていた。


「ちょ・・・今はまだ駄目・・・・・

 後もうちょっとで、イメージは掴めそうなの。


 あとは実物を改造して、イメージ通りにできるのかが勝負・・・」


 そう、ヒスイはまだ、ウズメから言われた(頼まれた)仕事を、何一つ形にしていない(衣装を完成させていない)

 ヒスイにとって、今の段階は、まだ『スタートダッシュの体制』


 それでもヒスイは、スタートダッシュの状態から試行錯誤(研究)を始めていた。

イメージ画の段階で、幾つもの案を浮かべては消し、浮かべては消し・・・を繰り返す。

 そして、どの衣装が一番観客の目を惹き、どの衣装が現実的(自分でも作れる)かを、じっくり考えている真っ最中。


 引き止められたミラは、ヒスイの言葉を聞きつつ、床に落ちた没案を名残惜しく見つめる。

床に放り投げられた没案にも、ミラにとっては胸踊る(興味を引く)何かがあった。

 だからミラは、集める(掃除)するフリをして、没案を集める。こっそりウズメに見せる為にも。


「わ、私にも、何かお手伝いできる事があったら、いつでも何でも言ってください!!」


「そう? じゃあ・・・・・ウズメのところからさ、『衣装の元(防具)』持ってきてくれない?

 できれば全部。」


「_____はいっ!!」


 ミラは満面の笑みで、クシャクシャになった紙(没案)を全部抱えて部屋を出る。

ヒスイは、(片付けてくれたんだ・・・)と思いながら、本格的に本番リメイクへ取り掛かる準備に入る。


 ヒスイは、暗く(夜)なっても作業ができるように、あちこちの部屋から灯り(蝋燭)を拝借。

夕食をお腹いっぱい食べた後でも、ヒスイの熱(集中力)は一向に冷める気配を見せない。

 むしろ、本番に(衣装の作成)取り掛かるヒスイの姿は、完成図を考えている(机に向かっている)時より、一層夢中になっている。


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