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第三章(3) 普通(村)の生活に馴染んだ頃

「今日もまた、忙しくなりそうですね。柵の撤去は、さすがに私ではどうにもできないので・・・」 


「アレは仕方ないよ、だってもうあれ、『柵』というより『木の壁』じゃんか。

 それを全部無くそうとしたら、数年必要でもおかしくないよ。」


 最近の村人たちは、村を囲っている(守る)大きな柵に手をつけている。

だから、準備をする村人が手にしているのは、『シャベル』や『ハンマー』等、土木作業の道具。

 しばらくは、『木こり』だろうと『農家』であろうと、柵の撤去に全員出動(参加)する。


 3人が村に来たと同時に、村でも魔族による被害がパッタリと途絶え、3人が村に再来した頃には、既に柵の撤去が準備段階(道具集め)に進んでいた。

 ただ、それから一か月の月日が経っても、撤去できた柵は数本程度。


 それもその筈、柵になりそうな物資(素材)が『木の幹』しかなかったカミノー村では、大木を切り倒して、それを丸ごと柵にしていたのだから。

 ただ、頑丈な石壁で覆われた城下町よりは、まだマシである。


 そんな朝の慌ただしい音(仕事の準備をする音)が、常日頃から聞こえる環境も、ウズメ達にはあまり馴染みがない。

 いつもは人気のない場所、もしくは魔族が蔓延っている場所で神経を尖らせていた為、その感覚が不必要になった平和な(普通の)環境に、どうしても違和感を感じてしまう。


「ミラさん、もしかして、洗濯がしたかったから、私たちを呼んだんですか?」


「そうなの? だったら後始末している間に言えば、私たちで片付けてたのに。」


「違うよ、ただ『隠れて練習できそうな場所』が、此処しかなかったからだよ。」


「隠れて・・・何してたの???」


「そういえばウズメさん、最近見かけない事がありましたけど、もしかして・・・・・」


 ウズメが『隠れて』練習していたのに、そこまで大した理由はない。

ただ、『サプライズ精神』が働いただけ。


 宿の裏手は、宿泊客が使ったシーツを洗濯して干す。『物干し場』

若干ぬかるんでいる地面を、転ばないように踏みしめる(足に力を籠める)必要がある。

 ウズメは、朝食前に裏手へ置いておいた槍と、側にあるタライを抱え、日当たりがいい場所にタライを『逆さま』にして地面に置く


 水を入れる部分が地面に突き刺さっている為、動かそうとしても、ウズメが底に登っても、ビクともしない。

 最初は地面の上で練習していたウズメだったが、あまりにも地面がぬかるんでいた(不安定だった)為、安定した土台を探した結果、このタライに行きついた。


 そしてウズメは、タライの上に腰を下ろす。

まず『練習の成果』を見てもらうよりも先に、きちんと事情を説明する為。


「二人とも、私たちこのカミノー村の村民になって、今後の人生を過ごす。

 でもその為には、『お金』が必要になるわけだよね。」


「___この村に限っては、そうでもないんじゃないんですか?」


「で、でも、ウズメさんが言いたい事も分かります。

 今までは、色んな村民のお手伝いをしてきましたけど、それだと逆に、村民の皆さんに気苦労をかけて

 いるような気がして・・・・・」


 ミラは、まだ幼いながらも、大人の事情や心情が読み取れる。

だから3人のなかでは、一番『大人な意見が言える』


 ミラの言葉に、ヒスイも静かに頷いた。


「つまり、ウズメさんが気にしているのは、『お金を集める方法』

 つまり


 『仕事』


 ___ですか?」


「そう。


 私たちは、今まで国の支援を受けていたから、ちゃんと生活ができた。でも今後は、それが一切ない。

 ___まぁ、頼めば支援してくれるのかもしれないけど、そこまで頼りっぱなしではいられない。


 ミラやヒスイ、そして私も、今となっては『ただの孤児』

 『親』はいない、養ってくれる『親戚』もいない。

 だからこれからは、私たちが自分で、生活をするためにお金を稼がないといけないの。」


「_____そうか、ウズメさんのご両親も・・・・・」


 ミラは、言いかけた言葉を慌てて口の中に戻した。

そんなミラに対し、ウズメは「別に喋っても大丈夫だよ」と、明るく笑いかけた。


 実際、魔族によってで親を亡くした子供は多い。ウズメもその一人。

