第三章(6) 普通(村)の生活に馴染んだ頃
二人の手拍子がリズムに乗るようになると同時に、ウズメは持っていた槍を一振りする。
すると、鋒はまるで『火の灯った松明』のように、炎を震わせて具現化する。
ウズメが槍を振るうと、鋒に灯った炎の残像が彼女の周囲を取り囲み、まるで『真っ赤なリボン』のように見える。
ある程度、鋒の炎が形になってくると、今度は鉾の反対、石突をタライの底に突き立て、そのままウズメは鋒の上に立つ。
これにはさすがに、見ている二人はヒヤヒヤするものの、ウズメ自身は涼しい顔をして、二人にアピール(視線)を送り続ける
タライの裏(平らな面)に棒を直立させて維持させるだけでも難しいのだが、ウズメは更にその上に乗って、ポーズまで決めている。
少しでも気を抜くと怪我どころでは済まない、鋒は絶え間なく火を吹いているのだから。
しかし、魔力を操っているウズメが調節している為、観客が触れても暖かい程度。
鋒の上を旋風のように廻るその姿は、他のなにものにも例えられないほど、美しい。
観ているウズメとミラは一言も言葉を発しないものの、その輝いている目を見れば、二人がすっかり夢中になっているのは明白。
彼女が廻れば廻るほど、鋒が纏っている炎の色がどんどん変わっていき、ただ魔力を込めた炎とは思えないほど、幻想的な光景。
まだ少し肌寒い時間体(早朝)にも関わらず、ウズメの舞いによって暖かくなったヒスイとミラは、着ていた上着を脱いだ。
ウズメの舞にすっかり夢中になってしまった2人は、無意識に手拍子を加速させる。
そんな二人を見て、ウズメは『魔王討伐前(あの晩)の光景』を思い出していた。
あの晩、乗り気でもないのに、何故か興奮と手拍子が抑えられなかったウズメ自身。
だが今のウズメは、『踊る側』にいる。つまりウズメ自身が、二人の感情を高ぶらせているのだ。
(す、すごい!!! 予想以上に二人が雰囲気に乗ってくれてる!!!)
手拍子が早くなっても、ウズメはお構いなし、今度は鋒から降りて、槍を自らの体に交差させる。
常人ではありえない体のしなやかさは、まるで風に乗る花びらの様。
それでも、どんな体制になろうとも、槍の重心が全くぶれていない彼女の技術(体幹・槍使い)は、『歴戦の戦士』の名残が残る。
しかし、見ている側にとっては、そんな名残もまた『味(見応え)』になる。
ただただ踊る(廻る)のではなく、まるで『見えない何かと戦っている』様な、力強さと細かい動きは、観客にも見えない敵が見えているような感覚にさせていた。
そんな踊りが舞えるのは、今まで魔族との本気の戦い(死闘)を繰り広げてきたウズメだからこそ舞える、まさに『ウズメオリジナル』
しばらくして、ウズメの体力にもとうとう底が見え始めた頃になると、観覧者は二人だけではなく、宿の主人と女将まで参加(鑑賞)していた。
それに気づいたウズメは、慌てて舞を止める。
ミラもヒスイも、後ろで二人(主人・女将)が見ていたことに、全く気づいていなかった様子。
「ご、ご主人と女将?!!
ごめんなさい、朝っぱら・・・でもなさそうですね。
私、どのくらいの時間、踊り続けてたの?」
ウズメが軽く頭を下げる(舞の終了を告げる)よりも先に、主人と女将、そしてヒスイとミラは大きな拍手を送る。
ミラが何気なくウズメの足元を見たが、傷は一つもなかった(全く変化はない)。
彼女は今まで、ただ闇雲に槍を振り回していた(戦っていた)わけではない。
刃の触れても大丈夫な部分と、少しでも触れると切れる部分を、戦っている最中に使い分けていた。
今までは戦う際にしか使わなかった感覚だが、ウズメはそれすらも、有効活用してしまう。
「いやぁ・・・・・おじさん50年は生きてるけど、こんな綺麗な踊りを見たのは初めてだよ・・・」
「私もよ、何十年前に城下町で見た踊り子さんを思い出すわ・・・」
「その時の踊り子さんと私、どっちが綺麗に見えます?」
「どっちもどっちねぇ、だって初めて踊り子さんを見たの、何十年も前だからねぇ。」
ウズメは笑いながら「そうなんですか」と言うものの、内心ちょっとガッカリしてしまった。
せっかくなら、『本物の踊り子』を見た人からの感想を聞きたかったのだ。
何故なら、踊っている自分は、観客席からどう見えているのか分からないから。
この世界には、『スマホ』も『ビデオカメラ』もない。
だから、自分がどう舞っているのか、観客席側の(見ている)人からは自分がどう見えているのかを確かめるには、やっぱり直接聞く以外に方法はない。
「ウズメさん!! 凄いです!!