幸い、ウズメは両親が亡くなった直後に、勇者一行へ加入した為、それほど苦労はしなかった。


 その後も新メンバー(ヒスイ)の加入や、魔王の棲家(城)を特定できた事でバタバタしていた為、寂しさよりも忙しさの方が勝る日々だった。

 しかし、その忙しかった要因が消えた(魔王を倒した)事で、改めて自分たちの境遇と向き合わなければいけない3人。


 でも、向き合わなければ先には進めない。『大人』にはなれない。

『第三の人生の拠点』はカミノー村で決まった事で、第一関門は突破できた。

 次はその門を超えた先で、生きる為の策を考えなければいけない。


「もう武器を振るう必要がなくなった世界でも、大きな荷物を運ぶ必要がなくなっても、私たちは生きな

 ければいけない。」


「___ウズメって、『時々』大人になるよね。」


「ずっと考えていたけど、言わなかっただけですー。」


「じゃあウズメさんは、魔王を倒す前から、『こうなった未来』の事を考えていたんですか?」


「そこまで具体的に考えていたわけじゃないんだけどね。

 でも、歩んでみないと分からない事も多いわけじゃん。こればっかりは。」


 今まで『武器を振るう事(魔族・魔王退治)』しか経験がない勇者一行。

以前は、魔族を倒して、撃退すれば、大勢の人から頭を下げられる(感謝される)

 だから一行は、とにかく魔物を狩り続けた。人々の静かな平穏を守るために、感謝されるために。


 だが、魔族の頭(魔王)が倒された今、そんな日々から解放れた一行に残されたものは何なのか。

それが、ウズメにとっては『次の試練』

 平穏で安全な(普通の)生活をしている人間にとっては、そこまで深刻な(難しい)悩みではないのだが、武器(槍)だけを握り続けたウズメにとっては、かなり難しい問題。


 何故なら、ウズメが普通の一般人として生活していたのは、およそ7年間(7歳まで)。

もうとっくに、『一般市民』としての生活を忘れていたウズメにとっては、『初の試み』と言っても過言ではない。


「それに、『元・勇者一行の一員』としての肩書も、いつまで『期限が持つか分からない』」


「___はい??? どうゆう事???」


「そう遠くない未来、私たちの頑張りは、『おとぎ話』か『昔話』の類に入れられる。

 そうなったら、もうあの『万能な肩書』は通用しない。

 

 だから、その肩書が廃れてしまう(時代に乗り遅れる)前に、自分達で食べていける方法を見つけ出し

 ておきたい。

 歳を取ってから、働くのに慣れていないと、『浮浪者』の仲間入りをするかもしれない。」


「な、成程・・・・・

 内容は難しいですけど、何となく分かります。


 要するに、『若いうちに努力しておこう』・・・って感じですか?」


「あははっ! まぁ、そんな感じかもね!」


 今の状況は、いわば『流行』と同じようなもの。

皆が口を揃えて


「勇者様万歳!!! 勇者様万歳!!!」


 と、勇者一行を持ち上げる(褒め称える)言葉を毎日口にしているのも今のうち。

早くて一ヶ月、遅くても一年ほどの歳月が流れれば、開拓して広がった土地の話題に変わる。

 いずれ、勇者一行を見掛けたとしても、会釈するだけになるのも時間の問題。


 勇者一行の武勇伝は『他人事』だが、土地の開拓は『どんな人間にとっても重要な事』

誰だって、自分たちの生活の方が大事。武勇伝に耳を傾けてばかりではいられない。

 畑にできる土地が広がれば、建物が建築できる場所が増えれば、人々は一気に多忙を極めるが、人々の生活(国)が豊かになる。


 そうなれば、当然ウズメ達も変わっていく。変わらなければいけない。

遅かれ早かれ、勇者一行の武勇伝は『時代遅れ』になり、いずれは『昔話』になる。

 それは一体いつ頃(どれくらい先)なのかは、誰にも分からない。

だからウズメは、誰よりも率先して、次の(新しい)道を歩んでいた。二人を連れて。


 もちろん、魔王を撃退した一向には、国王から相応の報酬(大金)を受け取ってはいるものの、それでも不安になってしまうのが、人間のさが

 特にウズメは、常に先の先のプランがないと落ち着かない。

手持ちにどれだけの大金があったとしても、それが溶けて(無くなって)しまうのも時間の問題。


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