『城下町』でお金を稼げるくらい綺麗でした!!!」
「___いやいや、ミラ。ウズメが『踊りたい』場所は・・・・・」
その言葉に、ミラは『ウズメの言いたい事(第三の人生計画)』の全てが理解できた。
ついさっきまで、何もかも理解できなかったヒスイだったが、ウズメの舞を見ると、頭の中が物凄いスピードで動いた(全てが理解できた)。
「ウズメさんなら、すぐに『カミノー村』を代表する踊り子として、国中に名前が知れ渡りますよ!!」
「まぁ、ウズメにこれから、私たちの生活費を稼いでもらうのは、ちょっと心配ではあるけど・・・
でもまぁ、稼げるんじゃない? 少なくとも、最低限の生活費は。
私は娯楽とか一切興味ないし、カミノー村のご飯は全部美味しいし。
___もう『昔』みたいな贅沢、私には送る資格ないからね。」
「でも私が旅の道中、考えていたのはこの辺りまでなんだよね。
だから成功するのかも分からないし、そもそもお客さんが来るか・・・・・」
「_____それにしても・・・」
今まで、ずっと3人の話を聞いていた女将が口を開いた。
「あんた、それだけ踊れるんなら、どうしてこんな・・・・・カミノー村に来たの?
城下町の方が、手早くお金が手に入りそうなものだけど・・・」
「それは・・・・・
ぶっちゃけ私自身、城下町での生活に合わないから。」
「はい??」
「いや、だってあそこ、かなりの『激戦区』じゃないですか。
そこに、独学で踊りを研究した私が乗り込んでも、すぐ名の知れた有名な踊り子にかき消されるのは
目に見えてますし・・・
それに、なんかちょっと・・・・・
城下町は確かに便利だし、娯楽も沢山ある、良い所ですよ。
ただ・・・・・
ほら、『数日間の滞在(旅行)』と『長期間の滞在(居住))』は違うじゃないですか。」
「___まぁな、ウズメちゃんが言いたい事は分かるよ。
俺も昔は城下町で、数年間だけ生活してたんだ。
確かにウズメちゃんの言う通り、城下町には城下町の良さがある。
でも俺にとっては、このカミノー村の方が、ずーっと居心地が良かったんだよ。
___で、村に帰ってきたおかげで、かみさんと結婚できたわけだ。」
「ちょ、ちょっとやめてよ!! 恥ずかしい・・・!!」
顔を両手で隠しながらも、指と指の間(隙間)から見える女将の顔は、はち切れそうなほどの笑み。
主人も恥ずかしがりながらも、その時の話を3人に語っている際の顔は、完全に『お父さん』
3人も思わず、ときめいて(主人に惚れて)しまった。
「そうですね、私もウズメさんの言う通り、城下町よりカミノー村の方が過ごしやすいです。」
「確かに、お金を稼ぐのは大事だけど、自分に合った環境を探すのも大事よね。
___まぁ私は、ウズメがどんな場所に住もうとも、ついていくつもりだけど。」
「___ありがとう、ヒスイ。それにミラ。」
「で、でも!!
まぁ城下町は、私が子供の頃から憧れていた場所だったから、別に住んでも良かったんだけど!!」
「ふふふっ、ヒスイさん、顔真っ赤ですよ。」
「___あんまり自信なかったけど、4人の拍手が聞けて、すごく自信がついたよ!
これなら大勢の前で踊れる!!」
「じゃあ早速、今日の夜にでも村の皆に見せよう!
将来この国で名を馳せる踊り子の『初舞台』だ!
盛大にやろうじゃないか! 盛大に!!」
主人が勢いに任せ、早速村の皆に『ウズメの初舞台』のお知らせをしようと駆け出す。
だがそれを、一人だけ止めた人物がいた。
それは、ついさっき「自信がついたよ!」と言っていたウズメ。
突然首元を引っ張られた主人は、地面のぬかるみに足を取られ、そのまま後ろにひっくり返る。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってください!!!
まだ色々と用意していないものが沢山あるんですよ!!!
___でさ、ヒスイに、ちょっと頼みたいことがあるの。」
「え?? 私に何を???」




